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本編

友兄が何を考えているのかわかんない

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 三十分後くらいに戻ってきたとき、美鈴さんの頬は薄ら赤みを帯びていて、二人の間にそれまでになかった雰囲気が漂っていた。
 鼓動が嫌な感じで早くなる。

「足元に気をつけて」
「ありがとう」

 手はしっかりと握ったまま。
 美鈴さんの席まで送り届けてから、友兄も自分の席に落ち着いた。

「大柴さん、お願いがあるのですが」

 席につくなりそう申し出た友兄。

「何かな」
「この後、美鈴さんと出かけたいと思うのですが、よろしいでしょうか」

 三枝さん両親も少し驚いたような顔をしたけれど、すぐに嬉しそうに頷いた。

「ええ、構いませんよ。よかったわね、美鈴」

 この後って、俺と……。

「理玖くんも一緒に、ね?」
「え?」

 いきなり俺の名を呼ばれて、美鈴さんのことをまじまじと見てしまった。
 穏やかに微笑んだまま。
 友兄を見ると、こちらも笑顔のまま頷いている。

「……はい」

 なんか…嫌だ。





「では、夕方までにはご自宅に送りますので」
「行ってきます」

 和やか雰囲気のまま、俺たちは旅館を後にした。
 傍から見ればこのお見合いは成功したように見えるはず。
 …俺でさえ、そう思ってしまうくらいなんだから。
 初対面のはずなのに、息が合っている…というか、入り込めない雰囲気を持っている二人。だから余計…嫌になる。
 苛々するのは、二人のことをお似合いだと思ってしまうから。二人ともすごく大人で…、自分なんかが友兄の隣に立っていいんだろうかって思ってしまうから。
 助手席に座った美鈴さんと楽しそうに話す友兄を見ていたくなくて、ずっと窓の外を見ていた。
 …じわりと滲んでくる涙をこらえるのに、必死になる。

「まずは着替えようか。美鈴、着替えは?」
「大丈夫。ちゃんと準備済みだから。靴も持ってきているの」

 そう言って笑う美鈴さんに、友兄もくすっと笑う。
 ……もう、呼び捨てだし。

「なら、一旦俺の家に寄ろうかな。…理玖もそれでいい?」
「………いいよ」

 なんか…もうどうでもよくなってきた。

「……友兄」
「なに?」
「俺、帰る」
「理玖?」
「……帰りたい……」

 もう二人を見ているのが嫌だ。
 こんな胸の痛みを抱えたまま、傍にいることなんてできない。
 友兄のことを信じていないわけじゃない。けど……目の前の光景は真実そのもののように思えてしまう。

「理玖くんが帰ることないのよ?もともと出かける予定だった貴方たちに、私が勝手にくっついてきただけなんだから」

 美鈴さんが後ろの俺を振り返りながら言ってきた。
 その口調は飾らないものですごく親しみやすくはあるけれど、それが余計に痛みを与えてくる。

「それに、私まだ理玖くんとちゃんと話ししてないもの」
「…話しなんて…」

 俺には何もない。
 どうやってここから逃げ出せばいいのか、そればかり考えてる。

「とにかく、うちに行こう」

 友兄がスピードをあげた。
 何を考えてるのか……全然わかんないよ。


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