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本編

友兄の『すぐ』

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 土曜日は必ずやってくるものだ。

「……朝だ……」

 かなり夢見が悪かった。
 顔のわからない、けれど、「美人だ」て思えるお見合い相手の手を取って、友兄は行ってしまった。

『俺は彼女と結婚します』

 て、俺を「好き」っていうときのように微笑んで。
 嫌な…夢。
 まだ心臓が変な音を出してる。

「もう……やだな…」

 お見合い相手とお昼を食べたら、午後は友兄と出かけられるんだから。たかが夢にここまで落ち込むことないじゃないか。
 でも……やっぱり不安なんだ。
 布団を抱えてベッドに座ったとき、枕元に置いていたスマホが鳴り始めた。

「もしもし!」

 大急ぎで取って出ると、くすって笑い声が聞こえてくる。

「なんだよ…笑うことないだろ」
『いや…。あんまりにも理玖が一生懸命だったから』
「だって……」

 友兄からの電話なら、とにかく素早く出たいじゃないか。

『おはよう、理玖』
「うん、おはよう。……ってどうしたのさ。こんな朝早くから」

 十時前には来るって言ってたけど、まだ七時前だし。

『電話、しないほうがよかった?』
「んなこと言ってないしっ」
『理玖の声が聞きたくて』

 優しい声でそんなことを言われたら、顔が赤くなる。
 声が聞きたい…なんて、そんなことだけで済まなくなる。
 あと三時間くらい我慢すれば会えるのに、今すぐ会いたくなって…困る。

「……俺も…声が聞けて嬉しい」

 本当は会いたい。
 今すぐ会って、抱き締めて、キスを…してほしい。

『会いたい?』
「うん」

 問われたことに素直に頷いてしまっていた。

「今すぐ…会いたい」
『それじゃ、母さんに俺の分の朝食もお願いしておいて』
「へ?」
『今すぐ行くから。出かける前に理玖を抱きしめたい』
「友兄…」
『本当にすぐにつくからね。母さんに伝えておいて』
「うん…わかった」

 それからすぐにぷつりと切れた電話。
 それを握り締めて大急ぎで階下にむかった。
 キッチンからはもう音が聞こえてきている。

「母さん」
「あら。理玖、早いのね。おはよう」
「うん、おはよ。……じゃなくて、友兄来るって」
「十時くらいだったわよね?」
「そうじゃなくて、朝ご飯こっちで食べるって」
「あら」

 母さんが振りかえって俺を見た時――――家の外で車が止まる音がした。
 すぐ、って。
 すぐすぎるでしょっ。

 パジャマのまま玄関に急ぐ。俺が開けようと手を伸ばしたとき勝手に開いてしまって、バランスを崩して前のめりに倒れ込んでしまった。

「ぅわ」

 そのまま転ぶかと思ったら、そうはならなくて。

「危ないよ?」
「友兄!」

 荷物を持った友兄に抱きとめられていた。


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