上 下
31 / 89
本編

友兄は間違いなくたらしである

しおりを挟む



「んぐ!?」
「気持ちは嬉しいけど、今はまだしないよ」
「ともにぃ?」

 抓まれた鼻を押えながら友兄を見ると、いつもよりも数倍優しい顔があった。

「理玖の気持ちの準備ができるまで待つつもりだから」
「それって……」
「理玖が『どうしてもしたい』って言うなら、いつでも応じるけど」

 息がつまった。
 言われたことにすぐに反応できなくて固まってしまう。

「と」
「ん?」
「友兄」
「なに?」
「た……」
「た?」
「………たらしだ」
「たらしって」

 口走ったことに友兄は笑う。面白そうに、裏のない笑顔で。

「恋人になんてことを言うのかな?」
「だ……だって」
「じゃあ、『たらし』って言われるくらいだから、理玖がその気になるように口説き落とそうかな」

 本気の口調。
 冷や汗……っていうか、何か、踏んではいけないものを踏みつけたような気がしてならなくて。

「いい、今は遠慮しておきます…!!」

 友兄は相変わらず笑いながら、俺の頬にキスを一度して体を離した。
 ばくばくする心臓はもうそれが普通か…って思うくらいで、俺も起き上がって息を整える。
 っとに……心臓に悪い。

「じゃあ、着替えて、理玖」
「ん…」

 学ラン…着たままだった。
 ベッドから離れた友兄は、俺の机のあたりを眺め始めた。
 今のうちに…って、俺も飛び降りて、友兄に背中を向けた。

「ああ、そうだ理玖」
「なに?」

 学ランを脱ごうとボタンに手をかけたときに、友兄が声をかけてきて振り向くと、かなり至近距離に顔があってかなりびっくりする。気づかなかった。

「近すぎっ」
「そう?」

 また笑ってる。
 しかも、ちゅって音を立てて唇にキスをしていく始末で。
 で、思い至るわけなんだけど、友兄に見られながら着替えるのって、やっぱりかなり恥ずかしい…!!

「俺着替えるから、友兄先に居間行っててよ」
「どうして?すぐ宿題を見てあげれるけど」

 友兄は腰を屈めて俺を真っ直ぐに見ながら、頬を触ってくる。……またゾクゾクするから、やめてほしい。

「どうして、って……、俺、着替えるんだけどっ」
「だからなに?前は風呂にも一緒に入ってたのに」
「前って……、んなの小学生くらいまでの話しだろ!?」

 顔が赤くなる。
 抱く、抱かれる……なんて話しをしていたのに、着替えるくらいでこんなに動揺するなんておかしいかもしれないけどさ。
 友兄はくすくす笑いながら俺の耳元に顔を近づけてきた。

「恥ずかしいって、素直に言った方がわかりやすいよ?」
「!!」
「俺に見られるのが恥ずかしいんでしょ?」
「ち………違うけど、けど……っ!!!!」

 赤くなった顔を見られたくなくて(今更遅い気もする)、友兄の体をぐいぐいと押して部屋から出してしまった。

「理玖」

 友兄は怒るどころか笑ってる。
 閉めたドアに背中を預けて長い、長いため息をついた。
 そうしてからはたっと友兄が何かを言いかけていたのを思い出した。

「そういえば、友兄、何か言いかけてなかった?」
「ああ、うん」

 扉越しに返事が返ってきた。
 どうやら友兄もドアに背中を預けて待っていてくれてるらしい。
 あたふたと手早く着替えをしながら、次の言葉を待っていた。

「金曜日の夜、俺のところに来ないかなと思って」
「え」
「今週末は仕事も入っていないし、ゆっくりどこか行かない?」
「それって」
「デートのお誘いです」

 長袖の服に即行で腕を通して勢いよくドアを開けた。

「行く」

 友兄は嬉しそうに笑って、俺の頬にキスをする。

「それじゃあ決定だね」
「うん!」

 すごい…嬉しい。
 まだ少し先だけど、今から本当に楽しみだ。


しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

はじめて愛をくれた人

BL / 完結 24h.ポイント:63pt お気に入り:102

【本編完結】義弟を愛でていたらみんなの様子がおかしい

BL / 完結 24h.ポイント:255pt お気に入り:3,070

あなたが望んだ、ただそれだけ

恋愛 / 完結 24h.ポイント:2,314pt お気に入り:6,601

奥さんがいるのにどうして私で欲求を満たすのですか?

恋愛 / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:2

クラス群雄伝 異世界でクラスメートと覇権を争うことになりました──

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:590

アイノカタチ

ライト文芸 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:3

ノンケなのにアナニー好きな俺が恋をしたら

BL / 完結 24h.ポイント:269pt お気に入り:2,604

処理中です...