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本編
友兄に告白した、のに
しおりを挟む伸びてきた指が、俺の髪を弄って…離れていく。
「だから、そんなことを理玖が気にする必要はないよ」
「……だったら、俺、ここにいる」
「理玖」
「俺、納得できない。友兄と……ちゃんと全部話さないと、駄目なんだっ」
「だったら俺が家に戻るから。そのときに話せばいいよね?」
「今じゃなきゃ…駄目なんだ」
家に戻ってしまったら、友兄はいつもの優しい『お兄ちゃん』に戻ってしまうような気がする。
今だってそうなんだろうけど、家には母さんがいるし、話の内容を聞かれたくない。
それに、俺の決意が揺らいでしまう。
諦めなきゃいけない人なのに、諦めることができない人。
それくらい俺の中で大きな存在の、人。
でも友兄は気難しい顔をしたままで、頷いてくれない。
「友兄、俺のこと避けてるし」
「それは…」
「何回電話しても、全然出てくれないし」
「……忙しかったから」
「でも前だったら、かけ直してくれたじゃないか。なのに、全然……っ!だから……今じゃなきゃ、駄目なんだよ。今俺が帰ったら……友兄、きっと俺のこと見てくれない。避け続けるだろ…っ」
手元のマグカップの中で氷が溶けて涼し気な音がする。
そんな音がするくらい、静かな空間。
誤解は解かなければならないし、友兄が隠していることも知りたい。それに……俺も、もう言ってしまいたい。どう思われてもいいから、俺の想いを、全部、伝えてしまいたい。
「理玖、俺は……」
友兄は困ったような顔で、声で、俺の頬に冷たい指先をあててきた。
眉間に寄せられた皺。
苦しそうな、表情。
「………俺は………」
泣きそうだと感じた。
言いたい言葉を全部飲み込んでいるような、そんな苦しさ。
「俺、友兄のことが好きなんだ」
心の中の嵐はいつの間にか去っていた。
胸を締めつけられるような痛みはもうなくて、伝えたい、伝えなければならない……っていう気持ちが一杯になる。
「理玖?」
「好きなんだ」
言葉は、流れるように出てくる。
「友兄のことが…好きなんだ」
それから………、悲しくもないのに涙が出た。
「友兄が……好き」
涙は止まらなかった。
けど……久しぶりに、笑うことが……できたと、思う。
「………っ」
友兄は俺のマグカップをテーブルの上に置いた。
俺の頬に触れていた手が解けて腕を掴まれる。
…抱き締められる……と思ったけれど、友兄は俺の腕を掴んだまま、動こうとしなかった。
「友兄……?」
「それは、俺が兄だからでしょう」
「……へ?」
「理玖の『好き』という感情は、俺が兄だからでしょう」
「な………んで」
喉が熱くなった。
理解できない。
こんなに悩んで、苦しんで、迷っているのに。
「なんで……っ」
「理玖は家族…兄弟に対する愛情しか持っていない。それに…、今俺にそんなことを言うのは、俺に家に戻ってきてもらいたいからだよね?……俺の想いに気付いたけど、それでも戻ってきてほしい、そういうことなんだよね?いいんだよ。理玖が気遣うようなものじゃない。俺が、理玖を諦めて、…普通の兄弟に戻ればいいだけだ」
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