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本編
友兄が帰ってきた日
しおりを挟む「ただいまぁ……って、あれ?」
靴を脱ぎかけて、ここ最近見ていなかった革靴を発見した。
帰ってきてるんだ…と思ったら、急にドキドキが強くなる。
ちょっと忙しなくなった心臓が落ちつくのを待っていたら、居間のドアが開いた。
「おかえり」
顔をのぞかせたのは三つ上の『兄ちゃん』だ。
友敬兄ちゃんは、今は大学の3年生で、大学に少し近いところで一人暮らしをしてるから、滅多に家に帰ってこない。
「ただいま………っていうか、おかえりなさい!」
大急ぎで靴を脱いで、久しぶりに帰ってきた友兄に短い距離だけど駆け寄った。
前回帰ってきたの、二週間くらい前だったんだから。嬉しくて仕方ないんだよ!
「ただいま。寂しかった?」
友兄は両手で俺を抱きとめてくれて、苦しくないくらいの力で抱きしめてくれる。
はぁぁ。
友兄の腕の中って、凄く気持ちいい。
「……寂しくなんかなかったけど」
嘘。
凄く寂しかった。
ぐりぐりと頭を押し付けていたら、友兄がクスって笑った。
「俺は寂しかったよ?なのに理玖は寂しくなかったんだ?」
「え、や、俺も!俺も寂しかったから…!」
大慌てで顔を上げたら、不敵な笑みの友兄と目が合って、してやられたんだと理解した。
「う~~!」
「可愛いなぁ、理玖」
よしよし…と頭を撫でられれば、俺の機嫌なんてすぐに治る。
「…理玖に会えないのがこんなにつらいとは思わなかった」
「だったら一人暮らしなんてやめて戻ってくればいいじゃん」
「……そうできればいいんだけどね」
友兄は困ったように笑って、俺から手を離した。
それが少し寂しくて。
ほんの少し唇を尖らせたら、友兄は苦笑いして、また俺の頭を撫でてくれた。
…相変わらずの子供扱い。
「にい」
「理玖~、帰って来たなら着替えていらっしゃい。友君、こっち手伝って」
……と、母さんの声がして、はたっと友兄と顔を見合わせて、笑った。
「はい。今行きます」
まあ、そうだよな。
とりあえず着替えて、色々聞くのはそれからでも遅くないわけで。
「着替えてくる」
「じゃあ、美味しい紅茶でも淹れておこうかな」
「俺、友兄の紅茶大好き」
「そう?それと、お土産にクッキー焼いてきたから」
「オレンジのやつある?」
「あるよ」
友兄は楽しそうにそう言うと、徐ろに俺の背中をぽんっと叩いた。
「ほら、母さんが痺れを切らせたらティータイムがなくなるから」
「あ、うん。すぐ着替えてくる」
「はい、いってらっしゃい」
鞄を持ち直して、二階の自分の部屋にむかって猛ダッシュした。
鞄はとりあえずベッドの上に放り出して、大急ぎで学ランを脱いでハンガーにつるす。
明日は木曜日だから、まだしわしわにするわけにいかないし。
部屋着に着替えて、上がって来たときと同じようにダッシュで階段を駆け降りた。
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