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本編
友兄の匂いがたくさんしてた
しおりを挟む特にこれと言った夢を見たわけじゃない。
でも、覚醒は妙に唐突に訪れた。
見慣れない天井に、一瞬自分がどこで寝ていたのかわからなくなる。
でも、すぐに理解した。
残ってるのは友兄の匂いで、それだけで安心した。
枕を抱えるように寝返りを打ってから、鈍い痛みがあらぬところからわいてきて、顔が熱くなる。
それから自分が何も着ていないことに気がついて、もっと顔が熱くなった。
「……うわ…」
………とうとう、シテ、しまった。
男同士のそれがどうやってされるのか…とか、全然知らなかったけれど、友兄は多分、滅茶苦茶大事に優しく扱ってくれたんだと……思う。
真昼間からこんなことしていいのか……っていう後ろめたさは少しあるけれど、俺も友兄も望んだことなんだから、後悔はしていない。
それどころか、一層友兄のことを好きになっている。
大好きで、大好きで、どんなに言葉にしても足りないし、膨れ上がる想いはきりがないほど。
誰かを好きになる……って、本当にすごい。
ずっと傍にいたい。
離れたくない。
「友兄……だいすきだ」
布団にくるまりながら小さく口にしてみる。
うん。
だいすき。
口元に、にまにまと笑みが浮かんでくる。
体の重だるさも、痛みも、全部愛された証拠。だから、嬉しい。
友兄の匂いに包まれながら、笑っていた。そしたら、寝室のドアが開いて、空気が流れるのを感じた。
「理玖」
「友兄」
友兄は苦笑しながら俺に近づいてきて、体を折って俺の頬をなでる。
俺も手を伸ばして友兄の首に抱きついて…重なる唇を受け止めた。
当たり前…って感じに唇を舐められて舌を吸われる。湿った音が耳にこびりつくのは少し恥ずかしい。でも、やっぱり嬉しくなる。
心臓がドキドキする。
「理玖は中々呼んでくれないね。……おなかすかない?」
「おなか…?」
サンドウィッチを食べたのは10時過ぎだった。
「今何時?」
「二時になるところだよ」
「…友兄は、もう食べた?」
「まだ」
「……なら、一緒に食べたい」
そう思うと微妙に空腹感が出てくる。
なんか食事の時間がずれ込んでいるけど、今日はもういいや…って気分が強い。
「それじゃ、ゆっくりでいいから起きておいで。そこのバスローブ使っていいから」
「あ、うん」
最後に頬に軽く音を立ててキスをしてから、友兄は寝室を出ていった。
そこのバスローブ…って、って探したら、ベッドの足もとの方にきっちり畳まれたバスローブらしきものが置いてあって、手に取ってみる。
「…ふわふわだ」
手触りがすごくいい。
ベッドに座ったまま袖を通してみると、これがまた温かくて着心地抜群。
ベッドから降りようと体をずらすと、やっぱり鈍い痛みに襲われる。けど、体が慣れてしまえばどうってことはなくて、ローブの前を紐で縛ってから、他の着替えが何も置かれていないのに気がついた。
「……どーしろと……」
人生初のバスローブ。
サイズは申し分ないほどぴったりだし、ちょっとやそっとで裾が割れることはない…と、思うけど。
下着がない。
「や……そりゃ……、バスローブって風呂上がりとかに着るものだろうし……」
足元がすーすーするような気がして落ち着かない。
こんな格好で友兄の前に出ていくのか…って思ったら、恥ずかしさが込み上げてくる。
どうしようどうしよう。
ドアノブに手をかけたまま、固まっていた。
決心がつかない。けど、友兄を待たせてしまったら申し訳ないし。
ああ、でも、でも……!!
「……よし!」
俺も男だ。
潔く出て行こう……と思ってドアを押した……ら、自分じゃない力でドアが開いて、前につんのめった。
「ぅわっ」
「あ」
ぼすっと衝突したのは友兄の体。
「遅いから迎えに来たんだけど……、うん、似合ってるね。可愛いよ、理玖」
片手で抱き締められて、こめかみにキスがおりてくる。
「ご飯の支度、できたよ」
「うん」
抱き締めていた腕から力が抜けて、俺の手を引いて友兄はソファの方にむかった。
歩き方はゆっくり。
なんだかすごく嬉しくて……笑みが、止まらない。
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