205 / 216
自由の国『リーデンベルグ』
32 帰国したらやりたいこと
しおりを挟む学院の休養日は、日曜日とか祝日とか、そういうのとは全く関係ない。そういう概念がこの世界にはないから、仕方ないとは思う。
暦はあるんだからさ。作ろうよ、曜日。ないからみんな働きすぎになるんだよ。
「毎日通学してさぁ…、休みも公務って、考えられなくない?リアさん……」
「あーはいはい。諦めましょうね~。通学と言ってもアキラさんの大好きな魔法学院なんだから、一つも苦なんてないでしょうに。毎日毎日馬車で往復に護衛付き。日本の通学と一緒にしちゃいけません。そもそもお相手が殿下ってことでお休みを希望されるのは無理です。諦めてください。それに、こんなに楽しいことばかりしてるお仕事なのに弱音吐かないでください。知ってます?本当なら週休二日あるのに、なんだかんだで休日出勤を余儀なくされて、趣味にかける時間も減らされて、朝六時に出勤して、帰宅時間が午前様ですよ?そんなよろよろな状態で六十日連勤ですよ?そりゃ死にますよね?過労で死にますよね?残業代だって満額支払われなくて、でも転職する気概もなくて、こき使われてお陀仏ですよ?わかります?わかりませんよね?わかってほしいとは思いませんけど、好きなことしてるんですから、少しくらい休みがないからといってぐだぐだ言うのはおやめなさい。ね?アキラさん」
「はぃっ」
魔法研究所に行く支度を手伝ってくれていたリアさんが、ニコニコの笑顔の後ろに真っ黒い何かを背負っていた。
「お、俺が甘かったです、ごめんなさい…」
「わかればよろしいかと」
真っ黒い何かを背負っていても、リアさんの手付きは優しくて仕事は完璧。
銀色に染める必要がない今日は、黒髪のまま編み込まれたり結われたりと整えられてる。
いつもなら色々言ってくるクリスも、リアさんの静かな剣幕に黙り込んでいるし、マシロはクリスの膝の上で耳と尻尾を隠せずにぷるぷるしてる。
多分、リアさんが話したことの意味が分からなくても、この気迫に怯えて……驚いているのかな。
「りーあ、おこ?」
「いいえ。おこじゃないですよ。はぁ。マシロちゃん、耳も尻尾も可愛い!」
俺の髪を整え終わったらしいリアさんが、今まで背負ってた真っ黒なものを全部取り去って、クリスの膝の上からマシロを抱き上げた。
……というか、『おこ』って。なにそれ可愛い。
「ふふ。ふさふさ気持ちいい」
「うひゃ」
「マシロちゃんも後でお着替えしましょうね」
「あぃ!」
……いいなぁ。俺も耳と尻尾つきのマシロをもふりたかった……。
てかさ、前世のリアさん、酷い状況だったんだね……。
リアさん、充分にお休みとってください……。
「セシリアは過酷な労働環境にいたのか?」
研究所に向かう馬車の中、俺がクリスの膝の上で啄むようなキスを受けていたとき、クリスがそんなことを呟いた。
「うん……、そう、みたい。そういう会社……ん、仕事場所ばかりじゃないんだろうけど、ん、んん、父さんも母さんも、そんなふうに仕事してなかったと思うし、ん、ぁ」
「そうか…。トビアたちの休日もアキがいた世界を基準に決めたんだな」
「ん………んぅ、そう、だけど。ん、んん、だって、クリスたち、ぜんぜん、おやすみ、とらないから……ぁっ」
啄んでるだけだったのに、いつの間にか舌が吸われてた。しかも上着の裾から手が忍び込んできて、素肌を辿られる。
……グレゴリオ殿下が別の馬車で良かった。
「休みとって良いのか」
「……っ、なんで、おれにきくの……」
「俺が休みを取ったら、お前は一日中ベッドの中だ。それでいいのか?」
触れ合ってる唇が笑ったのがわかった。
それ、クリスが休みを取ったら抱き潰されるってことですか。
「マシロのこと忘れないでよ…っ」
「忘れてないが?」
「ん…っ」
「帰国したらまとまった休みを取ろうか」
「ん、ぁっ」
「アキはどうしたい?」
胸元を探られて、きゅむっと尖りをつままれた。
「ひん………っっ」
だめ。
これ以上は絶対だめ。
やばい。
だってこれから仕事なのに。
今更遅いかもしれないけど、これ以上されたら俺の息子がやばいことになる…!
「~~~~っ、クリス!!」
「ん?」
クリスの胸元に手をついて、思い切り腕を伸ばして体を引き離した。
悔しいかな。
クリスは余裕の笑みで俺を見てる。
「……ピクニック!!」
「は?」
「クリスと、マシロと、ピクニックに行く…!!」
それが俺の、『帰国したらやりたいこと』なんだとわかったらしいクリスが、くくく…って笑い出した。
俺はその間に乱れた服をいそいそとなおす。
「行こうか、ピクニック」
ふん!っと椅子に座り直した俺のこめかみにキスをしながら、クリスはまだ笑ってた。
*****
「うう~……、おみみと、しっぽ、くりすぱぱ、おこ、なる」
「大丈夫大丈夫。デレっとした顔してたから、全然怒ってないですよ~あのお顔」
「ほんと?くりすぱぱ、おこしない?」
「はい。めっちゃデレデレ顔でした」
「めちぁ」
「ふふ」
「てれてれ?」
「そうね。てれてれ。アキラさんは、もう可愛くて仕方ない~!!ってお顔でしたよ」
「うきゃ!!」
「でも、お出かけのときにはお耳も尻尾も隠しましょうね」
「う!かくしゅ!!」
「お耳も尻尾もなくても、マシロちゃんはめっちゃ可愛い!」
「めちぁ、かぁい!」
「そうそう!」
「りーあも、めちぁかぁい!」
「あら、嬉しい!マシロちゃん!」
「きゃあっ」
マシロハアタラシイコトバヲオボエタ
158
あなたにおすすめの小説
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
毎日19時に更新予定です。
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
獣のような男が入浴しているところに落っこちた結果
ひづき
BL
異界に落ちたら、獣のような男が入浴しているところだった。
そのまま美味しく頂かれて、流されるまま愛でられる。
2023/04/06 後日談追加
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜
飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。
でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。
しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。
秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。
美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。
秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。
虚ろな檻と翡翠の魔石
篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」
不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。
待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。
しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。
「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」
記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。
-----------------------------------------
0時,6時,12時,18時に2話ずつ更新
悪役神官の俺が騎士団長に囚われるまで
二三@冷酷公爵発売中
BL
国教会の主教であるイヴォンは、ここが前世のBLゲームの世界だと気づいた。ゲームの内容は、浄化の力を持つ主人公が騎士団と共に国を旅し、魔物討伐をしながら攻略対象者と愛を深めていくというもの。自分は悪役神官であり、主人公が誰とも結ばれないノーマルルートを辿る場合に限り、破滅の道を逃れられる。そのためイヴォンは旅に同行し、主人公の恋路の邪魔を画策をする。以前からイヴォンを嫌っている団長も攻略対象者であり、気が進まないものの団長とも関わっていくうちに…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる