魔法が使えると王子サマに溺愛されるそうです〜伴侶編〜

ゆずは

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自由の国『リーデンベルグ』

31 神代の魔法なんて知らないってば!

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 意味わかんない。
 俺は、学院でどんなことを教えているのか、どう作ったら良いか、それを学生目線で体験しつつ、これから創る学院の構想をねって、あわよくば教鞭をとってくれそうな人をスカウトしたくてここにいるわけだ。
 なのに、どうしてそれ以外のことで悩まなきゃならないのか。本気でわかんない。

 俺が障壁で生徒会長さんの手を弾いてから、生徒会長さんが俺を見る目が変わった。
 今までのねっとりとした視線から、例えるならキラキラの星を飛ばしてくるような視線になったんだ。
 ほら、意味がわからない。
 あえて言うなら、好きなアイドルに向けるような、推しを見つめるような、そういう感じの眼差し。
 そして大体半径二メートル以内に近づいてこないから、オットーさんも手を出せない。まるで俺の感知の範囲がわかっているように、その空間に触れないような絶妙な位置取り。
 でも、その代わりと言うかなんというか、変な待ち伏せがなくなった。馬車が停まったらいました、とか、物陰から不意打ちのように現れたりとか。
 ……教室でたらいるけど。お前の授業どうしたと言いたくなるくらい、授業終わり直後にいるから言葉もなくす。

「アキラ、私に神代の――――魔法を、ご教授ください!いえ、見せていただけるだけでも嬉しく…!」

 神代の魔法とか知らん。
 そんな大層な名称の魔法、聞いたこともないぞ、俺。
 知らない、わからないと言っても、生徒会長さんは納得しない。
 そんな押し問答は大概廊下で行われるから、行き交う他の生徒さんたちが、気にしてチラチラ見ていくし。
 チェリオ君は害がなさそうだと判断したのか、庇うでも追い返すでもなく、面白そうに見てくるだけだし。

 いっそ、あれは結界じゃなくて風属性で作った見えない壁、障壁だよって教えようか。
 ……や、駄目だ。それじゃ俺が風の属性も使えることを露呈してしまうし、一年ぶりの短い学生生活がもっと短くなって楽しめなくなる。
 どうしたらいい。
 無視するのが一番だとは思うけど、無視しようにもうるさいから耳に入ってきてイライラするし。

「まあ、ほら、明日は休養日だからさ。少し気分転換できるだろ」

 慰めともからかいともわからないチェリオ君の言葉に、そういえば……と思い出した。

「なんかあっという間」

 休養日ってことは、俺の学生生活も折り返しに来たってことだ。
 大丈夫か、俺。
 生徒会長さんの奇行に振り回されて、本来の目的達成できてないんじゃ?
 それに、……ああ、そうだ。
 明日は魔研に行く日だ。
 一日しかない休養日なのに、そこも公務……。おかしいな。忙しくないか、俺。

「休みが欲しい……」
「明日休みだろ」
「うーん……。チェリオ君は休養日って何してるの。やっぱり勉強とか?」
「家で魔導具の試作ばっかりしてる。まあ、明日は野暮用。急がなきゃならないことがあって」
「へぇ…」

 勉強って言われなかった。
 これはあれですか。
 勉強しなくても無問題!ってやつですか。そうですか。ふーん。







◆side:チェリオ

 よくわからないが、インザーギの小生意気な生徒会長の件は、当初危惧していた結果にはならず、予想外な方向へ着地した。
 何をどうしたら、あの自分大好きなヤツがアキラを崇拝するようになるのか、さっぱりわからない。
 とりあえずまあ、アキラがここにいる間に問題が起きなくてよかった。




「スーリャさん、ここどう思います?」
「んー?どれどれ」

 研究室にある、俺用の小さな机。
 机の上には紙に描いた構築用の魔法陣。

「『伸びる』『縮む』。ん?何を作ってるんだっけ?」
「杖なんですけど」
「杖に伸びるとか縮むとかいる?」
「やー…、友人が、使うときに長くなったりすると格好いいって言ってて」
「あー、なるほど。その友人に贈り物するんだね。そっかそっかぁ。なるほどねぇ…」

 長い薄い金髪を一つにまとめて結い上げているスーリャさんが、何か一人で納得して変な笑みを浮かべてる。
 研究所の職員には男性に比べて女性が若干少ない。いや、でも、魔法騎士団にほとんど女性騎士がいないことを考えれば十分多いとも言える。
 魔法師であっても、貴族女性は家庭に入ることがほとんどだ。だから、研究所の女性職員には平民出身の人が多い。
 俺に声をかけてくれるスーリャさんも、平民の女性だ。

「でも、伸びるとか縮むってことは、元の杖の長さを魔力で変えるってことだよね」
「そう…ですね?」
「それって難しくない?」
「え」
「材質にもよるけど、杖が木製なら、杖が伸びるっていうのは植物属性の『成長』とも置き換えられるよね」
「あー……」
「縮むのは、『反転』かな。それはちょっと難しすぎると思うんだよね」
「言われてみると……。確かに」
「だったらさ、仕込杖のように、そもそも杖本体に伸びる縮む機能をつけて、あとは、出したりしまったり、の方が簡単だと思うよ」

 その助言になるほどなと納得してしまった。

「それでもう一度調整してみます」
「うんうん。頑張って!」
「はい、ありがとうございます!」

 杖の本体は木製にしよう。魔力を流す部分には黒翡翠がいい。魔法陣を刻むのは難しいが、それほど複雑な魔法陣にはならなさそうだから多分問題ない。

 気を取り直して改めて魔法陣を構築していたときだった。
 研究所内が俄にざわめき出す。
 いつも黙々と作業をする職員が多いのに…と顔を上げたら、所長の伯爵に案内をされるように、第二王子殿下と――――銀髪の美丈夫が現れた。
 ざわめきの中から「豊穣の国の」と声が聞こえてきて、彼の国から視察に来てる王族だと気づいた。

「……え」

 俺には関係ないし…と作業に戻ろうとした瞬間、護衛の中に見知った顔を見つけた。

「は?」

 あの二人だ。
 アキラについていた、あの二人。

「なんで」

 アキラについていたはずの二人が、何故ここにいるんだろう。
 ついその一団を凝視してしまった。
 それで気づいた。
 背の高いその集団の中に、一人だけ背の低い人物が紛れている。
 少し離れた場所からもよくわかる黒髪。

「魔導具ってこうやって作るんですね…!」

 その楽しそうな声とか。
 同い年と思えなかった容貌とか。

「アキラ?」

 思わず立ち上がってた。
 ガタンと椅子が音を立てて、一団の視線が俺に向く。

「あ、チェリオ君」

 って、いつもと同じように俺を呼んで手を振ってきて――――笑顔を貼り付けたままアキラが凍りついた。









*****
「あきぱぱもー、くりすぱぱもー、おしごとー」
「そうですねぇ」
「ちゅまんない」
「マシロちゃん」
「う?」
「おはなし、いっぱいできるようになりましたね」
「う?」
「ふふ。でも今日はこのあと城下町に遊びに行くんですよね?」
「う!あね!あきぱぱが、ちゅかれたー!って、いたから!」
「たのしみですねぇ」
「う!」
「ふふ」
「りーあ」
「なんですか?」
「うー?あね、くち、へん?」
「くち?」
「う!」
「んー?」
「でしゅねーて、いう」
「うんん?」
「ばぁばみたい!」
「メリダ様?……あー……、なんとなくわかりました。私の口調がいつもと違うって言いたいんですね」
「くちょ?」
「とりま――――」
「とーりま」
「……おっと。イチオウ、今の私はマシロちゃんの乳母兼侍女なので、それなりの言葉を使わないとだめですね、ってことですよ」
「うー?ましろ、わかんにゃぃ」
「ふふ。そうで………そうね、こっちのほうがいいわね」
「う!とーりま!」
「あー……(とりま……なんて覚えさせて、アキラさんに怒られるかしら…。でもまぁ、不可抗力ってことでいいわよね)」
「とりまー!」
「ふふ(マシロちゃん、楽しそうだし)」


そのうちマシロが「わんちゃん」とか「りょ」とか「てーけーしー(TKG)」とか言い出して困惑するアキ(笑)
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