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自由の国『リーデンベルグ』

7 クリス、苦渋の決断(笑)

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 俺とクリスの護衛として、クリス隊からはオットーさんとザイルさんの、安定安全護衛コンビ。
 他のクリス隊メンバーについてお兄さんに『預ける』というのは、魔物討伐系統の依頼が入ったときにお兄さんの指示で動くということ。クリスのように一緒に現地へ…とかではなくて、お兄さんとブランドンさんの確認と指示でそれぞれに出動していく感じらしい。
 クリス隊が発足して初めてのことだけど、魔物被害のことを考えると全員でリーデンベルグに赴くには守りという面でどうしても不安が残るから、こういう形になったらしい。
 それもこれも、クリス隊のみんなが優秀なんだって認められてるってことだから嬉しい。

「あとは……」

 呟いて、黙ってしまった。
 クリスもわかっているから難しい顔して考え込む。

「……こういう公務に連れて行かないのが普通ってことはわかってるんだ。わかってるんだけど……」
「そうだな。基本は乳母に預ける」
「乳母……は、この場合メリダさん?」
「そうなるな」
「ちなみに、こういう場合って護衛ばかりじゃなくて侍女の人も行ったりするよね…?」
「そうだな…」

 ううーむ……と、唸ってしまった。

 普通の娘息子なら、公務には連れて行かない。他国に行くなら尚更。子どもたちを連れて行く外交もないわけじゃないだろうけど、少なくとも今回俺たちが目的としてることに、子供を連れて行く必要はない。
 けど、マシロは養女だけど普通の女の子じゃない。むしろ女の子でもないけど。
 魔力で俺と繋がった聖獣のような精霊のような存在。すっかり養女マシロが定着したけれど、その存在は普通の人とはそもそもが違う。
 俺と物理的な距離が開くことでの弊害とか、なんにもわからない。暴走がないなんて、言い切ることもできない。
 それなら幼児マシロとしてではなく、子猫マシロとして連れて行くという方法もないわけじゃない。
 でもそれだとリーデンベルグで万が一幼児マシロに変化したときに誰かに見られるとまずい。
 子猫なら子猫のままでいいとは思いつつ、一緒にご飯を食べたり、手を繋いで他国の街を歩きたいって思ってしまうから、踏ん切りがつかない。

 そして、侍女の人。
 ぶっちゃけいなくてもいいらしい。多分むこうでもつけてくれるだろうし、こちらから行くのがお支度に手間と時間のかかる女性ではなくて俺とクリスがメインだから。
 でも、申し訳ないけど、俺、自分の髪の手入れとかできない。いつもメリダさん任せだもん。無理。
 だったらメリダさんについてきてもらえば…と言えば、メリダさんはご高齢だから長い馬車旅は体に負担がかかるから難しいとクリスが言う。うん、俺もそう思う。

 護衛さんの選別よりも、それらのほうが困難事項だった。






「――――というわけで、リーデンベルグに行くんだが」

 夜。
 夕飯も終えてくつろぐ時間で、クリスがメリダさんにそう告げた。

「あら。それではマシロちゃんと私がお留守番ですか?坊っちゃん方に付く侍女は王太子殿下付きのどなたかにお願いしますか?」
「ましろ?」
「マシロは葡萄食べてて」
「う!」

 俺の膝の上に座って、皮を剥いた葡萄を一粒口の中にいれてあげる。小さめの粒だから、マシロの口に丁度いい。
 もぐもぐと噛みながら、俺を見上げて笑うマシロ。可愛いなぁ。

「……俺、マシロいないと寂しいかも…」
「う?」

 もちろん、クリスがいるんだから寂しくて泣くなんてないと思うけど、こうして膝の上にあるぬくもりがないのは、絶対に寂しい。

「ましろね、いっちょ」

 うふふと笑うマシロ。
 あー……ほんっとに可愛い!

「……これは、無理だな」
「そうでございますね。……マシロちゃんは確かに普通のお子様とは違いますからね。アキラさんのお側に居たほうが安全かもしれませんね」
「だがそうなると……、メリダは行けないだろう?」
「私ですか……」

 メリダさんは少しだけ困った顔になった。

「さすがに、リーデンベルグまでお供する体力は今となっては難しいですね……」

 あと十歳若ければ……と苦笑するメリダさん。
 やっぱり、そうだよね。いつもきびきびしてて頼りにしちゃってるけど、ほんとならもう引退してのんびり生活してるはずのお年しなんだから。

「マシロちゃんが行くとして、やはりマシロちゃんのお世話のためにも侍女は必要でございますね……」
「ああ」
「なおかつマシロちゃんのことを理解している侍女……ですか」

 そこで、ふと、会話が止まった。
 マシロのゴクンって飲み込む音がやけに大きく響く。
 もう一個…と手を伸ばすマシロに、また一粒皮を剥いた葡萄を握らせた。

 ……まあ、多分、この沈黙の理由は、わかってる。
 全員の頭の中にはたった一人の名前しか浮かんでないはずだ。

「俺は嫌だ」

 口火を切ったのはクリスだった。
 盛大な眉間のシワを隠しもしないで子供みたいなことを言う。

「まあまあ。何がそんなにお嫌なんですか。今の条件にピッタリ当てはまる方は、あの方しかいないじゃありませんか」
「いや、だが、領地が」
「伯爵様がご健在なのですから、なんの問題もないのでは?」
「妹の世話にも問題が」
「それこそ乳母がいるでしょう。乳母に任せておけないのであれば、あの方なら坊っちゃんに対してでもしっかりお断りのお返事をするでしょうし」
「いや……」
「常々思っておりましたのよ。あの方に来ていただければ、私の後継としてなんの憂いもないのに、と」
「………」

 あはは。
 これはクリスの負けだ。

「んね、あき」
「うん?」
「ういす、いちゃい?」
「痛くないよ」
「うー?おはなち、なに?」
「リアさんに来てもらおーかっていうお話」
「りーあ!」
「マシロはリアさんのこと好き?」
「しゅき!みな、おとだち!」
「ミナちゃんは今回会えないと思うけどね」
「う?」

 うん。
 リアさんならね。
 マシロのことも知っていて、信頼できて、何よりメリダさんのお墨付きだ。
 あとはクリスの決断だけ。
 俺は反対しない。
 マシロは置いていけない、メリダさんは来れない。なら、あとはリアさんしかいないんだ。

「……………明日、書状を届ける」

 苦渋の決断。
 そんな言葉が似合うクリスだった。







*****
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