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俺が魔法師である意味
4 『うにゃ』
しおりを挟む午前中いっぱい、恥ずかしさに身悶えながら布袋三枚に収納魔法をかけた。リネン関係と、マシロの着替え予備用と、……俺の着替え用に……。
こんな羞恥プレイいらなかった。
当初の目的はそれなりに達成されたはず。収納ポーチの中に布袋を入れて終わった。
気力ががっそりもってかれて、お菓子も九袋、ポーチに戻しちゃった。一袋はマシロが確保してて、嬉しそうに食べてたけど、昼食を運んできてくれたメリダさんに怒られて袋を取り上げられた。
「ぉかし!」
「お菓子ばかり食べていたらご飯が食べられないでしょう。だから、お茶の時間まで私が預かります」
「ばぁば、ぉかし…」
「さ、しっかりご飯を食べましょう」
「うぶぅ……」
顔をクシャクシャにして抗議してるマシロを見ながらお昼用のサンドイッチを食べたら、少し落ち着いた。
ここにいたのがオットーさんとザイルさんだけだったってことに感謝しよう。うん。
「メリダ、明日からエーデル領に行く」
「あら」
俺を膝に載せたクリスが、お茶を飲みながらメリダさんに伝えた。
「突然ですね。では、お支度をしておきます」
「ああ。あと、ソリアにこれを」
「はい」
ソリアさんにってことは、メリダさんに渡した紙には、マシロの例の服のことを書いてるのかな。用意がいい。
「マシロちゃん、ふぅふぅしてね」
「うぶ」
……マシロ、いい加減機嫌直そうね。
マシロ用のパン粥を、握りしめたスプーンで掬って息をかける。渋い顔のまま一口目を食べたマシロは、口に入れた途端、不機嫌が吹っ飛んだ。
「ぁんまぃの!」
「それはよかったわね」
メリダさんはくすくす笑いながら、マシロの頭をなでた。
「しっかり食べましょうね」
「あい!」
もうなんだか。
執務室の中がほわんとした空気になったよね…。
午後、クリスが書類と格闘してる間に、まずはザイルさんのポーチに収納魔法をかけた。
「どう?」
「問題ありませんね。これはとても役立つので嬉しいんですが……、いいんでしょうか?」
「え。何が?」
わからなくて聞き返したら、ザイルさんに苦笑された。
「本来ならとても高価なものなんですよ。遺跡から発見されたものが出回ってるだけですから」
「あー……、遺失魔法だから」
「ええ」
空間属性自体が極めてレア属性だから、付与できる人もいない、か。
だから、俺も最初の頃はクリス隊のみんなにすら言わなかったし、バレないようにしてたんだっけ。
「……あのさ。俺、こっち帰ってきてからポンポン付与してる気がするけど、いいのかな?」
って、ほんと今更クリスに聞いたんだけど。
クリスは俺を見て苦笑して頷いた。
「構わない。もう諦めた」
「おぅ……」
諦められていた。
これにはザイルさんとオットーさんまで笑う。
「ただ、やはり誰彼構わずというのは駄目だ。アキの空間属性に関しては秘すべきものなのは理解してるな?」
「うん」
「本当に信頼できる者なら問題ないが、そうでない者の前では使うな。……緊急時は別だが」
「うん。わかった」
信頼できる人、かぁ。
「じゃあ、ザイルさんもオットーさんも問題ないね」
「ありがとうございます」
嬉しそうに笑うザイルさん。
俺、二人にはたくさん助けられたし、少しでもお礼になればいいな。
「じゃ、次オットーさん!」
「それじゃあお願いします」
と、クリスには厳しくても俺にはとことん優しいオットーさんが、自分のポーチを外した。
それをザイルさんが受け取って、中身を取り出してから俺に手渡してくれる。
「すみませんアキラさん。お願いします」
「はーい」
オットーさんのポーチをザイルさんから受け取って、更にはザイルさんからもお願いされる。
なんかこう…二人のやり取りって安定してるっていうか、やっぱり長年連れ添った夫婦感がある。
「包帯と塗り薬が少ないですね。明日までに補充しておきましょうか」
「そうですね。ああ、ザイル、研磨石は新しいものを入れておきなさい。かなり古くなっているでしょう?」
「あ、そういえば」
お互いがお互いの持ち物チェック。
……ほんと、仲いいわぁ……。
「――――はい、終わり!なんかへんなとこないかな」
そんな二人を観察しつつも、俺はやるべきことはやるのである。
出来上がったポーチをザイルさんに渡すと、ザイルさんは全体的に確認してから出したものを入れた。
「素晴らしいです、アキラさん」
「へへ」
褒められたり感謝されるのは嬉しいよね。
「じゃ、他の隊員さんにも」
「アキ、今はやめておけ」
「え」
「魔力をかなり使っただろ」
「…そう?」
「そう」
俺自身よりも俺を把握してるクリスが、少し呆れ気味に言った。
「その調子でやってたらあと二、三個で不調になるぞ」
「そんなことないと思うんだけど……」
自分では「ちょっと減ったなぁ」くらいなんだけど。
でも、クリスに心配かけるのも何だし、隊員さんにはまた後日にしよう。今回の遠征に間に合わなくてごめんなさい。
「あき」
それじゃあと午後は何しようかな…ってお茶を手にしたとき、黙って見てたマシロが俺の服を引っ張ってきた。
「なに?」
「ましろの、ある?」
「え?」
「っとーと、いるの、あれ」
「あー……」
ポーチのことだよねぇ。
「マシロもほしいの?」
「あぃ!」
「……ポーチだけでいいの?」
「んとね、あきがね、うにゃってする」
うにゃ……。
そりゃなんだ。俺が魔法使ってる時のマシロなりの表現か。
「うにゃ…」
吹き出したザイルさん。最近笑いの沸点低くないですかね!?
は…っとして見たら、オットーさんまで笑ってるし、クリスも口元抑えてた……っ。
「うにゃはないよ……マシロ……」
「う?うにゃ?め?」
「違うのにして……」
「うー?」
マシロの顔が段々不機嫌になって。
「うにゃ…、ほちぃ」
スカートを握りしめてぐすぐすされたら、そりゃもう、ほだされるよね。そうだよね。
「いや、魔法はちゃんと使うから!そうじゃなくて、俺の魔法のことを『うにゃ』っていうのやめて、ってことで」
「…うにゃ、してくれぅ?」
「うん。するする」
「きゃあ!」
大喜びで抱きついてくるマシロ。
クリスの呆れた溜息が聞こえてくるけど、仕方ないよね。これは仕方ないはず。
お茶の時間にきたメリダさんに聞いたら、陛下からの贈り物の中に女の子用のバッグがあるとかで、それを持ってきてもらった。
さすがにこの容姿にウェストポーチはないと思ったから。
陛下が用意してくれたバッグは、淡いピンク色でレースがいっぱい使われた、それほど大きくはない肩から斜めにかけられるもの。
受け取って『うにゃ』したらマシロが喜んで、肩から斜めにかけてあげるとものすごいドヤ顔してた。……可愛かった。
その小さめのバッグにお気に入りのお菓子の袋をぐいぐい入れてるのを見たら、もう、笑わずにはいられなかった。
*****
マシロ、マイバッグGET。
マシロ、ナキオトシヲオボエタ。
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