107 / 216
俺が魔法師である意味
5 エーデル領に向けて出発!
しおりを挟むエーデル領に行くと決めた翌日の早朝。
予定通りクリス隊は王城を出発した。
「マシロ、寒くない?」
「み」
「寒かったら潜ってていいからね」
「み」
現在、子猫なマシロが俺のマントの中に潜り込んでいる。胸元の合わせからにゅっと顔を出してる状態。
エーデル領に行くに当たり、マシロをどうするかって話になったんだけど、おいていくのは無理で(マシロが勝手に転移してくる)、幼児マシロか子猫マシロで馬に乗る…ってことになったのだけど、幼児マシロだと俺と一緒じゃない(ブランドンさんと相乗り予定だった)から…という理由で悩むことなく子猫になった。
王都東門から出てしばし走ったあと、クリスが例の計画を実行に移した。
「いけるか?」
「そうですね……、さすがに直接は無理ですけど」
休憩時間に最終確認をする。
俺はまだ自分しか跳べないけど、アルフィオさんの転移術だと大勢を移動させることが可能。体内の魔力を使う魔法と、精霊の力を借りる魔法では、できることが似てはいるけど異なる。
俺の転移は相手の魔力を感じてそこに向かって跳ぶ。けど、精霊魔法の転移は精霊同士を繋げるようなものだから、ある程度の土地勘があればいい。一応、自分の精霊魔力以上の距離は飛べないけど、一人なら相当な距離を跳ぶことができるんだって。
「マシロの転移は?」
ルートの確認とかを終えたアルフィオさんに聞いてみた。この人、二百歳だけあって、魔法関係の知識も豊富なんだよね。
「あれはほぼ魔力感知でしょうね」
「ほぼ?」
「み」
「……魔力で繋がっているので、その繋がりを辿ることで容易に転移できたのだと。そのあたりは精霊魔法の応用と言いますか」
「へぇ…。そうなの?マシロ」
「み、み!」
うんうん、って頷く子猫マシロ、久しぶりすぎて可愛い。……結局、子猫でも幼児でもマシロは可愛いってのが結論だな。
「アルフィオ」
「はい!」
「そろそろ出る」
「ええ。わかりました」
オットーさんたちと打ち合わせの終わったクリスが戻ってきて、アルフィオさんに声をかけると同時に、ひょいっと俺を抱き上げてきた。
「果実水は?」
「飲んだよ」
「果物は?」
「少し食べた」
「体調は?」
こつんと、額同士が触れ合う。
「大丈夫!」
唇が触れそうなほど近くでお互いに微笑み合って額を重ねていたら、ペシっとマシロの小さな手に頬を叩かれた。
「マシロも?」
「み!」
「マシロも元気だね」
マントから身を乗り出したマシロの小さな顔に頬をくっつけると、嬉しそうに目を閉じた。
マシロを落とさないように(マントの中で俺の服に引っ付いてるから問題はない)、準備の整ったヴェルに乗る。ふふふ。ちゃんと自分で乗るだけの体力はついたんだ!
俺が専用クッションに落ち着いたのを確認してから、クリスが俺の後ろに乗る。
自然と左手が俺のお腹を抑える。俺は、ぽてっとクリスの体に背中を預けた。
全員が騎乗したのを確認してから、クリスが手を上げた。
できるだけ密集したクリス隊。
アルフィオさんの髪がわずかに揺れた。
「み」
「マシロもわかる?」
「みゃ」
「うん、多分精霊魔力だ」
リシャルで俺が感じた魔力じゃない魔力。今それをしっかりとアルフィオさんから感じ取れる。
「行きます」
って言葉とほぼ同時だった。一瞬の酩酊後に、すでにこれまでとは違う景色の中にいたから。
流石のクリス隊の面々も、ざわりとしている。
「オットー、ザイル、位置の確認を」
「「御意」」
二人はすぐに行動に移った。
クリス隊も驚きに包まれてはいたけれど、立ち直りも早くて、二人の指示に対応してる。
「アルフィオ、どうだ」
「……ええ、少し疲れた感じはありますが、問題ないかと。大体の予定地点まで跳べたと思いますよ」
確かに汗かいてるし、息も荒い。でも馬上でフラフラしてる様子もない。
……すごい。
「クリス、ここってどのあたり?」
「あと半日も走ればオットーの村たったところにつくな」
「……約二日分ってことだよね」
ショートカットし過ぎじゃないですか。
大体三十分くらい待ってた思う。
方方に散っていたクリス隊のみんなが戻ってきて、情報のすり合わせをしていく。
それによると、俺たちがいる場所は、ほぼ予定通りの場所だったらしい。
「……まだ信じられません。こんなことが可能なんですね」
珍しくオットーさんが感嘆の声を上げていた。
「これくらい使えないと、中々世界中を回ることはできませんから」
って答えるアルフィオさんに、オットーさんはなんとも言えない黒い笑みを見せた。
「なるほど。これほどの使い手を迎えることができて嬉しい限りです」
「団長殿にそう言っていただけると私も嬉しいですよ」
……アルフィオさん、駄目だよ。そんな人の良さそうな顔で笑ったら。多分、オットーさんの頭の中では、いかに効率よくアルフィオさん(の魔法)を使うか計算中だと思うよ。嬉しいとか言ったら駄目な気がするよ。
そもそも、ずっとクリス隊にいるともおもえないけど。エアハルトさんと気持ちが通じ合ったら、二人で退団…なんてこともありそう。それならそれで平和になっていい。
そんな俺の心配?は誰にも知られることなく、殿にエアハルトさんとアルフィオさんを配置した並びでクリス隊は再び走り出した。
「俺もこんな魔法使えるようになりたいな」
「みゃう」
マシロも頷いた。
でもクリスはなんだか苦笑した気がする。
「クリス?」
「アキは今のままでいいんだが」
「でも、同じような転移が使えるようになったら、お役立ちだよ?」
「役に立つとか考えなくていい。…自分を守ることを優先に考えてくれ」
「う…ん?…ん、わかった」
ほんとはわかってない。
役に立つならそれに越したことはないと思うんだけど。
でも、自分の身を守れっていうのはわかるから頷いた。
俺、自分のことだけじゃなくてクリスのことも守るからね!
*****
子猫マシロはアキの胸元でぬくぬく
112
お気に入りに追加
2,295
あなたにおすすめの小説
愛されない皇妃~最強の母になります!~
椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』
やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。
夫も子どもも――そして、皇妃の地位。
最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。
けれど、そこからが問題だ。
皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。
そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど……
皇帝一家を倒した大魔女。
大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!?
※表紙は作成者様からお借りしてます。
※他サイト様に掲載しております。
聖女としてきたはずが要らないと言われてしまったため、異世界でふわふわパンを焼こうと思います!
伊桜らな
ファンタジー
家業パン屋さんで働くメルは、パンが大好き。
いきなり聖女召喚の儀やらで異世界に呼ばれちゃったのに「いらない」と言われて追い出されてしまう。どうすればいいか分からなかったとき、公爵家当主に拾われ公爵家にお世話になる。
衣食住は確保できたって思ったのに、パンが美味しくないしめちゃくちゃ硬い!!
パン好きなメルは、厨房を使いふわふわパン作りを始める。
*表紙画は月兎なつめ様に描いて頂きました。*
ー(*)のマークはRシーンがあります。ー
少しだけ展開を変えました。申し訳ありません。
ホットランキング 1位(2021.10.17)
ファンタジーランキング1位(2021.10.17)
小説ランキング 1位(2021.10.17)
ありがとうございます。読んでくださる皆様に感謝です。
聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい
金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。
私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。
勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。
なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。
※小説家になろうさんにも投稿しています。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

【完結】悪役令嬢は3歳?〜断罪されていたのは、幼女でした〜
白崎りか
恋愛
魔法学園の卒業式に招かれた保護者達は、突然、王太子の始めた蛮行に驚愕した。
舞台上で、大柄な男子生徒が幼い子供を押さえつけているのだ。
王太子は、それを見下ろし、子供に向って婚約破棄を告げた。
「ヒナコのノートを汚したな!」
「ちがうもん。ミア、お絵かきしてただけだもん!」
小説家になろう様でも投稿しています。
実は家事万能な伯爵令嬢、婚約破棄されても全く問題ありません ~追放された先で洗濯した男は、伝説の天使様でした~
空色蜻蛉
恋愛
「令嬢であるお前は、身の周りのことは従者なしに何もできまい」
氷薔薇姫の異名で知られるネーヴェは、王子に婚約破棄され、辺境の地モンタルチーノに追放された。
「私が何も出来ない箱入り娘だと、勘違いしているのね。私から見れば、聖女様の方がよっぽど箱入りだけど」
ネーヴェは自分で屋敷を掃除したり美味しい料理を作ったり、自由な生活を満喫する。
成り行きで、葡萄畑作りで泥だらけになっている男と仲良くなるが、実は彼の正体は伝説の・・であった。
悪役令嬢と言われ冤罪で追放されたけど、実力でざまぁしてしまった。
三谷朱花
恋愛
レナ・フルサールは元公爵令嬢。何もしていないはずなのに、気が付けば悪役令嬢と呼ばれ、公爵家を追放されるはめに。それまで高スペックと魔力の強さから王太子妃として望まれたはずなのに、スペックも低い魔力もほとんどないマリアンヌ・ゴッセ男爵令嬢が、王太子妃になることに。
何度も断罪を回避しようとしたのに!
では、こんな国など出ていきます!

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる