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《あの人》②
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それから一ヶ月くらい《あの人》と一緒に暮らしていたんだと思う。
アヴァロンは常に昼間の世界だったので実際の経過時間は分からないが体感ではそのくらいだった。
《あの人》はその間、「必要だから。」と俺に喧嘩の稽古を付けたり、何処の言葉か分からない文字の勉強がてらに物語を読み聞かせた。
その物語の中でも《あの人》は王を選ぶ剣を抜いた少年の物語をよく話してくれた。
王を選ぶ剣を抜いた少年が王になり、様々な種族の仲間と力を合わせて戦争ばかりを世界を変えようとする物語。しかし、その物語は子供に読み聞かせる割には後味の悪いバッドエンドで終わってしまう。
最後の戦いで少年は戦争を止める為に魔王と呼ばれた魔族の国の王と一騎討ちで相討ちになり、その命を散らす。
物語は「戦争は終わり、世界は二人の王のおかげで平和になりました。」で締め括られるが、俺は絶対バッドエンドだと思う。
そう話せば、《あの人》の表情には複雑な感情が浮かび、「そうだな。」と素直に肯定した。
「だから心を持たぬ剣ではダメだ。ともに戦えてもその心に寄り添えない。剣は戦う事しか知らない。だから…。」
こちらを見て、少し申し訳なさそうな笑みを浮かべて、ぽんっと頭に《あの人》の手が乗せられる。
その手は優しく頭を撫でたかと思うと、デコピンを食らわせた。
「いたッ!?何すんだよッ。」
「一つ、勝負をしよう。」
そのデコピンのあまりの痛さに抗議の視線を送るが意に介さず、それどころかニッと悪い笑みを浮かべた。なんだか嫌な予感がするが勝負から逃げるのは負けな気がして、勝負内容もまだ話してないのに勝負に乗った。
「なんだよ、勝負って。組み手か?」
「いや、賭けさ。」
「賭け?」
「愛し方も愛され方も知らないお前が誰かを愛する日が来るか…だな。ついでに私は来る方に賭けるからお前は来ない方に賭けろ。」
「なんの勝負だか分かんないし、なんかずっこい。」
「覚えておけ。大人は狡い生き物なのだよ。」
数千年長く生きていれば悪賢くもなる。
そうカラリと笑う《あの人》は花の上に座るとポンポンッと自身の膝を叩いた。
その姿に気恥ずかしくてポリポリと頰を掻き、その膝の上に頭を乗せて寝転がった。
未だに慣れないその甘え方に少し身体を強張らせると「本当にお前は不器用だ。」と頭上から苦笑が降り、髪をすくように頭を撫でる。
《あの人》にそうされると心地良くて眠くなる。
《あの人》曰く、その眠気は現実の身体が回復しつつある証拠。眠りが深くなる程、現実に戻る日が近いらしい。
俺はまだ死んでないから身体が回復すれば自動的に生と死の狭間から現実に戻される。ここは生きているものが居てはいけない世界だから。
ー 帰りたく…ないな…。
だけど、ここはとても居心地良くて、《あの人》は俺を利用する為に助けた人でなしだけど、隣にいると肩から力が抜ける。
現実では、舐められないように肩を張ってなければ自分を守れなかった。こんな穏やかな気持ちにいられたのは母がまだ叱ってくれた頃以来だった。
このまま眠ってしまったら現実に戻ってしまうんじゃないかと怖くなり、ギュッと《あの人》のローブを握る。だけど、確かに握った筈なのにローブを握った感触はなく、《あの人》の温もりも眠気が強くなるたびに遠ざかっていく。
それが嫌なのにとても眠くて、必死に眠気に抗う。だが、やはり眠くてしょうがない。
そんな時にはたと思い出したかのように《あの人》はつぶやいた。
「そういえば、勝負の褒賞を決めてなかったな。」
《あの人》は賭け事には褒賞が必要だと一人で勝手に納得して、うんうんと頷く。
「そうだな。お前が勝ったらずっとここに居ていい。ただし。負けたら二度と来るなよ。ガキの面倒はもう十分だからな。」
そうサラッと酷い事をさも平然と言い放つその姿にやっぱ人でなしだと苦笑した。
自分で喚んでおいてそれはない。
アンタが死に掛けていた俺を喚んで手懐けたんだろうが。
「じゃあ、一生誰も愛せなくていいかも。負けんのは嫌だし。」
「無理だな。お前は人一倍愛に飢えてる。その上、敵には容赦ない癖に一度懐に入れた相手にはとことん甘い。…何時の間にやら丸め込まれて、手籠にされるのが関の山だ。」
「……俺、そんな甘ちゃんじゃない。」
「どうだか。お前は愛を知らな過ぎる。あれはこの世で一番面倒で、一度知ってしまえばずぶずぶと嵌まっていってしまう。…こんな世界。さっさと滅びればいいと思っていた人でなしが、たった一人の男の為に滅ばないように世界を変えようと足掻くくらいには。」
だからお前には無理。と言い切り、鼻で笑う。
それに憤慨する余裕も無い程の眠気に襲われ、ついには抵抗出来ず、瞼が開かなくなった。
「琥太郎。お前はお前らしく生きて。私の事なんて忘れるくらいに愛せる相手を見つけろ。…あのクソッタレな世界に負けるなよ。」
それは《あの人》との大切な約束で勝負。
それは《あの人》が幼い日に掛けた呪いのような魔法。
それは今生の別れの言葉で。まだ愛を、恋を、知らぬまました失恋。
《あの人》は俺を自身の生きていた世界に飛ばす為だけに身勝手に俺を助けて、親よりも俺を理解して一ヶ月、育てた。
自身が愛した人の願いを叶える為に俺の人生をまるごと変えてしまった人でなしで恩人。
目を覚ますと幼い俺は病室のベッドの上で全てを忘れて現実に戻っていた。
《あの人》の事もこれから将来起こる事も。全て忘れて。
アヴァロンは常に昼間の世界だったので実際の経過時間は分からないが体感ではそのくらいだった。
《あの人》はその間、「必要だから。」と俺に喧嘩の稽古を付けたり、何処の言葉か分からない文字の勉強がてらに物語を読み聞かせた。
その物語の中でも《あの人》は王を選ぶ剣を抜いた少年の物語をよく話してくれた。
王を選ぶ剣を抜いた少年が王になり、様々な種族の仲間と力を合わせて戦争ばかりを世界を変えようとする物語。しかし、その物語は子供に読み聞かせる割には後味の悪いバッドエンドで終わってしまう。
最後の戦いで少年は戦争を止める為に魔王と呼ばれた魔族の国の王と一騎討ちで相討ちになり、その命を散らす。
物語は「戦争は終わり、世界は二人の王のおかげで平和になりました。」で締め括られるが、俺は絶対バッドエンドだと思う。
そう話せば、《あの人》の表情には複雑な感情が浮かび、「そうだな。」と素直に肯定した。
「だから心を持たぬ剣ではダメだ。ともに戦えてもその心に寄り添えない。剣は戦う事しか知らない。だから…。」
こちらを見て、少し申し訳なさそうな笑みを浮かべて、ぽんっと頭に《あの人》の手が乗せられる。
その手は優しく頭を撫でたかと思うと、デコピンを食らわせた。
「いたッ!?何すんだよッ。」
「一つ、勝負をしよう。」
そのデコピンのあまりの痛さに抗議の視線を送るが意に介さず、それどころかニッと悪い笑みを浮かべた。なんだか嫌な予感がするが勝負から逃げるのは負けな気がして、勝負内容もまだ話してないのに勝負に乗った。
「なんだよ、勝負って。組み手か?」
「いや、賭けさ。」
「賭け?」
「愛し方も愛され方も知らないお前が誰かを愛する日が来るか…だな。ついでに私は来る方に賭けるからお前は来ない方に賭けろ。」
「なんの勝負だか分かんないし、なんかずっこい。」
「覚えておけ。大人は狡い生き物なのだよ。」
数千年長く生きていれば悪賢くもなる。
そうカラリと笑う《あの人》は花の上に座るとポンポンッと自身の膝を叩いた。
その姿に気恥ずかしくてポリポリと頰を掻き、その膝の上に頭を乗せて寝転がった。
未だに慣れないその甘え方に少し身体を強張らせると「本当にお前は不器用だ。」と頭上から苦笑が降り、髪をすくように頭を撫でる。
《あの人》にそうされると心地良くて眠くなる。
《あの人》曰く、その眠気は現実の身体が回復しつつある証拠。眠りが深くなる程、現実に戻る日が近いらしい。
俺はまだ死んでないから身体が回復すれば自動的に生と死の狭間から現実に戻される。ここは生きているものが居てはいけない世界だから。
ー 帰りたく…ないな…。
だけど、ここはとても居心地良くて、《あの人》は俺を利用する為に助けた人でなしだけど、隣にいると肩から力が抜ける。
現実では、舐められないように肩を張ってなければ自分を守れなかった。こんな穏やかな気持ちにいられたのは母がまだ叱ってくれた頃以来だった。
このまま眠ってしまったら現実に戻ってしまうんじゃないかと怖くなり、ギュッと《あの人》のローブを握る。だけど、確かに握った筈なのにローブを握った感触はなく、《あの人》の温もりも眠気が強くなるたびに遠ざかっていく。
それが嫌なのにとても眠くて、必死に眠気に抗う。だが、やはり眠くてしょうがない。
そんな時にはたと思い出したかのように《あの人》はつぶやいた。
「そういえば、勝負の褒賞を決めてなかったな。」
《あの人》は賭け事には褒賞が必要だと一人で勝手に納得して、うんうんと頷く。
「そうだな。お前が勝ったらずっとここに居ていい。ただし。負けたら二度と来るなよ。ガキの面倒はもう十分だからな。」
そうサラッと酷い事をさも平然と言い放つその姿にやっぱ人でなしだと苦笑した。
自分で喚んでおいてそれはない。
アンタが死に掛けていた俺を喚んで手懐けたんだろうが。
「じゃあ、一生誰も愛せなくていいかも。負けんのは嫌だし。」
「無理だな。お前は人一倍愛に飢えてる。その上、敵には容赦ない癖に一度懐に入れた相手にはとことん甘い。…何時の間にやら丸め込まれて、手籠にされるのが関の山だ。」
「……俺、そんな甘ちゃんじゃない。」
「どうだか。お前は愛を知らな過ぎる。あれはこの世で一番面倒で、一度知ってしまえばずぶずぶと嵌まっていってしまう。…こんな世界。さっさと滅びればいいと思っていた人でなしが、たった一人の男の為に滅ばないように世界を変えようと足掻くくらいには。」
だからお前には無理。と言い切り、鼻で笑う。
それに憤慨する余裕も無い程の眠気に襲われ、ついには抵抗出来ず、瞼が開かなくなった。
「琥太郎。お前はお前らしく生きて。私の事なんて忘れるくらいに愛せる相手を見つけろ。…あのクソッタレな世界に負けるなよ。」
それは《あの人》との大切な約束で勝負。
それは《あの人》が幼い日に掛けた呪いのような魔法。
それは今生の別れの言葉で。まだ愛を、恋を、知らぬまました失恋。
《あの人》は俺を自身の生きていた世界に飛ばす為だけに身勝手に俺を助けて、親よりも俺を理解して一ヶ月、育てた。
自身が愛した人の願いを叶える為に俺の人生をまるごと変えてしまった人でなしで恩人。
目を覚ますと幼い俺は病室のベッドの上で全てを忘れて現実に戻っていた。
《あの人》の事もこれから将来起こる事も。全て忘れて。
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