その召喚獣、ツッパリにつき

きっせつ

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トーリとコタ①

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ただ笑っていて欲しかった。
ただ生きていて欲しかっただけ。

そう理由を付けては、自身の身勝手な感情を押し付けて、ぶつけて、苦しめて困らせて。一体、私は何をやっているのだろう。

永遠に終わらない自問自答をしながらヴラディア全土に探知魔法を掛け、無理を言って部下に元老院を探らせた。しかし、コタは見つかる事はなく、焦燥と不安、後悔に苛まれる。

何かあったんじゃないかと思うのと同時に私といるのが嫌で姿を消してしまったんじゃないかという不安が頭の中を駆け巡る。

会議中も集中なんて出来ず、ラ・モールにしゃんとしろと喝を入れられてしまった。「きちんとやるべきだった。集中する。」と仕事に力を入れれば、何か言いたげに溜息をつかれた。

シャルマンはずっとこちらをニヨニヨしながら見ているし、パレスさんは時折、真剣にこちらを静観して、アヴァリスは何か言いたげだが、口をきゅっと結んで俯く。


ー やっぱり、何が何でも離れるべきじゃなかった。

未だ平行線の会議を終えて、気合を入れ直す為に両頬を挟むように叩く。そのけたたましい音にアヴァリスが真っ青な顔をして、ガタンッと立ち上がったのが見えたが、許して欲しい。このくらいの喝を入れないと踏ん切りがつかないのだ。


コタがいなくなったあの日、部屋は荒らされていなかった(シャルマンが暴れた形跡は除く)。コタは自ら出て行った線がとても強く、コタが向かうであろう場所に一つ心当たりがある。

ー ガウェインさんの家。

コタが帰る家といったらこの世界ではあの場所しかない。

探索魔法に引っ掛からなかったという事は一瞬で数百キロ離れた場所に帰ったという事になる。魔力がない、魔法の使えないコタが一瞬で帰るにはパレスさんあたりが協力したと見て、間違いないだろう。

そうなんでしょとパレスさんを見やると、こてんと首を傾げる。それが少し気になったが、からかってるだけだろうと早々に決め付け、転移魔法を展開する。

「少し城を空けます。」

「あ、あの陛下。その…俺…。」

「すみません、アヴァリス。話は帰ってきてから聞きます。」

「でもッ…。そのッ!!!」

転移の光で景色が消える最中。
アヴァリスの苦しげな顔が光の狭間から見えた気がした。

「…だって、アイツばっかりっ、狡い。俺だってっ…。」

それでも私はコタの事でいっぱいいっぱいで、アヴァリスの口から溢れ出してしまう程のその感情にその時は気付く事が出来なかった。







数ヶ月ぶりに降り立った故郷の森はただのゴブリンだった頃と変わらない雰囲気を纏っていた。

静かだが、生存競争が目に見えぬところで繰り広げられている緊張感があり、時折、身を潜める魔物の息遣いが微かに聞こえてくる。

コタと出会う前の森の姿を目にして、何かがおかしいと眉を顰める。


「魔物は野生動物と同じ感覚を持っている。肌でこれから起こる事を感じ取っているといった所なのだ。」

空から雪のように白い鱗が降ってくる。
巨体の割にふわりと舞い降りたその方は気配も感じなかったのに急に現れた。そして、突然話し掛けられて、虚をつかれて飛び跳ねた私を無視して言いたい事だけ言ってくる。

「吾輩達は信念に反して譲歩してやったのだ。それを夢夢忘れず、これから何が起ころうとあの馬鹿者に責任転嫁だけはするな。アレはああ見えて繊細で死ぬ程面倒臭い。」

その言葉に「それはどういう事ですか?これから何が起こるというんですか?」と聞こうと口を開くがサファイアのよう青い瞳が質問を拒絶する。してはいけないような圧を感じさせた。

言葉を飲み込むと早々に白龍様は私から興味を無くしてガウェインさんの家の方向にその視線を向けた。木々の間から見えた家の煙突からはモクモクと煙が上がっていて、それを見て、「全く…、世話の焼ける男なのだ。」と鼻を鳴らし、飛び去っていく。


「なんて…、なんて、自由な方なんだ…。」

本当に言いたい事だけ言って帰って行った。
何がしたかったのかすらも理解する暇も与えずに不安と困惑だけ与えて帰って行った。


だが、そのあまりに自由過ぎる振る舞いが焦ってた気持ちに歯止めをかけた。ふうーっと息を長く吐き出し、パンっと両頬を叩く。

「その時の感情に支配されずにコタが居たらちゃんと最後まで話を聞く。きちんと話し合う。」

きっと今のままガウェインさんの家に行って、コタが居たら出て行った本人の気持ちも考えずに「無事で良かった。」と抱き締めていたかもしれない。




「お久しぶりです。ガウェインさん。私です、ミドリです。」

そう声を掛けて、玄関をノックするとトットットッと元気な足音が聞こえ、元気よく扉が開いた。

開いた扉から覗くのは好奇心に満ちた紅茶色の瞳。
琥太郎と同じくらいの背格好なのにあどけなさのある青年。

その見ず知らずの青年に「どちら様?」と声をかけるとニパッと子供のように純粋な笑みを浮かべて私の手のひらに指で文字を書いた。

『ぼくはトーリ。貴方はだぁれ?ご用件はなぁに?』

「ミドリと申します。えっと、コタがこちらに来ていないかガウェインさんに伺いに。」

『コタ?……ミドリ?』

コタと私の名前を聞いてその名を反復して声もなく呟く。その姿とこのやりとりからこのトーリという青年が喋れない事に気付いた。

喋れないのはさぞ大変だろうなとコタと意思疎通出来なかったゴブリン時代に想いを馳せて、トーリに同情する。それと同時にコタと比べるとあまりにも言動が幼過ぎるこの青年に少し違和感を覚えた。
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