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ソレーユ視点⑤

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「ぶ…、ぶはっ…。ふふふっ。ふふ。」

隣では目から涙が滲む程、笑うソレーユを見て、琥太郎が「何笑ってんだコイツ。」という顔で怒りも忘れて困惑した。

「貴様ッ…。貴様ッ!!」

少し遅れてやっと何を言われたか理解した王が踏ん反り返っていた玉座から立ち上がり、ワナワナと怒りに肩を震わせる。

「誰か。誰か。ソイツの首を斬り落とせッ。」

「ああ。それは困ります、陛下。」

王の一声に騎士達が剣を抜き、琥太郎が拳を構える最中、やっと込み上げてくる笑いを押し込めて、琥太郎の肩を抱く。

「俺の新しい召喚獣で、俺の伴侶ですので。…ほら、ご褒美として兄の召喚獣を伴侶として欲しいって言ったでしょう?彼がその召喚獣です。」

「はぁぁああッ!!?」

「こ、この野蛮な生き物が…。」

ふざけるなとブチギレて今にも暴れそうな琥太郎を強く繋がりで抑え込めて、肩に周りした手を腰へと回し、身体を抱き寄せる。上手く力の入らなくなった身体でそれでも意地でも引き剥がそうとする琥太郎に『力を抜いて。』と更に命令を出す。

身体から力が抜け、立てなくなった琥太郎を支えるように抱く。王や取り巻きの貴族、獣人の王に見せつけるように喉元に口付けを落とした。

その直後に振り下ろされた拳をかわし、キッと睨む瞳ごと全てを腕の中へと仕舞い込み、ニコリッと王へ笑い掛ける。

「恥ずかしがり屋なもので。」

「……お前が良いというなら致し方あるまい。…野蛮なのはトリスタンが喚んだからであろう。彼奴はお前とは違い、本当に我が子かと疑う程の愚者だった。」

ソレーユは琥太郎を支えながら皇帝の笑みを浮かべながら頭を下げると謁見の間を出た。

やっと身体に力が入るようになるとパシンッと小気味のいい音を立てて、琥太郎が平手打ちをソレーユの頰に放った。
そんなにキスが嫌だったかと苦笑したが、琥太郎の開いた口から出た言葉はソレーユの理解出来ない言葉だった。

「そんなに自分の兄貴を陥れて馬鹿にして楽しいか?そんなにテメェの子供を馬鹿にして何が楽しい?」

何故、彼はもう繋がりもなく他人になった相手の事だというのにここまで怒っているのだろう?
何がそんなに腹立たしかったのだろう?

「胸糞悪い。」と怒りを発露させるその姿が不思議で堪らない。獣人の王を蔑める王や周囲に怒っていた事も全て不思議で堪らない。

首を傾げれば、フンッと鼻を鳴らして煮えたぎるような怒りを宿した目で睨んでくる。

「お前等全員狂ってる。なんでアイツがあんなにねじ曲がった性格になったかよく分かった。…寧ろ、あの程度で済んだのが奇跡だと思うくらいにな。」

「…そんなに腹を立てる事?あれは日常茶飯事で兄上だって当たり前のように受け入れていたよ。」

「……ふざけんな。それは黙って耐えてたの間違いだろ。日常茶飯事でそんな虐待を受けてる兄を傍観して、その上、ぶっ壊したのかテメェは!!」

「陛下は俺に寛容だからね。俺の全てを許してくれる。」

そう何時だってそうだ。
兄が大事にしていた鳥を壊しても。従者に大怪我を負わせても。置いて逃げた仲間を奴隷市場に売り払っても。兄を壊しても。

ソレーユのやることなす事全て許された。
肯定された。

それが産まれてからずっと当たり前な事で。
肯定こそが最大の愛で。


「可哀想な奴だな、お前。」

だから琥太郎が何を言っているのかソレーユには理解できない。

怒りに燃える瞳にチラリと揺れる憐れみ。
それは今まで向けられた事のない感情で、今まで投げられた事のない言葉で。

何故か彼の言葉はよく通り、心の奥底に眠る自身の知らない感情を揺さぶる。


「全て許されるのはお前がやる事なす事に無関心だからだ。本当にお前の事を大事に想ってくれてる親なら『いけません。』って叱ってくれるんだよ。子供のしでかした事に向き合って、悩んで、悪い事は正そうとしてくれるんだ。」

その声色は彼らしくなく、少し震えていて言い終われば、顔を伏せた。

伏せられた顔から覗くのは悲哀と後悔が混ざったもの。その夜空色の瞳は少しだけ潤んで何時もよりキラキラとしていて、夜の湖畔に映る星空のようだった。

まるで時が止まったかのようにその瞳に、その表情に魅入る。胸の辺りが熱くなって、何の意味も意図もなく、ただ触れたくて手を伸ばした。

ー・ー 主人? ー・ー

バシンッと触れようとした手を容赦なく、全力で叩き落とされ、はたと我に変える。主人の手を叩き落とした琥太郎は罰として身体に走る痛みにフラリと身体を揺らしたが、それでも力強く足を前に踏み出し、何事もなかったかのように歩き出す。

ー・ー ねぇ?主人? ー・ー

何時もの歓喜に染まる声でなく、不安そうな声色で自身を呼ぶクエスティを無視して、熱くなった胸の辺りに触れた。

しかし、さっきとは違い、何時ものように鼓動を刻むだけで何時もと何ら変わりはない。ただ先程感じたあの熱をまた感じたくて、また性懲りも無く手を伸ばした。
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