その召喚獣、ツッパリにつき

きっせつ

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番外編 《ガウェイン》②

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ケイの約束は二百年の間続いた。

その間にもやっと一人目の《選帝の獣》が喚ばれた。その《選帝の獣》の行く末を賑やかな家の中で眺め続けた。

彼女は一人の魔族を。二人はとても仲睦まじく、彼女が選んだ彼は降り掛かる困難を乗り越えて、王の器として着実に成長していた。

だが、何時だって、ひょんな事から幸せは崩れていってしまう。《選帝の獣》の存在の一部分が知らぬ間に外部に洩れていた。それは傲慢な者たちの良いように捻じ曲げられ二百年の間に広まった。

『《選帝の獣》を手にした者がこの世界の王。』

そう歪んだ解釈を信じた魔族の国の元老院は無理矢理彼女を捕らえて、洗脳しようとした。そんな事をしても自分達が王になれる事はないというのに。


彼女が選んだ彼が助けた時にはもう手遅れだった。
せめて《選帝の獣》の役割を終えた彼女の亡骸を元の世界に戻そうと迎えに行き、贖罪も兼ねて全てを彼に話した。彼は赤い瞳で僕を睨み、かぎ針の尻尾を僕の喉元に付けた。

「何故、全てを知っているというのにこうなる前に助けなかった?…俺はッ、俺はアンタを一生赦さない。赦さ…ないッ。」

睨み付けた瞳からポロポロと流れる涙が泣く事もできなくなった彼女の頰を濡らす。その姿を見ても僕は何も感じず淡々と僕の任を果たすだけだった。

その後も度々、《選帝の獣》は喚ばれ、そして傲慢な者たちによる陰謀の前に散っていった。彼等が選んだ者たちの大概は彼等の死に心を壊したり、世界にあだなす者になったりして王が誕生する事はなかった。

王を誕生させる事が出来なくても《選帝の獣》はその死すらこの世界に変革をもたらした。いい方向にも悪い方向にも。だから、その死にすら僕等は干渉してはいけない。それが見守るという事だ。


そうこれが役目なんだ。
なのに…。

『何故、全てを知っているというのにこうなる前に助けなかった? 』

あの言葉とあの赤い目を静かになった家でふと思い出し、ズキズキと痛む胸を押さえた。

もうあの言葉を言われたあの日から数百年は経っているというのにその言葉は胸の中で遅効性の毒のように徐々に広がり続け、胸を締め付ける。

助けを求めて手を伸ばすが部屋は静かで誰もいない。
僕の名を呼んでくれたケイの子供達の声はもうなかった。

「………寂しいな。」

二百年、ケイの約束は続いた。口約束にしてはかなり保った方だと思う。

「寂しいよ。…ケイ。」

ケイは僕の為にきっと口を酸っぱくして約束を取り付けてくれたのだろう。本当に僕の事を心配してくれていたから。

「ケイ……。」

きっと君は誰よりも僕を理解していたんだろう。
当の本人よりずっと僕の性格を理解していた。二千年生きた僕よりもたった九十年の命だった君が僕の弱さを一番理解していたんだ。

ー 君の言う通り僕は阿呆だ。

二百年も経って、やっと涙が頬を濡らす。
二百年前に居なくなった筈なのに、今になって君が居ないと僕の心が泣く。

「行かないでっ…。ケイ…。ケイッ。」

君の子孫が来なくなって。
君との約束が色褪せて、無くなって。
君が僕から離れていってしまうような気がしてもう居ない君に手を伸ばす。

手を伸ばした先に触れたのは僕とともに何度も死線をくぐり、同じ罪を重ねた僕の半身。太陽のようにキラリと輝く刀身を抜き、その刃を喉元に当てた。

一人になりたくない。
また君に会いたい。
置いていかないで。

そんな思いがぐるぐると頭を巡り、刃を喉元で滑らせようとした。

『後追いなんてしてみろ。あの世でしこたま説教の上、怒りながらお前が困る程泣いてやる。』

しかし、何度も喉元に刃を当てても、その刃は僕の喉元を裂いてくれる事はなく、君のあの日の言葉が何度も頭の中で再生される。

「…嫌だな。…君に泣かれるのは。」

会いたくて会いたくてしょうがないのに。
普段泣かない君に泣かれるのはとても辛くて苦しくて。剣を抱き締めて、ただ泣き続けた。涙が枯れて新しい朝が来るまで。



「本当に貴様はしょうのない奴なのだ。」

食欲もなく、ベッドの中で蹲っていると一番今、聞きたくない声が頭上から降ってくる。

それがとても不愉快でブランケットを深く頭まで被ると無理矢理引っぺがされてムカつく程綺麗な青い瞳が見下すようにこちらを見ていた。

そのままドカッと力試しと称して魔物達から奪ったご馳走を僕のベッドの上に置く。こんがり焼かれたスペアリブも皿も無しにそのまま置くから肉汁でシーツがギトギトになっていく。

「おい…。」

「グズグス、ジメジメと何時迄も過去の事でぐだぐだと面倒だな、…全く。我輩は男を慰める趣味はないのだぞ。さっさと精をつけてその汚いシーツを洗え。」

「おい、クソ龍。誰の所為でシーツが汚れたと思っているんだい?君だね!?君の所為だね!!本当に余計な事しかしないな、君は!!」

「シーツは貴様の鼻水でギトギトに汚れたのだ。…大体。貴様が落ち込んで謎の大人の玩具なる商品の商売などに迷走している間に時はかなり進んでしまったのだ。次の《選帝の獣》が喚ばれたぞ。貴様、気付いていなかっただろう? 」

そう言われてはたと遠見の魔法を展開する。ここ三百年はただひたすら自信を誤魔化すように興味を持った事に没頭し続けていたから気付かなかった。

遠みの魔法が新たな《選帝の獣》を映し出す。
少し大魔法使いに似た容姿の青年がケイの子孫の王太子をぶん殴ってる最中だった。

「……随分と今度はアグレッシブな子が来たねぇ。」

「アグレッシブ?野蛮の間違いだろう。今度は人間ではなく本当に獣がやってきたのだよ。」

「いや、姿形は人間だよ。」

その子は喚ばれた《選帝の獣》の中でも異例中の異例で、あまりにも自由気ままに生きていて、口の悪さはケイにちょっと似ていた。

だからだろうか?
僕等の誓いルールギリギリで範囲でも君を手助けしたいと思ったのは。
後もう少し、後もう少しだけっと、二年ちょいも君に助力して、ランスロットには呆れられて。
君が少しでも運命に押し潰されないように時間稼ぎをして。

だけど、それでも結局…。
それ以上は君に何もしてあげられない。
それなのに君はあまりにも真っ直ぐに僕を信じてくれるから。頼ってくれるから。つい手を伸ばして「行ってはダメだ。」と言いそうになってしまう。

「関わり過ぎたかねぇ。」

今思えば、《選帝の獣》にきちんと関わったのはコタくんだけだった。
ズキズキと痛む胸に掴むように手を当てるとその手を剣だことペンだこだらけの手が優しく握った。

その手は何処かもう居ない親友に似ていて、居なくならないようにもう片方の手で優しく握る。

「トーリ。君は何で僕の元に来てくれたんだろうねぇ? 」

全く毒気がなく、子供のように無邪気に笑うトーリにそう問うとベッドから身を起こし、ギュッと僕に抱き付いた。

そうされるとまるで本当に帰って来てくれた気がして目頭に熱いものが滲んだのを必死に気づかれないように奥へと押し込んだ。
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