その召喚獣、ツッパリにつき

きっせつ

文字の大きさ
91 / 160

琥太郎の選択

しおりを挟む
パチクリと目を大きく広げて突然の転移に驚いていると苦虫を噛み潰したような顔でオッサンがブツブツと何かを思案していた。

「ふぅっ…、危機一髪。…でも、これから元老院の爺さん達を交えた会議なんだよね…。腹痛で欠席しようかな…。面倒臭いし。」

でもな、とこちらをチラリと覗くとベッドの上に下ろす。そのまま部屋を出て行こうとしたので慌てて「待て。」と呼び止める。会議がどうのこうの言っていた筈なのに光の速さで戻ってくる。

「何、コタちゃん?今止められるとおじさん、本当に会議をサボっちゃうよ?…あれかな?おじさんと離れるのが寂しいから呼び止めちゃった感じかな。しょうがないなぁ。おじさん、コタちゃんの為に会議サボっちゃう。」

戻ってくるなり、息継ぎなしの弾丸トーク。
しかも、ちゃっかり俺をダシに会議とやらをサボろうとしてる始末。なんてダメなオッサンなんだ…。

「別に寂しかねぇよ。寧ろ、お前がいなくなった方が会話に疲れねぇ。頼みたい事があんだよ。」

「なになに? おじさん、美人さんの頼みならなんでも聞いちゃうよ? 」

食い気味でベットに肘をつき、前のめりで聞いてくる姿に頼む相手を間違えたかもしれないと不安を抱いた。しかし、そもそもそも頼める相手がこの男しか居ないんだと瞬時に諦めた。

「モモ。…俺の舎弟のモモの様子が知りたいんだ。あの変た…いや、ガウェインにモモの様子を気に掛けて欲しいって伝えてくれ。」


狼野郎と牙から庇って噛まれたあの日から姿を眩まし、現れたと思ったら様子がおかしくなっていたモモ。俺を崖から突き落とした後、モモはどうしているのか。


アイツが理由もなく、危害を加える訳がない。俺を落としたのには何か理由がある筈だ。


「いいよー。モモが誰だかは知らないけど、ガウェイン店長に伝えとくよ。」

「すぐ帰るとも伝えておいて欲しい。」

「分かっ……え?」

笑い上戸のように陽気にヘラヘラして、「なんでもウェルカム。」と構えていたおっさんが「すぐ帰る。」という言葉に固まる。

「………え。コタちゃん、ここに永住じゃないの。だって、コタちゃんは陛下に見初められてここにいるんでしょ?」

「はぁ??」

「え?違うの!?でも、あれは事後だったよね…。好き合ってるからコタちゃんだって身を任せてるんだよね。」

「好き合ってねぇよ。…アイツはただ、俺に死んでほしくないから必死なだけだ。」

「……そう…なのかな?」

言葉を紡ぎ出したと思えば、「そっか…。」と呟くと今度は眉が八の字に下がった。

「それは悲しいね。」

「悲しい?」

「うん。コタちゃん達の事情は分からないけど。それでも好きだから触れたくて愛しているから相手の体温を感じていたい。…やっぱり、身体を重ねるなら愛が欲しいよ。ちゃんとそこには愛があるべきだよ。」

ちょっと夢見がちな意見かもしれないけどね、とその言葉にオッサンは付け加えた。だが、その夢見がちかもしれない言葉は妙に胸に刺さり、じわりと心の中で広がって行く。

「コタちゃん…。」

名前を呼ばれて顔を上げれば、唐突にオッサンが俺の頭をわしわしと両手で撫でた。

「うわっ。何すんだ。」

「そんな顔しないで。おじさんはコタちゃんの味方だから。」

わしわしと撫でる手を「やめろ。」と叩き落とすと、「そうそう。その調子。」と嬉しそうに頷く。何故、そんなに嬉しそうなのか理解出来ず、撫でられてぐしゃぐしゃになった髪を苛立ちながら整える。

「そもそも自身が惚れた相手を不安にさせないくらい愛してみせるのが男の甲斐性ってもんでしょ。…馬鹿だね、陛下も。」

そう溜息をつき、オッサンはよいしょと立ち上がり、「さて、会議に行くとしますか。」と今度こそ部屋を出た。オッサンが部屋を出た瞬間、フワッと紫の光が部屋に舞い、ガチャリッと何かが閉まる音がした。……ん?何が閉まったんだ!?

嫌な予感がして部屋の扉を片っ端から開けようとしたが、どんなに押しても引いても開かない。扉がダメなら窓だと開けようとするもやっぱり、開かない。

「閉じ…込められた?」

嘘だろ、と愕然としているとふわりと部屋に染み付いたミドリの匂いが鼻腔を通り、肺を満たす。それがこう…こそばゆくて仕方がない。今も横にいるみたいでとても落ち着かない。

優しく触れるあの手の感触が蘇る。
頬に触れ、肩に触れ、まるで砕けないように消えないように必死に掻き集めるように抱き締める。

抱き締めた瞬間、見せる心の底からほっとした表情も、その後に見せる辛そうな顔も全部ここにいると鮮明に思い出し、心を占領する。占領してそれ以外に何も考えられなくなる。

「だから、嫌なんだよ。」

蹴っても何しても開かなかった扉と窓に舌打ちして、ボフンッとベッドに寝転がり、現実から目を逸らすように手で視界を覆う。

「最初から成立しない約束でも破る気なんてねぇよ…。」

確かに何もかも手探りだった。
約束を守れる確証なんてなかった。
それでも微塵も破る気なんてなかった。お前をひとりにする気なんてなかった。

ギリッと奥歯を噛み締める音とともに広がるのは怒りに、悲哀に、悔しさに、様々な自分ですら全ては分からない感情達。

『やっぱり、身体を重ねるなら愛が欲しいよ。ちゃんとそこには愛があるべきだよ。』

オッサンが言っていたあの言葉が胸に突き刺さり、抜けない。感情達がその言葉に呼応して更に心の中で激しく暴れる。

あの言葉は夢みがちな言葉なんかじゃない。
それが当たり前の事だ。そこにきちんと愛はあるべきで、例えどんな理由があるとしても、それは愛する人とするべきだ。

失いたくないからではなく、きちんと愛したい相手と。心から幸せだと笑えるような相手と。

「お前は約束した筈だ。孤独にしないと。お前の覚悟はそんな簡単に折れるものなのか?お前のプライドはそんなに脆いものなのか?」

あの言葉は胸に刺さって痛むと同時にずっとぐるぐると悩み回るだけだった頭を思いっきりぶん殴られるような頭が冴える一発だった。

まだ心は様々な感情達でぐちゃぐちゃだが、衝撃を受けた頭は冴えていた。

「殴り合えないなら話し合えばいい。簡単な事じゃねぇか。」

パシンッと両頰を挟むように叩き、うじうじとしている自身にヤキを入れる。

あまりにも丁寧に丁寧に真綿にでも包むかのように顔色を伺うアイツに入り乱れた感情を整理しないままぶつけるのもどうかと考えていた。

だが、整理しようにも出来ないんじゃしょうがない。俺はそもそも口が上手い方でも気が遣える方でもない。当たって砕けろだ。


方針が決まると急に元気が戻ってきて、食べ忘れた朝食を寄越せと腹が鳴る。テーブルを見れば朝食が用意されていた。朝食の置いてあるテーブルの板には白い光を放つ魔法の輪が輝いていて、朝食に手を伸ばすと粉々と砕けて消えた。

白い光の代わりにふわりと朝食から湯気が立ち、今までしなかったのに香ばしいベーコンの匂いが広がり、思わずゴクリと垂れそうになった涎を飲んだ。

綺麗にカリカリに焼かれたベーコン。
それを用意されていたトーストの上に乗せ、今にも黄身が決壊しそうにふるふると震える目玉焼きをベーコンの上に乗せる。

座って手を合わせて齧り付けば、カリッとベーコンがいい音を上げ、トロトロと黄身が口の中で溢れる。上は焼かれてサクッと中はフワッと柔らかいトーストも絶妙。

全てが俺の好みで口の中がとても満足で幸せ。ありふれた朝食の定番なのに何故、技が光ってる。……あれ?アイツは料理の武者修行に出たんだったけ??


ー そもそもアイツ…。魔王って事は王だよな?

王様って言えば、城の料理人が毎食豪華絢爛な食事を作ってるんじゃと思うのだが、何故かアイツは自分で作ってる。そして食事頃になると視線を感じるのだ。

恨めしそうに妬ましそうに扉の隙間から見つめる目を…。

「アレは一体なんなんだ…。」

正直、ミドリがいない時も度々視線を感じる。
なんなら書き殴られた手紙が添えられたお菓子が扉の隙間からスッと入ってくる時がある。
手紙の内容は使われている文字が日本語じゃないから俺には分からない。ただ、筆圧から並々ならぬ意志と情熱を感じる。…なぁ、この城は爺さんも変態な上にストーカーも居んのかよ。

その辺もきちんと話し合っておこう。
そう心に決め、パクリッと最後の一口を口に収めた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

毒を喰らわば皿まで

十河
BL
竜の齎らす恩恵に満ちた国、パルセミス。 ここが前世でやり込んだゲーム、【竜と生贄の巫女】の世界だと思い出した【俺】だったが、俺は悪役令嬢の娘・ジュリエッタと共に破滅の未来が待っている宰相アンドリムに転生してしまっていた。 だけど記憶を取り戻したからには、そう簡単に破滅などしてやらないつもりだ。 前世の知識をフルに活かし、娘と共に、正義の味方面をした攻略対象達に逆転劇を披露してみせよう。 ※※※ 【第7回BL小説大賞】にエントリーさせて頂きました。 宜しくお願い致します(*´꒳`*) ※※※ 小説家になろうサイト様※ムーンライトノベル※でも公開をしております。 また、主人公相手ではないですがNLカプも登場してきます。

腐男子♥異世界転生

よしの こひな
BL
ある日、腐男子で新卒サラリーマン・伊丹トキヤの自室にトラックが突っ込む。 目覚めたトキヤがそこで目にしたのは、彼が長年追い続けていたBL小説の世界――。しかも、なんとトキヤは彼が最推しするスパダリ攻め『黒の騎士』ことアルチュール・ド・シルエットの文武のライバルであり、恋のライバルでもあるサブキャラの「当て馬」セレスタン・ギレヌ・コルベールに転生してしまっていた。 トキヤは、「すぐそばで推しの2人を愛でられる!」と思っていたのに、次々と原作とは異なる展開が……。 ※なろうさん、Caitaさん、PIXIVさんでも掲載しています。

【完結】気が付いたらマッチョなblゲーの主人公になっていた件

白井のわ
BL
雄っぱいが大好きな俺は、気が付いたら大好きなblゲーの主人公になっていた。 最初から好感度MAXのマッチョな攻略対象達に迫られて正直心臓がもちそうもない。 いつも俺を第一に考えてくれる幼なじみ、優しいイケオジの先生、憧れの先輩、皆とのイチャイチャハーレムエンドを目指す俺の学園生活が今始まる。

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

逃げる銀狐に追う白竜~いいなずけ竜のアレがあんなに大きいなんて聞いてません!~

結城星乃
BL
【執着年下攻め🐲×逃げる年上受け🦊】  愚者の森に住む銀狐の一族には、ある掟がある。 ──群れの長となる者は必ず真竜を娶って子を成し、真竜の加護を得ること──  長となる証である紋様を持って生まれてきた皓(こう)は、成竜となった番(つがい)の真竜と、婚儀の相談の為に顔合わせをすることになった。  番の真竜とは、幼竜の時に幾度か会っている。丸い目が綺羅綺羅していて、とても愛らしい白竜だった。この子が将来自分のお嫁さんになるんだと、胸が高鳴ったことを思い出す。  どんな美人になっているんだろう。  だが相談の場に現れたのは、冷たい灰銀の目した、自分よりも体格の良い雄竜で……。  ──あ、これ、俺が……抱かれる方だ。  ──あんな体格いいやつのあれ、挿入したら絶対壊れる!  ──ごめんみんな、俺逃げる!  逃げる銀狐の行く末は……。  そして逃げる銀狐に竜は……。  白竜×銀狐の和風系異世界ファンタジー。

すべてはあなたを守るため

高菜あやめ
BL
【天然超絶美形な王太子×妾のフリした護衛】 Y国の次期国王セレスタン王太子殿下の妾になるため、はるばるX国からやってきたロキ。だが妾とは表向きの姿で、その正体はY国政府の依頼で派遣された『雇われ』護衛だ。戴冠式を一か月後に控え、殿下をあらゆる刺客から守りぬかなくてはならない。しかしこの任務、殿下に素性を知られないことが条件で、そのため武器も取り上げられ、丸腰で護衛をするとか無茶な注文をされる。ロキははたして殿下を守りぬけるのか……愛情深い王太子殿下とポンコツ護衛のほのぼの切ないラブコメディです

お前らの目は節穴か?BLゲーム主人公の従者になりました!

MEIKO
BL
 本編完結しています。お直し中。第12回BL大賞奨励賞いただきました。  僕、エリオット・アノーは伯爵家嫡男の身分を隠して公爵家令息のジュリアス・エドモアの従者をしている。事の発端は十歳の時…家族から虐げられていた僕は、我慢の限界で田舎の領地から家を出て来た。もう二度と戻る事はないと己の身分を捨て、心機一転王都へやって来たものの、現実は厳しく死にかける僕。薄汚い格好でフラフラと彷徨っている所を救ってくれたのが完璧貴公子ジュリアスだ。だけど初めて会った時、不思議な感覚を覚える。えっ、このジュリアスって人…会ったことなかったっけ?その瞬間突然閃く!  「ここって…もしかして、BLゲームの世界じゃない?おまけに僕の最愛の推し〜ジュリアス様!」  知らぬ間にBLゲームの中の名も無き登場人物に転生してしまっていた僕は、命の恩人である坊ちゃまを幸せにしようと奔走する。そして大好きなゲームのイベントも近くで楽しんじゃうもんね〜ワックワク!  だけど何で…全然シナリオ通りじゃないんですけど。坊ちゃまってば、僕のこと大好き過ぎない?  ※貴族的表現を使っていますが、別の世界です。ですのでそれにのっとっていない事がありますがご了承下さい。

ギルド職員は高ランク冒険者の執愛に気づかない

Ayari(橋本彩里)
BL
王都東支部の冒険者ギルド職員として働いているノアは、本部ギルドの嫌がらせに腹を立て飲みすぎ、酔った勢いで見知らぬ男性と夜をともにしてしまう。 かなり戸惑ったが、一夜限りだし相手もそう望んでいるだろうと挨拶もせずその場を後にした。 後日、一夜の相手が有名な高ランク冒険者パーティの一人、美貌の魔剣士ブラムウェルだと知る。 群れることを嫌い他者を寄せ付けないと噂されるブラムウェルだがノアには態度が違って…… 冷淡冒険者(ノア限定で世話焼き甘えた)とマイペースギルド職員、周囲の思惑や過去が交差する。 表紙は友人絵師kouma.作です♪

処理中です...