24 / 160
ソレーユ視点②
しおりを挟む
暗闇の中で眩く光る金の髪。
鋭くこちらを見つめる翠の瞳。
糸をたどり、現れたその存在にソレーユは目を疑った。
自身と彼だけの繋がりであるこの場所に違う誰かがいる事にも確かに驚いたが、ソレーユが驚いたのは目の前に存在しない筈のものが映ったからだった。
ー 絶滅した筈だ。
目の前に現れた男は昔見た古い文献に残された女神を模したような挿絵のように美しく、その耳も古い文献通りに長く尖っていた。
それは千年も前の戦争で龍族とともに絶滅したとされる生き物。
伝説上の種族。
「耳長族。…文献もアテにならないものだね。生き残りがいるとは。」
声を掛けるがエルフが答える事はなかった。エルフはじっとソレーユの胸の辺りを見ると、その若々しい顔に深いシワを刻む程、不快を表した。
「…本当なら君をこの場で処分したいんだけどねぇ。そこまでの干渉は僕等の誓いに反する。だから僕は僕が出来る範囲の仕事をさせてもらうよ。」
腰に佩いていた剣を抜くとその鋭い刃を千切れた糸を突き刺し。
その瞬間、ずっと感じていた彼との繋がりが靄がかかったように見えなくなった。
魔力を一時的に流して繋がりをたぐり寄せようとしたが、見えない壁に阻まれて行き場のなくなった魔力がただ帰ってくるだけだった。
「……何をした。」
エルフを問い詰めようと掴もうとしたが、掴む前にゆらりとその姿は霧散した。
…………。
………………。
「……レーユ。」
「ソ……ユ。」
「ソレーユ。」
名を呼ばれ、意識を現実に戻すと目の前にひとりの男が偉そうに玉座に座していた。
その男の表情は隠せない歓喜の色に仄かに染まっており、その隣では歓喜の涙を浮かべる女がソレーユを見守っていた。
「トリスタンはこの一ヶ月間、目覚める兆しがない。よって、ソレーユ。お前を王太子に任ずる。」
男の言葉に集まっていた身なりのいい者たちが一斉に祝福の拍手を送る。
皆、一堂にその顔には笑顔の仮面を被り、その下では陰謀を渦巻かせている。
他人事のようにソレーユはどうでも良さそうにその光景を眺め、後ろに控える戦士を一瞥した。
「で、森の捜索はどうなってるの? 彼は見つかった? 」
「い、いえ。上級冒険者も雇い、しらみ潰しに探していますが、何分あの森は大きく、上位の魔物も生息しておりますので……。」
「御託はいい。こんな所で暇潰してるくらいなら君も捜索に加わりなよ。」
「で、ですが…。私は臣下として…。そ、それに今は王の御前で…。」
「俺は『行け。』と言ったんだ。」
さっきを飛ばすと、ヒュッと息を詰まらせる音とともにグレイブが『火急の用事。』で王の御前から下がる。
王はグレイブに不快感を現したが、それすらも目に入らない程、グレイブは追い詰められていた。
場の空気はグレイブの王の御前での無礼な態度にピシリと凍り付いたが、そんな空気は一切感じ取っていない女が歓喜の涙を拭い、ポンッと手を打った。
「ねぇ、あなた。ソレーユは今世の勇者として今世に現れるとされる魔王との戦い、そして王太子の政務も果たさなければならないでしょ? いっぱい、がんばるのだから、いっぱいご褒美をあげた方がいいと思うの。」
そう女、いや第二妃が天使のような笑みでさも名案を言ったかのように笑い掛けると王の表情からは不快感が消え、「名案だ。」と第二妃を褒めた。
褒められた第二妃は子供のようにはしゃぎ、隣でずっと無表情で控えていた第一妃の手を取った。
「お姉様っ。こんな晴れの日にそんな暗い顔良くないわ。きっとトリスタンも自身のお母様が暗い顔してたら悲しむわ…。」
「………。」
「ほら、笑って。私、お姉様の笑った顔大好きよ? 」
自身の幸せはみんなの幸せ。
そう疑いもしない第二妃は悪気なく、第一妃に笑顔を強要する。
その姿にソレーユは我が母親ながらある意味感心する。ここまで他人の気持ちに無知になれる人間も珍しい。
よく言えば天真爛漫。
悪く言えば無神経。
その無知を無垢と捉え、その天使のような可愛らしい容姿から蝶よ花よと愛されてきた面白みのない人間。それがソレーユの母親に対する評価。
そしてその第二妃を盲目的に愛す父も総じて面白みがない。
多くの人間の幸せをまるで踊りでも踊っているかのような軽い足取りで踏みにじり、二人だけの幸せを甘受している姿は滑稽ではあるが。
「ならば、父上。母上。褒美としてお願いがございます。」
そういい息子を演じ、第二妃のような笑みを溢せば、この王は二つ返事でソレーユの全てを肯定する。
例え、愛する妻との間の愛すべき息子の心の中に宿すものが狂気だとしてもこの王は肯定する。もう一人の息子が目覚めない理由がソレーユが原因だとしても。
「お前が思うようにやりなさい。」
肯定こそが最大の愛。
そう信じてやまないこの男はソレーユを一度だって否定した事はない。
◇
王の御前からやっと解放されると、ソレーユはまた魔力を流し、彼の居場所を探ろうとしたが、やはり魔力は途中で帰ってきてしまう。
その度に自身から彼を隠した忌々しいエルフの男の顔が鮮明に蘇り、ゆらりと殺意がソレーユから滲み出る。
侍女の一人が殺気に当てられて倒れたがソレーユの知った所ではない。
謁見用に新しく仕立てたマントを脱ぎ捨て、侍従に寄越せと言わんばかりに手を差し出す。隣にいた侍従は慌てて、ソレーユの剣を渡し、落ちたマントを拾った。
「俺も森に出る。」
それだけ告げると宝飾品も千切り、投げ捨て、歩き去っていった。
鋭くこちらを見つめる翠の瞳。
糸をたどり、現れたその存在にソレーユは目を疑った。
自身と彼だけの繋がりであるこの場所に違う誰かがいる事にも確かに驚いたが、ソレーユが驚いたのは目の前に存在しない筈のものが映ったからだった。
ー 絶滅した筈だ。
目の前に現れた男は昔見た古い文献に残された女神を模したような挿絵のように美しく、その耳も古い文献通りに長く尖っていた。
それは千年も前の戦争で龍族とともに絶滅したとされる生き物。
伝説上の種族。
「耳長族。…文献もアテにならないものだね。生き残りがいるとは。」
声を掛けるがエルフが答える事はなかった。エルフはじっとソレーユの胸の辺りを見ると、その若々しい顔に深いシワを刻む程、不快を表した。
「…本当なら君をこの場で処分したいんだけどねぇ。そこまでの干渉は僕等の誓いに反する。だから僕は僕が出来る範囲の仕事をさせてもらうよ。」
腰に佩いていた剣を抜くとその鋭い刃を千切れた糸を突き刺し。
その瞬間、ずっと感じていた彼との繋がりが靄がかかったように見えなくなった。
魔力を一時的に流して繋がりをたぐり寄せようとしたが、見えない壁に阻まれて行き場のなくなった魔力がただ帰ってくるだけだった。
「……何をした。」
エルフを問い詰めようと掴もうとしたが、掴む前にゆらりとその姿は霧散した。
…………。
………………。
「……レーユ。」
「ソ……ユ。」
「ソレーユ。」
名を呼ばれ、意識を現実に戻すと目の前にひとりの男が偉そうに玉座に座していた。
その男の表情は隠せない歓喜の色に仄かに染まっており、その隣では歓喜の涙を浮かべる女がソレーユを見守っていた。
「トリスタンはこの一ヶ月間、目覚める兆しがない。よって、ソレーユ。お前を王太子に任ずる。」
男の言葉に集まっていた身なりのいい者たちが一斉に祝福の拍手を送る。
皆、一堂にその顔には笑顔の仮面を被り、その下では陰謀を渦巻かせている。
他人事のようにソレーユはどうでも良さそうにその光景を眺め、後ろに控える戦士を一瞥した。
「で、森の捜索はどうなってるの? 彼は見つかった? 」
「い、いえ。上級冒険者も雇い、しらみ潰しに探していますが、何分あの森は大きく、上位の魔物も生息しておりますので……。」
「御託はいい。こんな所で暇潰してるくらいなら君も捜索に加わりなよ。」
「で、ですが…。私は臣下として…。そ、それに今は王の御前で…。」
「俺は『行け。』と言ったんだ。」
さっきを飛ばすと、ヒュッと息を詰まらせる音とともにグレイブが『火急の用事。』で王の御前から下がる。
王はグレイブに不快感を現したが、それすらも目に入らない程、グレイブは追い詰められていた。
場の空気はグレイブの王の御前での無礼な態度にピシリと凍り付いたが、そんな空気は一切感じ取っていない女が歓喜の涙を拭い、ポンッと手を打った。
「ねぇ、あなた。ソレーユは今世の勇者として今世に現れるとされる魔王との戦い、そして王太子の政務も果たさなければならないでしょ? いっぱい、がんばるのだから、いっぱいご褒美をあげた方がいいと思うの。」
そう女、いや第二妃が天使のような笑みでさも名案を言ったかのように笑い掛けると王の表情からは不快感が消え、「名案だ。」と第二妃を褒めた。
褒められた第二妃は子供のようにはしゃぎ、隣でずっと無表情で控えていた第一妃の手を取った。
「お姉様っ。こんな晴れの日にそんな暗い顔良くないわ。きっとトリスタンも自身のお母様が暗い顔してたら悲しむわ…。」
「………。」
「ほら、笑って。私、お姉様の笑った顔大好きよ? 」
自身の幸せはみんなの幸せ。
そう疑いもしない第二妃は悪気なく、第一妃に笑顔を強要する。
その姿にソレーユは我が母親ながらある意味感心する。ここまで他人の気持ちに無知になれる人間も珍しい。
よく言えば天真爛漫。
悪く言えば無神経。
その無知を無垢と捉え、その天使のような可愛らしい容姿から蝶よ花よと愛されてきた面白みのない人間。それがソレーユの母親に対する評価。
そしてその第二妃を盲目的に愛す父も総じて面白みがない。
多くの人間の幸せをまるで踊りでも踊っているかのような軽い足取りで踏みにじり、二人だけの幸せを甘受している姿は滑稽ではあるが。
「ならば、父上。母上。褒美としてお願いがございます。」
そういい息子を演じ、第二妃のような笑みを溢せば、この王は二つ返事でソレーユの全てを肯定する。
例え、愛する妻との間の愛すべき息子の心の中に宿すものが狂気だとしてもこの王は肯定する。もう一人の息子が目覚めない理由がソレーユが原因だとしても。
「お前が思うようにやりなさい。」
肯定こそが最大の愛。
そう信じてやまないこの男はソレーユを一度だって否定した事はない。
◇
王の御前からやっと解放されると、ソレーユはまた魔力を流し、彼の居場所を探ろうとしたが、やはり魔力は途中で帰ってきてしまう。
その度に自身から彼を隠した忌々しいエルフの男の顔が鮮明に蘇り、ゆらりと殺意がソレーユから滲み出る。
侍女の一人が殺気に当てられて倒れたがソレーユの知った所ではない。
謁見用に新しく仕立てたマントを脱ぎ捨て、侍従に寄越せと言わんばかりに手を差し出す。隣にいた侍従は慌てて、ソレーユの剣を渡し、落ちたマントを拾った。
「俺も森に出る。」
それだけ告げると宝飾品も千切り、投げ捨て、歩き去っていった。
3
お気に入りに追加
74
あなたにおすすめの小説
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
エロゲ世界のモブに転生したオレの一生のお願い!
たまむし
BL
大学受験に失敗して引きこもりニートになっていた湯島秋央は、二階の自室から転落して死んだ……はずが、直前までプレイしていたR18ゲームの世界に転移してしまった!
せっかくの異世界なのに、アキオは主人公のイケメン騎士でもヒロインでもなく、ゲーム序盤で退場するモブになっていて、いきなり投獄されてしまう。
失意の中、アキオは自分の身体から大事なもの(ち●ちん)がなくなっていることに気付く。
「オレは大事なものを取り戻して、エロゲの世界で女の子とエッチなことをする!」
アキオは固い決意を胸に、獄中で知り合った男と協力して牢を抜け出し、冒険の旅に出る。
でも、なぜかお色気イベントは全部男相手に発生するし、モブのはずが世界の命運を変えるアイテムを手にしてしまう。
ちん●んと世界、男と女、どっちを選ぶ? どうする、アキオ!?
完結済み番外編、連載中続編があります。「ファタリタ物語」でタグ検索していただければ出てきますので、そちらもどうぞ!
※同一内容をムーンライトノベルズにも投稿しています※
pixivリクエストボックスでイメージイラストを依頼して描いていただきました。
https://www.pixiv.net/artworks/105819552
ちっちゃくなった俺の異世界攻略
鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた!
精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!
生贄として捧げられたら人外にぐちゃぐちゃにされた
キルキ
BL
生贄になった主人公が、正体不明の何かにめちゃくちゃにされ挙げ句、いっぱい愛してもらう話。こんなタイトルですがハピエンです。
人外✕人間
♡喘ぎな分、いつもより過激です。
以下注意
♡喘ぎ/淫語/直腸責め/快楽墜ち/輪姦/異種姦/複数プレイ/フェラ/二輪挿し/無理矢理要素あり
2024/01/31追記
本作品はキルキのオリジナル小説です。
ある宅配便のお兄さんの話
てんつぶ
BL
宅配便のお兄さん(モブ)×淫乱平凡DKのNTR。
ひたすらえっちなことだけしているお話です。
諸々タグ御確認の上、お好きな方どうぞ~。
※こちらを原作としたシチュエーション&BLドラマボイスを公開しています。
【完結】悪役令息の従者に転職しました
*
BL
暗殺者なのに無様な失敗で死にそうになった俺をたすけてくれたのは、BLゲームで、どのルートでも殺されて悲惨な最期を迎える悪役令息でした。
依頼人には死んだことにして、悪役令息の従者に転職しました。
皆でしあわせになるために、あるじと一緒にがんばるよ!
本編完結しました。
おまけのお話を更新したりします。
異世界二度目のおっさん、どう考えても高校生勇者より強い
八神 凪
ファンタジー
旧題:久しぶりに異世界召喚に巻き込まれたおっさんの俺は、どう考えても一緒に召喚された勇者候補よりも強い
【第二回ファンタジーカップ大賞 編集部賞受賞! 書籍化します!】
高柳 陸はどこにでもいるサラリーマン。
満員電車に揺られて上司にどやされ、取引先には愛想笑い。
彼女も居ないごく普通の男である。
そんな彼が定時で帰宅しているある日、どこかの飲み屋で一杯飲むかと考えていた。
繁華街へ繰り出す陸。
まだ時間が早いので学生が賑わっているなと懐かしさに目を細めている時、それは起きた。
陸の前を歩いていた男女の高校生の足元に紫色の魔法陣が出現した。
まずい、と思ったが少し足が入っていた陸は魔法陣に吸い込まれるように引きずられていく。
魔法陣の中心で困惑する男女の高校生と陸。そして眼鏡をかけた女子高生が中心へ近づいた瞬間、目の前が真っ白に包まれる。
次に目が覚めた時、男女の高校生と眼鏡の女子高生、そして陸の目の前には中世のお姫様のような恰好をした女性が両手を組んで声を上げる。
「異世界の勇者様、どうかこの国を助けてください」と。
困惑する高校生に自分はこの国の姫でここが剣と魔法の世界であること、魔王と呼ばれる存在が世界を闇に包もうとしていて隣国がそれに乗じて我が国に攻めてこようとしていると説明をする。
元の世界に戻る方法は魔王を倒すしかないといい、高校生二人は渋々了承。
なにがなんだか分からない眼鏡の女子高生と陸を見た姫はにこやかに口を開く。
『あなた達はなんですか? 自分が召喚したのは二人だけなのに』
そう言い放つと城から追い出そうとする姫。
そこで男女の高校生は残った女生徒は幼馴染だと言い、自分と一緒に行こうと提案。
残された陸は慣れた感じで城を出て行くことに決めた。
「さて、久しぶりの異世界だが……前と違う世界みたいだな」
陸はしがないただのサラリーマン。
しかしその実態は過去に異世界へ旅立ったことのある経歴を持つ男だった。
今度も魔王がいるのかとため息を吐きながら、陸は以前手に入れた力を駆使し異世界へと足を踏み出す――
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる