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あなたは運命の人④
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あの後何度も腰を打ちつけられたジジは自ら立ち上がれなくなり、ラファエルにベッドまで運ばれていた。
がっちりとした肉体の中に収められ、ジジはまるで自分が仔猫にでもなったかのようだった。
ジジ一人だけが眠る為の小さなベッドからは、聖騎士の鍛え抜かれた巨体がはみ出している。
「すまない、抑えが利かなくなってしまった」
「いいよ、こういうの慣れてるし。ラファエルだって色々あるんだろ?」
ジジは甘えるようにすんすんとラファエルの胸元に鼻を押し付ける。
ここへ来る前にシャワーでも浴びてきたのだろう。
ほのかに優しい石鹸の匂いがした。
「何も…においしないよ。辛かったらさ、また俺を使いなよ」
その言葉にラファエルは顔を歪めた。
「私がどれだけ君を…」
ジジの肩を抱く指は強く、ヒリヒリする。
だけどその力強ささえ心地よく感じた。
「君はあの時のウェイターだろう?」
ラファエルは水晶玉に写ったジジを見た時、一目で自分が恋をしたあの人だと気付いたそうだ。
ジジは占いを始める直前、ウェイターとして働きながらその店に来た男をひっかけていた時期がある。
「アンタみたいに目立つ奴、覚えてないぞ」
「変装して行ったからな」
美しいプラチナブロンドの髪がみるみるうちに一般的なこげ茶に代わった。
しかしこんなに標準的な見た目なんてたくさん居るから覚えていない。
「まさかソッチの客だったのか?」
ラファエルは自虐的に笑いながら首を振った。
「そんな勇気、私には無かったよ。ただ一度だけ会話して、ずっと遠くから見ていたんだ」
こんな色男を惚れさせる様な事…
「俺は何て言ったんだ?」
「前にも話しただろう?私が戦いで人を殺めなければならなかったと。私は誰でもいいから話を聞いて欲しかった。神ではなく誰でもない誰かに懺悔したかった」
そうすると、女のフリして働いていたジジはこう言ったと言う。
「貴方が殺めた人はもしかしたら私が殺していたかもしれない。貴方だけではない、この国に住む全員で殺したのだ。戦争とはそういうものだ。と」
「そんなの、当然だろう?俺だってもしスラムで襲われたらやり返すし、危険だと感じたら迷わず命を奪う。そんな綺麗事じゃ生きていけないから」
力では敵わないジジは、使えるものは全て使い強かに生きる。
それがスラムで生き抜く知恵だ。
例えそれが戦場だろうが占いの館だろうが変わらない。
「それでも人の命を奪った事には変わらないから。私はそんな綺麗事に今まで苦しめられてきた。だから、ジジ。神でも国でもない、私を救ってくれたのは君なんだ」
手の甲にラファエルが口づけをした。
「ジジ、愛してくれとは言わない。私と共に生きてくれないだろうか。ジジがいれば私は私で居られる。やっと、やっと君を見つけたんだ」
ジジだって、ずっと一人だった。
身体を売っても心までは、そう思って口と口でキスだけはしなかった。
占いに来る客の顔を見ると心のどこかで羨ましいと思っていた。
いつか自分にも大切なたった一人の誰かに出会えたならば、こんなに満たされる事はないだろう。
だけど諦めていた。
だって自分は彼らとは違うから。
占い師として見出されて、喋る骨と皮に名前がついてようやく人間になれただけ。
醜い男達に抱かれていた自分と、この美しい無垢な男の間には大きな隔たりがあると思っていた。
あの時よりマシになった生活に満足しきっていた。
そのせいでスラムで培った貪欲な強かさを忘れていたのだ。
そうさ、生活が良くなったってもっと上を目指したっていいはずだ。
ジジは返事の代わりにラファエルの唇を塞ぐとラファエルは嬉しそうに返してくれる。
「ラファエル…俺、客とは口でキスした事ないんだ。今日が初めてだったんだよ」
ラファエルはピタリと動きを止めた。
「これでも操守ってたんだぜ、可愛いだろ?」
咥えた事はあるけど。なんて水を差す事は言わない。
「なあ、俺の初めて無くなっちゃった。お前のせいだからな…」
ジジはいつの間にか占いの館を辞め、その後の彼を知る人は居ない。
それと同時に消えた聖騎士様の行方を探しても誰も見つける事は出来なかった。
守護者不在の国のその後がどうなったかは想像に容易いだろう。
ただ一つだけ確かな事は、聖騎士様の運命の人への溺愛っぷりの噂は他国まで広がったという。
fin
最後まで読んでいただきありがとうございます!
がっちりとした肉体の中に収められ、ジジはまるで自分が仔猫にでもなったかのようだった。
ジジ一人だけが眠る為の小さなベッドからは、聖騎士の鍛え抜かれた巨体がはみ出している。
「すまない、抑えが利かなくなってしまった」
「いいよ、こういうの慣れてるし。ラファエルだって色々あるんだろ?」
ジジは甘えるようにすんすんとラファエルの胸元に鼻を押し付ける。
ここへ来る前にシャワーでも浴びてきたのだろう。
ほのかに優しい石鹸の匂いがした。
「何も…においしないよ。辛かったらさ、また俺を使いなよ」
その言葉にラファエルは顔を歪めた。
「私がどれだけ君を…」
ジジの肩を抱く指は強く、ヒリヒリする。
だけどその力強ささえ心地よく感じた。
「君はあの時のウェイターだろう?」
ラファエルは水晶玉に写ったジジを見た時、一目で自分が恋をしたあの人だと気付いたそうだ。
ジジは占いを始める直前、ウェイターとして働きながらその店に来た男をひっかけていた時期がある。
「アンタみたいに目立つ奴、覚えてないぞ」
「変装して行ったからな」
美しいプラチナブロンドの髪がみるみるうちに一般的なこげ茶に代わった。
しかしこんなに標準的な見た目なんてたくさん居るから覚えていない。
「まさかソッチの客だったのか?」
ラファエルは自虐的に笑いながら首を振った。
「そんな勇気、私には無かったよ。ただ一度だけ会話して、ずっと遠くから見ていたんだ」
こんな色男を惚れさせる様な事…
「俺は何て言ったんだ?」
「前にも話しただろう?私が戦いで人を殺めなければならなかったと。私は誰でもいいから話を聞いて欲しかった。神ではなく誰でもない誰かに懺悔したかった」
そうすると、女のフリして働いていたジジはこう言ったと言う。
「貴方が殺めた人はもしかしたら私が殺していたかもしれない。貴方だけではない、この国に住む全員で殺したのだ。戦争とはそういうものだ。と」
「そんなの、当然だろう?俺だってもしスラムで襲われたらやり返すし、危険だと感じたら迷わず命を奪う。そんな綺麗事じゃ生きていけないから」
力では敵わないジジは、使えるものは全て使い強かに生きる。
それがスラムで生き抜く知恵だ。
例えそれが戦場だろうが占いの館だろうが変わらない。
「それでも人の命を奪った事には変わらないから。私はそんな綺麗事に今まで苦しめられてきた。だから、ジジ。神でも国でもない、私を救ってくれたのは君なんだ」
手の甲にラファエルが口づけをした。
「ジジ、愛してくれとは言わない。私と共に生きてくれないだろうか。ジジがいれば私は私で居られる。やっと、やっと君を見つけたんだ」
ジジだって、ずっと一人だった。
身体を売っても心までは、そう思って口と口でキスだけはしなかった。
占いに来る客の顔を見ると心のどこかで羨ましいと思っていた。
いつか自分にも大切なたった一人の誰かに出会えたならば、こんなに満たされる事はないだろう。
だけど諦めていた。
だって自分は彼らとは違うから。
占い師として見出されて、喋る骨と皮に名前がついてようやく人間になれただけ。
醜い男達に抱かれていた自分と、この美しい無垢な男の間には大きな隔たりがあると思っていた。
あの時よりマシになった生活に満足しきっていた。
そのせいでスラムで培った貪欲な強かさを忘れていたのだ。
そうさ、生活が良くなったってもっと上を目指したっていいはずだ。
ジジは返事の代わりにラファエルの唇を塞ぐとラファエルは嬉しそうに返してくれる。
「ラファエル…俺、客とは口でキスした事ないんだ。今日が初めてだったんだよ」
ラファエルはピタリと動きを止めた。
「これでも操守ってたんだぜ、可愛いだろ?」
咥えた事はあるけど。なんて水を差す事は言わない。
「なあ、俺の初めて無くなっちゃった。お前のせいだからな…」
ジジはいつの間にか占いの館を辞め、その後の彼を知る人は居ない。
それと同時に消えた聖騎士様の行方を探しても誰も見つける事は出来なかった。
守護者不在の国のその後がどうなったかは想像に容易いだろう。
ただ一つだけ確かな事は、聖騎士様の運命の人への溺愛っぷりの噂は他国まで広がったという。
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