あなたは運命の人

メカラウロ子

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あなたは運命の人②

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「俺…とはどういう意味だ?どうかしたのか?」

「い、いえ。アレ?と言いました」

我ながら下手な誤魔化し方だが焦っていたのだし仕方がない。

ラファエルはそれ以上詮索はしなかった。

本来ならば何処々に住んでいる何々さん。という情報も占えば一緒に出てくるのだが、今回はその必要はない。

だってこれ、俺だもん。

「実は、この方の名前や住所が分からないのです…」

嘘だ。ちゃんとわかる。

名前はジジ、年齢は推定20歳前後、住所はこの占いの館から数軒離れた平屋建て…俺だ。

逃れようもないほど自分の事でこっそりと絶望した。

「そんな事があるのか?」

「以前、貧民街の方が運命の人と出た事があります。そういった方々は住所不定で名前がない場合も少なくはありません」

嘘だ。名前がなくても行動範囲くらいは分かる。


適当な事を言うと嘘は簡単にバレるから、事実の中に嘘を混ぜるとやり過ごせる。

実際に似たような事が過去にあった。

侯爵の跡取り息子が占いに出た貧民街の花屋に一目惚れしたが、親が結婚を許さず一回の拒否の権利を使用した。

そもそもラファエルは片想いしていて占いによる結婚に否定的だった。

こいつもそうなるように裏で手回しをすれば良い。

しかしラファエルは先ほどとは打って変わって意欲的である。

「ぜひこの方に直接会って話がしたい」

「えぇ!?わざわざ会って話さなくても、拒否権は使えますよ?」

こんな占い結果なんて、相手には何も分からないんだから律儀に会わずに断ったっていいのだ。

「しかし、仮にも私の運命の人として出てきた方なのだから一目でも会いたい」

人探しの魔法は出来る。

出来るのだがこれがジジだとバレるので無能なフリをする。

「地道に…探すしかないですね」

というかこいつ…わざわざ会って断るつもりなのか?

ジジはこの顔のいい聖騎士様の横っ面を引っぱたいてやりたい衝動に駆られた。

はじめまして。君とは運命の人だったんだけど、自分には好きな人が居るから断る事にしたんだ…なんてそんな事突然言われて不快にならない人がいるだろうか。

出会う前から振られるという意味のわからない状況をわざわざ作る必要はないだろ。

これだから世間知らずのお貴族様は嫌なんだ。


何より自分は男だ。

もちろん、運命の人に同性が現れる事もあるが元々そういう嗜好の方なので、ラファエルは女性に恋しているみたいだし当てはまらないではないか。

あれ?もしかして失敗した?

どうしよう、魔女廃業の危機まで出てきたぞ。

あ、しまった!この人男ですよって言っておけばややこしくならずに済んだのに。

いや、失敗ならば言わないで正解か?

ジジが悶々としていると、ラファエルがそわそわしながら口を開いた。

「魔女殿に…頼みがある。賃金は払うし危険があればお守りする。だからこの女性を一緒に探してはくれないだろうか」

何だか面倒な事になってきたぞ。

さっさと男だって言えば良かったかなあ。

だが賃金を払ってくれるのは美味しい。

茶番に付き合い、適度に稼がせていただこう。

だから後でいくらでも振られてやるさ。

「分かりました。では、次回から私の家にいらしてください」

魔女のローブの下で百面相をした後、一言そう言って占いの館の扉を開けた。

「あの数軒先の青い屋根の…うわっ」

部屋との気温差で強い風が吹き込んだ。

「君は…」

「えっ…」

「男に家を教えてしまって大丈夫なのか?」

「は…いえ、まさか聖騎士様相手にそんな心配していませんよ」

聖騎士は納得したのか、君が気にしなければ。と一言添えた。

一瞬顔のベールがめくれてしまった気がしたが、どうやらバレていないようだ。



***



「さあ、お手を」

段差でラファエルが手を差し伸べてきた。

「ありがとうございます」

ラファエルの見事なエスコートに男のジジも腰が砕けそうだ。

周りからは羨望の眼差しを感じる。

街に出てからものの十分でラファエルはスリを捕まえ、迷子の子供を見つけ出し、酒樽を軽々と持ち上げ移動させる様を見せつけられ、さすがのジジもこの男を認めざるを得なかった。

そしてこの見事なエスコート。

あれから週末になると、ラファエルと共にすぐ真横にいる『運命の人』を探している。

ジジはラファエルを知れば知るほどなぜ自分がラファエルの運命の人であるかがいまだに理解できなかった。

本来ならば似たもの同士がくっつくようにできている。

ラファエルはあまりにも爽やかで清廉潔白で実力もあるからスラム出身のジジとはつり合うと思えない。

こんな茶番を早く終わらせるべきなのだが、いつしかラファエルと出かける事が楽しみになっていたジジはなかなか言い出せなかった。

「占い師殿、少し休憩しましょうか」

分厚く重いローブを着るわけにはいかないので簡易的な服装ではあるが、顔を覆っているせいで非常に暑い。

ラファエルはジジがそろそろ休憩したいなぁと思う二歩手前くらいでいつも声をかけてくれる。

鍛えた騎士が休憩なんて必要ないだろうに、その気遣いが嬉しかった。


「懐かしいな。この辺りに昔住んでいたんだ。私は捨て子でね」

意外だ。

こんなに見目麗しい王子様のような男は祝福されて生まれてきたと思っていたのに。

「きっと、私の力を持て余したか、不貞の子かのどちらかだろうと言われたよ」

ラファエルは気にしないといったそぶりで笑う。

「10歳くらいの時に能力を買われ聖騎士になったんだ」

「それから王都に住んでいらっしゃるんですか?」

「ああ、毎日同じように勉強、訓練の繰り返しでそれだけなら耐えられた。だけどついに戦で初めて人を殺めたんだ。毎日夢に見て、あの感触が忘れられなくて、血のにおいが消えない気がして、何の為に自分がここに居るのか分からなくなった。その時出会ったのが"彼女"だ」

厳しい練習や先輩からの嫌がらせ、何より戦とは言え人を殺めた事実に耐えきれず、王都から逃げ出してきたラファエルは安酒をあおりに町の飲み屋に入った。

そこで出会ったウェイターに恋をしたらしい。

しかしある時から彼女は居なくなってしまったのだという。

幸せそうに話すラファエルを見てジジはチクリと胸が痛んだ。



「流石は運命の人だ…」

ジジの占いは正しかった。

ラファエルはジジにとって非常に魅力的だったのだ。

例え運命の相手でなくても好きになる要素しかなかった。

聖騎士という称号や見た目は勿論の事、優しく響くような低い声、ちょっとした仕草から感じる誠実な振る舞い。

時折見せる過去を憂うような暗く孤独な瞳。

そして何より幼少期の経験もあるせいか、弱者に寄り添い街中を歩けば老若男女に慕われている。

ぴったりはまるパズルの様に、隣にいる事が当たり前に感じた。

だから一緒に居れば居るほど辛くなる。

きっと運命の人を探すのはついでで本当は彼女に会いたいんだ。

今ならまだ、軽い火傷程度で済む。

ジジはラファエルを家に呼ぶ事にした。
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