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第五章 合従連衡
腹黒い雪風
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雪風はこういう時の遠慮というものがないらしく、しばらく使っていなそうなベッドに腰掛けた。涼月は椅子を持ってきて雪風の斜め前に腰掛ける。
「さて、雪風を密室に連れ込んで、何をするつもりですか?」
「……ただ、聞きたいことがあるだけ、です」
涼月は自分の知りたい情報を雪風が、少なくとも一部分は持っていると確信していた。
「私達の敵とは、何ですか……?」
「随分と哲学的な質問ですね」
「そういうのじゃ、ないです。私達がアイギスと思っているものは、実際はそうではない、ですよね?」
「何を言っているか分かりませんね」
「……しらばっくれるのは、止めてください」
涼月は怒りを込めて言った。そうは言ってもあまり迫力はなかったが。
「何をしらばっくれていると? 何の話か雪風には分かりません」
「私は……知っています。先日戦った敵は、本当は、高雄と妙高だということを」
雪風はそれを聞くと、ようやく真面目に涼月に向き合った。
「なるほど。そこまで仰るなら、雪風も少しは手の内を出しますよ。雪風は確かに、あなたの疑問の大半に答えることができます。ですが、タダで教える訳にはいきません」
「情報の対価……ですか?」
「もちろんです。雪風とあなたの間には今のところ、取引相手以外の関係性がありません」
「うぅ……」
雪風に払えそうな対価など涼月は持っていなかった。第一艦隊所属の雪風の方が涼月より給与がいい。物質的なものでは対価にはならないだろう。涼月はすっかり黙り込んでしまった。
「特に払える対価はないようですね」
「で、です、けど……」
「では……あなたの体を売ってもらえますか?」
「……え?」
涼月は雪風の言葉を理解するのに暫しの時間を要した。
「所謂、一夜の関係というものですよ。いつも峯風とお楽しみですよね? なら、大したことではないと思いますが」
「そ、それは、その……」
峯風以外の人間に体を許すなど全く考えられない。だがそうしなければ、峯風が必要としている情報を得ることは、峯風を助けることはできない。
「もちろん、これは対等な取引です。嫌なら帰ってもらって構いませんよ。口止め料は請求しないであげます」
「…………そ、その、私は、情報が欲しい、です」
「その気になりましたか。ではまず服を脱いで……自分でするところを見せてもらいましょうか」
涼月は雪風が満足するまで弄ばれたのだった。
○
さて翌朝、起床時間前に涼月は起こされた。雪風はようやく話してくれる気になったらしい。
「あんなことやこんなことをした後ではなんですが、どうぞ何でも質問してください。雪風はきちんと答えますよ」
「で、では……アイギスの正体を、教えてください。人類の敵なんかではない、ですよね?」
「はい、その通りです。雪風達が、まあ雪風自身は一時的にですが、戦っている相手はアメリカ軍です。アメリカ軍の船魄搭載艦が、アイギスと呼ばれているものですよ」
「じゃ、じゃあ、この前の戦いの時は……?」
「それは例外ですね。我が軍から脱走した船魄達が海賊のようなことをやっていまして、それに妙高と高雄は拉致されたんです」
「拉致されたなら、私達と戦うのはおかしい、です」
「まあ言い方の問題というか、拉致されたことは間違いないのですが、今の彼女達は自らの意思で戦っていると思われます。目的は知りませんが、恐らくは自由を手にする為に」
「そういう人達も、アイギスだと認識させるとができる、のですか?」
「はい。帝国海軍の開発している敵味方識別装置は優秀です。既知の相手なら自由自在に、認識を阻害できます」
帝国海軍は敵となりうるものを全て人類の敵アイギスと認識させ、船魄達を戦わせているのである。逆に言うと未知の存在は正しく認識されるということでもあるが。かくして、涼月は近頃起こった出来事の全容を概ね把握した。
「最後に、もう一つ質問しても、いいですか?」
「他に言うべきことはないと思いますが、どうぞ」
「雪風さんはどうして、識別装置のことを知っているのですか……?」
「船魄の中には敵味方識別装置が機能しない個体が存在するんですよ。雪風も最初はその一人でした。そのことを隠している者も、恐らく多く存在するでしょう。ですが雪風の場合は、そのことを人間側も知っています。その上で船魄の監視役のようなことをしているんです」
「監視役……? そんな人が、こんな情報を教えてしまって、いいんですか……?」
「本当はダメですが、大したことではありません。雪風の監視対象はもっと他にあるので。それについては、話すことはできませんが」
「わ、分かりました……」
それを聞いたら本当に殺される気がした。
「他に、識別装置のことを知っている船魄は、いるんですか……?」
「長門は知っているでしょう。艦隊旗艦は基本的に、それを知った上で動いていますから。他は知りません。先程も言ったように、それは雪風の本分ではありませんから」
「そう、ですか……。聞きたいことは、これだけです」
「ふふ、いい取引でした。あなたがこの情報をどう使うのか、観察させてもらいますよ」
「は、はい……」
涼月は部屋に戻り、布団に入って峯風に抱きついた。
「さて、雪風を密室に連れ込んで、何をするつもりですか?」
「……ただ、聞きたいことがあるだけ、です」
涼月は自分の知りたい情報を雪風が、少なくとも一部分は持っていると確信していた。
「私達の敵とは、何ですか……?」
「随分と哲学的な質問ですね」
「そういうのじゃ、ないです。私達がアイギスと思っているものは、実際はそうではない、ですよね?」
「何を言っているか分かりませんね」
「……しらばっくれるのは、止めてください」
涼月は怒りを込めて言った。そうは言ってもあまり迫力はなかったが。
「何をしらばっくれていると? 何の話か雪風には分かりません」
「私は……知っています。先日戦った敵は、本当は、高雄と妙高だということを」
雪風はそれを聞くと、ようやく真面目に涼月に向き合った。
「なるほど。そこまで仰るなら、雪風も少しは手の内を出しますよ。雪風は確かに、あなたの疑問の大半に答えることができます。ですが、タダで教える訳にはいきません」
「情報の対価……ですか?」
「もちろんです。雪風とあなたの間には今のところ、取引相手以外の関係性がありません」
「うぅ……」
雪風に払えそうな対価など涼月は持っていなかった。第一艦隊所属の雪風の方が涼月より給与がいい。物質的なものでは対価にはならないだろう。涼月はすっかり黙り込んでしまった。
「特に払える対価はないようですね」
「で、です、けど……」
「では……あなたの体を売ってもらえますか?」
「……え?」
涼月は雪風の言葉を理解するのに暫しの時間を要した。
「所謂、一夜の関係というものですよ。いつも峯風とお楽しみですよね? なら、大したことではないと思いますが」
「そ、それは、その……」
峯風以外の人間に体を許すなど全く考えられない。だがそうしなければ、峯風が必要としている情報を得ることは、峯風を助けることはできない。
「もちろん、これは対等な取引です。嫌なら帰ってもらって構いませんよ。口止め料は請求しないであげます」
「…………そ、その、私は、情報が欲しい、です」
「その気になりましたか。ではまず服を脱いで……自分でするところを見せてもらいましょうか」
涼月は雪風が満足するまで弄ばれたのだった。
○
さて翌朝、起床時間前に涼月は起こされた。雪風はようやく話してくれる気になったらしい。
「あんなことやこんなことをした後ではなんですが、どうぞ何でも質問してください。雪風はきちんと答えますよ」
「で、では……アイギスの正体を、教えてください。人類の敵なんかではない、ですよね?」
「はい、その通りです。雪風達が、まあ雪風自身は一時的にですが、戦っている相手はアメリカ軍です。アメリカ軍の船魄搭載艦が、アイギスと呼ばれているものですよ」
「じゃ、じゃあ、この前の戦いの時は……?」
「それは例外ですね。我が軍から脱走した船魄達が海賊のようなことをやっていまして、それに妙高と高雄は拉致されたんです」
「拉致されたなら、私達と戦うのはおかしい、です」
「まあ言い方の問題というか、拉致されたことは間違いないのですが、今の彼女達は自らの意思で戦っていると思われます。目的は知りませんが、恐らくは自由を手にする為に」
「そういう人達も、アイギスだと認識させるとができる、のですか?」
「はい。帝国海軍の開発している敵味方識別装置は優秀です。既知の相手なら自由自在に、認識を阻害できます」
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「最後に、もう一つ質問しても、いいですか?」
「他に言うべきことはないと思いますが、どうぞ」
「雪風さんはどうして、識別装置のことを知っているのですか……?」
「船魄の中には敵味方識別装置が機能しない個体が存在するんですよ。雪風も最初はその一人でした。そのことを隠している者も、恐らく多く存在するでしょう。ですが雪風の場合は、そのことを人間側も知っています。その上で船魄の監視役のようなことをしているんです」
「監視役……? そんな人が、こんな情報を教えてしまって、いいんですか……?」
「本当はダメですが、大したことではありません。雪風の監視対象はもっと他にあるので。それについては、話すことはできませんが」
「わ、分かりました……」
それを聞いたら本当に殺される気がした。
「他に、識別装置のことを知っている船魄は、いるんですか……?」
「長門は知っているでしょう。艦隊旗艦は基本的に、それを知った上で動いていますから。他は知りません。先程も言ったように、それは雪風の本分ではありませんから」
「そう、ですか……。聞きたいことは、これだけです」
「ふふ、いい取引でした。あなたがこの情報をどう使うのか、観察させてもらいますよ」
「は、はい……」
涼月は部屋に戻り、布団に入って峯風に抱きついた。
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