34 / 77
chapter,3 Hawaii
+ 9 +
しおりを挟む
精一杯の自制心を発揮させて、カナトは鋭い声をあげる。
「……瀬尾、行き先変更だ。カイマナ・カミオオオカ・インペリアルホテル。海洋の鳥海って言えば話は通じる」
「かしこまりました」
岩のように動かなかった黒スーツの運転士、瀬尾はカナトの言葉に従い車のスピードをあげていく。さきほどまでののんびりとした走りとは異なる、どこか焦っているようなふたりに、マツリカがきょとんとした表情を向ければ、カナトが彼女を安心させるように結い上げられた髪を撫でる。
「カナ、ト……?」
「ごめん、マツリカ。とっておきの場所に行く前に、一仕事だ」
「え」
「上大岡グループの支配人のなかに、当時の事故の関係者がいる。ご高齢ゆえ詳細なはなしをうかがうことは難しいかもしれないが、貴女の父親について知ることができるかもしれない」
「そ、それを早く教えてください。あたしはそもそも……」
危うく自分がすべきことを忘れるところだったとマツリカは息をつく。
このままカナトに気持ちいいことを教えられて忘れてしまったら、死んだバパに申し分が立たない。
「わかっているよ。貴女の憂いが晴れるまでは、俺も我慢する」
「――え」
「マツリカの父親の死の真相を知って、やっぱり俺の会社が憎いというのなら、俺が償うよ」
カナトのなかで、ひとつの決意が生まれていた。
この先、彼女とともに鳥海の闇を暴くことになってその結果、彼女が自分や会社に更なる憎しみを抱くようになったとしても、そのすべてを包み込んで、死ぬまで愛し尽くそう、と。
「つぐなう、って。もう和解してるんですよ。母が慰謝料いただいているのに……」
「でも、納得がいかないから貴女はここにいるんだよね? それと同じで俺は貴女に対して誠実でありたいだけ。その結果、貴女が俺を憎むことになるとしても」
「カナト?」
恋人役、なんて言葉でごまかしてはいるけれど、自分はもうマツリカを手放せないのだ。
カナトはそれならば「償い」でも「復讐」でも構わないから彼女を手に入れようと画策している。
身体だけ奪ったところで彼女をモノにできるとは思えない。
それならば彼女がいま一番求めている情報を与えて、自分からはなれられないように、自分の意思でこの豪華客船クルーズが終わってからもカナトの傍にいたいと願わせなくてはならない。
「俺も知りたい。十五年前の冬にいったい何が起きたのか」
十五年前のケミカルタンカーと貨物船の衝突事故に不審な点はなかったという。それなのにひとりの航海士が死に、十五年経過したいまも苦しんでいる娘がいる。カナトにできることは、彼女の苦しみを、憂いを取り払うこと。それか、彼女をさらに苦しめ、自分なしではいられないほどの絶望を与えること。
そのためなら純粋な初恋の思い出を踏みにじる覚悟も……いや、それは無理だ。できる限り、自分は前者を選択したい。そして彼女に初恋を思い出させて、もう一度、プロポーズするのだ。
「でも、真相を知って、俺や、俺の会社への復讐の必要がないってわかったら……そのときは」
「そのとき、は?」
車がホテルのパーキングへ滑り込む。
停車と同時に立ち上がったカナトはそのまま屈みこんでふらつくマツリカの顎をすくう。
「最後まで、貴女を抱きたい――……」
自分の唇でマツリカの赤い唇を食んで、泣きたくなるようなキスをしながら、カナトは囁く。
「……瀬尾、行き先変更だ。カイマナ・カミオオオカ・インペリアルホテル。海洋の鳥海って言えば話は通じる」
「かしこまりました」
岩のように動かなかった黒スーツの運転士、瀬尾はカナトの言葉に従い車のスピードをあげていく。さきほどまでののんびりとした走りとは異なる、どこか焦っているようなふたりに、マツリカがきょとんとした表情を向ければ、カナトが彼女を安心させるように結い上げられた髪を撫でる。
「カナ、ト……?」
「ごめん、マツリカ。とっておきの場所に行く前に、一仕事だ」
「え」
「上大岡グループの支配人のなかに、当時の事故の関係者がいる。ご高齢ゆえ詳細なはなしをうかがうことは難しいかもしれないが、貴女の父親について知ることができるかもしれない」
「そ、それを早く教えてください。あたしはそもそも……」
危うく自分がすべきことを忘れるところだったとマツリカは息をつく。
このままカナトに気持ちいいことを教えられて忘れてしまったら、死んだバパに申し分が立たない。
「わかっているよ。貴女の憂いが晴れるまでは、俺も我慢する」
「――え」
「マツリカの父親の死の真相を知って、やっぱり俺の会社が憎いというのなら、俺が償うよ」
カナトのなかで、ひとつの決意が生まれていた。
この先、彼女とともに鳥海の闇を暴くことになってその結果、彼女が自分や会社に更なる憎しみを抱くようになったとしても、そのすべてを包み込んで、死ぬまで愛し尽くそう、と。
「つぐなう、って。もう和解してるんですよ。母が慰謝料いただいているのに……」
「でも、納得がいかないから貴女はここにいるんだよね? それと同じで俺は貴女に対して誠実でありたいだけ。その結果、貴女が俺を憎むことになるとしても」
「カナト?」
恋人役、なんて言葉でごまかしてはいるけれど、自分はもうマツリカを手放せないのだ。
カナトはそれならば「償い」でも「復讐」でも構わないから彼女を手に入れようと画策している。
身体だけ奪ったところで彼女をモノにできるとは思えない。
それならば彼女がいま一番求めている情報を与えて、自分からはなれられないように、自分の意思でこの豪華客船クルーズが終わってからもカナトの傍にいたいと願わせなくてはならない。
「俺も知りたい。十五年前の冬にいったい何が起きたのか」
十五年前のケミカルタンカーと貨物船の衝突事故に不審な点はなかったという。それなのにひとりの航海士が死に、十五年経過したいまも苦しんでいる娘がいる。カナトにできることは、彼女の苦しみを、憂いを取り払うこと。それか、彼女をさらに苦しめ、自分なしではいられないほどの絶望を与えること。
そのためなら純粋な初恋の思い出を踏みにじる覚悟も……いや、それは無理だ。できる限り、自分は前者を選択したい。そして彼女に初恋を思い出させて、もう一度、プロポーズするのだ。
「でも、真相を知って、俺や、俺の会社への復讐の必要がないってわかったら……そのときは」
「そのとき、は?」
車がホテルのパーキングへ滑り込む。
停車と同時に立ち上がったカナトはそのまま屈みこんでふらつくマツリカの顎をすくう。
「最後まで、貴女を抱きたい――……」
自分の唇でマツリカの赤い唇を食んで、泣きたくなるようなキスをしながら、カナトは囁く。
0
あなたにおすすめの小説
恋は襟を正してから-鬼上司の不器用な愛-
プリオネ
恋愛
せっかくホワイト企業に転職したのに、配属先は「漆黒」と噂される第一営業所だった芦尾梨子。待ち受けていたのは、大勢の前で怒鳴りつけてくるような鬼上司、獄谷衿。だが梨子には、前職で培ったパワハラ耐性と、ある"処世術"があった。2つの武器を手に、梨子は彼の厳しい指導にもたくましく食らいついていった。
ある日、梨子は獄谷に叱責された直後に彼自身のミスに気付く。助け舟を出すも、まさかのダブルミスで恥の上塗りをさせてしまう。責任を感じる梨子だったが、獄谷は意外な反応を見せた。そしてそれを境に、彼の態度が柔らかくなり始める。その不器用すぎるアプローチに、梨子も次第に惹かれていくのであった──。
恋心を隠してるけど全部滲み出ちゃってる系鬼上司と、全部気付いてるけど部下として接する新入社員が織りなす、じれじれオフィスラブ。
俺様上司に今宵も激しく求められる。
美凪ましろ
恋愛
鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。
蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。
ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。
「おまえの顔、えっろい」
神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。
――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。
**2026.01.02start~2026.01.17end**
◆エブリスタ様にも掲載。人気沸騰中です!
https://estar.jp/novels/26513389
お見合いから本気の恋をしてもいいですか
濘-NEI-
恋愛
元カレと破局して半年が経った頃、母から勧められたお見合いを受けることにした涼葉を待っていたのは、あの日出逢った彼でした。
高橋涼葉、28歳。
元カレとは彼の転勤を機に破局。
恋が苦手な涼葉は人恋しさから出逢いを求めてバーに来たものの、人生で初めてのナンパはやっぱり怖くて逃げ出したくなる。そんな危機から救ってくれたのはうっとりするようなイケメンだった。 優しい彼と意気投合して飲み直すことになったけれど、名前も知らない彼に惹かれてしまう気がするのにブレーキはかけられない。
32歳、恋愛未経験の私に彼氏ができました。お相手は次期社長で完璧王子なのに、なぜか可愛い。
さくしゃ
恋愛
32歳、恋愛未経験の私に彼氏ができました。お相手は次期社長で完璧王子なのに、なぜか可愛い。
「甘酒って甘くないんだ!」
ピュアで、
「さ、さお…ふしゅうう」
私の名前を呼ぼうとして呼べなくて。
だけど、
「し、しゅ…ふしゅうう」
それは私も同じで。
不器用な2人による優しい恋愛物語。
果たして私たちは
「さ…ふしゅぅぅ」
下の名前で呼び合えるのでしょうか?
Emerald
藍沢咲良
恋愛
教師という仕事に嫌気が差した結城美咲(ゆうき みさき)は、叔母の住む自然豊かな郊外で時々アルバイトをして生活していた。
叔母の勧めで再び教員業に戻ってみようと人材バンクに登録すると、すぐに話が来る。
自分にとっては完全に新しい場所。
しかし仕事は一度投げ出した教員業。嫌だと言っても他に出来る仕事は無い。
仕方無しに仕事復帰をする美咲。仕事帰りにカフェに寄るとそこには…。
〜main cast〜
結城美咲(Yuki Misaki)
黒瀬 悠(Kurose Haruka)
※作中の地名、団体名は架空のものです。
※この作品はエブリスタ、小説家になろうでも連載されています。
※素敵な表紙をポリン先生に描いて頂きました。
ポリン先生の作品はこちら↓
https://manga.line.me/indies/product/detail?id=8911
https://www.comico.jp/challenge/comic/33031
同期の姫は、あなどれない
青砥アヲ
恋愛
社会人4年目を迎えたゆきのは、忙しいながらも充実した日々を送っていたが、遠距離恋愛中の彼氏とはすれ違いが続いていた。
ある日、電話での大喧嘩を機に一方的に連絡を拒否され、音信不通となってしまう。
落ち込むゆきのにアプローチしてきたのは『同期の姫』だった。
「…姫って、付き合ったら意彼女に尽くすタイプ?」
「さぁ、、試してみる?」
クールで他人に興味がないと思っていた同期からの、思いがけないアプローチ。動揺を隠せないゆきのは、今まで知らなかった一面に翻弄されていくことにーーー
【登場人物】
早瀬ゆきの(はやせゆきの)・・・R&Sソリューションズ開発部第三課 所属 25歳
姫元樹(ひめもといつき)・・・R&Sソリューションズ開発部第一課 所属 25歳
◆表紙画像は簡単表紙メーカー様で作成しています。
◆他にエブリスタ様にも掲載してます。
契約書は婚姻届
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「契約続行はお嬢さんと私の結婚が、条件です」
突然、降って湧いた結婚の話。
しかも、父親の工場と引き替えに。
「この条件がのめない場合は当初の予定通り、契約は打ち切りということで」
突きつけられる契約書という名の婚姻届。
父親の工場を救えるのは自分ひとり。
「わかりました。
あなたと結婚します」
はじまった契約結婚生活があまー……いはずがない!?
若園朋香、26歳
ごくごく普通の、町工場の社長の娘
×
押部尚一郎、36歳
日本屈指の医療グループ、オシベの御曹司
さらに
自分もグループ会社のひとつの社長
さらに
ドイツ人ハーフの金髪碧眼銀縁眼鏡
そして
極度の溺愛体質??
******
表紙は瀬木尚史@相沢蒼依さん(Twitter@tonaoto4)から。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる