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chapter,2 Los Angeles → Hawaii
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しおりを挟む――死んだ父のことを知りたかった。
そう、訥々と語りだしたマツリカを前に、カナトの厳しい表情はすっかり鳴りを潜めていた。
彼は「十五年前……冬のことか」とだけ言って、黙り込んでしまう。
「カナトさま?」
「アフリカ沖で海流に巻き込まれて起きたあの事故は誰にも予測できなかったはずだ。貴女の父親がその事故の唯一の犠牲者となったのは俺も知っているが……復讐をするでもなく、十五年前の事故のことを知りたいために、わざわざBPWでの勤務を決めたのか?」
「はい。亡き父が勤めていた鳥海海運とも縁があるというBPW社にあたしが就職したのは、彼が航海士としてどのような仕事をしていたのか、知りたかったから。そしてどうして死んでしまったのか。父親のように海で働いたら、わかるんじゃないかと浅はかにも考えたんです」
「父親の痕跡を探すため、か……」
事故が起きたのは十五年前の冬のはじめの頃のことだ。幼いマツリカが体験した父の早すぎる死と彼の会社で起きた不祥事が深い心の傷になっているのも納得できる。十五年前の晩夏にシンガポールの海水浴場で自分と出逢ったことをすっかり忘れているのは、そのせいだろうと推測し、カナトはぽつりと呟く。
「それじゃあ、貴女はキャッスルシーのスパイではないと?」
「マイくん……義弟が、更なる国外進出に向けてリサーチをしていることは知ってましたが、あたしがスパイだなんて……そんなことありえません」
国内業界五位のキャッスルシーは主にアジア近郊の貿易輸送、離島向けのフェリーを運航している会社になる。鳥海運輸と異なりケミカルタンカー事業には携わっていないが、自家用車の輸出入をはじめ食料品など近隣諸国と小回りの利く貿易にちからを入れている。国の事業を引き継いだ日乃本や財閥系の横須賀とは異なり、鳥海海運同様戦後の瀬戸内海のちいさな造船所からはじまり財を築いた城崎の一族は国内では異端扱いされている。
たしかに事業を引き継いだ義弟は鳥海海運のように海外に通用するクルージング事業を手掛けたいと息まいており、海外で活躍しているマツリカをその一助にしようと考えているきらいはある。マツリカに直接そのはなしがまわってきたわけではないので彼の言動は無視しているが、彼ならやりかねない。
――そんな状況に陥ったら今度こそマイくんと結婚させられちゃう。義理の弟だから結婚するのは難しくないとはいえ、あたしにとって彼は弟でしかないんだから。
はぁ、とため息をつくマツリカに、カナトも何かを感じたのだろう、パン、と手を打って「わかった」と低い声で応える。
「とりあえずいまは貴女がキャッスルシーのスパイではなく、十五年前の冬に起きたケミカルタンカー事故の真相を知りたいためにBPWに就職したというはなしを信じよう。だが、疑いが晴れたわけではない」
「え。それじゃあどうすれば疑いを晴らせるんですか」
ちゃんと理由をはなしたのに困ります、と焦るマツリカにカナトは告げる。
「父親の死の真相を知りたいんだろう?」
「はい」
「ならば俺と取引をしないか?」
「取引、ですか?」
「そう。貴女がスパイだと疑っている人間は俺の側近のなかにもいる。彼らを納得させるためにも――……俺の、恋人になれ」
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