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chapter,2 Los Angeles → Hawaii
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* * *
ロサンジェルスのホテルでは紳士的な態度をとっていたカナトだったが、自分のテリトリーへ彼女を招き入れたことで彼はすっかり舞い上がっていた。
唖然とするマツリカの腕を引き、豪奢なソファへ座らせる。自分は客人ではないのだからと拒もうとする彼女だったが、カナトが「イヤなら押し倒すまでだ」とさらりと脅してきたため、しぶしぶ抵抗を諦めた。ふかふかのソファに沈み込んだマツリカを見届けて、彼は満足そうに応接テーブルで向かい合った牛革のスツールに腰かけて脚を組む。脚が長い。まるでモデルみたいだなと場違いなことを考えていたマツリカを前に、カナトは嗤う。
「その様子だと状況を理解できていないみたいだね」
「……身体での接待はサービスの対象外ですよ」
「ひどいことを言うね。俺が貴女を身体目当てで指名した、なんて……それならロサンジェルスでとっくに味見していたよ」
「ッ」
最低だ。あのときのときめきを返してほしい。
若き海運王はけっきょくミユキが言っていたように女遊びに夢中のボンボンでしかないのだろうか。
カナトはつまらなそうにマツリカを見て、さらに冷たい言葉を浴びせる。
「それとも、俺に取り入るよう父親に命じられたか? そうだというなら、ありがたく抱いてやるけど」
「ち、違います!」
どうしてここで父親が出てくるのだ。養父は今回のこととは無関係なのに。自分が実父のことを知りたくてBPWのコンシェルジュとして働くことを決意したのに。まさか彼はあたしのことをスパイか何かだと思っている……? マツリカはその可能性に気づいて瞳をしばたかせる。
とはいえ、わけがわからないまま身体を奪われるわけにはいかない。カナトはまるで眠れる鷹が目を醒ましたかのような鋭い視線をマツリカに向けている。猛禽に狙われたかのような眼光に、身体は囚われていた。
このソファのうえでも女性と情事を行っていたのかもしれないと考えるだけでおぞましく感じてしまうのに、なぜだろう、もっとこの瞳に見つめられたいと感じてしまう。
「逃げようなんて考えるんじゃないぞ。おとなしくしているほうが身のためだ。正直に答えてくれればひどいことはしないから」
「逃げる……?」
プレミアムレセプションデスクに勤務するコンシェルジュには最上階にある個人向けのスタッフルームがあったはずだ。てっきりカナトはマツリカの荷物をそちらに運んでいくものだと思っていたのに、なぜか彼は自分が滞在しているプレミアムスイートにマツリカを連れ込んで、鍵をかけてしまった。逃げるも何も、上から命じられたマツリカは彼専属のコンシェルジュとして残り約二か月間のクルーズをともにすることしか選べないというのに……不服そうな表情が顔に出てしまったのだろう、カナトがはぁとため息をつく。
ため息をつきたいのは自分の方なのにと呆れるマツリカだったが、これ以上彼を怒らせたら危険だと悟り、口を噤む。
「城崎祭花。今夜から東京に到着するまでの約二か月間、貴女は俺の、俺専属のコンシェルジュだ」
「存じております」
「ならば質問にこたえてくれ。国内海運業界五位のキャッスルシーの社長令嬢である貴女がなぜ俺の孫会社で働いている?」
部屋に入る前に問われたことを再度、質問されたマツリカはすう、と深呼吸をしてから、言葉を紡ぐ。
「わかりました。正直におこたえします。――死んだ父のことを、知りたかったんです」
なぜ、バパが死ななくてはならなかったのだろう。オイルが流出した海で死んでしまった彼のことを知りたくて、マツリカは鳥海海運に近いアメリカ法人の子会社を選んで機会をうかがっていたのだ。そこに養父は関係ない、と。
ロサンジェルスのホテルでは紳士的な態度をとっていたカナトだったが、自分のテリトリーへ彼女を招き入れたことで彼はすっかり舞い上がっていた。
唖然とするマツリカの腕を引き、豪奢なソファへ座らせる。自分は客人ではないのだからと拒もうとする彼女だったが、カナトが「イヤなら押し倒すまでだ」とさらりと脅してきたため、しぶしぶ抵抗を諦めた。ふかふかのソファに沈み込んだマツリカを見届けて、彼は満足そうに応接テーブルで向かい合った牛革のスツールに腰かけて脚を組む。脚が長い。まるでモデルみたいだなと場違いなことを考えていたマツリカを前に、カナトは嗤う。
「その様子だと状況を理解できていないみたいだね」
「……身体での接待はサービスの対象外ですよ」
「ひどいことを言うね。俺が貴女を身体目当てで指名した、なんて……それならロサンジェルスでとっくに味見していたよ」
「ッ」
最低だ。あのときのときめきを返してほしい。
若き海運王はけっきょくミユキが言っていたように女遊びに夢中のボンボンでしかないのだろうか。
カナトはつまらなそうにマツリカを見て、さらに冷たい言葉を浴びせる。
「それとも、俺に取り入るよう父親に命じられたか? そうだというなら、ありがたく抱いてやるけど」
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どうしてここで父親が出てくるのだ。養父は今回のこととは無関係なのに。自分が実父のことを知りたくてBPWのコンシェルジュとして働くことを決意したのに。まさか彼はあたしのことをスパイか何かだと思っている……? マツリカはその可能性に気づいて瞳をしばたかせる。
とはいえ、わけがわからないまま身体を奪われるわけにはいかない。カナトはまるで眠れる鷹が目を醒ましたかのような鋭い視線をマツリカに向けている。猛禽に狙われたかのような眼光に、身体は囚われていた。
このソファのうえでも女性と情事を行っていたのかもしれないと考えるだけでおぞましく感じてしまうのに、なぜだろう、もっとこの瞳に見つめられたいと感じてしまう。
「逃げようなんて考えるんじゃないぞ。おとなしくしているほうが身のためだ。正直に答えてくれればひどいことはしないから」
「逃げる……?」
プレミアムレセプションデスクに勤務するコンシェルジュには最上階にある個人向けのスタッフルームがあったはずだ。てっきりカナトはマツリカの荷物をそちらに運んでいくものだと思っていたのに、なぜか彼は自分が滞在しているプレミアムスイートにマツリカを連れ込んで、鍵をかけてしまった。逃げるも何も、上から命じられたマツリカは彼専属のコンシェルジュとして残り約二か月間のクルーズをともにすることしか選べないというのに……不服そうな表情が顔に出てしまったのだろう、カナトがはぁとため息をつく。
ため息をつきたいのは自分の方なのにと呆れるマツリカだったが、これ以上彼を怒らせたら危険だと悟り、口を噤む。
「城崎祭花。今夜から東京に到着するまでの約二か月間、貴女は俺の、俺専属のコンシェルジュだ」
「存じております」
「ならば質問にこたえてくれ。国内海運業界五位のキャッスルシーの社長令嬢である貴女がなぜ俺の孫会社で働いている?」
部屋に入る前に問われたことを再度、質問されたマツリカはすう、と深呼吸をしてから、言葉を紡ぐ。
「わかりました。正直におこたえします。――死んだ父のことを、知りたかったんです」
なぜ、バパが死ななくてはならなかったのだろう。オイルが流出した海で死んでしまった彼のことを知りたくて、マツリカは鳥海海運に近いアメリカ法人の子会社を選んで機会をうかがっていたのだ。そこに養父は関係ない、と。
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