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7 彼 視点
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それはただの政略結婚で、上位貴族との繋がりを得たいという考えと、資金が必要だという我々の利害が一致したから結ばれたものだった。
私は自分の容姿が優れている自覚はある。
現に社交界で私を見る令嬢達の視線は熱を帯びていて、鬱陶しい程だったから。
多くの女性、強いては社交界にとって注目の的であるのが私だった。
そんな私と婚約をしたのは、とある侯爵家のリリアという令嬢。
一見するとただ美しいの部類に入るだけの令嬢だが、その内面から出ているであろう美しさがその容姿を落ち着いた品のある美しい女性へと魅せていた。
ただ容姿が優れているだけではないと、直感で理解した。
そして彼女は仮面のような美しい微笑みを浮かべていながら、その瞳には愛のような熱い炎を宿していた。
本人は隠しているつもりだろう。
しかし隠しきれていないその瞳を向けられて、私は自分の心が満たされるのを感じたのだ。
承認欲のような、自尊心が満たされる感覚。
彼女のように身も心も美しい人が、自分だけにその瞳を向けてくれるという優越感。
政略結婚ではあるが、私達は愛し合う夫婦になれると確信していた。
…その噂を聞くまでは。
彼女は周囲の男を誑かし、そして周囲の令嬢を蹴落として私の婚約者の座についたのだと。
我が公爵家が財政難に陥っているのをいいことに、金にものを言わせて無理矢理婚約者になったのだと。
出処の分からず広まったその噂は根も葉もないデマだった。
所詮は噂話。
彼女がそんなことをする筈がない。
きっと皆が彼女の美しさに気付けば、自然とこの噂も消えてなくなるだろうと、私はそう考えていた。
しかしどれだけの月日が経っても噂は消えず、それどころか彼女に関する悪い噂は増えていくばかりだ。
しまいには友人達にさえ同情される始末。
…もしかして、彼女は善人の猫を被っているだけで本当に悪女なのではないか。
私はいつからがそんな疑いを持つようになっていた。
彼女に直接聞こうかとも思ったが、それで狭量な男だと思われたくはない。
それにもしこの噂が虚言ならば、彼女は婚約者である私に助けを求めてくるだろうと。
彼女が助けを求めてきたならば、私も何かしらの対策はとろう。
そう考えて、私はいつも通りの日常を、社交界では哀れな公爵様として過ごしていた。
結局、彼女が私に助けを求めてくることは無かった。
彼女の瞳からは熱烈な愛が薄れ、代わりに縋るような瞳を向けられる様になった。
以前よりも硬い笑顔を浮かべる彼女は、根も葉もない噂に苦しんでいるのだと直感で理解した。
しかしならば、助けを求めればいい。
彼女はその瞳で私の承認欲を満たすばかりで、その苦しみを口に出すことは無かった。
…嗚呼。もしかしたらこの姿が演技で、本当は噂通りの人間なのかもしれない。
助けを求めてこない彼女に痺れを切らした私は、いつからかそう思うようになっていた。
それからだろうか。
彼女の瞳が鬱陶しいと感じるようになったのは。
歳の近い国王や王妃には彼女を気にかけるように言われていた。もっと話し合い、噂の真偽を自分の目で確かめろと。
しかし私はその忠告を実行せず、いつからか自分は噂通り金にものを言わせて婚約されられた被害者であると、そう思うようになっていた。
そして彼女は家の力で婚約をしてきた悪女であると。
私はいつからか彼女を嫌うべき対象として認識していた。
婚約した時の喜びは消え失せて、婚姻の義も出来るだけ簡素に済ませた。
そして初夜の日、私が寝室で待っていた彼女を抱くことはなかった。
それどころか白い結婚であることを宣言し、私の前に姿を現すことを禁じた。
今思えば本当に愚かな行為だった。
…もう取り返しはつかないが。
私の言葉を聞いた彼女は、一瞬で絶望へと突き落とされた表情をしていた。
彼女のことは嫌っているはずなのに、そのあまりにも哀れな姿に心が少しだけ傷んだ。
しかしそれではいけないと、私はそれだけ伝えると自分の寝室へと帰った。
彼女は噂通りの悪女だ。…その筈だ。
それなのに、彼女のあの表情がしばらく頭から離れなかった。
それからというもの、彼女は本当に私の前に姿を現すことはしなかった。
生きているのか不安になったこともあったが、どうやらご飯はちゃんと食べているらしいとメイドが言っていた。
ろくに働きもせずに、タダ飯を食べるだけのお荷物。
しかし彼女がいなければ、我が公爵家の復興に必要な資金は得られない。
捨てたくても捨てられない存在は、私の心の重荷となっていた。
私は社交場に彼女を連れて行かず、その存在を隠すように生活していた。
ある朝、早朝から仕事があった私は廊下から見える中庭で彼女を見つけた。
まだ夜が明けきっておらず肌寒い時間帯であるのに、彼女は庭師の老人と共に花壇の手入れをしていた。
彼女のことをたた純粋な女性であると信じていれば、その光景は献身的な妻に感謝し、そして愛おしく思う光景だろう。
しかしその時私が抱いたものは、彼女を憐れむ感情だった。
誰にも相手にされないから、ついにあの様な老人にすら手を出したのだと。
しかし同時に嫉妬もした。
私の妻でありながら、なぜ他の男と楽しそうにしているだと。
なんて自分勝手な思いだろう。
しかしこの時の私には、彼女を嫌う気持ちと支配したいという気持ちが共存していた。
私は自分の容姿が優れている自覚はある。
現に社交界で私を見る令嬢達の視線は熱を帯びていて、鬱陶しい程だったから。
多くの女性、強いては社交界にとって注目の的であるのが私だった。
そんな私と婚約をしたのは、とある侯爵家のリリアという令嬢。
一見するとただ美しいの部類に入るだけの令嬢だが、その内面から出ているであろう美しさがその容姿を落ち着いた品のある美しい女性へと魅せていた。
ただ容姿が優れているだけではないと、直感で理解した。
そして彼女は仮面のような美しい微笑みを浮かべていながら、その瞳には愛のような熱い炎を宿していた。
本人は隠しているつもりだろう。
しかし隠しきれていないその瞳を向けられて、私は自分の心が満たされるのを感じたのだ。
承認欲のような、自尊心が満たされる感覚。
彼女のように身も心も美しい人が、自分だけにその瞳を向けてくれるという優越感。
政略結婚ではあるが、私達は愛し合う夫婦になれると確信していた。
…その噂を聞くまでは。
彼女は周囲の男を誑かし、そして周囲の令嬢を蹴落として私の婚約者の座についたのだと。
我が公爵家が財政難に陥っているのをいいことに、金にものを言わせて無理矢理婚約者になったのだと。
出処の分からず広まったその噂は根も葉もないデマだった。
所詮は噂話。
彼女がそんなことをする筈がない。
きっと皆が彼女の美しさに気付けば、自然とこの噂も消えてなくなるだろうと、私はそう考えていた。
しかしどれだけの月日が経っても噂は消えず、それどころか彼女に関する悪い噂は増えていくばかりだ。
しまいには友人達にさえ同情される始末。
…もしかして、彼女は善人の猫を被っているだけで本当に悪女なのではないか。
私はいつからがそんな疑いを持つようになっていた。
彼女に直接聞こうかとも思ったが、それで狭量な男だと思われたくはない。
それにもしこの噂が虚言ならば、彼女は婚約者である私に助けを求めてくるだろうと。
彼女が助けを求めてきたならば、私も何かしらの対策はとろう。
そう考えて、私はいつも通りの日常を、社交界では哀れな公爵様として過ごしていた。
結局、彼女が私に助けを求めてくることは無かった。
彼女の瞳からは熱烈な愛が薄れ、代わりに縋るような瞳を向けられる様になった。
以前よりも硬い笑顔を浮かべる彼女は、根も葉もない噂に苦しんでいるのだと直感で理解した。
しかしならば、助けを求めればいい。
彼女はその瞳で私の承認欲を満たすばかりで、その苦しみを口に出すことは無かった。
…嗚呼。もしかしたらこの姿が演技で、本当は噂通りの人間なのかもしれない。
助けを求めてこない彼女に痺れを切らした私は、いつからかそう思うようになっていた。
それからだろうか。
彼女の瞳が鬱陶しいと感じるようになったのは。
歳の近い国王や王妃には彼女を気にかけるように言われていた。もっと話し合い、噂の真偽を自分の目で確かめろと。
しかし私はその忠告を実行せず、いつからか自分は噂通り金にものを言わせて婚約されられた被害者であると、そう思うようになっていた。
そして彼女は家の力で婚約をしてきた悪女であると。
私はいつからか彼女を嫌うべき対象として認識していた。
婚約した時の喜びは消え失せて、婚姻の義も出来るだけ簡素に済ませた。
そして初夜の日、私が寝室で待っていた彼女を抱くことはなかった。
それどころか白い結婚であることを宣言し、私の前に姿を現すことを禁じた。
今思えば本当に愚かな行為だった。
…もう取り返しはつかないが。
私の言葉を聞いた彼女は、一瞬で絶望へと突き落とされた表情をしていた。
彼女のことは嫌っているはずなのに、そのあまりにも哀れな姿に心が少しだけ傷んだ。
しかしそれではいけないと、私はそれだけ伝えると自分の寝室へと帰った。
彼女は噂通りの悪女だ。…その筈だ。
それなのに、彼女のあの表情がしばらく頭から離れなかった。
それからというもの、彼女は本当に私の前に姿を現すことはしなかった。
生きているのか不安になったこともあったが、どうやらご飯はちゃんと食べているらしいとメイドが言っていた。
ろくに働きもせずに、タダ飯を食べるだけのお荷物。
しかし彼女がいなければ、我が公爵家の復興に必要な資金は得られない。
捨てたくても捨てられない存在は、私の心の重荷となっていた。
私は社交場に彼女を連れて行かず、その存在を隠すように生活していた。
ある朝、早朝から仕事があった私は廊下から見える中庭で彼女を見つけた。
まだ夜が明けきっておらず肌寒い時間帯であるのに、彼女は庭師の老人と共に花壇の手入れをしていた。
彼女のことをたた純粋な女性であると信じていれば、その光景は献身的な妻に感謝し、そして愛おしく思う光景だろう。
しかしその時私が抱いたものは、彼女を憐れむ感情だった。
誰にも相手にされないから、ついにあの様な老人にすら手を出したのだと。
しかし同時に嫉妬もした。
私の妻でありながら、なぜ他の男と楽しそうにしているだと。
なんて自分勝手な思いだろう。
しかしこの時の私には、彼女を嫌う気持ちと支配したいという気持ちが共存していた。
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