拾われた後は

なか

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28.聞こえました

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   お風呂から上がって、寝る準備を整えてもカイルさんは現れない。まだエミリオさんと話しているのなら、今日は僕の部屋で1人で寝たらいいのかな。

   寝る挨拶だけしに行こうと、灯の落とされた廊下を静かに歩く。

   少しだけドアに隙間があり、明かりを少し落とした廊下に、光がが漏れている。この前もちゃんと閉めろとエミリオさんが怒られていたことを思い出し、くすりと笑いそうになる。


   ドアをノックしようとして、かすかに「迷い人」と言う単語が聞こえた。


「ーーー精神を病み、ーー自ら命を絶った。」

   カイルさんの重い声。

「ーーーな。」

「ーー俺はハルカを同じーー合わせたくないんだ。陛下にーーー保護を任せると命を受けーー。」



   僕は息を殺してそっと部屋へ引き返した。頭の中でがんがん音が鳴るように感じていたが、心が、妙に静かだった。

   カイルさんが仕事で帰ってこない時くらいしか、使わない僕のベッドに潜り込む。目の下まで引き上げた掛物の端を握り締め、体をぎゅっと小さく丸めた。自分の体を抱き締める。



   あんなに心配性なのも、僕が変なことをしないか見張っていたから?

   僕のためじゃなくて、迷い人という存在のため?

   王様に命令されたから?
   

   頭の中で色々な疑問が回る。胸の辺りが痛い。

   この間会った王様のことを思い出した。
   そうだよね、もし僕に何かあったら、あの王様に何か罰を与えられるかもしれない。
   困るよね。


   ショックを受けているのに、どこかで冷静に自問する声がする。頭の中で2人の僕がいるようだ。


   カイルさんに裏切られたような気がした。彼のことが好きだから、騙されたような気がした。

   でもそれは僕の勝手な言い分だ。どこの誰ともら分からない僕の命を救ってくれた。面倒をみてくれている。優しくしてくれた。例えその理由が、命令で、仕事だったとしても。
   それは事実だ。


   だからこそ、余計につらい。


   なんでか涙は出なかった。


   ぐるぐると頭の中で同じ考えが繰り返す。どれくらい時間が経ったか分からない頃、寝室のドアがそっと開いた。

「ハルカ、もう寝たか?」

   小さな声でカイルさんに問いかけられるが、じっと息を殺した。人が近付く気配がして、そっと頭に柔らかな感触。微かにお酒の匂いがした。

「おやすみ。」

  小さくキスをして、そっとカイルさんは部屋から出て行った。

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