44 / 53
44.知りました
しおりを挟む
目がさめると、起きるには早い時間だった。久しぶりにぐっすり眠った気がする。まだ薄暗い部屋に、カーテンの隙間からうっすらと日が差していた。
そうだ、昨日……。
たくさんのことを一気に思い出した。左頬は少し熱を持っているが、痛みは治まっていた。思い出すと、体がぶるりと震えた。
「大丈夫か?痛むか?」
カイルさんの寝起きの掠れた声がして、僕の腰に回っていた腕に力がこもる。
「起こしちゃいましたか?すみません。」
「いや、まだ早いだろ。もう少し寝てろ。」
「目が覚めちゃって。カイルさんは寝ててください。」
目が冴えてしまって、二度寝はできそうにない。ご飯の前に皆に謝りに行きたい。もう少ししたら、皆起きる頃だろう。
「朝ご飯の前に、皆に謝りに行ってきます。」
「昨日な、」
カイルさんが話し始める。顔を上げると、優しく微笑まれた。
「ハルカがいない事に気付いたのはマリアだったんだ。おやつを持って行ったら、返事もなく、部屋がいつもよりきれいに片付けられてて、嫌な感じがしたそうだ。上着がなくなっているのを見て、急いで皆に伝えて、ケリーが早馬で知らせに来てくれた。
ケリーは鼻が効くし、軍にいた頃、訓練も受けていたから、2人でハルカの匂いを必死に辿った。
雑踏に紛れてハルカの匂いだけなら、見失ったかもしれないが、ハルカと一緒に俺の匂いもしていて、たどり着けた。怪我はさせてしまったけど、助けられて、本当に良かった。」
カイルさんはそこまで言うと、僕の乱れた前髪を上げて額に口づけた。
「カイルさんの匂い…、あっ、あの尻尾の毛かな?そうだ、上着のポケットに入れたまんまだ。取ってこなきゃ。」
「まだ持ってたのか。」
「だって。もう触っちゃいけないから、あれだけもって思ってたんです。」
「これからいくらでも触らせてやるから。」
カイルさんに苦笑され、起き上がろうとするのを止められた。太腿のあたりにふさっとした感触。直にさわさわと動いて、少しくすぐったい。
「ありがとうございます。カイルさんが護ってくれたんですね。あっ、僕、ペンダント!取られちゃって。あのペンダント見て、2人で揉めてて、時間稼ぎできたんです。1人はやめてくれようとしたし。
でも、なくなっちゃって、……ごめんなさい。」
「いいんだ。俺が探しにいってみるよ。」
「すみません。」
深い青色の瞳が優しく、僕を安心させるような色をのせる。
「あれはな、うちに代々伝わる物で昔、軍に所属する頃、祖母からもらったんだ。俺を守ってくれるって。そして、将来、心から守りたいと思った人にあげなさいってな。本当にハルカを守ってくれた。だから、もし今回の件でなくなったとしても、いいいんだ。」
お守りだとくれたあのペンダント。そんな大事なものを、何にも言わないでくれていたのかと思うと、胸の奥が熱くなった。
そうだ、昨日……。
たくさんのことを一気に思い出した。左頬は少し熱を持っているが、痛みは治まっていた。思い出すと、体がぶるりと震えた。
「大丈夫か?痛むか?」
カイルさんの寝起きの掠れた声がして、僕の腰に回っていた腕に力がこもる。
「起こしちゃいましたか?すみません。」
「いや、まだ早いだろ。もう少し寝てろ。」
「目が覚めちゃって。カイルさんは寝ててください。」
目が冴えてしまって、二度寝はできそうにない。ご飯の前に皆に謝りに行きたい。もう少ししたら、皆起きる頃だろう。
「朝ご飯の前に、皆に謝りに行ってきます。」
「昨日な、」
カイルさんが話し始める。顔を上げると、優しく微笑まれた。
「ハルカがいない事に気付いたのはマリアだったんだ。おやつを持って行ったら、返事もなく、部屋がいつもよりきれいに片付けられてて、嫌な感じがしたそうだ。上着がなくなっているのを見て、急いで皆に伝えて、ケリーが早馬で知らせに来てくれた。
ケリーは鼻が効くし、軍にいた頃、訓練も受けていたから、2人でハルカの匂いを必死に辿った。
雑踏に紛れてハルカの匂いだけなら、見失ったかもしれないが、ハルカと一緒に俺の匂いもしていて、たどり着けた。怪我はさせてしまったけど、助けられて、本当に良かった。」
カイルさんはそこまで言うと、僕の乱れた前髪を上げて額に口づけた。
「カイルさんの匂い…、あっ、あの尻尾の毛かな?そうだ、上着のポケットに入れたまんまだ。取ってこなきゃ。」
「まだ持ってたのか。」
「だって。もう触っちゃいけないから、あれだけもって思ってたんです。」
「これからいくらでも触らせてやるから。」
カイルさんに苦笑され、起き上がろうとするのを止められた。太腿のあたりにふさっとした感触。直にさわさわと動いて、少しくすぐったい。
「ありがとうございます。カイルさんが護ってくれたんですね。あっ、僕、ペンダント!取られちゃって。あのペンダント見て、2人で揉めてて、時間稼ぎできたんです。1人はやめてくれようとしたし。
でも、なくなっちゃって、……ごめんなさい。」
「いいんだ。俺が探しにいってみるよ。」
「すみません。」
深い青色の瞳が優しく、僕を安心させるような色をのせる。
「あれはな、うちに代々伝わる物で昔、軍に所属する頃、祖母からもらったんだ。俺を守ってくれるって。そして、将来、心から守りたいと思った人にあげなさいってな。本当にハルカを守ってくれた。だから、もし今回の件でなくなったとしても、いいいんだ。」
お守りだとくれたあのペンダント。そんな大事なものを、何にも言わないでくれていたのかと思うと、胸の奥が熱くなった。
326
あなたにおすすめの小説
【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺
福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。
目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。
でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい…
……あれ…?
…やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ…
前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。
1万2000字前後です。
攻めのキャラがブレるし若干変態です。
無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形)
おまけ完結済み
祝福という名の厄介なモノがあるんですけど
野犬 猫兄
BL
魔導研究員のディルカには悩みがあった。
愛し愛される二人の証しとして、同じ場所に同じアザが発現するという『花祝紋』が独り身のディルカの身体にいつの間にか現れていたのだ。
それは女神の祝福とまでいわれるアザで、そんな大層なもの誰にも見せられるわけがない。
ディルカは、そんなアザがあるものだから、誰とも恋愛できずにいた。
イチャイチャ……イチャイチャしたいんですけど?!
□■
少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです!
完結しました。
応援していただきありがとうございます!
□■
第11回BL大賞では、ポイントを入れてくださった皆様、またお読みくださった皆様、どうもありがとうございましたm(__)m
異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします
み馬下諒
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。
わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!?
これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。
おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。
※ 造語、出産描写あり。前置き長め。第21話に登場人物紹介を載せました。
★お試し読みは第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★
★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★
2度目の異世界移転。あの時の少年がいい歳になっていて殺気立って睨んでくるんだけど。
ありま氷炎
BL
高校一年の時、道路陥没の事故に巻き込まれ、三日間記憶がない。
異世界転移した記憶はあるんだけど、夢だと思っていた。
二年後、どうやら異世界転移してしまったらしい。
しかもこれは二度目で、あれは夢ではなかったようだった。
再会した少年はすっかりいい歳になっていて、殺気立って睨んでくるんだけど。
劣等生の俺を、未来から来た学院一の優等生が「婚約者だ」と宣言し溺愛してくる
水凪しおん
BL
魔力制御ができず、常に暴発させては「劣等生」と蔑まれるアキト。彼の唯一の取り柄は、自分でも気づいていない規格外の魔力量だけだった。孤独と無力感に苛まれる日々のなか、彼の前に一人の男が現れる。学院一の秀才にして、全生徒の憧れの的であるカイだ。カイは衆目の前でアキトを「婚約者」だと宣言し、強引な同居生活を始める。
「君のすべては、俺が管理する」
戸惑いながらも、カイによる徹底的な管理生活の中で、アキトは自身の力が正しく使われる喜びと、誰かに必要とされる温かさを知っていく。しかし、なぜカイは自分にそこまで尽くすのか。彼の過保護な愛情の裏には、未来の世界の崩壊と、アキトを救えなかったという、痛切な後悔が隠されていた。
これは、絶望の運命に抗うため、未来から来た青年と、彼に愛されることで真の力に目覚める少年の、時を超えた愛と再生の物語。
転生令息は冒険者を目指す!?
葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。
救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。
再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。
異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!
とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A
俺の居場所を探して
夜野
BL
小林響也は炎天下の中辿り着き、自宅のドアを開けた瞬間眩しい光に包まれお約束的に異世界にたどり着いてしまう。
そこには怪しい人達と自分と犬猿の仲の弟の姿があった。
そこで弟は聖女、自分は弟の付き人と決められ、、、
このお話しは響也と弟が対立し、こじれて決別してそれぞれお互い的に幸せを探す話しです。
シリアスで暗めなので読み手を選ぶかもしれません。
遅筆なので不定期に投稿します。
初投稿です。
秘匿された第十王子は悪態をつく
なこ
BL
ユーリアス帝国には十人の王子が存在する。
第一、第二、第三と王子が産まれるたびに国は湧いたが、第五、六と続くにつれ存在感は薄れ、第十までくるとその興味関心を得られることはほとんどなくなっていた。
第十王子の姿を知る者はほとんどいない。
後宮の奥深く、ひっそりと囲われていることを知る者はほんの一握り。
秘匿された第十王子のノア。黒髪、薄紫色の瞳、いわゆる綺麗可愛(きれかわ)。
ノアの護衛ユリウス。黒みかがった茶色の短髪、寡黙で堅物。塩顔。
少しずつユリウスへ想いを募らせるノアと、頑なにそれを否定するユリウス。
ノアが秘匿される理由。
十人の妃。
ユリウスを知る渡り人のマホ。
二人が想いを通じ合わせるまでの、長い話しです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる