【完結】潔く私を忘れてください旦那様

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「お帰りなさいませ、ローマン父様」

「アメリア！話を聞いたぞ……大丈夫だったか？ベンジャミンが来ていたと………」

屋敷に帰って来て早々、私の心配をしてくださるローマン父様にまた心配をかけてしまったと心の中で懺悔しつつ。
更に不安を助長させないように、明るく笑顔で答える。

「大丈夫です、ローマン父様……彼とはもう何か起きる事もありません」

「それはいいが……いいか？次にもしも酷い事があれば私に言いなさい………この国を出てもいい、隣国に伝手もある、屋敷や家督を捨ててでもお前が大事なんだ」

「本当に大丈夫です、さぁもう遅いですし、ディナーを一緒に頂きましょう」

過剰…………に見えるかもしれないローマン父様の心配だけど、これは私のせいでもある、母様は私が幼い頃に他界してしまい、一人娘である私をローマン父様は大事に育ててくださった。

忙しい公務の間を抜けては、まだ幼い私との時間を作ってくれていた。
ベンジャミンと結婚した時には、泣いて喜んでいた姿が今でも脳裏に浮かぶ

だからこそ、私が離縁し、あの出鱈目な噂を広められて塞ぎこんでいた時の私に、ローマン父様が抱いた怒りや心配は想像に難くない。
故に、もう父様には心配をかけないように私は努めている。

「それで、ベンジャミンは何を言いに来たんだ？」

「………………離縁した後に私が彼の屋敷に忘れていた物を届けにきたのです、それだけです」

「そ、そうか…」

余計な心配はかけたくないがために、噓をついてしまう。
侍女にも、詳細を言わないで欲しいと念押ししていた、真実が漏れることは無いだろう。

これはきっと、良くない事…だけど真実を知れば更に心配される事は目に見える。

もしここで真実を告げれば、きっと父様は公務を止めてでも、警戒して屋敷から出なくなるだろうから

「そういえば、アメリア……例の件だが順調に進みそうだよ」

「っ！……ありがとうございます。ローマン父様……何から何まで…世話になってばかりで」

「いや、娘が決意を持って成し遂げたい事を言ってくれたんだ……私もできる限りの協力を惜しまないさ」

私は深々と、心からの感謝をこめて頭を下げる。
それは、きっと私の力では成し遂げられなかった事、父の力、富に協力してもらって、私はとある夢を実現させようとしていた。

「それにしても、まさか塞ぎこんでいたアメリアから教師になりたいと言われるとはな……」

「はい、塞ぎこんでいる間に考えていたのです、この国ではまだまだ民達の立場は弱く、貴族社会であり、生まれの階級が絶対、男性は騎士となり命がけで戦果を上げればまだ爵位を頂く可能性はあります、でも道はそれだけです」

「そうだな、貴族や王家は世襲が絶対であり、他の者がその立場になる事は稀だな」

「しかし、勉学を身に着ければ…貴族の公務だけでなく、王城勤めの道も政務の補佐官になる道もあります。命を掛ける必要なく、自分の力で立場を上げられるのです、男女関係なく」

塞ぎこんでいる間に、私は考えていた事
世襲で続く貴族達、故にベンジャミンのように立場を使い暴走する貴族がいれば、止められる者は数少ないだろう、故に貴族達のみが力を持つのではなく

民としての考えを持ち、王や貴族達を諌める事ができる存在が必要だと考えた。
その足がけに私はなりたいと思い、学問を教える教師を目指す事を決意したんだ

ベンジャミンと別れて決意を固めてから、約半年間、時間のほぼすべてを使って、人に教えるに足る教養を身につけた。

まだ不十分かもしれないために、私は父様に小さな学び舎を作ってもらったのだ、まずは数人の生徒を民達から募ろうと思って。
しかし、気掛かりな事もある。

「しかし、お金の方は大丈夫だったのですか？無理なお願いだとは思っていましたので、まさかここまで早く事が進むとは………………」

「あぁ、実はお前の考えに共感してくれた協力者がいてな」

「協力者……ですか？」

「詳細は実際に会ってからにするといい、余計な先入観を持ってはいけないからね」

含みのある言い方に、若干首を傾げつつも納得する事にした。
父様がこう言う時は聞いても答えてくれないと、子供の時からの経験でよく分かっていたから。

「わかりました、その時の楽しみにしておりますね」

「あぁ…そうするといい」

こうして、話合いの後にベンジャミンの事など忘れて、お互いに他愛ない話で談笑をする。
父様の冗談や、笑い話はいつも面白くて笑って話す。

塞ぎこんで部屋に籠っていた時は、もう笑う事などできないと思っていったけど、こうして、また笑って話せる事ができるようになったのは

すべて父様のおかげだ



「いつもありがとう、ローマン父様……」


「何か言ったか？アメリア」


「ふふ、また言います」


笑い合う、この父との時間を私は大切にする。

だからこそ、ベンジャミンとの問題は早く解決すべきだ。
あの男の事で悩む時間など一分であろうと無駄に思えるから