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「では、行ってくるよ…アメリア」
「はい、お父様…行ってらっしゃいませ」
公務のために出かけるローマン父様をいつものようにお見送りし、私は日課の庭に咲いた花に水やりをしながら、陽気に鼻歌を歌う。
ベンジャミンが屋敷に来て、あのふざけた事を申し入れたあの日からもう一か月が過ぎている。
ローマン父様の公務も順調に進み、私の噂とローズベル家の汚名の払拭も順調であり、私が教師になるという話も進んでいる、故にこうして水やりを終えた後は勉学に励む予定だった。
もう、彼のことなんて忘れて
自分の人生を歩んでいるというのに、やはり彼らはそうはさせてくれなかった
「困ります………」
「許可なんていらないわ!入れなさい!」
水やりをしていると、玄関から騒がしい声が聞こえてくる。
私は庭からその場に向かうと、会いたくもない方がおり、思わず消沈する。
「私達は公爵家の者ですよ!?こんな玄関で家主の許可が出るまで待っていろなんて………失礼だと思わないの!?」
「困ります、規則ですので………少々お時間を頂くだけです」
「話にならないわ!!どきなさいよ!」
屋敷の玄関、正確には屋敷を囲む塀の門の前で女性と衛兵が悶着を起こしていた
聞こえてくる断片的なやり取りだけで、誰がおかしな理論を武器にしているのか分かったが……
これ以上、衛兵の方に迷惑をかけられても困るため、私はその悶着の場に向かい声を掛ける。
「何か御用でしょうか?カミラ様……それにベンジャミン様も」
声を掛けた相手、ベンジャミンの母親であるカミラ様は私を見るなり、鋭い視線で睨みながら、怒りの矛先を私へと向けた
「貴方!!私達がわざわざ出向いて来たのですから、直ぐに来なさいよ!!」
凄い剣幕でまくし立てるカミラ様に「はぁ」と、思わずため息を吐いてしまう
結婚していた時から自己主張が激しく、周りの事を考えない方だとは思っていたけど、今は更に悪化しているようにも見える。
「カミラ様、屋敷に来るのなら事前に連絡をしていただくのが筋ではありませんか?急に来られても困ります」
「困る!?公爵家の私達が貴方のために出向いてきていることに、まずは感謝をすべきでしょう!」
ベンジャミンのあの傲慢な考え方は、きっとこの母親の影響なのだろう。
今にして思えば、私もこの傲慢な公爵家に嫁いで一員になるかもしれなかったと思えば、離縁した事は悪い事ではないかもしれない。
「それで、ご用件は何でしょうか?」
このまま話していても、埒が明かないので本題を聞くことにした
「こんな玄関先ではお話にならないわ!客室に案内しなさい!」
「………申し訳ありません、カミラ様にお聞きしたわけではありません」
「は!?」
私はカミラ様の後ろに隠れるように立っているベンジャミンに視線を向ける。
彼はもう26歳のはず、この年齢でまさか色恋の話で母親に頼るとは考えもしなかった…
いよいよ、彼への好意は微塵も残らず消えてしまいそうだ…
「あ、あの…アリー…俺は君と復縁をしたくて、それで…愛しているから」
たどたどしく、前と全く同じ話をし始めたベンジャミンの言葉を遮り、カミラ様は間に入り、またまくし立て始めた
「前にうちの息子が貴方に復縁を申し込んだ時に!貴方は断ったみたいですね?」
「はい、こちらに復縁する気はありませんので」
「そのせいでベンジャミンが心を病んでしまったのよ!?」
「…はい?」
「責任を取りなさい!うちの息子の心を癒すためにも復縁しなさい!……でなければローズベル家の責任として国王様に申し立てます!」
思わず、眩暈がしてしまいそうだった
まず、26歳の男女の色恋に母親が介入してきた事にも驚いたけど…
心を病んだ責任を私達、ローズベル家の責任にしようとしているなんて
「…とりあえず…客室へどうぞ」
話が長くなりそうなために、私は客室へ案内する事にする。
この行為に彼らへの配慮は微塵もない…
こんなどうしようもない話を少しでも疲れないように、私が座って話をしたいと思っただけだ
話を聞いてくれない彼らとの会話は長くなりそう。
「はい、お父様…行ってらっしゃいませ」
公務のために出かけるローマン父様をいつものようにお見送りし、私は日課の庭に咲いた花に水やりをしながら、陽気に鼻歌を歌う。
ベンジャミンが屋敷に来て、あのふざけた事を申し入れたあの日からもう一か月が過ぎている。
ローマン父様の公務も順調に進み、私の噂とローズベル家の汚名の払拭も順調であり、私が教師になるという話も進んでいる、故にこうして水やりを終えた後は勉学に励む予定だった。
もう、彼のことなんて忘れて
自分の人生を歩んでいるというのに、やはり彼らはそうはさせてくれなかった
「困ります………」
「許可なんていらないわ!入れなさい!」
水やりをしていると、玄関から騒がしい声が聞こえてくる。
私は庭からその場に向かうと、会いたくもない方がおり、思わず消沈する。
「私達は公爵家の者ですよ!?こんな玄関で家主の許可が出るまで待っていろなんて………失礼だと思わないの!?」
「困ります、規則ですので………少々お時間を頂くだけです」
「話にならないわ!!どきなさいよ!」
屋敷の玄関、正確には屋敷を囲む塀の門の前で女性と衛兵が悶着を起こしていた
聞こえてくる断片的なやり取りだけで、誰がおかしな理論を武器にしているのか分かったが……
これ以上、衛兵の方に迷惑をかけられても困るため、私はその悶着の場に向かい声を掛ける。
「何か御用でしょうか?カミラ様……それにベンジャミン様も」
声を掛けた相手、ベンジャミンの母親であるカミラ様は私を見るなり、鋭い視線で睨みながら、怒りの矛先を私へと向けた
「貴方!!私達がわざわざ出向いて来たのですから、直ぐに来なさいよ!!」
凄い剣幕でまくし立てるカミラ様に「はぁ」と、思わずため息を吐いてしまう
結婚していた時から自己主張が激しく、周りの事を考えない方だとは思っていたけど、今は更に悪化しているようにも見える。
「カミラ様、屋敷に来るのなら事前に連絡をしていただくのが筋ではありませんか?急に来られても困ります」
「困る!?公爵家の私達が貴方のために出向いてきていることに、まずは感謝をすべきでしょう!」
ベンジャミンのあの傲慢な考え方は、きっとこの母親の影響なのだろう。
今にして思えば、私もこの傲慢な公爵家に嫁いで一員になるかもしれなかったと思えば、離縁した事は悪い事ではないかもしれない。
「それで、ご用件は何でしょうか?」
このまま話していても、埒が明かないので本題を聞くことにした
「こんな玄関先ではお話にならないわ!客室に案内しなさい!」
「………申し訳ありません、カミラ様にお聞きしたわけではありません」
「は!?」
私はカミラ様の後ろに隠れるように立っているベンジャミンに視線を向ける。
彼はもう26歳のはず、この年齢でまさか色恋の話で母親に頼るとは考えもしなかった…
いよいよ、彼への好意は微塵も残らず消えてしまいそうだ…
「あ、あの…アリー…俺は君と復縁をしたくて、それで…愛しているから」
たどたどしく、前と全く同じ話をし始めたベンジャミンの言葉を遮り、カミラ様は間に入り、またまくし立て始めた
「前にうちの息子が貴方に復縁を申し込んだ時に!貴方は断ったみたいですね?」
「はい、こちらに復縁する気はありませんので」
「そのせいでベンジャミンが心を病んでしまったのよ!?」
「…はい?」
「責任を取りなさい!うちの息子の心を癒すためにも復縁しなさい!……でなければローズベル家の責任として国王様に申し立てます!」
思わず、眩暈がしてしまいそうだった
まず、26歳の男女の色恋に母親が介入してきた事にも驚いたけど…
心を病んだ責任を私達、ローズベル家の責任にしようとしているなんて
「…とりあえず…客室へどうぞ」
話が長くなりそうなために、私は客室へ案内する事にする。
この行為に彼らへの配慮は微塵もない…
こんなどうしようもない話を少しでも疲れないように、私が座って話をしたいと思っただけだ
話を聞いてくれない彼らとの会話は長くなりそう。
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