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祝福した料理
しおりを挟む『「緑の光の手」の応用?』
俺、ブロンドの髪に蒼い瞳の聖女ユウは、多分に華美な神官長の部屋で、ややほほのこけた青白い顔の神官長ウェルダンのその言に、多少の戸惑いを覚えた。
(この力は、傷を癒す以外にも使い方があるのか?)
俺は大いに疑問に思った。この力は、多くの負傷者の傷を治してきた。他に何ができるのだろう。
「ああ、そうだね。これまでの聖女ジェシーの研究成果だよ。聖女ジェシー、説明を」
「はーい」
同じくこの部屋に居合わせる赤毛の聖女、小麦色の肌に、そばかすのある明るい顔の、錬金術士でもある聖女ジェシーがはつらつと説明する。ちなみにこの時、俺は聖女用の赤いドレス、ジェシーは淡い銀色のドレス姿だ。
『私たちのこの「緑の光の手」の魔法には、食物に対する「祝福」効果があるんです。例えば、パンにかければ栄養素が上がり、美味しくなります。そして、飲み物に掛ければ味がある物は美味しくなり、健康的な飲料になります。そしてそれは、「緑の光の手」の出力によって、様々に変化します』
俺は、この話の要点をかいつまむように確認した。
「つまり、食べ物にも応用が効くのか?」
確かに、元の世界でも、教会で祝福された食べ物等は存在したような気がする。ここのそれも同じような感じで、しかも直接効能がはっきり表れるのだという話のようだ。
神官長はこうも言う。
「それで、神殿の一般食堂で、まずそれを実践してみようと思う。非番の聖女で、手の空いている者に、これに当たってもらいたい。もちろん、君にもだ。頼めるかな?」
「いいですけど、俺、料理あまり上手くないですよ?それでいいなら、やりますよ」
「大丈夫だよ。最初はパンとスープを君の魔法で「祝福」してくれるだけでいい。でも、君が異国の料理を披露してくれるのなら、是非ともお願いしたい所だけどね」
俺は、元の世界で自炊はしたことがあるので、料理ができない訳ではない。しかし、取り立てて得意というほどでもない。人に出せるほどの物が作れるかは少し疑問であった。
…そしてそれは、神官長の意向で、神殿の一般の食堂で試される事となった。
☆
『あなたがこういう「公務」をされるとは、意外でしたね。聖女ユウ』
お付の文官、青い文官帽に文官服、銀縁眼鏡の冷静なイノセントが、白い壁と茶色い床の、神殿の一般食堂のテーブルについて言う。ちなみに今の俺は、白い調理服姿だ。
『ここのパンやスープを「祝福」して美味しく健康的なものにするという話は分かりました。しかしこの追加メニューはなんです?チャーハンとかラーメンとか。良く分からないのですが』
「俺の元居た世界の料理だよ。チャーハンは穀物に具材を混ぜて炒めたもので、ラーメンは特製のスープにつけた麺類だ。まだお試しの段階だけど、食べてみるかい?」
「じゃあ、そのチャーハンというのを頼めますか?」
イノセントの求めに応じて、俺は厨房で、調理用の火の出る魔導装置-要は元の世界でのコンロのような物-をつかって、ここで取れる穀物を、細かく刻んだ野菜や肉を入れた、調理鍋で炒め始める。
スパイスの効いた調味料を振りかけて、混ぜながら炒めて、香ばしく程よく穀物と具に火が通ったら、皿に盛りつけてできあがり。
そして仕上げに「緑の光の手」をかざして、薄緑の光を当てて、それを「祝福」すると、イノセントの元に運んだ。
イノセントは「要は穀物と具材の混ぜ料理ですね」といって、スプーンでそれを口に運ぶ。彼は、饒舌なほうではないが、これを黙々と食べ、完食すると、こう感想を述べた。
「穀物と具材がよく絡んでいて、とても美味しい味でした。彼にも作って上げると、喜ばれますよ」と。
食堂では、ラーメンも好評を博した。塩をベースに調味料を混ぜて作った粗いスープに、ここの麺類で、一番中華麺に近いものをゆでて加えた、まだまだ試作段階の物で、それほどいい出来とは言えなかったが、パン食が中心のここの人たちには新鮮だったようだ。もちろんこれにも「緑の光の手」をかざしている。
「厨房の一部を任されるなら、これぐらいはやらないとな」
俺はそう呟くように言い、ここの白い調理服姿から、厨房隣の更衣室で、赤いドレス姿に着替えると、そのまま厨房を後にした。
☆
厨房の出口でいつもの茶色と白の上下服姿のセルバートと合流して、俺はこの、今は木剣使いである艶のある長髪の美剣士と、街に出る事にした。
このまま、厨房の一部を任されるなら、出せる料理の種類も増やしてみたいと思い、食料品店での食材探しも兼ねての外出だった。
店では、既に湯で戻すだけの乾麺、様々な種類の穀物、野菜や肉類、魚等、食材には事欠かず、調味料も目新しい物ばかりだ。
店の主の説明を受けて、どういうものかを聞きながら買い揃えて、セルバートを荷物持ちにさせると、この木剣の美剣士は、文句こそ言わないが「私にも、そのうち何か作ってくれると、嬉しい」などと真顔で言った。
で、神殿に戻り、夕食時にも、俺の出番はやってくる。神殿の一般食堂の厨房で、料理人が作ったパンとシチューを「緑の光の手」で「祝福」して、それは神殿の文官、神官、女官達に配膳される。
みな一様に、生き生きとした表情で、食事を楽んでいる。俺は一度にメニューは増やせないが、試作として作った、特製の卵丼を、食事に来たセルバートに出してみた。
この卵丼は、炊いた穀物をベースに半熟の卵をかけて、さらに特製のあんかけを加えたもので、もちろん「緑の光の手」も使用済みだ。
「試作品だから、味の保証はできないぞ」といって出したものだが、セルバートは、俺の手料理に感激したようすで、スプーンでこれを口に運んで、手早く平らげた。
「穀物と半熟の卵がこんなに合うとは知らなかった。貴女にこんな才もあったとは、意外だった」というのがセルバートの感想で、どうやら、口にあったようだ。「緑の光の手」での「祝福」で味が向上しているだけかも知れないが。
この俺のあらたな試みは好評で、この「成果」に神官長は満足した様子で「負傷者の癒しは他の聖女に任せて、この料理の祝福の公務に力を入れて見ないかい?」とかいいだした。
「聖女は何人もいるが、これだけ料理熱心なのは、君ぐらいだ」というのがその理由だ。
…別に熱心に料理をした覚えはないのだが、負傷兵もほとんどこなくなり、聖女の公務も半分開店休業状態だ。
俺がこの任にあたっても、別段問題ないとも思った。どうせ半分暇になるなら、こういうのもありかとも思った。何より、自分の作った物を皆が美味しく食べてくれるのが、少しばかり嬉しかった。
未知の未来が、少しだけ拓けたような気がする。この研究をしてきた聖女ジェシーにも感謝しなければなと思いつつ、俺は神殿での「料理の祝福」の公務に回るという、この神官長ウェルダンの勧めを受ける事にした。
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