深い森の彼方に

とも茶

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第十二章 また別の出会い

12-2

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長身の娘と会うことは諦めなくてはならないのだろう。それもなぜなのか、もう少し考えなくてはならない。たぶん、宿舎の在処や、城郭が実際にあるかどうか、運転手のいう城門がどこなのか、それとも城門と城郭は同じなのか。懐と時間の余裕ができたのでもう少し調べようと思った。
それには協力者だ。一人では無理がある。長身の娘の代わりはだれか。背景ではないと確信ができる人だ。まず、本部の美少女、運転手、そして地下街管理所の管理人、学校の用務員、よくわからないがピンクハウスの女。あと肝心なところがリーダーだ。
美少女には他の要件で会いに行くのは憚られた。運転手もあの要件以外に会いようもなかった。ピンクハウスは仮に会えたとしても協力者のレベルにはないだろう。本来ならリーダーが一番だが、こちらから会いに行く方法がないうえに最近会う頻度が極端に減っている。
そうすると、いる場所がわかっている管理人と用務員しかいなかった。愛想がよくなったとはいえ、あまり得意な人ではなかったが、やむを得ない。

あの用務員が「いつでも遊びにおいでよ」と言っていた言葉を信じて、学校に向かった。
あいかわらず、品行のあまり芳しくない生徒たちの嬌声が響き渡っている。建物も古びたままだ。でも何となく生徒たちの生気は少々失せてきているような気がする。しかし、用務員は前と変わった様子らなかった。
「こんにちは。」
用務員室でお茶を飲みながら生徒たちと雑談していた。
「ほら、授業が始まるぞ、早く行け。」
用務員は生徒たちを追い払うと、私を部屋に招きいれた。
「日中のんびりとやってくるなんて、いいご身分になったね。」
「いえいえ、用務員さんも今日は余裕たっぷりで。新しい作業員がはいったんですか。」
「いや、こないね。あんたの後に新人なんてよこしてくれないよ。」
「それじゃ、たいへんなんじゃないですか。」
「まあ、掃除は子供たちにやらせることにしたからね。ガキどもはこき使わないとつけあがるばっかりだからね。」
と外に目をやった。すると箒を振り回している女子生徒が2人、まるでチャンバラだ。
「こら、まじめにやれ。」
用務員が大声を張り上げると、生徒たちはあわてて掃除を始めた。
「教師がいいかげんだから、あたしが尻をたたかないとサボってばかりいる。ほんとに大変だよ。で、何か急用でもあるのかい。」
「急用というわけではないのですが、ここで仕事をしていたとき住んでいた宿舎に行ってみたいのですけど、場所がわからなくなってしまって。朝、学校まで通うのにあまり時間もかからなかったので、この近所かと思って来てみたんです。」
「ああ、そうかい。あの宿舎ね。昔はそこらから見えたような気もするんだが、何かわかりににくくなったよね。」
知らないといわれるんじゃないかと思ったが、知っているようなのでほっとした。
「最近この周りに建物が建ったのですか。」
「いや、そうでもない。何故かわかりにくくなったんだ。道が複雑になったというか、他の宿舎も建ったような気がする。」
「場所はわかりますか?」
「いや、説明しろと言われても自信ないな。ああ、そうだ。あの宿舎の裏は森だったはず。そうだよね。」
「裏は森でした。」
「で、あの森の入口の杉の木はやけに高くてね、どこからでも見えたはずなんだ。それを目標にしたら行けると思うけど。」
「町からも見えるんですか?」
「町の中心部からは無理だな。ここの屋上に上がってみようか。そこなら見えるはず。ほらおいで。」
用務員は廊下に出て、階段を上がった。4階まで行くと片隅の倉庫のような場所の奥に鉄製の急な階段があり、そこを上っていくようだ。
「こら、そこは生徒は立入禁止だろ、何やってる。」
突然叫んだ。
「まずい、あのババアが来やがった。」
あわてて階段の裏から3人の女生徒が飛び出してきて、慌てふためいて廊下を走って去っていった。階段まで行くと、強い刺激臭がした。
「あいつらは札付きのワルでね。しょっちゅうこういうところでシンナー吸ってラリッテルんだ。」
階段下にビニール袋が放置されていた。
「今日は、まだ吸う前だな。」
「こんなこと、日常茶飯事なんですか。」
「ああ、まあこの程度の学校だからね。」
階段を上って屋上に出た。空き缶、ペットボトルが散乱し、吸い殻だらけだ。
「ここも、生徒に掃除させるんですか。」
「当たり前だ。でも見張り役がいないんで、だめだ。かえって汚れていく。」
空き缶をけっとばさないようにして南のはずれにいった。用務員は金網越しに眺めていたが、
「ほら、あれだ。」
指差す方向を見ると、遥かかなたにこんもりとした森があり、その中心付近にひときわ目立つ高い杉の木があった。その森はさほど大きくはなく、私がこの世界に来るときに通ってきた鬱蒼とした果てしなく続く森というような森ではなかった。
「結構、遠いんですね。5kmぐらいありそう。」
「あるかもしれないね。でもあんた、よくあんな遠くから歩いて来たね。」
「でも、そんなに歩いた記憶がないのですけど。」
「確かに、もっと近くだったような気もする。さあ、わかったでしょ。下りようか。」
再び、ゴミだらけの屋上を通り抜け、シンナーの刺激臭が立ち込める階段をおりた。
「今日、これから行くってのはたいへんだよ。行くのは別の日にしなよ。まあ、今日はちょっと寄って付き合っていきなさいよ。」
用務員は私を用務員室に招き入れた。
「今日、いい酒の肴が手に入ってね。」
戸棚から紙包と一升瓶を取り出した。何やら燻製のようだった。
結局その日は、夜更けまで用務員に付き合い、帰ったのは夜遅くだった。
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