深い森の彼方に

とも茶

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第十二章 また別の出会い

12-1

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宿舎を探してみようと思った。
学校はどこにあるのかわかった。あの地下街も仕事をしていたときと全く同じような構造で、地上の繁華街の場所もわかった。いつでも行けるようになった。
あの陰険なOLがいたオフィスは存在しない。私が消してしまったあと、同じ場所と思われるところには、全く別のビルが建っていた。かといって、ビルが建て替えられて新築ビルが建っているわけではない。単に違うビルになっているのだ。
書類運びをさせられた事務所も存在しない。でも、事務所の入っていたビルはちゃんと存在している。しかしビルの中は、全然別のオフィスが十年前から存在しているような様子で事務所を構えていた。
概ねこの世界は、長身の娘と話し合ったように大半が私の「背景」であり、その中に私と直接関与する「実在」があってそれが混在しているのだ。
オフィスでの仕事は背景だった。そこでの仕事は、単なる事務処理というか、書類整理や清書、書類運びなどで実作業を伴っていない。実際の書類もほとんど意味のない文書だった。だから、仕事も、その事務所も、そこにいたOLや受付の女性もすべて一連の背景だったのだろう。
しかし、学校や地下街は違った。私は実際にトイレの床に這いつくばり、水を流し、汚物をかたづけ、実際に働いていた。だから学校や地下街は実在しているし、行くこともできた。そしてそこにいた管理人や用務員は実際に存在し、私のことを記憶していた。
唯一確認できていないのがあの宿舎だ。
繁華街を通り抜ける、アパートや古い木造家屋、その中に赤ちょうちんに八百屋、魚屋、乾物屋、荒物屋が混在する下町風の地区、そこをすぎてドヤ街風の簡易宿泊施設のはずれだということはわかっている。しかし、それらしき道を選んで進んでも、どこまで行っても下町風であることは下町風だが、同じような下町風の町がずっと続いていた。宿舎の裏に森があるはずだった。川も流れているはずだった。それらしき場所はどこにもなかった。
その日も結局見つからず、自宅のマンションの近くまで戻ったとき、またいた。あのピンクハウスの娘だ。今日は私のほうから近づいてみた。ピンクハウスは観念したように私の正面に立ち私のほうを向いた。
びっくりした。男だった。服装は完全に女だが、顔つき、髪形、肩幅、すべて男だった。スカートから出ている足も、骨ばっているうえに脛毛も若干生えているようだ。喉仏もある。手も足も大きい。ベルトのついた大きなサイズのピンクのパンプスを履いている。
「あの・・・」
声も全く男声だった。
「何の御用ですか、この前も家の前をウロウロしていたようですが。」
「初めて話しかけてもよさそうな方を見かけたので。」
「私と話をしたかったというのですか。」
「突然この世界に飛び込んで、リーダーから色々怒られ、相談できる友達になれそうな人がいないかと探していたらあなたを見掛けたんです。」
「あなたのリーダーって?」
「ロングヘアが美しくて、いつも花柄の素敵なドレスを着ていて、でも厳しいんです。」
「ちょっと違うのね。」
「何が違うんですか?」
「いや、何でもないの。話がしたいのなら、私の部屋へ来る?」
「勝手にうろつくとリーダーに殴られるんです。だから、ちょっと立ち話ぐらいで。」
「わかった。何を聞きたいの?」
「あ、ごめんなさい、リーダーが私のことに気付いたみたい。じゃあ、また。」
あわてて、スカートの裾をひるがえし表通りに向かって駆け出していった。
彼女なのか彼なのか不明だが、あのピンクハウスは私にとって、リーダーや運転手などと同じように、背景ではない実在のありありとした姿で私には見えていた。絶対に背景ではない。背景は自ら私に話しかけるようなことはしないから。
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