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車中にて

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「おい。早く出ようぜ。あのボウガン女から少しでも離れてぇよ」
大河は足をかばうようにして車の助手席に乗り込んだ。

「まずはどこに行くかだよな。今日に備えてガソリンを貯めておいたとはいえ、そんなに走れないぞ」
俺は、キーを回し、ガソリンメーター残量が4分の1程度になっていることを示す。

「樹はどこに土地勘があるんだ?生まれは、ここら辺じゃないよな?お前のことを見たことなかったぞ」
大河が尋ねてくる。

「生まれは那須塩原だな。でも、地元は人が少なすぎて無理だった。俺と同じ期間に18歳を迎える女子はいなかったからな」
と、返答する。

「確かにそれは無理だな・・・ご愁傷様」と、大河が残念そうな声をもらす。

「車を持ってるってことは、樹は先時代遺物の調査係か?」と、大河が尋ねてくる。

「いや、俺は食料調整係だよ。工場で生産されるシリアルをひたすら作ってたよ」と、返す。

人類が培ってきたテクノロジーの大半は、この35年間で失われた。社会のインフラを支えてきた「大人」が消滅したことが理由だ。
わずかに残った電力は、食料の製造や電灯に充てるのが精一杯で、スマホやパソコンといったネット環境はわずか数年で崩壊した。

「ここから7日間、全力でナンパかよ。人生初の挑戦だわ」と大河が独り言のようにつぶやく。

「当たり前だろ。今日までチ○コもたたなかったんだぜ俺ら。18歳初日は全員童貞だわ」と、あきれるように返す。

「とりあえず、市街地に出るか。18歳ピチピチの熟女がいるかも知れないからな」と大河。

「それしかないよな・・・。まぁ車で15分ってところだな。出るか」。車を発進させる。

「それでは、第一声いかせていただきます」。大河はおもむろに車の窓を開けて口元に手をあてた。

「誰か俺とセックスしてくれ~~~!!」。

大河の大声は、だれも歩いていない国道沿いに響いた。

俺も同じように窓を開けて、声を出す。「まずはお友達から始めませんか~~!!」

「それじゃあ、時間が足りなすぎるわww」と、大河が笑う。

その時、ちょうど車が林の脇にさしかかり、セミの鳴き声が車中に入ってきた。

「セミってあんなに堂々とナンパしてるんだもんな。俺らもセミ先輩を見習うしかないんだよな・・・」。大河がぼそりとつぶやいた。
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