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15章 祈り(後)
44話 縁(3)
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――翌朝。
「ああ、おはよう。早いなー」
「……お前こそ」
1階へ掃除道具を取りに行くと、カイルと出会った。
風呂上がりのようで、肩にタオルを掛けている。
時刻は6時半。
「早くに目覚めちゃってさ、ちょっと走ってきたんだ」
「そうか」
「ちょうどいいや、俺これから朝飯食うから付き合えよ」
「……掃除が終わったあとなら」
「え~っ? 俺、腹減ってるし早く食いたいんだよ。1日くらいいいだろ、サボれよ」
「サボらない。1人で食え」
「いやだね」
「『いやだね』って何だ? ……そんなに俺とメシが食いたいのかお前」
「食いたい」
「えええ……」
半ば冗談で言ったことなのに、普通に乗っかってこられた。
――寒気がする。なんでこんなに食い下がってくるんだ。
俺の反応は全く意に介さず、カイルは「よーし」と言いながら肩にかけているタオルを頭に巻いてグイッと結んだ。
「しょーがない。手伝ってやるからさっさと終わらせようぜ」
「ええー……」
「何だよ」
「……手伝うのはいいけど、手を抜かずちゃんとやれよ」
「分かってるよぉ、マジメかよ」
「マジメだが」
「うるさい~」
◇
2人で分担してやったため、掃除はいつもより20分ほど早く終わった。
その後、約束 (?)通りに食堂へ。時刻は7時。
「いやあ、たまに掃除してみるのもいいな。いい気分転換になった。じゃ、食おうぜ~」
さわやかに笑いながら、カイルがまずはアイスコーヒーを一口啜る。
今日の朝食はトースト、目玉焼き、ベーコンとウインナーを焼いたもの、それと付け合わせのサラダ。
何の変哲もない、ごくごく普通の食事。だが……。
「綺麗に焼けてるな、これ。やるじゃん」
「……師匠の教え方がいいから」
「はは、そうだなあ」
朝食は俺が作ったものだ。
夏頃、フライパンに卵を落として焼いただけの目玉焼きだけは作れるようになっていたが、ジャミルの丁寧で優しく根気よい指導により、最近は両面焼きや蒸し焼きなど少し手の入った焼き方もできるようになった。
人から見れば大したことではないだろうが、これは俺にとっては革命だった。"モノ作り"の壁が取り払われたからだ。
(……モノ、作り……)
『モノをつくっちゃだめだよ。バツがくだるよ。神様がゆるさないよ』
『こんなことで罰は下らない。あるのは、子供のやることなすこと気に入らない大人どもの暴力だ。僕は理不尽には絶対に屈しない』
『僕は、悪いことを、してない……』
(…………)
「……グレン? 聞いてるか?」
「!」
過去の回想に意識を飛ばしているところ、カイルからの呼びかけで引き戻される。
「あ……悪い、聞いてなかった。何だ?」
「今日は会議するのか? って聞いた」
「会議……いや、今日はしない。明日の流れの説明と最終確認くらいだ。練習も何も、しようがないからな」
「……そうだな、ぶっつけ本番てやつだ。兄貴の魔法と、あの"沈黙の剣"と……」
「沈黙の剣か……呪文があればより確実らしいが、サンチェス伯夫人に対するもののような"相反する2つの意思"というものがないから難しいな」
「……呪文か。あるぞ」
「えっ……本当か?」
「ああ。唯一絶対、だと思う――」
◇
「……なるほど。それなら、確かに」
「剣突き立てたあと、この呪文を唱えれば……って言いたいとこだけど、難しいよな実際……。額の紋章、赤眼、新月……向こうに有利な条件が揃いすぎてる」
「…………」
――それらに加え、シルベストル邸の礼拝堂周りは自然豊かな庭園だ。草木や花、それらが埋まっている土……全てが土術使いイリアスの武器や防具となる。
当日カイルは魔法耐性の高い服を身に着ける。だが、あくまでも"服"だ。素早い動きを優先するため、鎧などは着られない。
ジャミルと同じく、カイルの役割も相当に重い。命の危険すらある。
「……まあ、大丈夫だ。絶対に次の攻撃に繋いでみせる。信用しろ」
「別に、疑っていない」
そう言うとカイルは目を丸くする。だがすぐにその目を細めニッと笑った。
「……任せろよ」
「ああ」
――「死ぬな」とか、「頼むぞ」とか、そういう言葉をかけるべき場面かもしれない。
だが、あえて言わなかった。
「信用しろ」に対する、「疑っていない」――そのやりとりだけで十分だ。
こいつの実力は昔から知っている。戦いに際して、今さら言葉は必要ないだろう。
「……明日だ」
「ああ。よろしく頼む」
「任せろ」
どちらからともなくそう言い、軽く手を叩き合う。
今日は何もしない。明日のために心と体を休める。
皆、心の準備は出来ているだろうか……。
「ああ、おはよう。早いなー」
「……お前こそ」
1階へ掃除道具を取りに行くと、カイルと出会った。
風呂上がりのようで、肩にタオルを掛けている。
時刻は6時半。
「早くに目覚めちゃってさ、ちょっと走ってきたんだ」
「そうか」
「ちょうどいいや、俺これから朝飯食うから付き合えよ」
「……掃除が終わったあとなら」
「え~っ? 俺、腹減ってるし早く食いたいんだよ。1日くらいいいだろ、サボれよ」
「サボらない。1人で食え」
「いやだね」
「『いやだね』って何だ? ……そんなに俺とメシが食いたいのかお前」
「食いたい」
「えええ……」
半ば冗談で言ったことなのに、普通に乗っかってこられた。
――寒気がする。なんでこんなに食い下がってくるんだ。
俺の反応は全く意に介さず、カイルは「よーし」と言いながら肩にかけているタオルを頭に巻いてグイッと結んだ。
「しょーがない。手伝ってやるからさっさと終わらせようぜ」
「ええー……」
「何だよ」
「……手伝うのはいいけど、手を抜かずちゃんとやれよ」
「分かってるよぉ、マジメかよ」
「マジメだが」
「うるさい~」
◇
2人で分担してやったため、掃除はいつもより20分ほど早く終わった。
その後、約束 (?)通りに食堂へ。時刻は7時。
「いやあ、たまに掃除してみるのもいいな。いい気分転換になった。じゃ、食おうぜ~」
さわやかに笑いながら、カイルがまずはアイスコーヒーを一口啜る。
今日の朝食はトースト、目玉焼き、ベーコンとウインナーを焼いたもの、それと付け合わせのサラダ。
何の変哲もない、ごくごく普通の食事。だが……。
「綺麗に焼けてるな、これ。やるじゃん」
「……師匠の教え方がいいから」
「はは、そうだなあ」
朝食は俺が作ったものだ。
夏頃、フライパンに卵を落として焼いただけの目玉焼きだけは作れるようになっていたが、ジャミルの丁寧で優しく根気よい指導により、最近は両面焼きや蒸し焼きなど少し手の入った焼き方もできるようになった。
人から見れば大したことではないだろうが、これは俺にとっては革命だった。"モノ作り"の壁が取り払われたからだ。
(……モノ、作り……)
『モノをつくっちゃだめだよ。バツがくだるよ。神様がゆるさないよ』
『こんなことで罰は下らない。あるのは、子供のやることなすこと気に入らない大人どもの暴力だ。僕は理不尽には絶対に屈しない』
『僕は、悪いことを、してない……』
(…………)
「……グレン? 聞いてるか?」
「!」
過去の回想に意識を飛ばしているところ、カイルからの呼びかけで引き戻される。
「あ……悪い、聞いてなかった。何だ?」
「今日は会議するのか? って聞いた」
「会議……いや、今日はしない。明日の流れの説明と最終確認くらいだ。練習も何も、しようがないからな」
「……そうだな、ぶっつけ本番てやつだ。兄貴の魔法と、あの"沈黙の剣"と……」
「沈黙の剣か……呪文があればより確実らしいが、サンチェス伯夫人に対するもののような"相反する2つの意思"というものがないから難しいな」
「……呪文か。あるぞ」
「えっ……本当か?」
「ああ。唯一絶対、だと思う――」
◇
「……なるほど。それなら、確かに」
「剣突き立てたあと、この呪文を唱えれば……って言いたいとこだけど、難しいよな実際……。額の紋章、赤眼、新月……向こうに有利な条件が揃いすぎてる」
「…………」
――それらに加え、シルベストル邸の礼拝堂周りは自然豊かな庭園だ。草木や花、それらが埋まっている土……全てが土術使いイリアスの武器や防具となる。
当日カイルは魔法耐性の高い服を身に着ける。だが、あくまでも"服"だ。素早い動きを優先するため、鎧などは着られない。
ジャミルと同じく、カイルの役割も相当に重い。命の危険すらある。
「……まあ、大丈夫だ。絶対に次の攻撃に繋いでみせる。信用しろ」
「別に、疑っていない」
そう言うとカイルは目を丸くする。だがすぐにその目を細めニッと笑った。
「……任せろよ」
「ああ」
――「死ぬな」とか、「頼むぞ」とか、そういう言葉をかけるべき場面かもしれない。
だが、あえて言わなかった。
「信用しろ」に対する、「疑っていない」――そのやりとりだけで十分だ。
こいつの実力は昔から知っている。戦いに際して、今さら言葉は必要ないだろう。
「……明日だ」
「ああ。よろしく頼む」
「任せろ」
どちらからともなくそう言い、軽く手を叩き合う。
今日は何もしない。明日のために心と体を休める。
皆、心の準備は出来ているだろうか……。
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