【完結】カラスとすずらん ~意識低い系冒険者パーティの台所を預かっています~平凡なわたしと、闇を抱えた彼の恋の話~

天草こなつ

文字の大きさ
47 / 385
5章 兄弟

7話 ときめいちゃう心

しおりを挟む
「レイチェルちゃ~ん、ご飯よ?」
「んー……ごめん、今日はいらないや」
「え~? 先に言っておいてよ~」
「ごめんー、明日のお弁当にするから」
「んもー……」
 
 ドア越しに会話していたお母さんが階段を降りていく音が聞こえる。
 
「…………」

 わたしは自室のベッドのシーツにくるまり、今日あったこととぐちゃぐちゃの思考を整理していた。
 カイルとジャミルのこと。何もできない、言えない現実。
 それから――今頭の中に存在している、彼への気持ち。
 
「ううう……」

 違う違う。これはきっと違う。
 前カイルにお姫様抱っこで助けてもらった時なんかもっとドキドキして顔真っ赤になっちゃったけど、あれって結局好きとかそういう気持ちじゃなかったじゃない?
 
 ……そう! そうよ!
 あの時カイルはすっごくかっこよかったけど、グレンさんてば「ヒュー」とか口笛吹きながら現れて。
 それも「さーっすが先輩」「王子かな?」なんてふざけた言動で……。
 それに、ジャミルの為に教会に聖水もらいに行ったりしてくれてるとはいえ『楽な依頼で気楽に過ごしたい』なんて言ってたし、何かと言えば『俺金持ってるから』なんて。それもそのお金は競馬で死ぬほど当てたからなんてさ。
「お兄ちゃま」なんて呼ばれてるし、ジャミルにお玉で殴られたりお尻蹴られたりしちゃって、目の前にカギがあったら開けたくなっちゃう病気(?)で。
 あとココアに味噌入れたやつとか飲まされてさ、すっごいマズかったんですけど!
 何考えてるのかな? ポンコツでかっこ悪いよね!?
 
「…………だめだぁ」

 一生懸命かっこ悪いところを思い出してみるけど、結果彼のことばっかり考えてる……。
 ――うーん、これはきっとあれよ。カイルのことを聞いて悲しかったり、どうすればいいのか分からない所にそばにいたから、なんか好きかもって錯覚しちゃってるのよ。
 なんだっけ……『吊り橋効果』?
 うん、きっとそれよ。知らないけど。
 
 だからこれは、一時的なもので! 気の迷い! なの!
 
 
 ◇

 
 ――翌日。返却し忘れた本を返しに図書館に来ているわたしですが……。

(……どうしよう……)

 ササッと返してササッと帰るつもりだったんだけど、本棚の影に隠れてこっそりグレンさんの座る司書席を覗き見しているのです……。

(そういえばテオ館長が『水曜日もいるんだよ』って言ってたっけな……)

 返すのは明日でもいいって言ってたのは今日いるからっていうのもあったんだ。
 司書の席に座っているグレンさんは客がまばらなこともあってか、ずっと本を読んでいる。

「…………」
 
 か……、
 か……、
 かっこいいいいい……。
 
 サラサラの黒髪に白磁のような白い肌はノルデン人特有のもの。
 伏し目がちに本に目を落とす姿は『かっこいい』というよりむしろ『綺麗』かもしれない。
 一時的な気の迷いじゃなかった。
 誰も見ていないのをいいことにわたしはしゃがみこんでしまう。

(これじゃあ数ヶ月前に戻ってるよ、わたし……)
 
 ムリしんどいつらい……。
 吊り橋効果じゃなかった……そもそも定義知らないし。
 
(どうしてこうなった……)
 
 ダメダメ、これじゃ。……ササッと本を返して帰ろう、うん。
 わたしは意を決して立ち上がり、司書の席まで歩み寄る。すり足で。

「スミマセン。これ、返しそびれてたやつです」
「ん? ああ」

(……!)

 心臓が跳ね上がる。

(ままっまま、待って待って、落ち着いてよ落ち着いて……)

 ――『ああ』しか言ってないじゃない! 2文字だけでこんななるなんてどうかしてる!

「お、遅れてスミマセン……」

 顔を見るとまたドキドキしちゃいそうだから、彼の手元に目線を落としてなんとか平静を保つ。

「……」

(大きい手だなぁ……)

 ゴツゴツしていて大きな手。白い肌にはシミもなくとてもきれいだ。正直わたしより白い。
 わたし園芸してるからちょっと日焼けしちゃってて。
 そもそも日焼けしていなくてもここまで白くないなきっと……羨ましいなぁ。
 ――ところで、さっきまで真剣な顔で何読んでたんだろ……?
 そう思って本に目をやる、と……。

「『かどっこちゃんのぼうけん』……」
「ん? ああ。知ってる?」
「知ってますけど……」
「けっこう面白いぞ」
「そ、そうですね……」
 
『かどっこちゃん』シリーズは、消しゴムを貸したら角を使われてしまった人の無念から生まれたというシュール系のゆるキャラだ。
 かわいい見かけなのにセリフ回しが男らしくて人の消しゴムの角を使う者を断罪する様がシュールで……って、それはいいか。

「キャンディ・ローズ先生といい、こういうの読んでるって意外ですね……」
「えー? 小難しい歴史書とか魔法論とか読んでた方がいいか?」
「あ、いえ、すみません、そういう意味じゃ……個人の自由だと思います。わたしだってキャンディ・ローズ先生の本読んでるし」
「面白いのにな」
「全くです」
「死ねばいいのにな」
「死って、またー……」

 わたしが咎めるとグレンさんはメガネをクイッと上げて少し笑う。

(イケメン……)

 前までは呆れて『これカッコいいって思う所かな』とか思っていたはずなのに、今のわたしときたら。
 
「で、今日は何も借りないのか」
「えっ! あ、はい。今日はいいです」
「そうか」
「えと、じゃあわたし、失礼します」
「ああ」
 
 
 ◇
 
 
 帰り道……。

(分かってたけど、やっぱり気のせいにはできないんだなぁ)
 
 さっきから心臓がドキドキとうるさい。
 でも、ふわふわそわそわして何か心地良い。
 かっこいいとか、かっこ悪いとかじゃない。
 ……あ、いえ。かっこいいですけれども。
 
 夢見がちな子供っぽい小説に、あの図書館――そういうのが好きだって人に言うとちょっとバカにされたりする。
 だけどグレンさんはそういうのを笑ったりしないし、むしろ同じに好きだって、面白いって言ってくれる。
 同じものを好きだっていう感覚を共有できて、他愛もない話で少し時間を潰す。
 
 ……わたしはきっとそれが嬉しいんだ。
 
 あれもこれも、わたしにはどうにもできないことばかり。
 ――この気持ちだってそうだ。
 叶うことはきっとない。だけど、今はこの気持ちを楽しみたい。
 早く、バイトの日にならないかな。
 グレンさんに会いたい。
しおりを挟む
感想 109

あなたにおすすめの小説

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました

たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

仕事で疲れて会えないと、恋人に距離を置かれましたが、彼の上司に溺愛されているので幸せです!

ぽんちゃん
恋愛
 ――仕事で疲れて会えない。  十年付き合ってきた恋人を支えてきたけど、いつも後回しにされる日々。  記念日すら仕事を優先する彼に、十分だけでいいから会いたいとお願いすると、『距離を置こう』と言われてしまう。  そして、思い出の高級レストランで、予約した席に座る恋人が、他の女性と食事をしているところを目撃してしまい――!?

美人同僚のおまけとして異世界召喚された私、無能扱いされ王城から追い出される。私の才能を見出してくれた辺境伯様と一緒に田舎でのんびりスローライ

さら
恋愛
美人な同僚の“おまけ”として異世界に召喚された私。けれど、無能だと笑われ王城から追い出されてしまう――。 絶望していた私を拾ってくれたのは、冷徹と噂される辺境伯様でした。 荒れ果てた村で彼の隣に立ちながら、料理を作り、子供たちに針仕事を教え、少しずつ居場所を見つけていく私。 優しい言葉をかけてくれる領民たち、そして、時折見せる辺境伯様の微笑みに、胸がときめいていく……。 華やかな王都で「無能」と追放された女が、辺境で自分の価値を見つけ、誰よりも大切に愛される――。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

王太子妃専属侍女の結婚事情

蒼あかり
恋愛
伯爵家の令嬢シンシアは、ラドフォード王国 王太子妃の専属侍女だ。 未だ婚約者のいない彼女のために、王太子と王太子妃の命で見合いをすることに。 相手は王太子の側近セドリック。 ところが、幼い見た目とは裏腹に令嬢らしからぬはっきりとした物言いのキツイ性格のシンシアは、それが元でお見合いをこじらせてしまうことに。 そんな二人の行く末は......。 ☆恋愛色は薄めです。 ☆完結、予約投稿済み。 新年一作目は頑張ってハッピーエンドにしてみました。 ふたりの喧嘩のような言い合いを楽しんでいただければと思います。 そこまで激しくはないですが、そういうのが苦手な方はご遠慮ください。 よろしくお願いいたします。

処理中です...