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4章 少年と竜騎士
7話 既視感
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「うわーっ! すげ――! これドラゴン肉まんでしょ!?」
「ああ……」
ジャミルがせいろでドラゴン肉まんを作っているのをフランツが右から左からピョコピョコと顔を出して見つめる。
「ジャミル兄ちゃん、こんなの作れるんだ! すごいなー!」
「ん……ああ」
キラキラのフランツに対し、ジャミルはなんだか浮かない顔でドラゴン肉まんを食堂に持ってくる。
「へぇー、キミなかなかやるじゃない。食べていいの?」
「ああ」
「やったー! いただきますっ!」
「いただきまーす」
わたし達はホカホカのドラゴン肉まんを食べる。ちなみに牛肉。
「ふぁー! おいひー! ラーメンと食べたらハッピハッピーだわーこれ!」
「うん、この前はちょっと冷めちゃってたけど、今日のはホカホカですっごいおいしー!」
「おいしー! ジャミル兄ちゃん、すごいなー!」
「……あのよ、フランツ」
「なに?」
「わりぃ……オレのこと『兄ちゃん』って呼ぶの、やめてくんねぇかな」
「えっ? ……じゃあ、なんて呼べば」
「ただ『ジャミル』でいい」
「えっ、でもでも……目上の人を呼び捨てになんて」
「目上っていうもんでもねぇよ。……頼んだからな」
「うん……」
「おれ、何かいけないことしちゃったのかなぁ……」
食事の後片付けをしながらフランツがショボンとした顔でつぶやく。
「そんなことないよ……ちょっと事情があるだけだよ。フランツは気にしなくていいの」
「うん……」
「…………」
カイルがいなくなったその日から、明日でちょうど5年。だから彼は、弟が好きだったドラゴン肉まんを作っていた。
竜騎士を見てはしゃいだり、ドラゴン肉まんをおいしそうに食べたりしてはしゃぐフランツ。
そんな彼に『兄ちゃん』って言われると、カイルを思い出してたまらないんだろう。
(ジャミル……)
◇
「あれっ? またクライブさんが来てる」
お昼過ぎくらいに、飛竜に乗ったクライブさんがまた砦の屋上に降り立った。
「わっ! やった! また触らせてもらおーっと!」
「ちょっとちょっとフランツ……そんな毎回……」
「でもあの竜騎士さん、いつでも触っていいって言ってたよ。ねえ、ジャミルにぃ……ジャミル! と、レイチェル姉ちゃんも行こうよ!」
ジャミルに言われたとおりフランツはジャミルに『兄ちゃん』とつけるのをやめたようだ。
「うーん。どうしよう?」
「ま、行ってもいいか……」
「わあー、やっぱり大きい……」
「ホントだな……」
砦の屋上は飛竜が離着陸できる広さで、床に刺さった杭に飛竜が繋がれていた。
竜騎士団領で初めて竜を見て、それから10年経ってわたし達も背が伸びたけど、やっぱり飛竜は大きい。
フランツがトタタタと飛竜まで駆け寄って、背中をなでなでする。
「アイツ――カイルみたいだよな」
飛竜のところまでのそのそと近寄りながらジャミルが言う。
「うん……」
やっぱり、ジャミルもそう思ってたんだ……。
「カイルがいなくなった日と同じくらいに、アイツみたいな子供が出てきて。罪悪感でたまんねぇよ」
「ジャミル……」
「しかもあんな子供に気ぃ使わせちまって、何やってんだか――」
ジャミルが胸の辺りを掴みながら伏し目がちに呟くと、目の前の飛竜が急にキュ――ンと鳴いた。
「おわっ!?」
そしてそのままジャミルの所まで首を伸ばす。
「ちょ、ちょ、なんだなんだ、一体……」
飛竜はジャミルに向かってキュンキュンと鳴き、ジャミルは勢い余って後ろに倒れ込む。
「ジャ、ジャミル! だいじょぶ……」
そこへ飛竜の声を聞いたからか、クライブさんが慌てて階段を登ってきた。
「あっ! ……クライブさ――」
「やめろ! シーザー!」
クライブさんが叫ぶと、飛竜は首を上げて大人しくなる。
(え……?)
「……すまない。君、大丈夫か」
「あ、ああ……いや、いいっす」
クライブさんが手を貸そうとしたけれどジャミルはそれを断り自分で起き上がった。
「あー 先輩。また飛竜に人を食わそうとして……」
「えっ」
遅れてやってきたグレンさんが両手を腰に当てて『やれやれ』といった表情でクライブさんを見る。
「おい、変なこと言うなよ……本気にされるだろ」
二人はしばらく飛竜は人を食う食わない談義(?)を続け、やがてクライブさんはジャミルにもう一度謝ってから飛竜に乗り帰っていった。
「……ビビった」
「ジャミル君からいい匂いでもしたんじゃないのか」
「ドラゴン肉まん作ってたもんねぇ」
って、あの日カイルが同じようなことになった時もこんな会話したような。
それに……。
『やめろ! シーザー!』
――こら! シーザー! やめろ!
あの日のあの竜も、たしか同じ名前だったような……。
「ああ……」
ジャミルがせいろでドラゴン肉まんを作っているのをフランツが右から左からピョコピョコと顔を出して見つめる。
「ジャミル兄ちゃん、こんなの作れるんだ! すごいなー!」
「ん……ああ」
キラキラのフランツに対し、ジャミルはなんだか浮かない顔でドラゴン肉まんを食堂に持ってくる。
「へぇー、キミなかなかやるじゃない。食べていいの?」
「ああ」
「やったー! いただきますっ!」
「いただきまーす」
わたし達はホカホカのドラゴン肉まんを食べる。ちなみに牛肉。
「ふぁー! おいひー! ラーメンと食べたらハッピハッピーだわーこれ!」
「うん、この前はちょっと冷めちゃってたけど、今日のはホカホカですっごいおいしー!」
「おいしー! ジャミル兄ちゃん、すごいなー!」
「……あのよ、フランツ」
「なに?」
「わりぃ……オレのこと『兄ちゃん』って呼ぶの、やめてくんねぇかな」
「えっ? ……じゃあ、なんて呼べば」
「ただ『ジャミル』でいい」
「えっ、でもでも……目上の人を呼び捨てになんて」
「目上っていうもんでもねぇよ。……頼んだからな」
「うん……」
「おれ、何かいけないことしちゃったのかなぁ……」
食事の後片付けをしながらフランツがショボンとした顔でつぶやく。
「そんなことないよ……ちょっと事情があるだけだよ。フランツは気にしなくていいの」
「うん……」
「…………」
カイルがいなくなったその日から、明日でちょうど5年。だから彼は、弟が好きだったドラゴン肉まんを作っていた。
竜騎士を見てはしゃいだり、ドラゴン肉まんをおいしそうに食べたりしてはしゃぐフランツ。
そんな彼に『兄ちゃん』って言われると、カイルを思い出してたまらないんだろう。
(ジャミル……)
◇
「あれっ? またクライブさんが来てる」
お昼過ぎくらいに、飛竜に乗ったクライブさんがまた砦の屋上に降り立った。
「わっ! やった! また触らせてもらおーっと!」
「ちょっとちょっとフランツ……そんな毎回……」
「でもあの竜騎士さん、いつでも触っていいって言ってたよ。ねえ、ジャミルにぃ……ジャミル! と、レイチェル姉ちゃんも行こうよ!」
ジャミルに言われたとおりフランツはジャミルに『兄ちゃん』とつけるのをやめたようだ。
「うーん。どうしよう?」
「ま、行ってもいいか……」
「わあー、やっぱり大きい……」
「ホントだな……」
砦の屋上は飛竜が離着陸できる広さで、床に刺さった杭に飛竜が繋がれていた。
竜騎士団領で初めて竜を見て、それから10年経ってわたし達も背が伸びたけど、やっぱり飛竜は大きい。
フランツがトタタタと飛竜まで駆け寄って、背中をなでなでする。
「アイツ――カイルみたいだよな」
飛竜のところまでのそのそと近寄りながらジャミルが言う。
「うん……」
やっぱり、ジャミルもそう思ってたんだ……。
「カイルがいなくなった日と同じくらいに、アイツみたいな子供が出てきて。罪悪感でたまんねぇよ」
「ジャミル……」
「しかもあんな子供に気ぃ使わせちまって、何やってんだか――」
ジャミルが胸の辺りを掴みながら伏し目がちに呟くと、目の前の飛竜が急にキュ――ンと鳴いた。
「おわっ!?」
そしてそのままジャミルの所まで首を伸ばす。
「ちょ、ちょ、なんだなんだ、一体……」
飛竜はジャミルに向かってキュンキュンと鳴き、ジャミルは勢い余って後ろに倒れ込む。
「ジャ、ジャミル! だいじょぶ……」
そこへ飛竜の声を聞いたからか、クライブさんが慌てて階段を登ってきた。
「あっ! ……クライブさ――」
「やめろ! シーザー!」
クライブさんが叫ぶと、飛竜は首を上げて大人しくなる。
(え……?)
「……すまない。君、大丈夫か」
「あ、ああ……いや、いいっす」
クライブさんが手を貸そうとしたけれどジャミルはそれを断り自分で起き上がった。
「あー 先輩。また飛竜に人を食わそうとして……」
「えっ」
遅れてやってきたグレンさんが両手を腰に当てて『やれやれ』といった表情でクライブさんを見る。
「おい、変なこと言うなよ……本気にされるだろ」
二人はしばらく飛竜は人を食う食わない談義(?)を続け、やがてクライブさんはジャミルにもう一度謝ってから飛竜に乗り帰っていった。
「……ビビった」
「ジャミル君からいい匂いでもしたんじゃないのか」
「ドラゴン肉まん作ってたもんねぇ」
って、あの日カイルが同じようなことになった時もこんな会話したような。
それに……。
『やめろ! シーザー!』
――こら! シーザー! やめろ!
あの日のあの竜も、たしか同じ名前だったような……。
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