21 / 385
3章 おしゃべり貴族令嬢
5話 紋章
しおりを挟む
「ルカ、おはよー。……あ、グレンさんも。おはようございます」
「……おはよう」
「ああ、おはよう」
翌朝。
お花に水をあげるため中庭に行くと、ルカとグレンさんが一緒にいた。
「2人が一緒にいるのって珍しいですね」
「ああ……まあ、そうかな」
「瞬間移動のお約束。真夜中に寝室へ……行かない」
「真夜中に、寝室……!?」
「おい急に何を言い出すんだ、脈絡もなく……」
「お兄ちゃまは、どこにいても分かる……」
「へ、へー……」
「また誤解を招くことを……言っとくが、俺は全く、全然分からないからな……」
「お兄ちゃまだって、その気になれば分かる。わたしとお兄ちゃまは、一緒だから」
「そ、その気……? 一緒……?」
やっぱり怪しい関係を疑ってしまう言動……ジトッとした目でグレンさんを見ると、ちょうど目線がかち合ってしまう。
「いや違うから、本当に……」
目つきだけで何が言いたいか伝わってしまったようで、グレンさんは目を細めて大きなため息をつく。
「ルカ……もっとこう、言動を分かりやすく出来ないのか?」
「……わかり、やすく……」
「そう。『俺とルカは一緒』とか言われても、何が何やらさっぱり――」
「わたしとお兄ちゃまは、紋章があるのが、一緒」
「えっ……紋章?」
「あっ、こら! なんで言った……」
「分かりやすく、主語を使って言ったわ。そうしろって言ってたでしょう」
「ああ……言った。言ったけど……もおお――……」
グレンさんが頭を抱えて座り込み、頭をガシガシと掻く。
「紋章って『女神の祝福』っていうあれのこと? 杖とかなくても魔法が撃てるっていう……授業で習ったよ」
「そう。わたしとお兄ちゃまは左手にある。魔法を使う時に光る」
「へぇ……今は何もないんだ。グレンさん、は……」
グレンさんは座り込んだまま、動かない。
「あの、大丈夫ですか……」
「ああ……」
「紋章持ってるのは秘密だったんですか?」
「そうだな……一応。はぁ……こんなカジュアルにバラされるとは……」
「……"カジュアル"って。……えっと、大丈夫です。わたし誰にも言いませんよ」
「そうしてもらえると助かる」
「でもどうして秘密なんですか?」
「色々面倒だからな……」
「面倒……」
魔法が使えないから分からないけれど、ジョアンナ先生が言っていたような『魔器がなくてもドババーって撃てるから楽』とか、そういう単純なものでもないんだろうか。
わたしが何か言うよりも早くグレンさんがのっそりと立ち上がる。
「朝飯でも食ってくるかな……」
「ベルナデッタが、ラーメンを作ってる」
「またラーメンか。なんなんだあのお嬢さんは……。2人も行くか?」
「わたしは、水やりをしてから行きます」
「わたし、レイチェルといる」
「そうか。じゃあ」
後頭部をわしわししながらグレンさんは食堂へと歩いていった。
「……お兄ちゃまは、紋章は嫌いみたい」
「そうなの? 『面倒』って言ってたもんね。ルカはどうなの?」
「わたしは……あるのが普通だから。それに、これがなければお兄ちゃまと出会っても分からなかった。……だから、必要。ないとわたしでなくなってしまう気がする」
「自分でなくなる……か」
紋章があるのが普通のルカ。秘密にしておきたいグレンさん。
自分の力に対しての考えも人それぞれなんだ。
グレンさんが立ち去ったあと、ルカと2人で植えた植物に水をあげていた。
「……葉っぱが増えたねぇ」
「ん……」
先月はじめに植えて芽が出た3つの植木鉢。また少し成長して葉っぱがついた。
「それぞれ葉の形が違うのね。……水をもっとあげてもいいのかしら」
「ううん。水をあげすぎると逆に枯れたりしちゃうの」
「枯れる……?」
「うん。あげすぎもよくないんだって、難しいよねぇ。心を込めてもやり方間違うとダメなんだよね……」
「水を……出せば出すほど良いと言われてきた」
「出せば出すほど……魔法のことかな? それって『光の塾』の話?」
「そう」
――以前ルカに聞いた『光の塾』。
魔法は心の力。心を乱されると魔法は使えなくなるから、感情を持ってはいけない。
物を作るのは神のすること。神の真似事をして物を作り育てて、怒り、悲しみ……すぐに感情の波にさらわれ、神からのみ得られる喜びを自ら得る『ヒト』という愚かな存在――そんな話だったと思う。
物づくり禁止、食べ物をおいしいと思うことも喜びにつながるから禁止……。
「魔法――紋章は神が与えた奇跡の力。この力を与えてくれた神への奉仕として更に力を引き出して使わなければならない。神に背く敵はその力をもって排除しなければならない、と」
「は、排除……それって、殺しちゃうってこと?」
またずいぶんおっかない話だ。思考が追いつかない……。
「そう。『ヒト』はモノを作って育てて……罪深いって。でもみんなキラキラと綺麗な水を持っている」
「……」
少し会話できるようになってきたものの、ルカの言うことは観念的というか、よくわからないことが多い。
なのでとにかく黙って聞くか、質問してみることにしている。
「えっとぉ……ルカがよく言う『綺麗な水』とか『水が淀んでいる』とかの『水』って何、かな?」
「水は、水。みんなが持っている。この芽たちも」
「みずはみず……」
――なるほど、分からない……。
「レイチェルは、見えない?」
「わたしは……うん、分からないなぁ」
「きっと……わたしはこれがあるから」
そう言うと彼女の左手に水の雫の形の紋様が浮かび上がり、静かに光る。
「それが紋章……」
「お兄ちゃまは、ふだんはこっちを光らせて魔法を使え って。見つかると怖い人が近寄ってくるって言ってた」
紋章が消え、彼女の腕に巻いてある魔石のブレスレットがポワッと光る。
「綺麗……。怖い人……かぁ」
杖とかブレスレットなしで仕えてオトク! ってだけの人もいれば、たぶん悪用しようとする人もいるんだ。
「……そう言うお兄ちゃまはこれ全然光らせてない」
「あ、そうなの? 秘密にしときたいっぽかったのに」
「『誰も見てないからいい』って。でもわたしはダメだって。よく分からない。」
「グレンさんは強いから、とかかな?」
「……お兄ちゃまはわたしより魔法が下手なのに」
そう言いながらルカがちょっとむくれる。
「あはは……」
――指針はだいぶぶれてるみたいだけど……グレンさん、紋章で嫌な目にあったことがあるのかな?
「……おはよう」
「ああ、おはよう」
翌朝。
お花に水をあげるため中庭に行くと、ルカとグレンさんが一緒にいた。
「2人が一緒にいるのって珍しいですね」
「ああ……まあ、そうかな」
「瞬間移動のお約束。真夜中に寝室へ……行かない」
「真夜中に、寝室……!?」
「おい急に何を言い出すんだ、脈絡もなく……」
「お兄ちゃまは、どこにいても分かる……」
「へ、へー……」
「また誤解を招くことを……言っとくが、俺は全く、全然分からないからな……」
「お兄ちゃまだって、その気になれば分かる。わたしとお兄ちゃまは、一緒だから」
「そ、その気……? 一緒……?」
やっぱり怪しい関係を疑ってしまう言動……ジトッとした目でグレンさんを見ると、ちょうど目線がかち合ってしまう。
「いや違うから、本当に……」
目つきだけで何が言いたいか伝わってしまったようで、グレンさんは目を細めて大きなため息をつく。
「ルカ……もっとこう、言動を分かりやすく出来ないのか?」
「……わかり、やすく……」
「そう。『俺とルカは一緒』とか言われても、何が何やらさっぱり――」
「わたしとお兄ちゃまは、紋章があるのが、一緒」
「えっ……紋章?」
「あっ、こら! なんで言った……」
「分かりやすく、主語を使って言ったわ。そうしろって言ってたでしょう」
「ああ……言った。言ったけど……もおお――……」
グレンさんが頭を抱えて座り込み、頭をガシガシと掻く。
「紋章って『女神の祝福』っていうあれのこと? 杖とかなくても魔法が撃てるっていう……授業で習ったよ」
「そう。わたしとお兄ちゃまは左手にある。魔法を使う時に光る」
「へぇ……今は何もないんだ。グレンさん、は……」
グレンさんは座り込んだまま、動かない。
「あの、大丈夫ですか……」
「ああ……」
「紋章持ってるのは秘密だったんですか?」
「そうだな……一応。はぁ……こんなカジュアルにバラされるとは……」
「……"カジュアル"って。……えっと、大丈夫です。わたし誰にも言いませんよ」
「そうしてもらえると助かる」
「でもどうして秘密なんですか?」
「色々面倒だからな……」
「面倒……」
魔法が使えないから分からないけれど、ジョアンナ先生が言っていたような『魔器がなくてもドババーって撃てるから楽』とか、そういう単純なものでもないんだろうか。
わたしが何か言うよりも早くグレンさんがのっそりと立ち上がる。
「朝飯でも食ってくるかな……」
「ベルナデッタが、ラーメンを作ってる」
「またラーメンか。なんなんだあのお嬢さんは……。2人も行くか?」
「わたしは、水やりをしてから行きます」
「わたし、レイチェルといる」
「そうか。じゃあ」
後頭部をわしわししながらグレンさんは食堂へと歩いていった。
「……お兄ちゃまは、紋章は嫌いみたい」
「そうなの? 『面倒』って言ってたもんね。ルカはどうなの?」
「わたしは……あるのが普通だから。それに、これがなければお兄ちゃまと出会っても分からなかった。……だから、必要。ないとわたしでなくなってしまう気がする」
「自分でなくなる……か」
紋章があるのが普通のルカ。秘密にしておきたいグレンさん。
自分の力に対しての考えも人それぞれなんだ。
グレンさんが立ち去ったあと、ルカと2人で植えた植物に水をあげていた。
「……葉っぱが増えたねぇ」
「ん……」
先月はじめに植えて芽が出た3つの植木鉢。また少し成長して葉っぱがついた。
「それぞれ葉の形が違うのね。……水をもっとあげてもいいのかしら」
「ううん。水をあげすぎると逆に枯れたりしちゃうの」
「枯れる……?」
「うん。あげすぎもよくないんだって、難しいよねぇ。心を込めてもやり方間違うとダメなんだよね……」
「水を……出せば出すほど良いと言われてきた」
「出せば出すほど……魔法のことかな? それって『光の塾』の話?」
「そう」
――以前ルカに聞いた『光の塾』。
魔法は心の力。心を乱されると魔法は使えなくなるから、感情を持ってはいけない。
物を作るのは神のすること。神の真似事をして物を作り育てて、怒り、悲しみ……すぐに感情の波にさらわれ、神からのみ得られる喜びを自ら得る『ヒト』という愚かな存在――そんな話だったと思う。
物づくり禁止、食べ物をおいしいと思うことも喜びにつながるから禁止……。
「魔法――紋章は神が与えた奇跡の力。この力を与えてくれた神への奉仕として更に力を引き出して使わなければならない。神に背く敵はその力をもって排除しなければならない、と」
「は、排除……それって、殺しちゃうってこと?」
またずいぶんおっかない話だ。思考が追いつかない……。
「そう。『ヒト』はモノを作って育てて……罪深いって。でもみんなキラキラと綺麗な水を持っている」
「……」
少し会話できるようになってきたものの、ルカの言うことは観念的というか、よくわからないことが多い。
なのでとにかく黙って聞くか、質問してみることにしている。
「えっとぉ……ルカがよく言う『綺麗な水』とか『水が淀んでいる』とかの『水』って何、かな?」
「水は、水。みんなが持っている。この芽たちも」
「みずはみず……」
――なるほど、分からない……。
「レイチェルは、見えない?」
「わたしは……うん、分からないなぁ」
「きっと……わたしはこれがあるから」
そう言うと彼女の左手に水の雫の形の紋様が浮かび上がり、静かに光る。
「それが紋章……」
「お兄ちゃまは、ふだんはこっちを光らせて魔法を使え って。見つかると怖い人が近寄ってくるって言ってた」
紋章が消え、彼女の腕に巻いてある魔石のブレスレットがポワッと光る。
「綺麗……。怖い人……かぁ」
杖とかブレスレットなしで仕えてオトク! ってだけの人もいれば、たぶん悪用しようとする人もいるんだ。
「……そう言うお兄ちゃまはこれ全然光らせてない」
「あ、そうなの? 秘密にしときたいっぽかったのに」
「『誰も見てないからいい』って。でもわたしはダメだって。よく分からない。」
「グレンさんは強いから、とかかな?」
「……お兄ちゃまはわたしより魔法が下手なのに」
そう言いながらルカがちょっとむくれる。
「あはは……」
――指針はだいぶぶれてるみたいだけど……グレンさん、紋章で嫌な目にあったことがあるのかな?
0
あなたにおすすめの小説
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。
すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。
だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。
イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。
変わり果てた現実を前に、
夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。
深い後悔と悲しみに苛まれながら、
失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。
しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。
贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。
そして、母の心を知っていく子供たち。
イネスが求める愛とは、
そして、幸せとは――。
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました
たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。
仕事で疲れて会えないと、恋人に距離を置かれましたが、彼の上司に溺愛されているので幸せです!
ぽんちゃん
恋愛
――仕事で疲れて会えない。
十年付き合ってきた恋人を支えてきたけど、いつも後回しにされる日々。
記念日すら仕事を優先する彼に、十分だけでいいから会いたいとお願いすると、『距離を置こう』と言われてしまう。
そして、思い出の高級レストランで、予約した席に座る恋人が、他の女性と食事をしているところを目撃してしまい――!?
王太子妃専属侍女の結婚事情
蒼あかり
恋愛
伯爵家の令嬢シンシアは、ラドフォード王国 王太子妃の専属侍女だ。
未だ婚約者のいない彼女のために、王太子と王太子妃の命で見合いをすることに。
相手は王太子の側近セドリック。
ところが、幼い見た目とは裏腹に令嬢らしからぬはっきりとした物言いのキツイ性格のシンシアは、それが元でお見合いをこじらせてしまうことに。
そんな二人の行く末は......。
☆恋愛色は薄めです。
☆完結、予約投稿済み。
新年一作目は頑張ってハッピーエンドにしてみました。
ふたりの喧嘩のような言い合いを楽しんでいただければと思います。
そこまで激しくはないですが、そういうのが苦手な方はご遠慮ください。
よろしくお願いいたします。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
美人同僚のおまけとして異世界召喚された私、無能扱いされ王城から追い出される。私の才能を見出してくれた辺境伯様と一緒に田舎でのんびりスローライ
さら
恋愛
美人な同僚の“おまけ”として異世界に召喚された私。けれど、無能だと笑われ王城から追い出されてしまう――。
絶望していた私を拾ってくれたのは、冷徹と噂される辺境伯様でした。
荒れ果てた村で彼の隣に立ちながら、料理を作り、子供たちに針仕事を教え、少しずつ居場所を見つけていく私。
優しい言葉をかけてくれる領民たち、そして、時折見せる辺境伯様の微笑みに、胸がときめいていく……。
華やかな王都で「無能」と追放された女が、辺境で自分の価値を見つけ、誰よりも大切に愛される――。
最愛の番に殺された獣王妃
望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。
彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。
手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。
聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。
哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて――
突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……?
「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」
謎の人物の言葉に、私が選択したのは――
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる