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3章 おしゃべり貴族令嬢
2話 ハッピハッピー貴族令嬢
しおりを挟む「――で、ここが冷蔵庫で、ここが――」
「わかったわ」
厨房でジャミルがベルナデッタさんに物の場所や補充方法を教えている。
その間、わたしとルカとグレンさんは夕飯を食べていた。
今日は特大ハンバーグ。ルカが信じられない速度でもりもり食べていく。
「――ルカ。あの人はどんな感じだ」
「……嫌いではないわ」
「そうか。……うっかり水とかかけても許すぞ」
「グレンさん……」
「……なぜ? あんなに何回も怒っていたのに」
「う……」
正論で返されてグレンさんは黙ってしまう。
「はぁ……」
ここに来るまでもベルナデッタさんの質問攻めに遭いうんざりした様子のグレンさんが巨大なハンバーグを切りながらため息をつく。
「……お菓子につられるのがいけないんじゃないですか?」
「う……でもお菓子は大事だ」
グレンさんは見た目によらず甘党だ。
お菓子――特にチョコレートが好きでよくボリボリと板チョコを食べている。
製菓用のチョコとかストックしているし、今飲んでいるのだってココアだ。ハンバーグと大盛りご飯とココア。わたしならやらない組み合わせだけど……。
「隊長さん。何を話してらっしゃるの?」
「……別に。メシを食べてるだけだよ」
「まあおいしそう! わたくしも食べていいかしら?」
「あっ どうぞ。わたしが持ってきましょうか? ハンバーグ、どれくらい食べますか? 5個くらいですか?」
「えっ? いえ、1個でいいわ……」
「……そうですか? じゃあ、1個で」
厨房に行って、大量に作り置きしている巨大ハンバーグをお皿に乗せる。1個でいいなんて、ベルナデッタさんて少食なんだなぁ。
「あっ、ベルナデッタさん。ごはんはいりますか?」
「ええ、いただくわ」
「ジャミル、ごはんお願いー」
「ああ。……どんくらい食うんだ、こんくらいか?」
厨房にいたジャミルがどんぶりにドカッとごはんをよそってカウンターから見せる。
「……ちょ、待って……、なんなのそのどんぶりは……。あたし、そんなに食べないわよ……」
「……そうなのか? 少食だな」
「あの……あたし、太ってる? そんな大食いに見えるのかしら?」
「あ、いえ。ベルナデッタさん魔法使いだからたくさん食べるのかと……」
「な、なぁに、それ? 魔法使うからって特別お腹が空いたりしないわよ……」
「あれ、そうなんですか? でもあの二人――」
視線の先。グレンさんは巨大なハンバーグ、ルカは食後のパンケーキを頬張っていた。
「みんなあんなに食べるわけじゃないんですか?」
「ち、違うわよ……。二人共大食いなだけじゃないの?」
「そうなんですか?」
「というか、ここはこの4人で全部なの? 食材のストックとか作りおきも多すぎるんだけど、まさかあの二人が全部食べちゃうの?」
「はい。……主にあっちの女の子が食べますけど」
「そうなの、大変そうね……あっ! 隊長ぉ~~!」
食器を下げてきたグレンさんにベルナデッタさんがキラキラと駆け寄り、グレンさんはあからさまに嫌そうな顔をする。
「隊長の好きな食べ物は何ですの? わたくし、心を込めてお作りしますわ! 冒険の時にお弁当も作りますしぃ、一緒に食べましょ!」
「……別になんでも食べるから気にしなくていい。君はパンケーキさえ作ってくれればいいし、冒険もついてこなくていい」
「冒険についてこなくていいんですの? なぜ? 回復魔法使えますよ。お役に立ちますよ」
「回復魔法よりもメシとパンケーキの方が大事だから。お菓子作り得意なんだろ? パンケーキだけ焼きまくってくれればそれでいい」
「パンケーキだけを……? この、あたしが……」
ベルナデッタさんが深刻な顔で黙り込む。
「回復魔法はいらない……」
「いや、他のお菓子も作ってくれていいけど……」
うつむいてぶつぶつと独り言を言うベルナデッタさん。冷たくあしらいすぎてさすがにバツが悪いのかグレンさんがフォローを入れるけど、そういう問題じゃないような……。
「お菓子とパンケーキを……作るだけの係……。……ああ、素敵! ヒャッホ――!!」
ベルナデッタさんがバンザイしながら叫んでまたくるくる回りだす。
「お菓子作りだけの役割! ハッピハッピーだわ――っ!」
「「「…………」」」
ルカ以外のメンツはその様子を口あんぐりで眺める。
「グレン……ホントにあのハッピハッピー女を雇うのかよ」
「ああ……ちょっと考え直した方がいい気がしてきた……」
ドン引きしながらひそひそ話をする二人をよそに、ぐるぐる小躍りするベルナデッタさん。
(色々と濃い人が来たなぁ……)
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