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2章 赤いスカーフ・黒い剣

4話 『カラスの黒海』

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 みんなが出かけたので暇になったわたしは、もらったワインを持って一旦家に帰っていた。

「ただいまー」
「あら、お帰り。早かったわね」
「ううん、まだバイト中。隊長さんからおみやげもらったから先に持って帰ってきたの。これ」
「あら、そうなの」

 わたしはお母さんにワインを渡す。

「おっ!『カラスの黒海』かー! これうまいんだよなー! 隊長さんとやらは飲まなくていいのか?」

 大酒飲みのお父さんがワインを見てご機嫌に語りかけてきた。

「最初は隊長さんが『ノルデン人のあなたに是非』ってもらったらしいんだけど、お酒飲めないんだって」
「……!」
「まあ……」

 お父さんお母さんが二人共急に神妙な面持ちになって黙り込む。
 
「え? 何? 何? どうしたの?」
「レイチェル……あのな……『カラス』っていうのは、ノルデンの人を蔑んでいう言葉なんだ」
「え……」
「隊長さんて、もしかして若い?」
「26歳って言ってたけど……」
「ああ……それじゃ決定的だな」
「どういうこと?」
「あのね……ノルデンって昔反乱と災害があったでしょ。それで露頭に迷う子供が大勢出て、その子達が盗みを働いたりゴミ箱から残飯を漁ったりして……。その様子が、髪も黒いしカラスみたいだって、そのうちノルデンの子供全部を指してカラスって言うようになったの。だから、今20代から30代くらいの人はみんなカラスって呼ばれた世代ね」
「何それ……それじゃ、このお酒……」
「嫌がらせとか皮肉のつもりで渡したんだろう。嫌なやつがいるもんだ」
「そんな……」

 思わぬ事実にわたしは言いようのないショックを受けて立ち尽くす。

 ――『ノルデン人のあなたに是非』って言われたけど、俺酒飲めないから―ー

 普通に話していたけど、グレンさんは本当にお酒が飲めないからくれたんだろうか。
 嫌がらせされたからいらなかったんだろうか。……何も知らずに受け取ってしまった。
 
(なんだか今日はダメダメだなぁ……)

 トボトボと砦に引き返す。ジャミルのことといいお酒のことといい、できてないこと、知らないことが多すぎるな……反省。
 ジャミルに謝らないといけないし、グレンさんにも……。何から話そうかな……。
 
(……ん?)

 砦に帰ると、入り口に青髪の男の人が立っていた。彼はこちらに気づくとわたしに歩み寄ってくる。

「……こんにちは」

 男の人がにこっと笑う。

「あっ はい、こんにちは……」

 青い髪に青い瞳。わたしと同じ、ロレーヌ人だ。
 年はグレンさんと同じかちょっと年上かもしれない。背もグレンさんと同じくらい高い。腕には赤いスカーフを巻いている。
(赤いスカーフ……。竜騎士の人だ)
 
「ここにグレン・マクロードって男がいると聞いたんだけど」
「あ……、隊長のお知り合いの方ですか。えっと……ちょっと出かけてまして……」

 と言いかけた所で食堂に明かりがついてるのに気づいた。

「あ、いえ、帰ってるかもしれないのでちょっと待ってもらっていいですか? えっと、お名前は――」
「――クライブ。クライブ・ディクソン」
「クライブさんですね。ちょっとお待ち下さい」
 
 わたしはクライブさんを砦のホールに案内して、食堂へ向かう。食堂ではグレンさんとルカがご飯を食べていた。

「グレンさん。あの、クライブさんという方が来られてますけど――」
「……クライブ?」
「クライブ・ディクソンさんという方です。ホールにおられます」
「…………。ああ。分かった。すぐに行く」

 一瞬の間のあとグレンさんは立ち上がり頭を掻きながらホールへと向かった。
 食堂はわたしとルカの二人になった。

「……あれ? ジャミルは……」
「ジャミルはもう寝たわ」
「え―― 早い! まだ5時なのに……」
「……疲れたって」
「え――……」

 なんだかつくづく間が悪い……。
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