お願いだから俺に構わないで下さい

大味貞世氏

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第184話 桜植樹地探しと悪霊退治

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前日土産の人参とヒレ挽肉のキッシュを朝食に食べ。

偶然オリオンに向かう予定を立てていたロロシュ氏とシュルツたちと一緒に纏めて現地に飛んだ。

別行動をする俺たちに興味が湧いたのかロロシュ氏の方から声を掛けて来た。
「山葵を採りに行くのか」
「いいえ。今日は別の目的で」
「モーランゼアのお城で頂いた特別な木の植樹候補地を探そうかと」

「特別な木?ここでなくても邸内に植えるのでは駄目なのか」
「邸内だと最適候補が限られていて」

「ん?何処だ」
言わないと拙そうだな。
「アンネさんの墓標裏の空き地なんで。そこは無理だなと別の場所を」
「あそこか…」
あれ?怒ってない?

ロロシュ氏は暫し考え。
「良いではないか」
「「「えっ!?」」」これにはプリタも驚いた。

「その花は綺麗か」
「それはとっても。来年の4月頃に咲く桜と言う木で。薄いピンク色の小さな花を枝中に咲かせます」
「可愛くて香りも豊かで優しい花なんです。風に舞う花弁は温かな雪のよう」

「良いな。鈴蘭とも合いそうだ」
「嫌じゃないんですか…?」
「嫌も何もアンネはあの場所には眠っておらぬ。別れはしてしまったし。遺骨も共同墓地だ。然りとて取り壊すのも忍びなくてあのままにしてあるだけだ。奥の空き地には紫の胡蝶蘭でも植えようかと考えてはいたが。代わりの物が有るならそれでも良い」
「私も。あの場所が華やかになるのなら叔母様もきっと喜ぶのではないかと思います」

「場所探し終わっちゃった」
「相談してみれば良かったね」

「帰ったら本棟側の庭師を紹介する。プリタの」
「父で師匠のアーメンです」
祈りを捧げそうな名前だ。
「あぁそれで」
「植物に詳しいんだ」
「照れますね。未だに父には怒られっ放しなんですが。時々意見を聞いてます」

知らんかったわぁ。

「なら折角来たし。枝分け出来そうな場所。アワーグラスの予定地周りで探そうか」
「良いね。やっぱ南向きの玄関外が良いわよねぇ」
「それは聞いて置きませんと」

内観や内装一切を任せたシュルツと一緒にプリタを連れて敷地内を練り歩いた。

本格着工前にはフィーネと外観を考える。それは来年1月中に描く予定。

お客様を迎える南中央玄関前の両脇に2~3本ずつで暫定とした。

果てなく広がる夢が現実味を帯びてきた午前。


建設工夫用の宿舎と資材置き場予定地の下地整備を手伝ってから帰宅。

それぞれお昼を済ませ。アーメンさんを交えて中庭奥に桜を植樹。正門側から見て墓標を挟んで見えるような配置にした。

少し離れた夫婦桜。
末永い熟年カップルみたいで良い感じ。

土を被せ直す段階でアーメンさんが。
「木の幹に対して根は余り広くないのですね」
「なんで他の木よりもデリケートなんですよ。これで樹齢が4年目。上手く根付いてもう2年か3年すれば根っこも強くなると思います」
「定着しても来年花が咲かずに落ちたら養分不足か土との相性が良くないんでプリタとシュルツ経由で連絡を。
私たちも自宅に居られる時はちょくちょく観察します」
「承知しました。枝も間引けませんし。来年の三月四月が今から楽しみです」

「咲き誇れば花見の為だけに帰ります」
「必ず」
「プリタと一緒に木の病に気を付けて冬の間見守りを続けます。お役目を頂けて感謝に堪えません」
「お任せを!」
この2人に任せて置けば安心だ。




---------------

自宅で夜の遠征準備をしていると。ミランダとプリタが慌てた様子で裏口から飛び込んで来た。

「大変です」
「リゼルモンドの木が、えげつないことに!」

植えて生血入りの水を与えて丁度24時間が経過した頃。

家に居た全員で納屋の裏に回り込む。

葉は全開に生い茂り。原産地の物より木肌が若干赤みがかって周囲一帯の地面には既に殻付き木の実が落ちて散乱していた。

皆で拾い集めて殻を割って全実を詳しく鑑定。

数粒食べても味は変わらず。
「良かった。味も効果も鑑定結果も全部一緒だ」
「やったー。実が付くサイクルと木の強靱性が増しただけだね。明日レイルにも教えなきゃ」
「繁殖しないように毎日集めて殻を割って地下蔵で陰干しして置きます!」
「頼んだ。ミランダとアローマも手が空いたら手伝ってあげて。何処まで落ち続けるか全く予測出来ない」
「「畏まりました」」

「ねえスタンさん。…獄炎竜討伐した洞窟気にならない?」
「なるなる。でもそれは明日以降で。どうせ誰も入れんし。今日はこの実を少し持って。あの女の魂を釣ってやろう」
「それいい!暴食女なら絶対飛び付くわ」

何故だろうと疑問を持つまでも無く。幸運の指輪とユニコーンの角を持っているお陰で馬鹿みたいに運気が向いている。但し!過信は禁物。

「良し。準備して飯食って出発だ。アローマ。レイルに渡す用に半分箱詰めしといて」
「我慢出来ずに飛んで来そう。てかもう持って行こう」
「直ちに」




---------------

聖水の大瓶100本。最上聖魔石を2つ突っ込んだラインジットをロイドに。ペインは父上に装備させる。

フィーネもレイルに配達を終えて準備万端。

「レイルも来たがったけど強力な聖水で水浸しにするって言ったら引き下がってくれたよ」
「僥倖だ。ロイドと父上をくっ付けようとしてるのにレイルと会わせるのは得策じゃない。安心して行ける」
「懸念が1つ消えました」

「マッハリアの上層が集まるんなら俺らは行かない方がいいな」とソプラン。
「だな。あいつら体面ばっか気にするから待機で。
多分遅くなるから実家泊まると思う。アローマのスマホに一報入れるよ」
「お待ちして居ります。お気を付けて」

「いっちょ悪霊退治に行きますかー」
「参ろうー」
「別の意味で胸が躍ります」
「ニャ~」


自宅から直接実家の手前まで転移。

付近から正門に掛けて警備や護衛や野次馬等々人でごった返していた。

「入るのも面倒だ。誰か父上を呼んでくれ」
「ハッ!」
門番の1人が中へと走った。

父上の隊と一緒に城へ歩いた。

殆どが穏健派の人員。攻城戦で共に戦った仲間たち。
「どれ位集まりました?」
「貴族院の上層幹部が略略全員。スタルフと二人の姫は城のテラスから見物だ」
「隠者がそんなに居ないと良いですが」
「成る様に成れだな。多少なら破壊許可も降りた。流れと勢いで盛大にやれ」

行きすがらでペインジットを父に渡した。
「柄に填めた聖魔石で聖属性を与えた特殊剣です。死霊だろうが悪霊だろうが余裕で斬り捨てられます。同じ仕様の小剣をロイドにも持たせてますが。出来れば父上が守ってやって下さい」
「心得た。後ろは気にするな。…来年の献上品に加えてくれないか。綺麗に空にした宝物庫が殺風景でな」
「考えて置きます」
作る時間と材料は有る。


南城門を潜り抜け。地上1階中央階段から中庭。思い出の宮中庭園から左手に向かう。長い湾曲回廊を登り切った先が旧王宮区内の旧後宮。前王族とフレゼリカの私室が在った場所。

成程ゴッズ化したフレゼリカが床を踏み抜いて動けなくなった所から旧後宮は近い。錯乱して俺を追いながら本能で自分の私室を目指していたのかも知れない。

何かを隠していたと淡い期待も膨らむがどうせ碌でも無い物ばかりだろう。

見付けても良品でないなら無断で破壊する。

旧後宮前広間に集まった大衆の面前でソラリマを掲げて装備した。

今日は使わないでと出張中のクワンには伝えてあるので余程でなければ途中抜けは無い。

フィーネは水色のポセラの密槍を取り出した。

父ローレンの後ろに隠れたロイドを挟んで護衛部隊が立ち並ぶ。

城上方のテラスに向けて手を振り。ソラリマを発光。

夜でも安心の明るさ。

光を見て苦しむ者は居なかったのは残念。

「ローレンの息子のスターレンだ。私が昨年討伐したフレゼリカの残留思念らしき物が居ると聞き。後始末を付けにここへ参じた。
まずはその声を聞いたと言う者たちから直に話を聞きたいと思う。この場に居るなら私の前に並んでくれ」

各所の集団から8名。侍女が3名。給仕が2名。警備の衛兵が3名。

並んだ順に話を聞いて行くと最低3種類の声質が居たと判明した。

全員その姿は見ていない。出所はフレゼリカの私室。そこから奥の部屋と先の廊下を曲がった奥からも。

フレゼリカ本人と踏まれて死んだ王。クワンに頭を吹き飛ばされた第二王子。何となく数はそれっぽい。多数の複合体の可能性も有る。

「ふむ。大体解った」
と徐ろに女神の彫像を取り出し即座に最大照射。

有効範囲で場の全員が入り。貴族位の6人が目や口や耳や側頭部を押さえながら気絶し。証言者たちは肩が軽くなったと喜んだ。

「証言者の呪いを解除した積もりだったが…。貴族議員の中にも呪われていた者が居た様だ。その者が持つ装飾品類を厚手の布に包んで持って来い。纏めて処分する」

集められた指輪や腕輪や首飾りを1枚の布へ移し替え。その上からロイドが聖水1本並々と注いだ。

硫酸を掛けたみたいに蒸発したり石が砕けたり溶けたり。鑑定するまでも無かった。

響めく他の観衆を無視して。
「水竜教の最上位の聖水だ。呪われていなければ無害で普通に飲めるから安心しろ」
一口飲んで見せ。安心を誘った。

ソラリマと石の味がするぅ~。
『む…』
「無駄に呪いを浴びたくなかったら中までの同行は控えろ。それでも良しとするなら止めはしないが取り憑かれた状態で聖水を浴びたら、ご覧の通りの有様だ。若しくは私が叩き斬る」

一呼吸反応を窺ったが誰も動かなかった。
「父には特殊な装備を渡し。後ろの女性は聖水を持っている。後衛隊各員には1本ずつ渡す。もし身の危険を感じたら頭から被れ」
「ハッ!!」

配布が完了していざ旧後宮建屋の中に突入開始。

先頭を歩むフィーネが玄関の大扉を十字に刻んで見通しスッキリ。

重たい扉の破片を広間の隅に放り投げ中へと進んだ。

広間で座りながら見詰める者たちから。
「普通に開けばいいのに…」
クレームが聞こえたが知らん。

フィーネの後ろから反響マイクで一喝。
「お前らが憎むべきスターレンが来てやったぞ!」

肩に手を置いて前に出た…静寂。

反応が無い?

奥に繋がる玄関ホール左右の控え室を空刃で貫き風通しを良好にした。俺に対する風当りは強まった。

「スターレンだ!」

…静寂。

「留守かしら」
「かなぁ…。いやいや勝手には出歩かんよ」

フレゼリカの私室が在った左廊下へと歩を進めた。
その矢先。

シクシク…ズズッ…シク…ズリィ…

何とも形容し難い声のような音が聞こえた。

声質をフレゼリカの物と断言するにはまだ遠い。

あいつの私室の豪華な扉が見える位置まで来た。啜り泣く声は大きくなったように思う。

大好物(かも知れない)木の実を。
突き当たり曲がり角。奥の部屋の前。あいつの私室前に1粒ずつロープで配置。

「ほーら。美味しい美味しいリゼルモンドの木の実だぞぉ。甘くて香ばしくて良い匂い。翌朝お肌もプルップル」
そうマイクで優しく告げた次の瞬間。

私室の扉が開け放たれ。外れた勢いで廊下向かいの外壁を突き破って外まで飛び出た。

部屋から出て来たのはフレゼリカの頭部顔面を取り付けた半透明ブヨブヨスライム。

こちらに目線を合わせるでもなく手前の木の実を捕食すると廊下奥の木の実まで高速スライド移動。

「グロい…」
「夢に出そう…」

マイクを外して小声で後方へ指示。

「今からあいつを成敗する。何が起きるか解らない。ホールに戻って自分の身体と武装に水を掛けろ」
「はい…」

「済まないロイド嬢。私にも掛けてくれ」
「ではご一緒に」
ロイドはここで一気に距離を詰める気だ。

前も後ろも本気の乙女は恐ろしや。

フィーネが一歩退いた所で全力ダッシュ。突き当たりの木の実を捕食スライムの背中を中心の核毎バッサリ両断。

直後に彫像で浄化を掛けた。

「ギャシャァァァーーー」元人間とは思えぬ断末魔。

その耳障りな大声は多分外まで届いた。

どうしてこんな状態になったのかは不明。不明は不明のまま闇から闇へ。空虚から空虚へ。

蒸発した後に床に落ちたのは焦げ茶色の石を付けた小さな燭台。

適当な密閉容器に詰めてバッグに放り込んだ。

次の瞬間。曲がった先と後方の全ての扉が一挙に解放。

123…。御霊は3体では済まなかった。

無尽蔵に部屋から湧き出す白い塊とスケルトン化したゴブリンの姿。

やっべ順番間違えたか。

「フィーネは下がって玄関ホール。俺は先の右手からホールを目指す。グーニャは窓破って外に漏れた奴を処理」
「はい!」
「ニャ!」
グーニャは透明化したまま俺の頭の上から降りて外へ向かい俺たちは建物内を二手に分かれた。

大半を消し飛ばし玄関ホールへ。

ホールも戦闘に入っていたがそこは父上。冷静に場を見極め玄関から出すまいと円陣を組んで応戦していた。

ロイドは汐らしく父に背中を預けてラインジットと聖水を振り振り。

フィーネとクロスして左手から再突入。

更に2周周回を重ねて漸く各部屋の出が収まった。

闇魔の魔石を拾いながら1部屋1部屋異常の有無を確認して行き。最後に残したフレゼリカの私室。

発生源はやはりこの部屋。

私室リビング側の床板1枚から灰色のスモークが出ているのを発見。廊下側の壁を突き崩し寝室までを露出。

ホールの父上たちを呼び寄せリビング側の床板を撤去。

段下から現われたのは色取り取りの金銀財宝とスタプ時代に拵えたフレゼリカの彫像たち。女神のめの字も有りゃしない。

「あいつの欲望の温床」
「彼女の宝箱だったのね」

「何とまあ醜い」

父上の発言通りに汚くて乱雑。

一々鑑定してる間も惜しいのでロイドが聖水で床下全面をお清め。

財宝の大半が煤と化し。彫像と先程の燭台が横に填まる小型の台座が残った。

名前:冥府の台座
性能:己が命を代価に
   自己よりも強力な魔物を呼び寄せる
   アンデッド種には使用不能
   対の燭台が発動の鍵となる
   主要属性:闇魔(聖水の効果で弱体化)
特徴:台座の守護者として悪霊系の魔物の魂を
   周囲に固定化する

唐草の風呂敷にしっかり包んでバッグへ収納。

「この呪いの台座だけは俺が回収します。他は売ったり溶かせばかなりの大金に。フレゼリカの彫像を欲しがる奴なんて居ないと思いますが」

「ふんっ。全て回収して表でこれを欲しがっている連中に。呪われた財宝だと言って投げてやれ!懐に仕舞うのは程々にな。フレゼリカの二の舞に成らぬ様」
「ハハッ!!」
格好良すぎるぜ父ちゃん。


自分たちも表へ出て城に向かって両腕で丸を描いた。

「父上も皆さんも風邪引く前に早めに風呂へ。ずぶ濡れのロイド預けて俺たちは一旦タイラントに帰ります」
「明日のお昼にまた来まーす」
グーニャを含めて頭から聖水を被って揃って帰宅。

「ちょ…。行ってしまったか」
「行ってしまいましたね。そして小寒󠄂いです」
「これはいかん。御婦人の身体を冷やしては。急ぎ新王宮側の浴場を開けろ」
「ローレン様もご一緒に」
「い、一緒!?」

「見る限り女は私1人。他に信用の置ける方は残念ながら居りません。お背中お流ししますから。お早く」
「し、しかし」
「女湯を一時貸し切りにすれば良いのです。このままではお互い本当に風邪を…」

「ええい、仕方有るまい。私の理性が何処まで持つか…保証はしないぞ」
「私はそれでも構わない、と言っているのですよ」
ローレンはロイドの前で膝を屈した。

完璧な男はこの世に存在しない。ローレン陥落まで、後十数分。
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