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第154話 クワンジア闘技大会本戦01
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進展は多く有った。だが根本は何も解決していない。
敵組織の目的も大筋で掴めた。
あいつの魂を捧げれば…。俺を捕えなくても全て整う。
俺たちの注意を他に逸らせている間に事を済ませる積もりで居るようだ。
だったら指輪をさっさと奪えよと思われるかも知れないがそう単純な話でもない。指輪の他にも手段が存在すると考えた方が無難。
知識豊富な召喚士が居ると解った以上は何でも有り得る。
心残りと心配は尽きないが先ずは大会を無事に終える。
大会説明会が行われた同じ広間での開会式。
ピエールがケイルガード氏に向けた挨拶と客賓、列席者と本戦出場者、壁際の自国陣営、それぞれに一言ずつご口上。
ようさん集まってくれて余は嬉しいぞ。死なないように頑張れ。簡単に纏めるとそんな感じ。
一貫してお馬鹿を演じると。何故かそれらしく見えて来る不思議。俺もあれ位で良かったのかも知れない。
スタプの時に。
説明会と同じくレオハインに代わってルールの詳細説明。
内容に変更は無し。予選通過者と関係者用の宿舎を西城門付近に用意したから今日中に移動してねと。
身体を動かす訓練所の開放。子供の託児所。未成年者と成人者、上級招待者向けの娯楽施設(カジノ)の案内。
参考までに覗いてみようかな。
城下町への出入りは自由。但し王都外へ出るのは禁止。
本戦に遅刻したら不戦敗。当たり前だ。
他者との交流は非推奨。国賓のみ許可。どちらもクワンジアの仲介者同席の条件付き。
そしてそして。
「通知された招待状やギルドへの案内板には関係者、従者も大会中は拘束される禁則事項も所々含まれていたそうだが。亡くなった前任者の意図が不明瞭で意味不明。
故にその条文は撤廃する」
タイラントに来た案内には記載されてなかった。
やる事なす事せこいねセザルド。
極力王都内に居て欲しいが既に各地へ出払っている者が多く、撤廃が妥当と判断したと説明が加えられた。
俺たちも懸念が1つ減った。
もう3人とクワンはノドガの屋敷に居るから手遅れです。
気になるマリスにはレイルが書き換えた通信具を渡したらしく筒抜け状態だと。本気モードのレイルが怖い。
娘が関わっていると判明して更に本気度が増した。
事実上、現魔王様はレイルの孫に当たる。どんな心境なんだろ。魔族の考え方は人間とは違うから何とも。
種族も多岐に渡る。そこは人間も同じだが。民族異文化や宗教と同様に。
開会式が終わると同時にペリーニャとお供とマリーナを引き連れて声を掛けて来た。
「退屈で死にそうです。許可は得られたので今夕アッテンハイムに一旦帰ります」
「許可降りたんだ」
マリーナを見て。
「ケイルガード様とメレディスの大使とは挨拶を済まされ何もする事が無い、と言われてしまっては。お引き留めする理由も無いもので。仕方なく特別措置です」
「でも大会中は…」
「ピエール王とケイルガード王。両者の御許可以外に必要な物は要りませんとも」
羨ましい。
「野蛮な闘技大会に縛られる謂われは有りません。前日に戻るお約束で捻じ伏せました」
自由だな。
「少しだけ自室で話せるか」
「勿論です」
誘って会場を出た所で見覚えがある男の子が走って来た。
「兄ちゃんってホントに偉い人だったんだ」
「おぉちょっとだけな。元気だったかアレハ」
「元気だよ。父ちゃんも予選とっふごぉ…」
ハイマンさんに羽交い締めにされてしまった。
「馬鹿。軽々しく国賓様に声を掛ける奴が居るか!」
「大丈夫だよ父ちゃん。兄ちゃんは小石打つけても怒らなかったんだぞ」
「何だと!?真実ですか?」
「あーそんな事があったような」
直後にアレハに拳骨が振り降ろされ。後ろに居た母ちゃんと土下座で平謝り。
「そこまでとは聞いていませんでした!何卒ご容赦を」
「どうかお慈悲を」
「まあまあ。服が少し汚れた位で怒りませんて。子供のした事ですし」
涙を堪えるアレハはハイマンさんと俺を交互に見て状況を飲み込めない様子。
「どうして父ちゃんと母ちゃんが謝るの?」
「お前はもう何も喋るな!」
「偉い人に石打つけるとこうなるんだ。武力だけが全てじゃない。良く覚えておけよ」
「う、うん…」
ペリーニャがアレハの頭を撫で。
「相手がお優しい方で良かったですね」
「うん!兄ちゃんは優しい。姉ちゃんは誰?」
ご夫婦がアレハを掴んで「済みません」を連呼して脱兎の如く逃げて行った。
何か癒されて和んだ。
「名乗れませんでした」
「両親がしっかり教えてくれるさ」
自室に戻り、護衛隊からリーゼルを交えお茶をしながらクワンジア内の状況を説明。
真っ先に悲鳴を上げたのはマリーナ。
「何をどうすればそこまで把握出来るのですか!人質まで救出?馬鹿な…」
「信じなくてもいいよ。でも人質はノドガの屋敷で匿って貰ってる。同じ町に敵組織も居るからソプランたちを監視役として置いてある」
「案外近場の方が見付かり難い物よ。普通そんな場所に居る訳が無いって」
「タイラントに連れて行く案も考えたけど。それだと救出者が不安だろうし。俺たちも動き辛くなる。城内も安全じゃないからさ」
「はぁ…。スターレン様の手に掛かれば。一月で国は丸裸にされるのですね」
「レオハインにはまだ伝えるな。大会中に奴らは必ず動き出す。城内の守りを固めるだけでいい」
「動き出す、と言われる根拠は」
「奴らは俺の存在が邪魔なんだ。ピエールとケイルガードとペリーニャを同時に害して同盟崩壊と戦争を引き起こすのが第一目標。全ての罪を俺に擦り付け。社会的に抹殺するのが第二。
大会終わりだとピエール以外は国に帰ってしまう。擦る相手が居ないんじゃ話にならないだろ?」
「なる…ほど」
「マリーナは後で別の話があるから戻って。先にペリーニャの方を」
「済みません。どうぞ」
2つ目の指針ブローチ複製品をペリーニャに渡し。
「座標はペリーニャにしたいからまだ最後の加工はしてない。出来る限りクワンジア内で解決する積もりだけど。もし逃したらアッテンハイムに向かう可能性が有る。
それをグリエル様に渡して欲しい」
「御父様に…」
「何か問題でも」
「片側一方通行の救難を送るだけよ?」
「いえ。父は変な所で頑固ですので適任ではないと。残りの人員で何とかしようとするのではないかと思います。
リーゼルに持たせて首都に残しましょう」
「御心のままに。こちらの護衛も過剰気味でしたし。無傷のゼノンが居れば問題有りません。副長として団を纏めて置きます」
話が早くて助かるぜ。
ペリーニャに手を添えて貰って魔力を注入。完成品をペリーニャに一旦預けた。グリエル様に話を通してくれると。
隣で見ていたリーゼルとマリーナが感嘆の声を漏らした。
「魔道具作成を間近で見られるとは」
「私も初めての経験です」
「内緒だぜ」
3人が退室後に返されたグーニャとお話。
『やっと解放されたニャン。我輩はどうするのかニャ?』
「戻って来たら引き続きペリーニャの護衛宜しく。さっきの通り、大会中が一番危うい」
「それまでは私たちの傍から離れないでね」
『ハイニャ~♡』
久し振りに2人で撫で回した。
マリーナが戻った所で昼食。食後のデザートを自室で食べながら。
「各所のゴッズは俺たちだけで抑える。国防が動き出す前には片付ける予定」
「多少手子摺るかも知れないから。上手く出兵を遅らせて欲しいの」
「我が軍は動かさず。王都に張り付けと」
「そう言う事。冒険者ギルドは自由に動いて貰う。依頼出せば軍部よりも動きは断然早い。本場の冒険者も何人か来てるし。各町の防衛依頼だけでもいいかも」
「了解しました。ゴッズと戦った経験を持つ者は国には皆無ですので。頼らざるを得ません。お話は以上ですか?」
言い辛い話はフィーネにお任せ。
「マリア。心して聞いて」
「はい」
「貴女のお姉さん。マリスさんが生きていたわ」
「…は?」
「鑑定したり、強力な道具も使ったから間違い無い」
「身体は本人の物だった。でも別人格に操られてる。敵側の術者にね」
「…生きて、いた」
「本人の記憶までは完全に奪えなかったみたい。だから転移も出来てない。今の彼女が王都襲撃を可能とする襲撃部隊のリーダーよ。随分前から支持者を集めて数十人規模で攻めて来る」
「…」
拳を握り震わせた。
フィーネがそっと手を重ね。
「嘘でマリアが死んだと伝えても止められなかった。規模は幾分削れたけど。王城への入城経路の妨害工作もして置いた。でもまだ不充分」
「私が居るから、ですね」
「多分貴女をマリアだと認識出来ない。それが証拠。もし接触してもマリーナとして他人の振りをして欲しい」
暫くの沈黙の後。
「解りました。姉は…取り戻せるのでしょうか」
「とても危険な賭けで良ければ。方法は有るわ」
「聞かせて下さい」
「操ってる術者に解除させた後。数分以内に私とペリーニャで回復魔法を掛けてみる。頭の損傷具合に依っては一生寝た切り。失敗すればマリスさんはもう一度死ぬ。
元通りに治せる確率は限りなく零に近いわ」
「考え…ている時間は無いのですね」
「最も残酷な選択も想定して置いて」
「そのまま…眠らせる」
「判断を委ねられても困る。自分で決めるのよ」
「はい」
助けられるのが一番だが前例が無いだけに保証は出来ない。神の加護を越える所業、か。
---------------
前回の魔王戦よりも前から準備をしていたならば。まだ何か奥の手を隠していると見る。
あの時の二人なら。片方は西大陸。片方がクワンジアへ来ている。若しくは転移道具で往き来している筈じゃ。
問題と言えば名を知らぬのと気配が掴めない点。勇者の影でその他大勢は認識出来ていなかった。あの時は興味が無かったのが大きい。
さて、どうしたもんかのぉ。
ラメルに割り当てられた部屋に行き、少し話をした。
「この度は大変な迷惑をお掛けしました」
「畏まらなくても良いわ。お姉さんのメリリーさんとチャーチャの宿でお友達になったの」
「姉さんと」
「凄い偶然ね。まさか捕われているとは思わなかった。メリーからは料理人を目指して旅に出たまま戻らないと聞いたわ。参考に何処で拉致されたのか教えて」
「最後の記憶は曖昧ですが。西のメルドンチャで雇ってくれそうな仕事場を見付けて。手紙じゃなく姉さんに直接伝えようとチャーチャに引き返す途中の宿場だったと」
真西かえ。南北の判断が難しいのぉ。
「一人旅だったの?」
「いえ流石にそこまで馬鹿じゃありません。向こうで紹介されたキャラバンに便乗しました」
「その時一緒に居た人たちは同じ牢屋に居たのかしら」
「いいえ誰も。僕は騙されたのでしょうか。こんな取り柄も無い駆け出しを捕まえて、何の得が有ったのか…」
「無名だったから狙われたのかもね。得意なお料理は」
「焼き菓子、焼き物全般です。昔から砂時計で計らなくても食材を見ているだけで最適な焼き具合が解る特技を持っていまして」
それではないか。
「その特技に目を付けられたのね。犯人たちは要人の他に料理人も何人か集めていたから。身寄りはお姉さんだけとか条件が合致してしまったのよ」
「そうだったんですか」
落胆が色濃い。勧誘するなら今じゃ!
「今回の件が無事に解決したら。メリーと一緒にタイラントに来ない?将来、あちらの王都の東町辺りで飲食店を開く予定なの。暫くは王都で修行すると良いわ」
「有り難いお話です。姉さんは行くと?」
「貴方と相談してから決めるって。弟思いの良いお姉さんね。大切にしなさいな。それと良い返事も期待してる」
「もう僕の答えは決まったも同然です。この国の人間は…誰も信用出来ません」
「返答は後日で良いわ。先ずは目の前の問題を解決しないと。メルドンチャの担当者とキャラバン隊の長の名前は覚えてる?」
静かに頷き。
「…メルドンの担当はソット。家名は聞きそびれました。
キャラバンの隊長はリレイル・シータと名乗っていました。偽名かも知れませんが」
「ソットとリレイルね。閉じ籠もっていても窮屈でしょうからここの厨房でも手伝ってみたらどうかしら。食材は兎も角三十人分を余計に作るのは大変でしょうし」
王都では五十人前を拵えておるしな。
「それは是非!僕からお願いします」
切り替えが早いのぉ。
「口利きしてあげる。余力が有れば昨日の偉そうな人にも自慢の一品を食べさせてみなさい。きっと善い事が有るから。私も楽しみにしてる」
「はい!最善を尽くします。昨日の御仁は、タイラントの」
「これは内緒よ」
マリスの方は王都手前まで順調に来ておるな。楽しく成ってきおったわ。
---------------
大会初日を迎えた。
ここまでは順調に潰し込みに成功。敵の精鋭部隊は西大陸と東の最宮。ゴッズを呼び出す南部に分かれて固まっていると推測される。
詰り王都の内部崩壊を防ぎ切れば勝ったも同然。
今日からリタイアする4日目までが勝負!
1回戦は各日5試合。制限時間は設けられておらず、エンドレスだが国賓や他の関係者は見たり見なかったり。
賭けも対象外で会場内は落ち着いた雰囲気。
アッテンハイム組がごっそり消えた為、男性部門が少しザワ付いた。
ペリーニャが見に来るかも!と期待して気合いを入れていた連中がガックリしていた。
聖女が武闘大会を観戦する訳ねえだろ。
グーニャがフィーネに抱っこされていて夫婦完全水入らずではなかったが満足だ。
これで酒と摘まみが出たら最高だったが。
「野蛮人!」
ペリーニャの一喝で消滅しちゃったらしいです。
飲みたいなら持参でどうぞと改正された。
男子会場は明日。ヤーチェvsハイマン戦以外に興味が湧かなかった。
第一試合だけ観て華やかな女子会場へ向かおうとした時にケイルガードの遣いに声を掛けられた。
「当国の主がスターレン様とお話がしたいと」
来るなら大会前にして…だと都合悪かったから結果オーライだ。
「構いませんが何時頃が宜しいか」
「本日の御夕食前に。こちら側の宿舎にて」
「分割されるのも手間です故。メレディス側の大使も面会希望されるなら同席でお願いしたいのですが」
「承知して居ります。大会中ですものね。そちらの調整はお任せを」
「夕方前には自宿舎に戻ります。貴国の準備が整い次第呼びに来て貰えますか?」
「承りました。その様に進めます」
席を立ってピエールと隣のケイルガードに向かって礼をしてから会場を移動した。
移動すると言ってもお隣の会場で仕切られた国賓専用通路が用意されていて外部の人間から絡まれるイベントは起きない。
今日からは俺もフィーネも堂々と素顔を晒している。
彼女の腕に抱かれるグーニャもお披露目。
「あれがタイラントの英雄様。格好良い!」
との言葉は全く聞こえて来ない。
「誰だあれ。隣の嫁さんメチャメチャ美人でねえか!」
「あんな美人さんが嫁なのに。侍女にまで手出してるらしいぜ」
「あいつ水竜教なんだろ。くっそ、世の中不公平だ…」
「何あの猫。フワフワして可愛い♡」
「私も抱きたいわ。ねえ買って」
「無茶を言うな。大会の優勝賞金位出さないと買えないって聞いたぞ」
フィーネとグーニャの評価のみ急上昇。
若干俺の心が痛い。
「なあ。帰ったら変な噂立ってないか」
「否定出来ない…。ミランダさんに全力で謝るわ」
その前にカーネギに怒られないかと心配です。
危険な模造武器も徹底的に検分され直し。発見した物は即座に鍛冶炉で溶かしたそうな。
安心して観ていられる。紛れ込むのも俺たちの試合だけだろうし。
女子も男子に負けず劣らず白熱した試合展開。
到着した時には3試合目だったがメレディス出身の女戦士が盛り上げてくれた。
北国の人は体格が良い。褐色肌が多く、腹筋や腕が引き締まって格好よす。
4試合目の予選上がりのモーランゼアの冒険者も素早く大変良かったが、対戦相手の100kg超級者の贅肉に阻まれプレス攻撃にギブアップ。
抱き着き鯖折りの時点でギブしていたのに場外の地面に叩き付けて吠えていた。かなり凶暴だ。
「スタミナが継続出来るならあの人が優勝しそう」
「同感。汗塗れにされるのは絶対嫌」
論点が違う…。
下席のフラーメがフィーネと俺をチラチラ睨んで来た。特に俺の方を?
「初対面の筈なのに何故?」
「アローマさんに手を出されてないか心配してるみたい」
にゃるほろ…。俺の所為じゃねえ!
5試合目で対戦者の小剣が宙を舞い。観客席に飛び込む軌道を見せたが隔てられた障壁に弾かれ地に落ちた。
見えない金網が張られているようだ。
「会場の安全対策はバッチリみたいだな」
「観戦だけで参加しないなら純粋に楽しめそうなのにねぇ」
うんうん。
観覧を終え。自室で今晩の配給品の下拵え。
低塩味噌の漬け焼きの定番メニュー。豚牛魚で外れが無く嫌いな人が少ない。
魔族さんの味覚が不明だがレイルのお墨付きを頂いているから心配無しだ。
焼き工程は接見後に実施。
---------------
モーランゼアの王様ケイルガードは一言で愚者だった。
悪い意味でなく偽物的な意味合いで。
護衛が1人も居ない密室での接見。そこからして可笑しな具合。
「不思議だろうがこれが現実だ」
「と言うからには貴方は影武者ですか」
「御明察。盗聴器の類は徹底的に調べてあるから安心して欲しい。私は聖女様と貴公に接見した事実を作りに来ただけの者。双子の弟だ」
「兄王様は国に?」
「余り身体が強い方ではなくてな。この機会を利用して療養させている。私が遣わされた理由に付いて話す必要は無いと省く。
メレディスに関しては気にするな。あの国の役人は腰抜けで下は脳筋ばかりだ。今日も私だけで充分だと言った途端に尻尾を巻いた…。あれで善くぞ国が保てるのか不思議で仕方無いが」
「安心しました。今は構ってる余裕が無いんで」
ホッと一息。3人だけの部屋でお茶とクッキーを頂いた。
「先ず。仮に私がピエール以外に害されてもクワンジア間で戦争は起きない。それは約束出来る。
焦臭い連中がクワンジアで跋扈しているのは周知でな。モンターニュの腰抜けも巻き込まれるのが嫌で今回は来なかった」
「ではモーランゼアには邪神教徒は居ないと」
「全く居ない訳ではないがメレディスやクワンジア程ではないな。今の帝国と同等、とでも表すか。
貴公が表で動き続ける限り。モーランゼアを相手にしている暇も無いのだろう」
「褒められてるのか解りませんが。一応お礼を言うべきでしょうか」
「感謝します」
「礼には及ばん。今の内状を君らに伝えに来た様な物だからな。連中が我が国に手を出さないのも、奴らが嫌う女神様の秘宝を持っているからだ。それも安心材料の一つと言えよう」
「そんな機密を私共に話して良いのですか」
「知れた所で簡単には動かせない代物だから特に心配は無い」
自信満々だなぁ。
「モーランゼアが敵に回らないだけでも有り難いです」
「ピエールには私が影であるのは伝えてある。よりも先にあっさり見抜かれたがね」
やるじゃんピエール。てか面識有れば直ぐに解るか。
「今回無事に解決したら。その秘宝を拝見しに行っても」
「それは無理だ。権限は兄にしか無いのでな。今も見ての通りの放置状態。ここで死のうが帰ろうが何も変わらぬ」
無念だ。邪神教が嫌う物なら是非見てみたい。
「道具に詳しい君が来るなら。恐らく遠目で見て解るのではないかな。それこそ我が王都に入れば直ぐにでも」
そんな巨大な物なのか。益々興味深い。
「雑談は置いて。数日内、大会中に大規模な襲撃がザッハーク内外で起こります。私を抹殺する為に。この考えに間違いが有るならご助言を」
「そこまで読んでいるなら私が話す事は何も無いな。静観に努め、成り行きを見守ろう。結果は嫌でも世界に広まるだろうからな」
「無粋ですが。特に夜間は自衛に努めて下さい。連れて来られた兵以外は誰も信用出来ません」
「私たちは恐らく城外へ出てしまうので」
「守ってくれとは言わぬ。それを見越して私が来たのだ。ピエールの王としての矜持を見て。自分だけが生き残ろうとは思わんよ。影武者の本懐でも有るしな」
達観してるな、この人も。
「出来る限り。被害は最小限に留めます」
「お約束は難しいですが」
素直に頭を下げると。ケイルガードは深い溜息を吐き。
「真に。ヘルメン王が羨ましい。君らの様な者を部下に持ちて。若き皇帝も然り。モンターニュもピエールも兄上もそう考えているに違いない」
今度は直に褒められた。
「世辞は結構です。もう一つ。メレディス側に注意は向けるべきでしょうか」
「断言は厳しい。だが先程評した通りだ。国の先遣隊から数名予選会に参加させたらしいが、総員が落ちたと聞いている。メレディス出身の本戦出場者の中に本国と連なる者は居ないと見て良いだろう。王都内部で動くとしたら其奴らのみに限定出来るかも知れない」
限定化してもいいのか。信用するなら。
「私を信用するかは結果で判断してくれ。全てを解決出来たなら是非我が国を訪ねて欲しい。時が許すならな」
「そうさせて頂きます」
「考えて置きます」
フィーネの反応は薄かったが少なくとも嘘は言っていないとの事で概ね信用出来ると判断した。
自室に戻ると只管焼き作業。自分たちの夕食後に配給。
何気にしんどいなこれ。
暫く配給に来れないと伝えて本戦1日目は終了した。
ブーイングするでも怒る訳でもなく、今一感情が掴み難かった…。
敵組織の目的も大筋で掴めた。
あいつの魂を捧げれば…。俺を捕えなくても全て整う。
俺たちの注意を他に逸らせている間に事を済ませる積もりで居るようだ。
だったら指輪をさっさと奪えよと思われるかも知れないがそう単純な話でもない。指輪の他にも手段が存在すると考えた方が無難。
知識豊富な召喚士が居ると解った以上は何でも有り得る。
心残りと心配は尽きないが先ずは大会を無事に終える。
大会説明会が行われた同じ広間での開会式。
ピエールがケイルガード氏に向けた挨拶と客賓、列席者と本戦出場者、壁際の自国陣営、それぞれに一言ずつご口上。
ようさん集まってくれて余は嬉しいぞ。死なないように頑張れ。簡単に纏めるとそんな感じ。
一貫してお馬鹿を演じると。何故かそれらしく見えて来る不思議。俺もあれ位で良かったのかも知れない。
スタプの時に。
説明会と同じくレオハインに代わってルールの詳細説明。
内容に変更は無し。予選通過者と関係者用の宿舎を西城門付近に用意したから今日中に移動してねと。
身体を動かす訓練所の開放。子供の託児所。未成年者と成人者、上級招待者向けの娯楽施設(カジノ)の案内。
参考までに覗いてみようかな。
城下町への出入りは自由。但し王都外へ出るのは禁止。
本戦に遅刻したら不戦敗。当たり前だ。
他者との交流は非推奨。国賓のみ許可。どちらもクワンジアの仲介者同席の条件付き。
そしてそして。
「通知された招待状やギルドへの案内板には関係者、従者も大会中は拘束される禁則事項も所々含まれていたそうだが。亡くなった前任者の意図が不明瞭で意味不明。
故にその条文は撤廃する」
タイラントに来た案内には記載されてなかった。
やる事なす事せこいねセザルド。
極力王都内に居て欲しいが既に各地へ出払っている者が多く、撤廃が妥当と判断したと説明が加えられた。
俺たちも懸念が1つ減った。
もう3人とクワンはノドガの屋敷に居るから手遅れです。
気になるマリスにはレイルが書き換えた通信具を渡したらしく筒抜け状態だと。本気モードのレイルが怖い。
娘が関わっていると判明して更に本気度が増した。
事実上、現魔王様はレイルの孫に当たる。どんな心境なんだろ。魔族の考え方は人間とは違うから何とも。
種族も多岐に渡る。そこは人間も同じだが。民族異文化や宗教と同様に。
開会式が終わると同時にペリーニャとお供とマリーナを引き連れて声を掛けて来た。
「退屈で死にそうです。許可は得られたので今夕アッテンハイムに一旦帰ります」
「許可降りたんだ」
マリーナを見て。
「ケイルガード様とメレディスの大使とは挨拶を済まされ何もする事が無い、と言われてしまっては。お引き留めする理由も無いもので。仕方なく特別措置です」
「でも大会中は…」
「ピエール王とケイルガード王。両者の御許可以外に必要な物は要りませんとも」
羨ましい。
「野蛮な闘技大会に縛られる謂われは有りません。前日に戻るお約束で捻じ伏せました」
自由だな。
「少しだけ自室で話せるか」
「勿論です」
誘って会場を出た所で見覚えがある男の子が走って来た。
「兄ちゃんってホントに偉い人だったんだ」
「おぉちょっとだけな。元気だったかアレハ」
「元気だよ。父ちゃんも予選とっふごぉ…」
ハイマンさんに羽交い締めにされてしまった。
「馬鹿。軽々しく国賓様に声を掛ける奴が居るか!」
「大丈夫だよ父ちゃん。兄ちゃんは小石打つけても怒らなかったんだぞ」
「何だと!?真実ですか?」
「あーそんな事があったような」
直後にアレハに拳骨が振り降ろされ。後ろに居た母ちゃんと土下座で平謝り。
「そこまでとは聞いていませんでした!何卒ご容赦を」
「どうかお慈悲を」
「まあまあ。服が少し汚れた位で怒りませんて。子供のした事ですし」
涙を堪えるアレハはハイマンさんと俺を交互に見て状況を飲み込めない様子。
「どうして父ちゃんと母ちゃんが謝るの?」
「お前はもう何も喋るな!」
「偉い人に石打つけるとこうなるんだ。武力だけが全てじゃない。良く覚えておけよ」
「う、うん…」
ペリーニャがアレハの頭を撫で。
「相手がお優しい方で良かったですね」
「うん!兄ちゃんは優しい。姉ちゃんは誰?」
ご夫婦がアレハを掴んで「済みません」を連呼して脱兎の如く逃げて行った。
何か癒されて和んだ。
「名乗れませんでした」
「両親がしっかり教えてくれるさ」
自室に戻り、護衛隊からリーゼルを交えお茶をしながらクワンジア内の状況を説明。
真っ先に悲鳴を上げたのはマリーナ。
「何をどうすればそこまで把握出来るのですか!人質まで救出?馬鹿な…」
「信じなくてもいいよ。でも人質はノドガの屋敷で匿って貰ってる。同じ町に敵組織も居るからソプランたちを監視役として置いてある」
「案外近場の方が見付かり難い物よ。普通そんな場所に居る訳が無いって」
「タイラントに連れて行く案も考えたけど。それだと救出者が不安だろうし。俺たちも動き辛くなる。城内も安全じゃないからさ」
「はぁ…。スターレン様の手に掛かれば。一月で国は丸裸にされるのですね」
「レオハインにはまだ伝えるな。大会中に奴らは必ず動き出す。城内の守りを固めるだけでいい」
「動き出す、と言われる根拠は」
「奴らは俺の存在が邪魔なんだ。ピエールとケイルガードとペリーニャを同時に害して同盟崩壊と戦争を引き起こすのが第一目標。全ての罪を俺に擦り付け。社会的に抹殺するのが第二。
大会終わりだとピエール以外は国に帰ってしまう。擦る相手が居ないんじゃ話にならないだろ?」
「なる…ほど」
「マリーナは後で別の話があるから戻って。先にペリーニャの方を」
「済みません。どうぞ」
2つ目の指針ブローチ複製品をペリーニャに渡し。
「座標はペリーニャにしたいからまだ最後の加工はしてない。出来る限りクワンジア内で解決する積もりだけど。もし逃したらアッテンハイムに向かう可能性が有る。
それをグリエル様に渡して欲しい」
「御父様に…」
「何か問題でも」
「片側一方通行の救難を送るだけよ?」
「いえ。父は変な所で頑固ですので適任ではないと。残りの人員で何とかしようとするのではないかと思います。
リーゼルに持たせて首都に残しましょう」
「御心のままに。こちらの護衛も過剰気味でしたし。無傷のゼノンが居れば問題有りません。副長として団を纏めて置きます」
話が早くて助かるぜ。
ペリーニャに手を添えて貰って魔力を注入。完成品をペリーニャに一旦預けた。グリエル様に話を通してくれると。
隣で見ていたリーゼルとマリーナが感嘆の声を漏らした。
「魔道具作成を間近で見られるとは」
「私も初めての経験です」
「内緒だぜ」
3人が退室後に返されたグーニャとお話。
『やっと解放されたニャン。我輩はどうするのかニャ?』
「戻って来たら引き続きペリーニャの護衛宜しく。さっきの通り、大会中が一番危うい」
「それまでは私たちの傍から離れないでね」
『ハイニャ~♡』
久し振りに2人で撫で回した。
マリーナが戻った所で昼食。食後のデザートを自室で食べながら。
「各所のゴッズは俺たちだけで抑える。国防が動き出す前には片付ける予定」
「多少手子摺るかも知れないから。上手く出兵を遅らせて欲しいの」
「我が軍は動かさず。王都に張り付けと」
「そう言う事。冒険者ギルドは自由に動いて貰う。依頼出せば軍部よりも動きは断然早い。本場の冒険者も何人か来てるし。各町の防衛依頼だけでもいいかも」
「了解しました。ゴッズと戦った経験を持つ者は国には皆無ですので。頼らざるを得ません。お話は以上ですか?」
言い辛い話はフィーネにお任せ。
「マリア。心して聞いて」
「はい」
「貴女のお姉さん。マリスさんが生きていたわ」
「…は?」
「鑑定したり、強力な道具も使ったから間違い無い」
「身体は本人の物だった。でも別人格に操られてる。敵側の術者にね」
「…生きて、いた」
「本人の記憶までは完全に奪えなかったみたい。だから転移も出来てない。今の彼女が王都襲撃を可能とする襲撃部隊のリーダーよ。随分前から支持者を集めて数十人規模で攻めて来る」
「…」
拳を握り震わせた。
フィーネがそっと手を重ね。
「嘘でマリアが死んだと伝えても止められなかった。規模は幾分削れたけど。王城への入城経路の妨害工作もして置いた。でもまだ不充分」
「私が居るから、ですね」
「多分貴女をマリアだと認識出来ない。それが証拠。もし接触してもマリーナとして他人の振りをして欲しい」
暫くの沈黙の後。
「解りました。姉は…取り戻せるのでしょうか」
「とても危険な賭けで良ければ。方法は有るわ」
「聞かせて下さい」
「操ってる術者に解除させた後。数分以内に私とペリーニャで回復魔法を掛けてみる。頭の損傷具合に依っては一生寝た切り。失敗すればマリスさんはもう一度死ぬ。
元通りに治せる確率は限りなく零に近いわ」
「考え…ている時間は無いのですね」
「最も残酷な選択も想定して置いて」
「そのまま…眠らせる」
「判断を委ねられても困る。自分で決めるのよ」
「はい」
助けられるのが一番だが前例が無いだけに保証は出来ない。神の加護を越える所業、か。
---------------
前回の魔王戦よりも前から準備をしていたならば。まだ何か奥の手を隠していると見る。
あの時の二人なら。片方は西大陸。片方がクワンジアへ来ている。若しくは転移道具で往き来している筈じゃ。
問題と言えば名を知らぬのと気配が掴めない点。勇者の影でその他大勢は認識出来ていなかった。あの時は興味が無かったのが大きい。
さて、どうしたもんかのぉ。
ラメルに割り当てられた部屋に行き、少し話をした。
「この度は大変な迷惑をお掛けしました」
「畏まらなくても良いわ。お姉さんのメリリーさんとチャーチャの宿でお友達になったの」
「姉さんと」
「凄い偶然ね。まさか捕われているとは思わなかった。メリーからは料理人を目指して旅に出たまま戻らないと聞いたわ。参考に何処で拉致されたのか教えて」
「最後の記憶は曖昧ですが。西のメルドンチャで雇ってくれそうな仕事場を見付けて。手紙じゃなく姉さんに直接伝えようとチャーチャに引き返す途中の宿場だったと」
真西かえ。南北の判断が難しいのぉ。
「一人旅だったの?」
「いえ流石にそこまで馬鹿じゃありません。向こうで紹介されたキャラバンに便乗しました」
「その時一緒に居た人たちは同じ牢屋に居たのかしら」
「いいえ誰も。僕は騙されたのでしょうか。こんな取り柄も無い駆け出しを捕まえて、何の得が有ったのか…」
「無名だったから狙われたのかもね。得意なお料理は」
「焼き菓子、焼き物全般です。昔から砂時計で計らなくても食材を見ているだけで最適な焼き具合が解る特技を持っていまして」
それではないか。
「その特技に目を付けられたのね。犯人たちは要人の他に料理人も何人か集めていたから。身寄りはお姉さんだけとか条件が合致してしまったのよ」
「そうだったんですか」
落胆が色濃い。勧誘するなら今じゃ!
「今回の件が無事に解決したら。メリーと一緒にタイラントに来ない?将来、あちらの王都の東町辺りで飲食店を開く予定なの。暫くは王都で修行すると良いわ」
「有り難いお話です。姉さんは行くと?」
「貴方と相談してから決めるって。弟思いの良いお姉さんね。大切にしなさいな。それと良い返事も期待してる」
「もう僕の答えは決まったも同然です。この国の人間は…誰も信用出来ません」
「返答は後日で良いわ。先ずは目の前の問題を解決しないと。メルドンチャの担当者とキャラバン隊の長の名前は覚えてる?」
静かに頷き。
「…メルドンの担当はソット。家名は聞きそびれました。
キャラバンの隊長はリレイル・シータと名乗っていました。偽名かも知れませんが」
「ソットとリレイルね。閉じ籠もっていても窮屈でしょうからここの厨房でも手伝ってみたらどうかしら。食材は兎も角三十人分を余計に作るのは大変でしょうし」
王都では五十人前を拵えておるしな。
「それは是非!僕からお願いします」
切り替えが早いのぉ。
「口利きしてあげる。余力が有れば昨日の偉そうな人にも自慢の一品を食べさせてみなさい。きっと善い事が有るから。私も楽しみにしてる」
「はい!最善を尽くします。昨日の御仁は、タイラントの」
「これは内緒よ」
マリスの方は王都手前まで順調に来ておるな。楽しく成ってきおったわ。
---------------
大会初日を迎えた。
ここまでは順調に潰し込みに成功。敵の精鋭部隊は西大陸と東の最宮。ゴッズを呼び出す南部に分かれて固まっていると推測される。
詰り王都の内部崩壊を防ぎ切れば勝ったも同然。
今日からリタイアする4日目までが勝負!
1回戦は各日5試合。制限時間は設けられておらず、エンドレスだが国賓や他の関係者は見たり見なかったり。
賭けも対象外で会場内は落ち着いた雰囲気。
アッテンハイム組がごっそり消えた為、男性部門が少しザワ付いた。
ペリーニャが見に来るかも!と期待して気合いを入れていた連中がガックリしていた。
聖女が武闘大会を観戦する訳ねえだろ。
グーニャがフィーネに抱っこされていて夫婦完全水入らずではなかったが満足だ。
これで酒と摘まみが出たら最高だったが。
「野蛮人!」
ペリーニャの一喝で消滅しちゃったらしいです。
飲みたいなら持参でどうぞと改正された。
男子会場は明日。ヤーチェvsハイマン戦以外に興味が湧かなかった。
第一試合だけ観て華やかな女子会場へ向かおうとした時にケイルガードの遣いに声を掛けられた。
「当国の主がスターレン様とお話がしたいと」
来るなら大会前にして…だと都合悪かったから結果オーライだ。
「構いませんが何時頃が宜しいか」
「本日の御夕食前に。こちら側の宿舎にて」
「分割されるのも手間です故。メレディス側の大使も面会希望されるなら同席でお願いしたいのですが」
「承知して居ります。大会中ですものね。そちらの調整はお任せを」
「夕方前には自宿舎に戻ります。貴国の準備が整い次第呼びに来て貰えますか?」
「承りました。その様に進めます」
席を立ってピエールと隣のケイルガードに向かって礼をしてから会場を移動した。
移動すると言ってもお隣の会場で仕切られた国賓専用通路が用意されていて外部の人間から絡まれるイベントは起きない。
今日からは俺もフィーネも堂々と素顔を晒している。
彼女の腕に抱かれるグーニャもお披露目。
「あれがタイラントの英雄様。格好良い!」
との言葉は全く聞こえて来ない。
「誰だあれ。隣の嫁さんメチャメチャ美人でねえか!」
「あんな美人さんが嫁なのに。侍女にまで手出してるらしいぜ」
「あいつ水竜教なんだろ。くっそ、世の中不公平だ…」
「何あの猫。フワフワして可愛い♡」
「私も抱きたいわ。ねえ買って」
「無茶を言うな。大会の優勝賞金位出さないと買えないって聞いたぞ」
フィーネとグーニャの評価のみ急上昇。
若干俺の心が痛い。
「なあ。帰ったら変な噂立ってないか」
「否定出来ない…。ミランダさんに全力で謝るわ」
その前にカーネギに怒られないかと心配です。
危険な模造武器も徹底的に検分され直し。発見した物は即座に鍛冶炉で溶かしたそうな。
安心して観ていられる。紛れ込むのも俺たちの試合だけだろうし。
女子も男子に負けず劣らず白熱した試合展開。
到着した時には3試合目だったがメレディス出身の女戦士が盛り上げてくれた。
北国の人は体格が良い。褐色肌が多く、腹筋や腕が引き締まって格好よす。
4試合目の予選上がりのモーランゼアの冒険者も素早く大変良かったが、対戦相手の100kg超級者の贅肉に阻まれプレス攻撃にギブアップ。
抱き着き鯖折りの時点でギブしていたのに場外の地面に叩き付けて吠えていた。かなり凶暴だ。
「スタミナが継続出来るならあの人が優勝しそう」
「同感。汗塗れにされるのは絶対嫌」
論点が違う…。
下席のフラーメがフィーネと俺をチラチラ睨んで来た。特に俺の方を?
「初対面の筈なのに何故?」
「アローマさんに手を出されてないか心配してるみたい」
にゃるほろ…。俺の所為じゃねえ!
5試合目で対戦者の小剣が宙を舞い。観客席に飛び込む軌道を見せたが隔てられた障壁に弾かれ地に落ちた。
見えない金網が張られているようだ。
「会場の安全対策はバッチリみたいだな」
「観戦だけで参加しないなら純粋に楽しめそうなのにねぇ」
うんうん。
観覧を終え。自室で今晩の配給品の下拵え。
低塩味噌の漬け焼きの定番メニュー。豚牛魚で外れが無く嫌いな人が少ない。
魔族さんの味覚が不明だがレイルのお墨付きを頂いているから心配無しだ。
焼き工程は接見後に実施。
---------------
モーランゼアの王様ケイルガードは一言で愚者だった。
悪い意味でなく偽物的な意味合いで。
護衛が1人も居ない密室での接見。そこからして可笑しな具合。
「不思議だろうがこれが現実だ」
「と言うからには貴方は影武者ですか」
「御明察。盗聴器の類は徹底的に調べてあるから安心して欲しい。私は聖女様と貴公に接見した事実を作りに来ただけの者。双子の弟だ」
「兄王様は国に?」
「余り身体が強い方ではなくてな。この機会を利用して療養させている。私が遣わされた理由に付いて話す必要は無いと省く。
メレディスに関しては気にするな。あの国の役人は腰抜けで下は脳筋ばかりだ。今日も私だけで充分だと言った途端に尻尾を巻いた…。あれで善くぞ国が保てるのか不思議で仕方無いが」
「安心しました。今は構ってる余裕が無いんで」
ホッと一息。3人だけの部屋でお茶とクッキーを頂いた。
「先ず。仮に私がピエール以外に害されてもクワンジア間で戦争は起きない。それは約束出来る。
焦臭い連中がクワンジアで跋扈しているのは周知でな。モンターニュの腰抜けも巻き込まれるのが嫌で今回は来なかった」
「ではモーランゼアには邪神教徒は居ないと」
「全く居ない訳ではないがメレディスやクワンジア程ではないな。今の帝国と同等、とでも表すか。
貴公が表で動き続ける限り。モーランゼアを相手にしている暇も無いのだろう」
「褒められてるのか解りませんが。一応お礼を言うべきでしょうか」
「感謝します」
「礼には及ばん。今の内状を君らに伝えに来た様な物だからな。連中が我が国に手を出さないのも、奴らが嫌う女神様の秘宝を持っているからだ。それも安心材料の一つと言えよう」
「そんな機密を私共に話して良いのですか」
「知れた所で簡単には動かせない代物だから特に心配は無い」
自信満々だなぁ。
「モーランゼアが敵に回らないだけでも有り難いです」
「ピエールには私が影であるのは伝えてある。よりも先にあっさり見抜かれたがね」
やるじゃんピエール。てか面識有れば直ぐに解るか。
「今回無事に解決したら。その秘宝を拝見しに行っても」
「それは無理だ。権限は兄にしか無いのでな。今も見ての通りの放置状態。ここで死のうが帰ろうが何も変わらぬ」
無念だ。邪神教が嫌う物なら是非見てみたい。
「道具に詳しい君が来るなら。恐らく遠目で見て解るのではないかな。それこそ我が王都に入れば直ぐにでも」
そんな巨大な物なのか。益々興味深い。
「雑談は置いて。数日内、大会中に大規模な襲撃がザッハーク内外で起こります。私を抹殺する為に。この考えに間違いが有るならご助言を」
「そこまで読んでいるなら私が話す事は何も無いな。静観に努め、成り行きを見守ろう。結果は嫌でも世界に広まるだろうからな」
「無粋ですが。特に夜間は自衛に努めて下さい。連れて来られた兵以外は誰も信用出来ません」
「私たちは恐らく城外へ出てしまうので」
「守ってくれとは言わぬ。それを見越して私が来たのだ。ピエールの王としての矜持を見て。自分だけが生き残ろうとは思わんよ。影武者の本懐でも有るしな」
達観してるな、この人も。
「出来る限り。被害は最小限に留めます」
「お約束は難しいですが」
素直に頭を下げると。ケイルガードは深い溜息を吐き。
「真に。ヘルメン王が羨ましい。君らの様な者を部下に持ちて。若き皇帝も然り。モンターニュもピエールも兄上もそう考えているに違いない」
今度は直に褒められた。
「世辞は結構です。もう一つ。メレディス側に注意は向けるべきでしょうか」
「断言は厳しい。だが先程評した通りだ。国の先遣隊から数名予選会に参加させたらしいが、総員が落ちたと聞いている。メレディス出身の本戦出場者の中に本国と連なる者は居ないと見て良いだろう。王都内部で動くとしたら其奴らのみに限定出来るかも知れない」
限定化してもいいのか。信用するなら。
「私を信用するかは結果で判断してくれ。全てを解決出来たなら是非我が国を訪ねて欲しい。時が許すならな」
「そうさせて頂きます」
「考えて置きます」
フィーネの反応は薄かったが少なくとも嘘は言っていないとの事で概ね信用出来ると判断した。
自室に戻ると只管焼き作業。自分たちの夕食後に配給。
何気にしんどいなこれ。
暫く配給に来れないと伝えて本戦1日目は終了した。
ブーイングするでも怒る訳でもなく、今一感情が掴み難かった…。
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