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第153話 クワンジア人質救出

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合流したレイルの話は色々と衝撃だったが任せるったら任せます。金の使い道も含め。
「マリスの撹乱に成功したのはいいけども」
「無関係な女の子を勧誘するのに全部使うとはねぇ」
想定外っす。

「将来を見越して信用に足る人間を増やしたのじゃ。文句を言われる筋合いは無いわ」
「文句は無いけどさぁ。はいコンパス」
何でも探してみたい勧誘者の弟が居るらしく。合流直後にコンパスを要求された。

操作は数秒。それから首を捻った。
「人質一覧と略図を見せよ」
はいどぞー。

「一覧には無いが。平民も数人同じ場所に捕われておるな。目的は今一不鮮明じゃがの」
「ラメルって料理人志望の男の子?」
「うむ」
何でまた料理人が?意味不明だ。


何はさて置き捨て。南西部の土竜森の南へ向かった。歩東側の本街道沿いには小さな砦も確認出来る。あんな小規模でゴッズが防げるのだろうかは絶大な疑問。

冒険者の突飛な動きを抑制する目的なら納得。

その突飛を実行してるのは俺たちなんですが!

ここまではクワンに運んで貰い。後はレイルに丸投げ。
「ほぉ。これは懐かしい種族ぞな」
南へ数歩。そこでショッキングピンクの翼を出し。
「少々荒れるが。手出しはするな」
出さないってば。
「可能な限り抑え気味に。森を焼き払わないでねー」

簡易的に武装を施し待機応援。背後に土竜が居るんで。

後ろに気を配りつつ観戦していると。

推定アドリアーナ部隊が約50。そこに上乗せで各員が10匹程の蝙蝠を弾き出した。総勢で500規模。

レイルの敗北は有り得ない。安心して見て居られる。

蝙蝠がボナーヘルトで次々に刻まれ、半透明だった剣身が瞬く間に紅に染まる。

立ち回り用の空路を開くと同時に粛正が始まった。

見紛う事無き、ビンタである。

ある物は頬。ある者は後頭部。ある者は臀部を。一撃で地面や木々と合体した。

5分も掛からず戦闘終了。4人で拍手。クワンはフィーネの肩上で喝采の勝ち鬨。…鶏じゃないよな。

残らず平場に集められて全員正座。
「逃げても良いが。そんな為体では人間の冒険者に狩られるのが落ちじゃぞ」
「逃げませぬ…。空腹で気が立っていまして」
空腹だったの?

「妾の眷属を解かれ。今は魔王の眷属だった筈じゃが。こんな場所で何をしておる」
「それはこちらの台詞です。シュライツ様こそ。こちらで何をされているのですか」
リーダー格の首根を片手で絞り上げ。
「質問に答えよ。妾は自由と成り人間の国を外遊しておるだけじゃ」

「す、済みません!今現在我らは、アポリギニウス様のご命令でこの国の動向を監視中の身。敵対ではなく、飽くまで監視をと」
「彼奴が起きたのは知っておったが。随分と温い指示じゃのぉ」

「我らに与えられた大陸南部の村が人間共に乗っ取られまして」
「乗っ取り?奪い返せばええじゃろ」

「実は…。今世の母君様が質に取られ。盾にされて、王も手出しが出来ぬ状況でして」
「ほぉ。難儀な話じゃ。何か武具で捕われたのか。魔王を出し抜ける程の」

「いえ、それが。大変申し上げ難いのですが。食糧で」
「ほえ?何じゃと」

「ですから食糧と。発端は貢ぎ物。献上品と来て。最後は人間が作り出す甘味で釣られた模様です」
あーそれで料理人かぁ。何となく繋がった。

レイルが膝から崩れた。
「何をコソコソと遣っているかと思えば。四方や甘味とは」

「レイルはそれが誰か知ってるの?」
「忘れようも無い。妾が腹を痛めた一人娘じゃからな」
「「「「エッ!?」」」」「クワァッ!?」
人生一の衝撃かも!

「スターレン。西大陸に乗り込む時は必ず妾にも声を掛けよ。盟約を打ち破ってでも無理矢理乗り込む」
「了解」
何故かレイルも動向する事に決まった。

「吸血姫の生血も敵の手中に有るも同然じゃ。血のような物が西から運び込まれた形跡は」
「我らは船の積荷までは確認して居りません」

視野は広いのにこんな場所で何を?

取り敢えず腹拵え。
「簡単な物ならここで作れるから。こっちに来ていったい何食べてたの?」
「土竜が集めた芋を主食に。東の家畜を数匹…。上手く入り込めた所までは良かったのだが。こちら側で人間は害するなと命じられているし。どうにも身動きが取れなくなってしまった」
根は真面目で忠実。悪い魔族ではない。

「直ぐに提供出来るのはサンドイッチと牛乳位。これから助けに行く人間の人質分を残して…半分かな」
「食べたら大人しくしておれよ。妾たちは時間が無い。西の港を片付けてまた様子を見に来るぞい」
「御意に。所でどうしてシュライツ様が人間と仲良くされているので?」

「話せば長くなる。それも後じゃ。名前はレイルダールに改名した。昔の名は忘れよ」
「ハハッ!」

全員平伏した。

その間に屋台を組んで、せっせと4人でサンドイッチを作った。牛乳のみだと後味が悪い。そこで定番のオレンジジュースと真水も追加して提供した。

人間用の回復薬と強壮剤はどう影響するか不明な為に断念して一時保留。

食べている最中にも見る見る回復。顔色も幾分良くなった気がする。
「眷属か従属化の権限をレイルに移行は出来ないの?」
「今は止めた方が良い。そんな事をすれば魔王と娘に一発で気付かれる。何が起きるか予想も出来ぬぞ。追加の後続部隊が大挙して押し寄せたら面倒じゃろ?」

「今のは聞かなかった事にして」

小腹がある程度満たされ満足したのか木々の間に隠れてしまった。礼を言う文化は無いみたいだ。

敵意は消えたとレイルが判断してくれたのでクエ・イゾルバの東まで退避した。

「さっきの話だと一般の料理人が多数。船で物資を運ぶ作業員やその家族が捕われてると推測する。島にも分散してると考えると今日だけで全員救出するのは不可能だ。
オマケに邪神教の信者も一緒に紛れて状況は最悪。だけど殲滅戦は絶対回避で。
町内の地上班はレイルを筆頭にソプランとアローマ。船は俺とフィーネとクワンで捕まえに行く」
「歯痒いのぉ」渋々了解。
「「了解」」フィーネとソプランは即応。
「転移道具は使用しても」

「使い潰してもいいよ。どの道勝負は1回だと思う。使用の判断はレイルの指示に従って。若しくは孤立して身動きが取れなくなった時に」
「承知しました」

「ソプランとアローマは不利になったら無理せずレイルに任せて必ず逃亡すること。深追い厳禁」

以上を伝えて解散。




---------------

町はレイルたちに任せ一路海上へ。

クエ・イゾルバの北側のポイントから。
周辺100km圏内に誰も居ないのを確認後。岸壁付近に船を出した。

完全武装でキスも出来ない。ではなくクワンを上空に飛ばして最速航行。

「まさか料理に釣られるとはねぇ」
「親が親なら子供も似るのよ。じゃなくても空腹時にスイーツ見せられたら堪ったもんじゃ無いわ。女子として」
背に腹は代えられないとはこの事だ。


小袋の中のコンパスは正常。船で動いていようとお構いなしで捕捉は出来た。

北側から接近。双眼鏡で覗くと要人は3人ずつに分けられ2隻の船内に繋がれていた。

「ミミルさんは南側の船。フィーネはどっち行く?」
双眼鏡で交互に確認。
「どっちが行っても驚かれるわ。船底に穴も空けられないし。海中を泳ぐから南の船に」

一角獣が出ませんようにと祈りながら。数km手前で船を飛び降り、フィーネの背中に跨がった。
「ごめんな。こんな芸当が出来るのもフィーネ以外に居ないから」
「いいわよ。私と魚人さん以外に出来る人間が居たら是非会いたい」

特有の高い波間に揉まれ紛れ。北側船の側面に張り付いた所でフィーネは深く潜った。

攀じ登って甲板に躍り出ると。警備の兵隊たちは。
「な、何だ!新種の魔物か!!」
当然こうなります。
「シャァァァーーー」
考え付く限りの奇声を発して木材と鉄板の数々を下へと刳り貫いて下りた。

目標の3人の女性からも盛大な悲鳴を浴びたが構わず奪取して海岸のポイントまで飛んだ。

教団信者が口を開く前に全てを終えた。

同じ部屋に居た信者以外の無記名一般人も一緒に連れて来てしまったが…合計で7名。内2名が若い男の子。

拉致された理由は良く解らない。痛々しい鎖を外し、彫像で呪いの解除を同時進行。

特別な反応は無くて一段落。
「見ての通りに助け出した。だが他が合流するまで暫く大人しくしていてくれ」

大きな浴槽を2つ出し、湯を張って7人が落ち着くまで男女別に浸け置き。
「理解不能だろうが落ち着け」
それでもギャーギャー騒ぐ騒ぐ。無駄に元気だ。これなら体調も問題無さそう。

男女間に衝立を設置。女性側には目隠しも。
「男は露天で我慢しろ。恥ずかしいとか言ってる場合じゃ無い。適当な着替えは後で用意して投げ入れる!ロープは胴体のみにするから先ずは汚れた身体を洗え」

それぞれ石鹸とタオルを投入。

女性側から苦情。
「ロープが邪魔で脱げません!」
「私もです!」
5人の声が聞こえた。状況は見えないが仕方ない。
「ロープは一旦外す。逃げないと誓えるか」

「「「「「誓います!!」」」」」
「「俺たちも誓う!」」

逃げようにも裸同然。成る様に成れと風呂桶を追加投入。

水は魔石で常時浄化されてるから問題無しと。


約15分後にフィーネが8名の男女を縄で繋いだ状態で戻った。そしてかなり凹んでる。
「どうしたフィーダー」
「どうもこうも無い。見たくない物まで見えちゃって。あいつの名前も…」
「出来れば忘れた方が良い」
「努力してみる。さあグズグズしないでお風呂と着替え!」

「はい!」あっちは説得済みらしい。




---------------

一言で言えば面倒じゃ。妾なら多少被害を拡大させてでもここで壊滅させる。

真の拠点は島に在るとスターレンは見たのだろうが。やはり面倒じゃ。

フィーネの双眼鏡を覗きながら舌打ちを繰り返す。

「まあ何だ。「それも」踏まえてレイルに任せるってあいつが言ったんだ。あんたの好きにすればいいんじゃねえか」
「町を丸ごと滅ぼす。とかでなければ問題無いかと」
「物分りがええのぉ、主らは」

儀式を行うなら必ず召喚士が居る。

新たな眷属を作り出して局所で屠る手も有る。しかしそれでは誰が襲撃したかを晒してしまう様な物。

妾が関与した事は伏せなければ為らぬ。

考えたなスターレンよ。

標的の建屋は二つ。一つは地上一階部の部屋。もう一つのラメルが捕われている方は、魔物除けの檻で固められた地下室。かなり強力な呪詛が掛かっている。

「妾なら破れる牢じゃが…」
「そっちは人間の俺らで開ける。見張りを全員倒せば誰かが鍵持ってんだろ」
「地上は裏手の壁を抜くだけなので。後回しで良いと思われます」

「なら妾は少し遅れて行くとするかの。何かしらピンク色の小動物に化ける。解り易いじゃろ」
「目立って欲しくねえが。こっちから判別出来ねえと話にならないからな」

「二カ所の人質をどうやって合流させるのですか?」
「一時的に眷属化して妾の影に入れるのじゃ」

「眷属化しないとどうなるんだ」
「眷属でも従魔でもない者なら即座に死滅する」
「怖えなおい」

「誰彼構わずは運べない。親切な仕様じゃな」
誰が設計したかは知りたくもないが。



透明化の道具破りは設置されてなかった。

出会した人間全員。背後から忍び寄って首を絞めて気絶させて回った。

難無く鍵を奪い取り、地下室へ。

透明化したまま背後で猫の鳴き声がした牢屋だけを開けて収容者を引っ張り出した。

見えない俺たちに背中を押され戸惑う奴らを無理矢理整列させレイルが吸収し…。一人だけ首をへし折られた。

組織の人間だと判定されたようだ。

味を占めた俺たちは地上の建物も裏口から忍び込んで人質を救出した。

合計二十四人。予定加算が十人。言葉は一切交わさなかったから内訳は不明。

後で聞いたら首を折られた奴は邪神の信者で手遅れだったそうだ。




---------------

主様が陸地に移動した後も、あたしは上空から船の行方を尾行し続けた。

一旦は港寄りに走り出したが直ぐに進路を変え、諸島を迂回して南下を始めた。

導け。南国ペカトーレで逃したアレに。

生贄の儀式に使う祭壇。四角い祭壇。石の棺か、それとも金属の筺か。

何方にしても破壊して置きたい。要の道具を木っ端に砕ければ修復までの時間が稼げる。

あたしはそう考えた。


海と島々が夕日に染まる頃。船は南端の島に寄港した。

その島には他とは違う建物が在り。大勢の人間が入り乱れてはいたが誰も特殊な服を着ていない。

良く見た小さな港の光景だった。

漁民?水夫?見た目だけでは人間の判別は難しい。

島の上空で旋回を続けていると。内陸寄りの一角が煌めき、一本の鈍速槍が飛んで来た。

あの建物が実に怪しい。そう感じて二本目の槍と入れ違いに屋根に降りた。

すると隣の建物の窓から土煙が上がり。下方の路地が騒がしくなった。

暫く首を振るハンガーを隣から眺めていると。様子を見に来た男たちが現われ、内部への連絡路を開いてくれた。

助かっちゃった。

開けっ放しの扉から侵入。誰も居ない物陰に隠れてスマホを打ち込んだ。

「南端の島に敵の拠点有り。内部に侵入出来たので適当に荒らしてから帰ります。あたしに構わずノドガの屋敷に向かって下さい。帰りはペリーニャ様の所に戻ります」
これで良しと。

階段下の荷箱の上に陣取り、人の動きを観察。

激しい場所は三カ所。出入りする部屋が二つと下へ続く階段周り。

屋上から引き返して来た男の一人が。
「アレは無事か。頼む無事だと言ってくれ。どうしてこんな日に限って俺が当番長なんだよ!」と口走った。

アレがアレなら当たりだ。でも直ぐに付いて行かないあたしは偉くて美しい鳩。多分罠だから。

気にせず人の動きが収まるまで待ち惚け。ちょっと昼寝為らぬ夕寝しよっかな。

と目を閉じかけた矢先。

真ん中の部屋から大きな麻袋を運び出した男が廊下で滑って転んで袋の中身を打ち撒けた。

肌理細かい白い粉が舞い上がり、部屋と廊下と階段までを煙が埋め尽くした。

後ろから出て来た人が。
「馬鹿野郎。大事な商品打ち撒けやがって!俺たちをヤク中にしたいのか!!」
「す、済まねえ。直ぐに片付ける」
慌てた男が袋の端を持って走り出した。上下逆に。
「おい待ちやがれ!」

ヤクって何だろう。何処となく甘い香りがする。

小麦粉?米粉?砂糖?何れも違う気がした。

何にしても碌でも無い物には違いない。

煙の範囲が更に拡大。これ幸いと偵察中に拾った火の魔石に魔力を掛けて廊下天井の照明道具に打つけた。

チリッと火花が弾けた直後。


寸前で耳を翼で塞いでいたのに激しい爆音。炎幕と爆風に乗って外へ飛び出した。

溶岩迷宮より全然涼しい環境。あたしは離れた建物の屋根に乗り移り、立ち上る黒煙が晴れるまで待った。

今日の偵察は待ちが多いな。


強い潮風に煽られ。晴れた煙の隙間から結果が見えた。

建物は地面から吹き飛び、地下空間まで露出。拉げた人の遺体が端に重なる場所。

そこに目的の物体が横たわっていた。

在った♡あの日見た痕跡の大きさにピタリと嵌る。

あたしはクワンティ。賢く気高い白い鳩。
鳩に迷うと言う概念は無し!

「クワッ!!」来て、ソラリマ!!


その島の住人は多くを語れない。何が起きても不思議ではない島であるからして。しかしそれでも夕暮れに見えた光景は消火活動をする近隣の者の目を奪った。

濛々と立ち上る黒い煙が天から割れる摩訶不思議な光景は永く忘れ得ないだろうと。




---------------

クワンが心配だが。総員で39名の救出者たちをノドガの屋敷に運び終えた頃に。ソラリマが居なくなった。

無事に王都で会えると信じよう。

「予定者の倍になったが暫く預かれ。闘技大会が終わるまでで良い。俺たちの素性は話すな。渡された一覧から数名は敵側に寝返っていた。とても残念だ」
更新した一覧の控えをノドガに手渡した。
「…遺族への連絡も後日に」
「そうしてくれ」

ロビーの床に座る人たちに向き直って。
「もう暫くの間の辛抱だ。早く家族に会いたいだろうがその家族もどうなっているのか正直に不明だ。しかし必ず一度は帰すと約束する。後の事はミミル嬢とノドガ氏で相談して進めてくれ」
「はい…」
「承知した」

一旦王都へ帰ろうと背を向けた時。ウォンドが進路に立ち塞がった。
「ウォンド!貴様は」叫んだのはノドガ。
「済まない御仁。もう一つだけ話を」

「腹違いの妹の事か」
「…はい」

「今そちらに手を出せばどうなるか。理解出来ない程の馬鹿なのかお前は」
「直ぐに。この屋敷が襲われます」
解ってんじゃん。

「保証は出来ないが。奴らは大会中に必ず動く。それまでは無事な筈だ。奴らに取っても切り札だからな」
「くっ…」

「お前は大国官僚の息子だ。将来その座を引き継ぐ気概がもし有るなら。通り縋りの他国の人間に頼らず。自分の手で何とかして見せろ。
手伝いには来る。まずはその足を治せ」
「はい!」

もう一度救出者を振り返り。
「これまで見た物、聞いた事。全て忘れてしまえ。覚えていても何も得は無い。敵組織を一掃出来れば良いが難しいのが現状だ。戦うも善し。他国に逃げるも善し。
その道は追って用意する。それまでに自分の身の振り方を決めて置け」
返事は疎らだったが了承の意は概ね得られた。




---------------

自分たちの食事後にアドリアーナ(人間側呼称)たちへの配給を済ませ。
帰って来ていたクワンからの報告を受けた。

「防備の固い建物の中で生贄の祭壇らしき物を発見したので破壊しました。その欠片の一部を持ち去り。他の二つを探しましたが発見出来ずに帰って来ました。
透明化したまま執行した為。あたしを認知出来たのは極僅かだと思います」
おぉ何なのこの有能な鳩さんは。

戦利品を出され、鑑定してみたが何も出なかった。
いや何も、と言うのは少し違う。

名前:クロイツェルサンドの破片
原産国:メレディス南東部地方
特徴:一般的な石膏、作業台に使用される粘土の塊

「クロイツェルの砂を固めた物?陶磁器の破片みたいな物かな」
聞いた瞬間にクワンが凹んでテーブルの上で垂れた。
「だ、大丈夫よクワンティ。怪しさ満点の物を破壊出来たんだし」

今回の場合は変な薬剤の供給源を撲滅出来たのが大きいのかも知れないよと慰めた。

破片をレイルが手に持ち小さく唸った。
「確証は無いが…。正解かも知れぬぞ。闇属性の最上位魔石の跡を僅かに感じる。破壊したその台に何か黒い石は埋め込まれてはいなかったかえ」
「中心部分は空洞だった気がします。一撃で粉砕したので暗くて見落としていたかも」
ソラリマもフォロー。
『我も特に。何かの術式が織り込まれているとは思ったが直接闇属性に接触した感覚は無い』

「中核を抜いて他へ移したか。邪神教の連中も中々遣りおるのぉ」
「構造的に再現は可能ってこと?」

「呪術に長けた者。術式を織り込める者。敵の中に知識の有る召喚士が居る。其奴なら可能じゃろうな。例えば前代の勇者に与していた二人なら…」
レイルが薄ら笑った。
「そいつらがまだ生きてるって?」

「有り得る話じゃ。勇者が倒れる寸前で逃げた。仲間の誰かに憑依した。転生した。己の身体を死霊化した。手段は色々じゃて」
「うわぁ…。一番厄介かも」
西大陸内の知識を持つのも。その対処方法も。前前から準備していたのなら色々合点が行く。

「其奴らに関しては妾に任せよ。魔族の真の恐ろしさに未だ気付いて居らぬ様じゃ。餌で釣れていると勘違いしておる間に叩けば良い」
「任せるよ。どんな奴かも知らんし」

「大凡の見当も付く。奴らの目的のな」
「目的?」

「土竜のゴッズ。それを従魔にするとして。スターレンなら最初に何をさせる?」
「何って……。まさか!」
「じゃろうな」

「何なのスタン」
「土竜ゴッズに。ラザーリアの地下で寝てるあいつを掘り起こさせる積もりなのさ」
「え…」

ソプランが堪らず声を上げた。
「今、寝てるって言ったのか。死んだんじゃなくて」
「半殺しにして封印してある。転生者は特殊でさ。自死でなければ転生先をある程度自由に選べるんだ。もしも…
知り合いや自分たちの赤ん坊に生まれて来たら」
「…手が出せない」

「それが怖くて殺せなかった。他にも理由は有ったけど」
「口挟んで悪かった。続けてくれ」

レイルが改めて。
「逆を言えばゴッズでなければ辿り着けぬと判断した。本命が土竜なら、そこには必ず召喚士が現われる。
幸か不幸か大昔の眷属たちも近場に居るのじゃし。妾以外に適任者が居るかえ?」
「居ないっす」

「南西は妾に任せ。安心して他の地区に専念せよ」

安心までは難しいが。今この時程、レイルが来てくれて良かったと思った事は無い。
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