4 / 50
第04話 ステータス
しおりを挟む
シェーラの装備は大剣以外はすんなり決まった。大剣だけは意に沿う物がなかなか見つからず、六本を試したあげく、ダメ元で、とロミナスさんがバックヤードの更に奥から持ってきた、刃渡り1メートル70センチ程の『大剣にしても程があるだろ!!』という、片刃の大剣を選んだ。
その大剣は、支援武具としては異例の新品だ。ロミナスさんが言うところによれば、鍛冶士が思うがままに作ってみたが、何年経っても売れず、鋳つぶすのも忍びないと言うことで、支援武具としてと寄贈された物だという。
そして、支援武具としても、ニーズがこれまで無かったらしく、新品のまま現在まで残っていたそうだ。
「7だよね」
「クラウド! クラウド!!」
「そっくり」
「うんにゃ、穴が空いとらん! 空いちょれば完璧やったのにぃぃ!!」
シェーラが選んだ大剣を見て、ティアとミミが騒いでいる。まあ、二人が騒ぐ気持ちも理解出来る。確かに、そっくりだ。
俺は、オタクでもゲーマーでも無いが、それでも幾度となく目にしている。国民的RPG双璧の一つと言われるのは伊達では無いのだろう。そんなシリーズ7作目の主人公が初期装備していた剣と酷似している。
確か、俺のうっすらとした記憶では、ゲーム中のあの剣の種別は『バスタードソード』と言うことになっていたと思う。シェーラが選んだ大剣は、あくまでも『大剣』だ。前世的な種別で言えば『グレートソード』に当たる。『バスタードソード』は両手・片手で使用可能な剣の種別であり、ゲーム中の主人公は確かに片手でも振り回しているので、『バスタードソード』で間違いない。
以前、ラノベで『バスタードソード』の名前を見た時、『バスタード』って何だ?と思い、ググった際の情報だ。
ちなみに、『バスターソード』なる言葉もあり、こちらは『撃退する剣』の意で、『バスタードソード』と方々で混同されていて混乱させられた。閑話休題。
さて、この大剣だが、鞘自体に鎧とベルトに固定する金具が取り付けられており、某ゲームの主人公同様に背中に斜めに背負う形になる。
そして、その剣の長さ故、引き抜くことは出来ないことから、横へと抜く形になっていた。鞘と剣のロックも、剣を入れると自動的にかかり、抜くときは柄を握るとそこにあるスイッチが押される形になりロックが外れる仕組みになっている。伊達に鍛冶士が『思うがままに……』作った訳では無い。根本的な『使えるかどうか』という問題はともかく、細かな点まで考慮して作られているのは間違いないようだ。
支援防具にその大剣を取り付けたシェーラは、何度も抜剣・納剣を繰り返している。
「抜き差しの練習が必要だな」
そう言うシェーラの顔は満足げだ。
そんな訳で、シェーラの支援武具選択は終了した。問題はミミである。
結局、すったもんだを繰り返したあげく、若干大きめの装備を一通り貰うことで良しとすることになった。残念ながら、バックヤード中をひっくり返してもミミにピッタリサイズの防具は見つからなかったのだ。自分のミニマムボディーを恨め。
「成長期だから、直ぐにピッタリに成る!!」
そう言うミミから、俺、ティア、シェーラは目をそらした。
ちなみに、ミミの武器は『短剣』だ。ただ、ミミが装備すると、体格比的には『長剣』サイズとなる。
ゲームなどにおいては、魔法使いの武器は『杖』というのが定番ではあるが、この世界の『魔法攻撃力を上げる付与がなされた杖ないし武器』は高価であり、間違っても駆け出し冒険者が身につけられる物ではない。故に支援武具にも存在していない訳だ。
そのため、取りあえずは、当たればそれなりにダメージが入り、他の武器と比較した上である程度扱いやすい『剣』を選択し、体格を考慮して『短剣』と成った。
ちなみに、『ロングソード』と『ショートソード』は、いろいろと差別化が難しく、どちらがどちらと言えないケースもあるため、ここではその言葉の意味通り、剣自体の長さにで言っていると思って欲しい。
初期の予定と大幅に変わり、数倍の時間を浪費してしまったのだが、なんとか準備が整った。
と言う訳で、俺たちは勇んでギルド出口へと向かったのだが、またもや『待ったコール』が掛かる。今度はロミナスさんからだ。
「ちょっと待ちなね。もう一つ大切な支援品を忘れているさね。ほら、一人一本」
そう言って、彼女が俺たち一人一人に手渡したのは、赤い液体が入った小瓶。
「ポーション来たー!!」
ミミが奇声を上げる。だが、まあ、奇声を上げないまでも、これは俺も、もの凄く嬉しかった。
『ポーション』それは魔法回復薬の総称である。今手渡されたのは『低級回復薬』で、ある程度のケガまでは瞬時に治してくれる『冒険者の友』的必需品だ。
当然、俺たち初心者には絶対に必要な物なのだが、この一番安い『低級回復薬』ですら10ダリする。この金額を無理矢理日本円に換算すると、1000円から2000円程だろうか。物価の基準を何に定めるかによって、かなり変わってくる数字なので不確かな数字ではあるが。
前世においては、今日日1000円や2000円であれば、小学生でも何とでも成る金額だ。だが、俺たちにはそんな10ダリすら無い。それどころか、1ダリの下の単位である1ダグリすら持っていない。完全無欠に一文無しである。
ゲームにおいてすら、回復薬や回復手段の無いまま戦闘フィールドへと向かうことは無いだろう。ましてや、これは現実だ。ケガは死に繋がり、死は完全な死であり、教会や広場の噴水前や王様の前に復活するなんてことは無い。
俺としては、今日はとにかく攻撃を受けないようにして、明日は一つで良いから『低級回復薬』を購入する予定だった。今晩の宿屋、食事を犠牲にしても、だ。
そう考えていただけに、この予定外の『低級回復薬』は嬉しかった。ミミの奇声をとがめない位に嬉しかったのだ。
全員が、一本ずつの『低級回復薬』を貰うと、今後こそは本当にギルドを出て西門へと向かう。
そんな俺たちとすれ違うようにして、本日成人したばかりの者たち六名がギルドへと入っていった。その際、一人の者が、「あれ? 今の子、あの……」とティアを見てつぶやいていたが、無視する。幸い、ティアは気づいていない。
さて、この王都の冒険者ギルドは前記の通り三カ所ある。その理由は、冒険者の主な活動場所が街の外であり、門のそばに無いと移動だけで無駄な時間を消費してしまうからだ。故に、王都で最も大きな門である東・西・南の三門そばにギルドは建てられている。
とはいえ、これは、あくまで街の中からすれば、と言うことだ。街の門を抜けると、その先には広大な畑地が広がっている。王都という10万人を超える人口を養うためには、それに見合った畑地が必要なのは当然のことで、本当の外へと出るには、この畑地を抜け外門をくぐる必要がある。つまり30分以上掛かると言うことだ。
このような、二重に作られた塀は、ほぼ全ての街及び村も同様である。厳密に言えば、王都に関しては、王城も塀に囲まれている関係上、三重構造だといえる。
更に、ついでに言っておくが、この王都の広大な畑地ではあるが、それだけでは王都の人口を養える量に満たない。そのため、王都の周囲にある村々において、その分を生産し、それを運び込むことによって補っている。この辺りは、前世の都市部と同じだな。
一定以上の人間が生きていくためには、それ相応の穀物や野菜を生産する必要がある。間違っても、某世紀末で『ヒッハー』な漫画のように、畑がほとんど見受けられない荒野ばかりの土地では、絶対に一定以上の人間は生きていけないのだ。あれって、畑の描写って一回ぐらいしか無かったんじゃ無いか? うろ覚えだけどさ。
まあ、某漫画だけで無く、大半のゲーム、漫画、アニメでも、巨大な街は描かれても、その周囲に畑地が全く無いのが普通だからな。某パヤオ氏のアニメに関しては、結構その当たりはまともに描いていた気がするが。またまた閑話休題。
街の門である内門を抜けて、外門へ向かう道すがら、30分近く掛かる時間を利用して、各自のスキルやパラメーターの詳細について情報交換を行う。
「と言う訳で、歌ならアニソンよ! 歌謡曲の愛だの恋だの別れだのじゃ、何が付与されるのよ!ってこと。その点アニソンは歌詞からしてそっち系でしょ! しかも昭和系は特に! それとね、歌って、歌詞もだけどその歌の背景って言うか雰囲気も大事だと思う訳よ! アニメの主題歌には歌詞関係なく、主人公キャラや主役メカのイメージが自然に入る訳よ! んで、それが絶対に付与効果として現れるはず!! 間違いないって!!」
ティアの『歌唱』スキルについて説明した後、ミミのやつがオタク故の持論をぶち始めた。異常に熱く、やたらと感嘆符だらけの熱弁だ。
「つー訳で、歌ったんさい! ん~、おっ! アニソンじゃ無いからティアも知ってるっしょ! 爆風────」
「知ってるけど……」
「よし! 歌ったんさい! さあ!」
結構強引ではあるが、俺としてもティアの『歌唱』の効果は知っておきたかったので止めなかった。
シェーラも、アニソン云々に関しては全く分からないにしろ、『歌唱』スキルの確認だと分かったようで、俺と同じく静観の構えってやつだ。
ティアは、多少戸惑いはしたようだが、そこは元(前世は)歌手。「うん」と頷くと歌う構えに入った。
次の瞬間、俺たちはもとより、当の本人であるティアですら当惑する事態が発生する。
「えぇぇぇー、イントロ!?」
「音楽だと?」
多分、ティアが『歌唱』スキルを発動させた瞬間だと思う、その瞬間、その曲のイントロ部分がどこからともなく響いてきたのだ。
「マジィィィィ!? BGM付き!! ってか、ティアやめない! 続ける、続ける!!」
BGMは若干意味合いが違うんじゃないかな? 演奏? いや、伴奏が正しいのか?
ティアは、自らのスキルによってどこからともなく流れてくる伴奏に続いて、若干戸惑いつつも歌い出す。
この場は王都から西へと向かう主要街道である。そして、道の周囲は畑地。当然周囲には、荷馬車や歩行者、そして畑地で働く農家の者達もいる。そんな者たちが、突然の伴奏、そして続く歌声に驚き、そして、まもなく聞き惚れる。
ティアの歌声は『アヤノ』と声自体は違うものの、当時の『エンジェルボイス』の尊称は全くもって健在である。当初、若干なりとも戸惑い気味だったこともあって、前世の歌を聞き慣れた俺的には微妙だったのだが、直ぐに戸惑いなど無くなり、本来の『歌声』を響かせる。
そして、その『歌声』は、某アニメの戦闘種族さながらに、周囲の者に衝撃を与えた。短い時間とはいえ、彼らの行動自体を停止させるほどの効果を発揮したのだ。
無論、これは『歌唱』スキルの効果では無く、ティアの歌自体による効果である。この世界では、音楽というものは、一定の場所でしか流されないものである。劇場や音楽堂、飲み屋のステージなど。
そして、前世と比較して、歌・音楽に携わる者の絶対数が圧倒的に少なく、それを聞く者の数も同様である。故に、音楽自体の質も、ある特定ないし特殊な者を除き、かなり低いのだ。
工業製品などと同じで、多くの生産者が競争をして初めて全体のレベルが上がっていく。これは、音楽に関しても同様である。
ティアの場合は、前世においても、超一流の歌声と賛頌されたレベルだ。それが、元々の音楽レベルの低い世界で、となれば、推して知るべし、ってことだな。
まあ、音楽も芸術と同様、好き嫌いがあるので、全員が全員とは行かないだろうが。
「およ? ……ひょっとしてアヤノ? そ~いや~、おんなじ新幹線乗ってたやね~。おぉ~! こりは、アニソン教えがい有るぞ~!!」
……どうやら、ミミのやつはこの時点までティアがアヤノだったと言うことを知らなかったようだ。やはり、あのとき、かなり早くあの場を離れたようだ。
そんなことを考えていると、また、ミミの声が聞こえてくる。
「うほほぉいー! パラメーター上がっちょる!!」
俺も、慌てて自分のステータスを表示してみると、以下のようになった。
ロウ 15歳
盗賊 Lv.1
MP 36
力 ─
スタミナ ─ +2
素早さ 4 +2
器用さ 4
精神 ─
運 ─
SP ─
スキル
スティール Lv.1
気配察知 Lv.1
隠密 Lv.1
『スタミナ』と『素早さ』の補正値の横に青文字で『+2』の表示だ。
どうやら、今ティアが唄っている歌によって付与された値がソレだということだろう。
やっと、我を取り戻したシェーラも、自身のスタータス画面を開き、その変化を確認していた。
さて、事のついでだ。このステータス表示についても簡単に説明しておこう。
名前から『MP』までは問題ないと思うので、省いておく。
え?HPが無いって? そう、この世界のステータスにはHPと言う物が存在しない。と、言うよりも、元々HPとは、ゲームをゲームとして成り立たせるために作り出された値であって、現実には適さないものだった。仮に、針で100回つつかれたら人は死ぬのか? ゲームにおいてはHP100の者はそれで死んでしまう。だが、現実においては、まず死ぬことは無いだろう。
故に、この世界を作ったと思われる『神様的存在』もこの世界の理を構築する際、HPという理を組み込まなかったのだと思う。
前世の記憶がよみがえったことによって、この世界が前世のRPGに酷似していることを理解した。前世のRPGとこの世界の成り立ちに、どういった関係があるのか無いのか、それは不明だが、仮に関係があったとしても、HPの概念については入れ得なかったと言うことではないのだろうか。まあ、全ては俺の想像ではあるが……。
少し話がずれたので元に戻す。
ステータスの『力』から『運』までの値は、全て補正値だ。肉体そのものの持つ値以外に加えられる値。そのため、数値が書かれていない『力』・『スタミナ』・『精神』・『運』に関しては肉体そのものの値で補正は存在しないことになる。
そして、この項目だが、『力』だの『精神』だの、実に大雑把に書かれているが、実際はその下に多くの項目があり、最終的に纏めた大項目がこれだと言うことらしい。
そのため、各大項目内の細かな項目には、他の大項目と重複するものも多い。『精神』の値を上げることで脳の処理速度が上がり、動体視力が良くなるのだが、『素早さ』を上げた場合にも同様の効果が発生する。つまり共通の小項目が存在すると言うことだ。
次に『SP』だ。
これは、よくある『スペシャルポイント』と言うことになる。レベルが1上がるに従い、1ポイントずつもらえる。そして、このポイントを使って、任意に自身のパラメーターを上げることが出来るってことだ。
上げられるパラメーターは『MP』~『運』までの七項目。
『MP』は『SP』1ポイントで、魔法職は20、それ以外は10上がる。
『MP』以外のパラメーターは、『SP』1ポイントにつき1上がるだけ。
最後は『スキル』。
スキルは、個別にレベルが存在しており、レベルに応じて能力が上がっていく。つまり、現状のスキルレベル1と言う状況は、最低限の能力しか無く弱々ってこと。
そして、このスキルレベルは、各スキルを使用することでしか上がらない。
と、まあ、こんな感じだな。もう一つ言うなら、今回のように『付与』などが加わった場合は、通常の補正値の横に別途表示されるってこと位か。
ちなみに、シェーラのスキルに『強力』というものがある。このスキルは、MPを消費して通常より強い力が出せるのだが、別途『パッシブ効果』が付いている。『パッシブ効果』とは、任意で発動させないときにも効果を発揮するもので、効果は少ないもののMPを消費せず、常に効果を発揮するお得な能力だ。そして、『強力』のパッシブ効果は、スキルレベル1の時点で『力』に『+2』の補正が付くというものだ。その分の補正値も、『力』の値の横に黄色の文字で表示されている。ちなみに、マイナス補正、つまりデバフ効果を受けた場合は、赤文字でマイナス付きの値が同様に表示される。
事のついでのついで、と言うことで、もう一つステータスがらみのこととして、『レベルアップ』のことについても説明しておこう。
レベルアップ自体は、ゲームにあるアレと同じだ。モンスターを殺しまくって、『経験値』と言う謎な値をためて、その値が一定の値を超えた時点で次のレベルへ上がる、と言うアレである。前世の記憶的には、いろいろ思うところもあるのだが、HPと違って、ある程度理に取り込めるモノだったのだろう。
そんな、根本的な所はともかく、この、レベルアップした際のパラメーターの変化についてだ。
ゲームなどではランダムに変化するケースや、自身で選択してパラメーターを上げるケースもあるが、この世界は、一定の法則に従って上昇する。
その変化を、俺のステータスを使用して説明する。
全ての基準となるのは、そのJOBに付いたときの補正値の値だ。
俺の場合は『素早さ』と『器用さ』がともに『4』ずつで、それ以外はゼロだな。
レベルアップする際のパラメーター増加は、この初期補正値の半分と言うことになる。
『4』なら『2』、『2』なら『1』と言うことだ。この初期補正値には『3』と言う値は存在していないので無視する。
問題は『1』の場合だ。この場合は、『0.5』上がるのではなくレベルアップ2回で1ずつ上がる。
同様に、初期補正値がゼロ、つまり『─』表示の場合には、レベルアップ3回で1ずつ上がることになる。
ただ、唯一例外であるパラメーターがある。それは『運』だ。
この『運』のパラメーターは、レベルアップによって上がることはなく、『SP』を使用してあげる以外の手はない。
俺の場合は、『素早さ』と『器用さ』はレベルアップごとに2ずつ上がり、それ以外のパラメーターはレベルアップ3回ごとに1ずつ上がる。無論、『運』を除いてだが。
俺以外のステータスも書いておく
ティア 15歳
歌姫 Lv.1
MP 40
力 ─
スタミナ 2
素早さ ─
器用さ ─
精神 6
運 ─
SP ─
スキル
歌唱 Lv.1
ミミ 15歳
炎魔術師 Lv.1
MP 50
力 ─
スタミナ ─
素早さ 2
器用さ ─
精神 6
運 ─
SP ─
スキル
ファイヤーボール Lv.1
ファイヤーアロー Lv.1
ファイヤーストーム Lv.1
シェーラ 15歳
大剣士 Lv.1
MP 30
力 4 +2
スタミナ 4
素早さ ─
器用さ ─
精神 ─
運 ─
SP ─
スキル
強力 Lv.1
加重 Lv.1
地裂斬 Lv.1
現在は、この値にティアの『歌唱』による付与が『スタミナ』と『素早さ』に『+2』ずつ加わっている訳だ。
「ほ~ら! さびの部分じゃないところで付与付いてる! やっぱ、歌詞よりイメージ!!」
確かにミミの言うとおり、当初のロッカールームの描写で『スタミナ』及び『素早さ』に補正値が付与されるのはおかしい。曲全体の、と言うよりもティアがその曲に関して感じているイメージがそのまま付与に影響している可能性が高い。
「うん、素早さが2上がるだけでも大分違うな。これは戦闘中唄ってもらえるとかなり助かる」
シェーラはダッシュや剣の素振りを行い、その違いを確認していた。
俺の場合は、JOBを得た時点で『素早さ』に補正値が『4』付いている関係で、この補正値分の感覚にすら慣れていなかったこともあり、ティアによる付与増加分は認識することが出来なかった。
と言うか、先ずは、増加した『4』分の素早さに慣れるのが先だろう。意識と実際の肉体の能力に差がある状態はマズイ。何とか、外門を出るまでには慣れておかねば。なんと言っても、命が掛かっているからな。
「え~っと、次は……アレだ! 甲子園の応援歌! あれならティアでも知ってるっしょ!! リンダの!」
……あ、そうか、ミミは俺たち同級生と違って、立花綾乃のアノ特質を知らないのか。彼女は、こと歌に関しては一度聞くだけで全て覚えてしまうんだよ。ポップス・童謡・アニメソング・外国語の歌と言った種類にかかわらずにだ
以前、苦手な世界史の試験の前に、「誰か、歴史の教科書を歌にして唄ってくれたら、一回で覚えられるのに……」と言っていたことがある。当然ではあるが、そんなことをしてくれる兵はおらず、50点を切る点数となっていた。
多分だが、ティアは、さすがに全てとは行かないが、大抵の曲は歌えるはずだ。ミミが言うアニソンに関しても、コアな曲はともかく、有名どころはいけるはず。
ただ、転生者で有ることを秘匿している立場の俺としては、そのことをミミに説明する訳にはいかない。いろいろ考えた上での決定とはいえ、不都合が発生するのは仕方がないことだろう。
現時点においては、ミミのやつは天川ことロムン王子との件を知らない。先ほど、ティアがアヤノで有ることを知っても特段の変化を見せない現状から考えて、特段に問題が発生するとは思えないが、用心には用心だ。何分、ヤツは、腐っても王子、王族である。権力者におもねる者は多い。ミミもそうで無いとは限らない。そうであった場合を考えて、俺の立場は『非転生者』と言うことをこのまま維持するべきだろう。転生者としてのロウよりも、非転生者でそっちのしがらみの無いただの家族としての方が、ティアが天川関係でこれ以上落ち込んだ際フォローしやすいはず。
今も、表面上は見せなくなってはいるが、あれからさして時間が経っていない以上、ティアが落ち込んでいないはずが無い。彼女の特性上、歌を唄っている間は大丈夫だ。彼女は、いつでもどこでも、こと歌に関しては全力だからな。唄っている間は歌以外のことは考えないですむ、と言うか、考えられないらしい。
そんな訳で、今のティアに歌を唄わせると言うことは、二重の意味で良いことなのだ。
歌を唄わせることでしか、対処出来ない自分が腹立たしいな。しかも、ただ、先延ばししているだけだし。
その大剣は、支援武具としては異例の新品だ。ロミナスさんが言うところによれば、鍛冶士が思うがままに作ってみたが、何年経っても売れず、鋳つぶすのも忍びないと言うことで、支援武具としてと寄贈された物だという。
そして、支援武具としても、ニーズがこれまで無かったらしく、新品のまま現在まで残っていたそうだ。
「7だよね」
「クラウド! クラウド!!」
「そっくり」
「うんにゃ、穴が空いとらん! 空いちょれば完璧やったのにぃぃ!!」
シェーラが選んだ大剣を見て、ティアとミミが騒いでいる。まあ、二人が騒ぐ気持ちも理解出来る。確かに、そっくりだ。
俺は、オタクでもゲーマーでも無いが、それでも幾度となく目にしている。国民的RPG双璧の一つと言われるのは伊達では無いのだろう。そんなシリーズ7作目の主人公が初期装備していた剣と酷似している。
確か、俺のうっすらとした記憶では、ゲーム中のあの剣の種別は『バスタードソード』と言うことになっていたと思う。シェーラが選んだ大剣は、あくまでも『大剣』だ。前世的な種別で言えば『グレートソード』に当たる。『バスタードソード』は両手・片手で使用可能な剣の種別であり、ゲーム中の主人公は確かに片手でも振り回しているので、『バスタードソード』で間違いない。
以前、ラノベで『バスタードソード』の名前を見た時、『バスタード』って何だ?と思い、ググった際の情報だ。
ちなみに、『バスターソード』なる言葉もあり、こちらは『撃退する剣』の意で、『バスタードソード』と方々で混同されていて混乱させられた。閑話休題。
さて、この大剣だが、鞘自体に鎧とベルトに固定する金具が取り付けられており、某ゲームの主人公同様に背中に斜めに背負う形になる。
そして、その剣の長さ故、引き抜くことは出来ないことから、横へと抜く形になっていた。鞘と剣のロックも、剣を入れると自動的にかかり、抜くときは柄を握るとそこにあるスイッチが押される形になりロックが外れる仕組みになっている。伊達に鍛冶士が『思うがままに……』作った訳では無い。根本的な『使えるかどうか』という問題はともかく、細かな点まで考慮して作られているのは間違いないようだ。
支援防具にその大剣を取り付けたシェーラは、何度も抜剣・納剣を繰り返している。
「抜き差しの練習が必要だな」
そう言うシェーラの顔は満足げだ。
そんな訳で、シェーラの支援武具選択は終了した。問題はミミである。
結局、すったもんだを繰り返したあげく、若干大きめの装備を一通り貰うことで良しとすることになった。残念ながら、バックヤード中をひっくり返してもミミにピッタリサイズの防具は見つからなかったのだ。自分のミニマムボディーを恨め。
「成長期だから、直ぐにピッタリに成る!!」
そう言うミミから、俺、ティア、シェーラは目をそらした。
ちなみに、ミミの武器は『短剣』だ。ただ、ミミが装備すると、体格比的には『長剣』サイズとなる。
ゲームなどにおいては、魔法使いの武器は『杖』というのが定番ではあるが、この世界の『魔法攻撃力を上げる付与がなされた杖ないし武器』は高価であり、間違っても駆け出し冒険者が身につけられる物ではない。故に支援武具にも存在していない訳だ。
そのため、取りあえずは、当たればそれなりにダメージが入り、他の武器と比較した上である程度扱いやすい『剣』を選択し、体格を考慮して『短剣』と成った。
ちなみに、『ロングソード』と『ショートソード』は、いろいろと差別化が難しく、どちらがどちらと言えないケースもあるため、ここではその言葉の意味通り、剣自体の長さにで言っていると思って欲しい。
初期の予定と大幅に変わり、数倍の時間を浪費してしまったのだが、なんとか準備が整った。
と言う訳で、俺たちは勇んでギルド出口へと向かったのだが、またもや『待ったコール』が掛かる。今度はロミナスさんからだ。
「ちょっと待ちなね。もう一つ大切な支援品を忘れているさね。ほら、一人一本」
そう言って、彼女が俺たち一人一人に手渡したのは、赤い液体が入った小瓶。
「ポーション来たー!!」
ミミが奇声を上げる。だが、まあ、奇声を上げないまでも、これは俺も、もの凄く嬉しかった。
『ポーション』それは魔法回復薬の総称である。今手渡されたのは『低級回復薬』で、ある程度のケガまでは瞬時に治してくれる『冒険者の友』的必需品だ。
当然、俺たち初心者には絶対に必要な物なのだが、この一番安い『低級回復薬』ですら10ダリする。この金額を無理矢理日本円に換算すると、1000円から2000円程だろうか。物価の基準を何に定めるかによって、かなり変わってくる数字なので不確かな数字ではあるが。
前世においては、今日日1000円や2000円であれば、小学生でも何とでも成る金額だ。だが、俺たちにはそんな10ダリすら無い。それどころか、1ダリの下の単位である1ダグリすら持っていない。完全無欠に一文無しである。
ゲームにおいてすら、回復薬や回復手段の無いまま戦闘フィールドへと向かうことは無いだろう。ましてや、これは現実だ。ケガは死に繋がり、死は完全な死であり、教会や広場の噴水前や王様の前に復活するなんてことは無い。
俺としては、今日はとにかく攻撃を受けないようにして、明日は一つで良いから『低級回復薬』を購入する予定だった。今晩の宿屋、食事を犠牲にしても、だ。
そう考えていただけに、この予定外の『低級回復薬』は嬉しかった。ミミの奇声をとがめない位に嬉しかったのだ。
全員が、一本ずつの『低級回復薬』を貰うと、今後こそは本当にギルドを出て西門へと向かう。
そんな俺たちとすれ違うようにして、本日成人したばかりの者たち六名がギルドへと入っていった。その際、一人の者が、「あれ? 今の子、あの……」とティアを見てつぶやいていたが、無視する。幸い、ティアは気づいていない。
さて、この王都の冒険者ギルドは前記の通り三カ所ある。その理由は、冒険者の主な活動場所が街の外であり、門のそばに無いと移動だけで無駄な時間を消費してしまうからだ。故に、王都で最も大きな門である東・西・南の三門そばにギルドは建てられている。
とはいえ、これは、あくまで街の中からすれば、と言うことだ。街の門を抜けると、その先には広大な畑地が広がっている。王都という10万人を超える人口を養うためには、それに見合った畑地が必要なのは当然のことで、本当の外へと出るには、この畑地を抜け外門をくぐる必要がある。つまり30分以上掛かると言うことだ。
このような、二重に作られた塀は、ほぼ全ての街及び村も同様である。厳密に言えば、王都に関しては、王城も塀に囲まれている関係上、三重構造だといえる。
更に、ついでに言っておくが、この王都の広大な畑地ではあるが、それだけでは王都の人口を養える量に満たない。そのため、王都の周囲にある村々において、その分を生産し、それを運び込むことによって補っている。この辺りは、前世の都市部と同じだな。
一定以上の人間が生きていくためには、それ相応の穀物や野菜を生産する必要がある。間違っても、某世紀末で『ヒッハー』な漫画のように、畑がほとんど見受けられない荒野ばかりの土地では、絶対に一定以上の人間は生きていけないのだ。あれって、畑の描写って一回ぐらいしか無かったんじゃ無いか? うろ覚えだけどさ。
まあ、某漫画だけで無く、大半のゲーム、漫画、アニメでも、巨大な街は描かれても、その周囲に畑地が全く無いのが普通だからな。某パヤオ氏のアニメに関しては、結構その当たりはまともに描いていた気がするが。またまた閑話休題。
街の門である内門を抜けて、外門へ向かう道すがら、30分近く掛かる時間を利用して、各自のスキルやパラメーターの詳細について情報交換を行う。
「と言う訳で、歌ならアニソンよ! 歌謡曲の愛だの恋だの別れだのじゃ、何が付与されるのよ!ってこと。その点アニソンは歌詞からしてそっち系でしょ! しかも昭和系は特に! それとね、歌って、歌詞もだけどその歌の背景って言うか雰囲気も大事だと思う訳よ! アニメの主題歌には歌詞関係なく、主人公キャラや主役メカのイメージが自然に入る訳よ! んで、それが絶対に付与効果として現れるはず!! 間違いないって!!」
ティアの『歌唱』スキルについて説明した後、ミミのやつがオタク故の持論をぶち始めた。異常に熱く、やたらと感嘆符だらけの熱弁だ。
「つー訳で、歌ったんさい! ん~、おっ! アニソンじゃ無いからティアも知ってるっしょ! 爆風────」
「知ってるけど……」
「よし! 歌ったんさい! さあ!」
結構強引ではあるが、俺としてもティアの『歌唱』の効果は知っておきたかったので止めなかった。
シェーラも、アニソン云々に関しては全く分からないにしろ、『歌唱』スキルの確認だと分かったようで、俺と同じく静観の構えってやつだ。
ティアは、多少戸惑いはしたようだが、そこは元(前世は)歌手。「うん」と頷くと歌う構えに入った。
次の瞬間、俺たちはもとより、当の本人であるティアですら当惑する事態が発生する。
「えぇぇぇー、イントロ!?」
「音楽だと?」
多分、ティアが『歌唱』スキルを発動させた瞬間だと思う、その瞬間、その曲のイントロ部分がどこからともなく響いてきたのだ。
「マジィィィィ!? BGM付き!! ってか、ティアやめない! 続ける、続ける!!」
BGMは若干意味合いが違うんじゃないかな? 演奏? いや、伴奏が正しいのか?
ティアは、自らのスキルによってどこからともなく流れてくる伴奏に続いて、若干戸惑いつつも歌い出す。
この場は王都から西へと向かう主要街道である。そして、道の周囲は畑地。当然周囲には、荷馬車や歩行者、そして畑地で働く農家の者達もいる。そんな者たちが、突然の伴奏、そして続く歌声に驚き、そして、まもなく聞き惚れる。
ティアの歌声は『アヤノ』と声自体は違うものの、当時の『エンジェルボイス』の尊称は全くもって健在である。当初、若干なりとも戸惑い気味だったこともあって、前世の歌を聞き慣れた俺的には微妙だったのだが、直ぐに戸惑いなど無くなり、本来の『歌声』を響かせる。
そして、その『歌声』は、某アニメの戦闘種族さながらに、周囲の者に衝撃を与えた。短い時間とはいえ、彼らの行動自体を停止させるほどの効果を発揮したのだ。
無論、これは『歌唱』スキルの効果では無く、ティアの歌自体による効果である。この世界では、音楽というものは、一定の場所でしか流されないものである。劇場や音楽堂、飲み屋のステージなど。
そして、前世と比較して、歌・音楽に携わる者の絶対数が圧倒的に少なく、それを聞く者の数も同様である。故に、音楽自体の質も、ある特定ないし特殊な者を除き、かなり低いのだ。
工業製品などと同じで、多くの生産者が競争をして初めて全体のレベルが上がっていく。これは、音楽に関しても同様である。
ティアの場合は、前世においても、超一流の歌声と賛頌されたレベルだ。それが、元々の音楽レベルの低い世界で、となれば、推して知るべし、ってことだな。
まあ、音楽も芸術と同様、好き嫌いがあるので、全員が全員とは行かないだろうが。
「およ? ……ひょっとしてアヤノ? そ~いや~、おんなじ新幹線乗ってたやね~。おぉ~! こりは、アニソン教えがい有るぞ~!!」
……どうやら、ミミのやつはこの時点までティアがアヤノだったと言うことを知らなかったようだ。やはり、あのとき、かなり早くあの場を離れたようだ。
そんなことを考えていると、また、ミミの声が聞こえてくる。
「うほほぉいー! パラメーター上がっちょる!!」
俺も、慌てて自分のステータスを表示してみると、以下のようになった。
ロウ 15歳
盗賊 Lv.1
MP 36
力 ─
スタミナ ─ +2
素早さ 4 +2
器用さ 4
精神 ─
運 ─
SP ─
スキル
スティール Lv.1
気配察知 Lv.1
隠密 Lv.1
『スタミナ』と『素早さ』の補正値の横に青文字で『+2』の表示だ。
どうやら、今ティアが唄っている歌によって付与された値がソレだということだろう。
やっと、我を取り戻したシェーラも、自身のスタータス画面を開き、その変化を確認していた。
さて、事のついでだ。このステータス表示についても簡単に説明しておこう。
名前から『MP』までは問題ないと思うので、省いておく。
え?HPが無いって? そう、この世界のステータスにはHPと言う物が存在しない。と、言うよりも、元々HPとは、ゲームをゲームとして成り立たせるために作り出された値であって、現実には適さないものだった。仮に、針で100回つつかれたら人は死ぬのか? ゲームにおいてはHP100の者はそれで死んでしまう。だが、現実においては、まず死ぬことは無いだろう。
故に、この世界を作ったと思われる『神様的存在』もこの世界の理を構築する際、HPという理を組み込まなかったのだと思う。
前世の記憶がよみがえったことによって、この世界が前世のRPGに酷似していることを理解した。前世のRPGとこの世界の成り立ちに、どういった関係があるのか無いのか、それは不明だが、仮に関係があったとしても、HPの概念については入れ得なかったと言うことではないのだろうか。まあ、全ては俺の想像ではあるが……。
少し話がずれたので元に戻す。
ステータスの『力』から『運』までの値は、全て補正値だ。肉体そのものの持つ値以外に加えられる値。そのため、数値が書かれていない『力』・『スタミナ』・『精神』・『運』に関しては肉体そのものの値で補正は存在しないことになる。
そして、この項目だが、『力』だの『精神』だの、実に大雑把に書かれているが、実際はその下に多くの項目があり、最終的に纏めた大項目がこれだと言うことらしい。
そのため、各大項目内の細かな項目には、他の大項目と重複するものも多い。『精神』の値を上げることで脳の処理速度が上がり、動体視力が良くなるのだが、『素早さ』を上げた場合にも同様の効果が発生する。つまり共通の小項目が存在すると言うことだ。
次に『SP』だ。
これは、よくある『スペシャルポイント』と言うことになる。レベルが1上がるに従い、1ポイントずつもらえる。そして、このポイントを使って、任意に自身のパラメーターを上げることが出来るってことだ。
上げられるパラメーターは『MP』~『運』までの七項目。
『MP』は『SP』1ポイントで、魔法職は20、それ以外は10上がる。
『MP』以外のパラメーターは、『SP』1ポイントにつき1上がるだけ。
最後は『スキル』。
スキルは、個別にレベルが存在しており、レベルに応じて能力が上がっていく。つまり、現状のスキルレベル1と言う状況は、最低限の能力しか無く弱々ってこと。
そして、このスキルレベルは、各スキルを使用することでしか上がらない。
と、まあ、こんな感じだな。もう一つ言うなら、今回のように『付与』などが加わった場合は、通常の補正値の横に別途表示されるってこと位か。
ちなみに、シェーラのスキルに『強力』というものがある。このスキルは、MPを消費して通常より強い力が出せるのだが、別途『パッシブ効果』が付いている。『パッシブ効果』とは、任意で発動させないときにも効果を発揮するもので、効果は少ないもののMPを消費せず、常に効果を発揮するお得な能力だ。そして、『強力』のパッシブ効果は、スキルレベル1の時点で『力』に『+2』の補正が付くというものだ。その分の補正値も、『力』の値の横に黄色の文字で表示されている。ちなみに、マイナス補正、つまりデバフ効果を受けた場合は、赤文字でマイナス付きの値が同様に表示される。
事のついでのついで、と言うことで、もう一つステータスがらみのこととして、『レベルアップ』のことについても説明しておこう。
レベルアップ自体は、ゲームにあるアレと同じだ。モンスターを殺しまくって、『経験値』と言う謎な値をためて、その値が一定の値を超えた時点で次のレベルへ上がる、と言うアレである。前世の記憶的には、いろいろ思うところもあるのだが、HPと違って、ある程度理に取り込めるモノだったのだろう。
そんな、根本的な所はともかく、この、レベルアップした際のパラメーターの変化についてだ。
ゲームなどではランダムに変化するケースや、自身で選択してパラメーターを上げるケースもあるが、この世界は、一定の法則に従って上昇する。
その変化を、俺のステータスを使用して説明する。
全ての基準となるのは、そのJOBに付いたときの補正値の値だ。
俺の場合は『素早さ』と『器用さ』がともに『4』ずつで、それ以外はゼロだな。
レベルアップする際のパラメーター増加は、この初期補正値の半分と言うことになる。
『4』なら『2』、『2』なら『1』と言うことだ。この初期補正値には『3』と言う値は存在していないので無視する。
問題は『1』の場合だ。この場合は、『0.5』上がるのではなくレベルアップ2回で1ずつ上がる。
同様に、初期補正値がゼロ、つまり『─』表示の場合には、レベルアップ3回で1ずつ上がることになる。
ただ、唯一例外であるパラメーターがある。それは『運』だ。
この『運』のパラメーターは、レベルアップによって上がることはなく、『SP』を使用してあげる以外の手はない。
俺の場合は、『素早さ』と『器用さ』はレベルアップごとに2ずつ上がり、それ以外のパラメーターはレベルアップ3回ごとに1ずつ上がる。無論、『運』を除いてだが。
俺以外のステータスも書いておく
ティア 15歳
歌姫 Lv.1
MP 40
力 ─
スタミナ 2
素早さ ─
器用さ ─
精神 6
運 ─
SP ─
スキル
歌唱 Lv.1
ミミ 15歳
炎魔術師 Lv.1
MP 50
力 ─
スタミナ ─
素早さ 2
器用さ ─
精神 6
運 ─
SP ─
スキル
ファイヤーボール Lv.1
ファイヤーアロー Lv.1
ファイヤーストーム Lv.1
シェーラ 15歳
大剣士 Lv.1
MP 30
力 4 +2
スタミナ 4
素早さ ─
器用さ ─
精神 ─
運 ─
SP ─
スキル
強力 Lv.1
加重 Lv.1
地裂斬 Lv.1
現在は、この値にティアの『歌唱』による付与が『スタミナ』と『素早さ』に『+2』ずつ加わっている訳だ。
「ほ~ら! さびの部分じゃないところで付与付いてる! やっぱ、歌詞よりイメージ!!」
確かにミミの言うとおり、当初のロッカールームの描写で『スタミナ』及び『素早さ』に補正値が付与されるのはおかしい。曲全体の、と言うよりもティアがその曲に関して感じているイメージがそのまま付与に影響している可能性が高い。
「うん、素早さが2上がるだけでも大分違うな。これは戦闘中唄ってもらえるとかなり助かる」
シェーラはダッシュや剣の素振りを行い、その違いを確認していた。
俺の場合は、JOBを得た時点で『素早さ』に補正値が『4』付いている関係で、この補正値分の感覚にすら慣れていなかったこともあり、ティアによる付与増加分は認識することが出来なかった。
と言うか、先ずは、増加した『4』分の素早さに慣れるのが先だろう。意識と実際の肉体の能力に差がある状態はマズイ。何とか、外門を出るまでには慣れておかねば。なんと言っても、命が掛かっているからな。
「え~っと、次は……アレだ! 甲子園の応援歌! あれならティアでも知ってるっしょ!! リンダの!」
……あ、そうか、ミミは俺たち同級生と違って、立花綾乃のアノ特質を知らないのか。彼女は、こと歌に関しては一度聞くだけで全て覚えてしまうんだよ。ポップス・童謡・アニメソング・外国語の歌と言った種類にかかわらずにだ
以前、苦手な世界史の試験の前に、「誰か、歴史の教科書を歌にして唄ってくれたら、一回で覚えられるのに……」と言っていたことがある。当然ではあるが、そんなことをしてくれる兵はおらず、50点を切る点数となっていた。
多分だが、ティアは、さすがに全てとは行かないが、大抵の曲は歌えるはずだ。ミミが言うアニソンに関しても、コアな曲はともかく、有名どころはいけるはず。
ただ、転生者で有ることを秘匿している立場の俺としては、そのことをミミに説明する訳にはいかない。いろいろ考えた上での決定とはいえ、不都合が発生するのは仕方がないことだろう。
現時点においては、ミミのやつは天川ことロムン王子との件を知らない。先ほど、ティアがアヤノで有ることを知っても特段の変化を見せない現状から考えて、特段に問題が発生するとは思えないが、用心には用心だ。何分、ヤツは、腐っても王子、王族である。権力者におもねる者は多い。ミミもそうで無いとは限らない。そうであった場合を考えて、俺の立場は『非転生者』と言うことをこのまま維持するべきだろう。転生者としてのロウよりも、非転生者でそっちのしがらみの無いただの家族としての方が、ティアが天川関係でこれ以上落ち込んだ際フォローしやすいはず。
今も、表面上は見せなくなってはいるが、あれからさして時間が経っていない以上、ティアが落ち込んでいないはずが無い。彼女の特性上、歌を唄っている間は大丈夫だ。彼女は、いつでもどこでも、こと歌に関しては全力だからな。唄っている間は歌以外のことは考えないですむ、と言うか、考えられないらしい。
そんな訳で、今のティアに歌を唄わせると言うことは、二重の意味で良いことなのだ。
歌を唄わせることでしか、対処出来ない自分が腹立たしいな。しかも、ただ、先延ばししているだけだし。
0
お気に入りに追加
20
あなたにおすすめの小説
嵌められたオッサン冒険者、Sランクモンスター(幼体)に懐かれたので、その力で復讐しようと思います
ゆさま
ファンタジー
美少女パーティーにオヤジ狩りの標的にされ、生死の境をさまよっていたら、Sランクモンスターに懐かれてしまった、ベテランオッサン冒険者のお話。
懐いたモンスターが成長し、美女に擬態できるようになって迫ってきます。どうするオッサン!?

一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫
むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。
うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました
akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」
帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。
謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。
しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。
勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!?
転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。
※9月16日
タイトル変更致しました。
前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。
仲間を強くして無双していく話です。
『小説家になろう』様でも公開しています。

転生ヒロインは不倫が嫌いなので地道な道を選らぶ
karon
ファンタジー
デビュタントドレスを見た瞬間アメリアはかつて好きだった乙女ゲーム「薔薇の言の葉」の世界に転生したことを悟った。
しかし、攻略対象に張り付いた自分より身分の高い悪役令嬢と戦う危険性を考え、攻略対象完全無視でモブとくっつくことを決心、しかし、アメリアの思惑は思わぬ方向に横滑りし。

神々に見捨てられし者、自力で最強へ
九頭七尾
ファンタジー
三大貴族の一角、アルベール家の長子として生まれた少年、ライズ。だが「祝福の儀」で何の天職も授かることができなかった彼は、『神々に見捨てられた者』と蔑まれ、一族を追放されてしまう。
「天職なし。最高じゃないか」
しかし彼は逆にこの状況を喜んだ。というのも、実はこの世界は、前世で彼がやり込んでいたゲーム【グランドワールド】にそっくりだったのだ。
天職を取得せずにゲームを始める「超ハードモード」こそが最強になれる道だと知るライズは、前世の知識を活かして成り上がっていく。

【完結】天候を操れる程度の能力を持った俺は、国を富ませる事が最優先!~何もかもゼロスタートでも挫けずめげず富ませます!!~
うどん五段
ファンタジー
幼い頃から心臓の悪かった中村キョウスケは、親から「無駄金使い」とののしられながら病院生活を送っていた。
それでも勉強は好きで本を読んだりニュースを見たりするのも好きな勤勉家でもあった。
唯一の弟とはそれなりに仲が良く、色々な遊びを教えてくれた。
だが、二十歳までしか生きられないだろうと言われていたキョウスケだったが、医療の進歩で三十歳まで生きることができ、家での自宅治療に切り替わったその日――階段から降りようとして両親に突き飛ばされ命を落とす。
――死んだ日は、土砂降りの様な雨だった。
しかし、次に目が覚めた時は褐色の肌に銀の髪をした5歳くらいの少年で。
自分が転生したことを悟り、砂漠の国シュノベザール王国の第一王子だと言う事を知る。
飢えに苦しむ国民、天候に恵まれないシュノベザール王国は常に飢えていた。だが幸いな事に第一王子として生まれたシュライは【天候を操る程度の能力】を持っていた。
その力は凄まじく、シュライは自国を豊かにするために、時に鬼となる事も持さない覚悟で成人と認められる15歳になると、頼れる弟と宰相と共に内政を始める事となる――。
※小説家になろう・カクヨムにも掲載中です。
無断朗読・無断使用・無断転載禁止。

唯一平民の悪役令嬢は吸血鬼な従者がお気に入りなのである。
彩世幻夜
ファンタジー
※ 2019年ファンタジー小説大賞 148 位! 読者の皆様、ありがとうございました!
裕福な商家の生まれながら身分は平民の悪役令嬢に転生したアンリが、ユニークスキル「クリエイト」を駆使してシナリオ改変に挑む、恋と冒険から始まる成り上がりの物語。
※2019年10月23日 完結
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる