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第05話 戦闘

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 ミミが指示する歌が10曲を超えた当たりで、目的の西外門へと着いた。この間に、例の『歌に関する記憶力』については、ティアから説明があり、ミミの知るところとなった。
 そして「じぁあれは? ……そんじゃあれは?」と言った形で、レパートリーの確認も行っている。
 俺は非転生者設定のため、この会話に加わることは出来ない。ミミに全てを任すしか無い訳だ。非常──に不安である。
 さて、外門にたどり着いた俺たちだったが、非常に目立っていた。いや、正確に言うなら、ここまでたどり着く間、ずっと目立っていた。
 言うまでも無くティアの『歌唱』のためだ。
 先ほども言ったが、この世界では街中ですら、特定の場所以外には音楽というものが奏でられることは少ない。それが、街の外で、伴奏付きで、更に高レベルの歌声で、となると、目立たないはずが無い。
 と、言う訳で、外門の門番である『衛士』達にティアのスキルについて説明することに成った。
 その説明を脇から聞いていた、俺たちの後を付いてきていた商人達もやっと理解出来た、と言う表情をしている。
 彼らは、ティアの歌を聴くために、俺たちの動きに合わせて移動を行っていた者達だ。前世の路上ライブに耳を傾けるサラリーマンのようなものか?
 そんな説明が終わったところで、二人いる衛士のうち年配の衛士が、俺達が成人直後の者だと分かって注意をしてくれる。
「それじゃ、おまえら、全員レベル1なんだから、絶対無理すんなよ。この近くで危なくなったらここまで逃げてこい。俺たちが何とかしてやる。ヤバいと思ったら逃げろ。逃げるのをためらうな。死んだら意味は無い。冒険者は生きて帰ってなんぼだ。あとな、今日は、新成人の成り立て冒険者のために、通常通りがかりに殺していくようなスライムのような低レベルモンスーターを街の周辺では残してくれているはずだ。先ずは、そいつらでレベルを上げろ。遠くまで行こうとするなよ。間違っても森には行くな。いいな、分かったな。絶対無理するなよ」
 これが前世のままの俺であれば、「説教すんなよ~」などと思ったかもしれない。だが、この世界で15年間を生き、直接は知らないまでも、周囲の声としてこの世界の現実を知る身としては、衛士の言葉は真摯しんしに聞くことが出来た。偉そうにして言っているのでも、しゃべること自体に喜びを見いだしている訳でも無く、実際に俺たちの身を案じているからこその言葉だと分かる。
 だから、形だけでは無い感謝の言葉が出る訳だ。俺たちは、門番の衛士二人に礼を言って、初めての『外』へと足を踏み出した。
 この国では、未成年者は保護者と一緒で無いと街の外に出ることが出来ない。故に、孤児院育ちの俺、ティア、シェーラは本当に初めての『外』となる。
 ミミの場合は、王都周辺の村出身で、今朝朝一番に、王都での『託宣の儀』に出るために集団で馬車移動したので、厳密の意味では初めての『外』と言うことでは無い。
ただ、そんな『外』が意味のある『外』で有る訳も無く、実質的に全員が初めての『外』と言ってもいいだろう。
ところで、シェーラだが、ギルドに来たときにその服装から考えたとおり、やはり孤児で、東地区にある孤児院出身らしい。
ミミに関しては、成人後、口減らしもかねて変態好事家に売られる予定だったので、村に帰らず、そのまま冒険者になることにしたらしい。
あと、ミミ曰く、彼女の前世は24歳のOLで中野美保と言うそうだ。そして、独身で身長170センチの美女だったとのこと。そこら辺は、話1/10で聞いたのは言うまでも無い。
 以前にも言ってたが、俺たち孤児院出の者は、冒険者に一度は成らざるを得ない。先立つものが全く無く、つても全く無いからだ。それ故に、成人までに一通り冒険者としてやって行く知識は身につけている。その中には、モンスターのデータ、採取可能な植物のデータ、王都周辺の地形とモンスター分布データなど、様々なものがある。
 更に、冒険者ギルドの規則や各JOBの性質、そのJOBによって得られるスキルの詳細なども覚えているのだが、JOB関連の知識に関しては、成人と共に特定のJOBを得たことでそれほど今後活用される知識では無くなっている。
 そんな訳で、必要最低限の知識は有している。……そう、書面上の知識だけは、な。
「あれ~? これ、回復草だっけ?」
「う~ん、違うと思うよ。もっと、こう、葉っぱがギザギザしてたはず。多分……」
「そだっけ?」
「多分……」
 と、言う訳で、こういう事態に成る。
 写真も無く、手書きで書き写された写本である教本を元にした知識など、この程度のモノだ。いや、仮に写真があったにせよ、卓上で得た知識など大差は無い。実際の経験によって、細かな点を補填していって初めて役立つことに成る。
 無論、予備知識が無いのは問題外ではあるが……。
 俺たちは今、絶賛、その経験を積んでいる最中と言うことに成る。
「ムッキー!! 採取は後回し!! レベルアップから行くかんね!! 魔石! 魔石で稼ぐの!!」
 ダムダムダムと地団駄を踏むミミ。何だが、デジャブを感じる。
「一度、ギルドで実物を見せて頂くべきだったな」
 シェーラの言葉は正しい。俺もティアもうなずき、帰還後の予定に加える。
 そんな予定はともかく、ミミの宣言によって、戦闘へと目的を切り替える。
 とはいえ、ここは王都周辺だ。しかも、外塀からさして離れていない位置。いくら、今日は低レベルモンスターを狩らずに残してくれているとはいえ、そうそうモンスターがいるはずもない。
 ゲームのように、最初の街や村の周囲で、5~6歩も歩けばエンカウント、なんてことはまずない訳だ。
「取りあえず移動! あっち!! ロウ! 気配察知で分かんないの?」
「あのな、今のスキルレベルを考えろよ。あとJOBレベルも。今の有効範囲は10メートル。目視の方が広いっての」
「ウガー! んじゃ……ティア! 蛍の歌! あれならモンスターを呼べるはず!!」
「アホか!! その蛍の歌とやらは分からないけど、モンスターを呼ぶな!! 痩せ狼とかが10匹とか来たらどうするんだよ!!」
 とんでもないことを言い出すミミに説教していると、ティアが声を上げる。
「あそこ、何かいるよ!」
 そう言って彼女が指さす先を見ると、草が不自然に無くなった道のようなモノが見える。
「多分、スライムだろう。スライム道というやつだ」
 この世界のスライムは形状や特質はDQ系では無くWiz系である。ただ、そのレベルに関してはDQ系で、レベルは1から2程度と低い。
 そして、このスライムは土や金属以外は何でも食べる。前世の知識を元に言えば、有機物を食べる、と言う事になるのかもしれない。そのため、スライムが通った跡には地面だけが残ることによって、道のようなものが形成される。それが、通称『スライム道』だ。
 シエーラの言葉に頷いた俺たちは、そのスライム道に向かって進んで行く。この間、俺は空も含めて、全周囲の警戒も怠っていない。それが、このパーティーにおける俺の役割だと思っている。あと、ミミへの突っ込み役な。不本意ながら。ホント、不本意。
 先ほどの地点から50メートルほど移動した先にスライム本体が見えた。
「可愛くない……」
 ティアの第一声がそれだった。
「DQタイプじゃないかんね。でも、おかげで気兼ねなくプチ殺せるってもんしょ!!」
「ロウ、あの会話も前世とやらの関係か?」
「多分、な。聞き流せ」
 ……どうやら、シェーラへのフォローも俺の仕事らしい。
 そして、いざこれから攻撃、と言う段になって、急にミミのやつから待ったが掛かった。
「チョッチ待ったー! 集合!!」
 何だ? と思って集まると、ミミが斜め下に手を伸ばした。
「全員手を出すの!!」
 そう言うと、スポーツのチームメイトが試合前に円陣を組むような隊形を組む。そして、言い放つ。
「パーティー結成!!」
 …………
「なあ、これ必要か?」
「あに言ってんのよ!! MMOみたいにパーティー申請とか受諾とか無いんよ! やっとかなきゃパーティー効果が無いかもしんないじゃん!!」
 パーティー効果か。パーティー内で経験値の自動配分が行われるあれか。確かに、この世界にもそれはある。そう言われてみれば、どうやってパーティーと非パーティーの区別をこの世界のことわりが分けているのか不明だよな。そういうことなら、この若干恥ずかしい行為も必要なことかもしれない。
「うちにはティアがいるんよ! ティアの歌唱のバフは味方に、デバフはモンスターにって、しっかり分けられるようにパーティー認識はメッサ大事!!」
 ……あ、そういうことね。世界のシステム的なことじゃなくって、ティアの認識的な、ね。
「ほら、もう一回! パーティー結成!!」「「「パーティー結成!」」」
 パーティー結成(宣言か?)を終え、やっと戦闘だ。
 だが、この戦闘は格段のことは無い。
「んじゃ~、プチッといくよ~♪」
「火事にすんなよ」
「……りょ了解」
 それだけの会話のあと、ミミが『ファイヤーボール』を放つ。『ファイヤーボール』は知っての通り、火の玉を飛ばす炎系の魔法だ。現在スキルレベル1の状態では、射程距離は15メートル程度。放物線を描かず一直線に飛んだソフトボール大のファイヤーボールは、小学生が投げる野球のボール程度の速度でスライムへと着弾。そして、スライムを炎で包む。
「オギョ!!」
 着弾直後、ミミが奇声を上げた。その理由は、炎に包まれたスライムの意外なほどの激しい動きだった。それまでのナメクジを思わせるような動きからは全く想像出来ない動きだ。いや、『動き』と言うよりも『うごめき』という言葉が合うほどに気持ちが悪い動きである。そのうごめきは水中のタコを思わせる程の素早さであり、醜悪さでもあった。
 これは、ミミで無くとも声を上げたくも成る……。
「想像以上、いや、想像を遙かに超える動きだな。下手に剣で刺していたならば、手や体を包み込まれて大ケガをしていたかもしれんな」
 そんな冷静な分析を行うシェーラであったが、若干、その声に戸惑いを感じられた。
「スライムですらこれだ。他のモンスターも、俺たちが思っている感じと違うと考えて当たった方が良いな」
「うん」
「確かに」
「キモッ!」
 若干一名を除いて、俺の意見に賛同してくれた。
 ファイヤーボールによる炎は、延焼した部分以外は5秒ほどで消えている。スライム自体の炎は、水分量が多かったためか、魔法の炎が消えた時点で同時に消えていた。
 そして、スライムの着火面は黒コゲになっているが、まだ生きている。
「一発では死なんか」
「ムッキー! 腹立つ!! んじゃーもう一発!」
 スキルレベル1のファイヤーボールでは、レベル1~2程度と思われるスライムですら一撃では殺せないようだ。
 無論、威力自体は、スキルレベルだけで無く、JOBレベルと言おうか『精神』のパラメーターが大きく関わっているため、そちらが低いことも原因ではある。
 と、まあ、それはともかく、ミミを止めよう。
「ミミ、ストップ」
 俺が待ったを掛けると不満げに「あんでよ!!」と言ってくる。
「悪い、俺のスキルを試したい。シェーラ、念のためにフォロー頼む」
「おぉー!! スティールやね! 何が出るかな♪ 何が出るかな♪」
「何が出るかな♪」
 ……ミミはともかく、ティアまで唄いだしたぞ。……まあいい。俺は溜息をつきつつ、シェーラと共に瀕死状態のスライムの元へと向かった。
 スライムは、先ほどのうごめきが嘘のように動かなくなっている。間違いなく瀕死状態だ。ゲームなら、HPが赤字表示されているだろう。
「シェーラ、悪いけど、大剣でこれをひっくり返してくれないか」
 俺の武器はロングナイフなので、もしもを考えて射程の長いシェーラの大剣を使って貰う。ちなみに、ひっくり返すのは、表面はコゲた状態でまだ熱を持っていたからだ。
 シェーラは頷くだけで、直ぐに実行に移してくれた。幸い、スライムは完全に瀕死状態らしく、ひっくり返してもほとんど動くことは無く、成されるがままだ。
 さて、ここからだ。俺は、自らのスキルである『スティール』の『モンスターから物品等を確率に応じて盗むことが出来る』ということに意識しながら裏返った(?)スライムに触れる。
 その指先に感じたのは、濡れたビニールに触れたような感覚だ。その感触を感じつつ『スティール』を実行する。
「スティール」
 ……たが、何も起こらない。
「失敗?」
「多分な。MPだけは消費してる。-5だな」
「成功するまでやる!!」
 ミミに言われなくとも、そのつもりだ。
 俺は、スライムに触れたまま『スティール』を繰り返す。
「スティール、ステール、スティール、スティール」
 五回目の実行直後、俺の眼前に小さな光が発生し、その中に何かが現れる。
「魔石?」
「魔石だな」
「だな」
「魔石か~、多分いっちゃん下のグレードのやつだ~ね」
 シェーラが必要なくなったスライムを大剣で殺すのを横目に見ながら、その魔石を拾い上げると、その内部に数字が書かれているのが見える。その数字は『1』。
「1になってるな、多分、スライムの魔石と同じものが盗めたってことだと思う」
 魔石は、その内蔵されたエネルギーによって売価が変わってくる。基本このエネルギー値は、数字の形で魔石内部に書かれていると言う、取って付けたような設定になっている。俺が、この世界をゲーム的だと思う理由の一つだ。
「スライムの中にも、魔石が入っていたぞ。こちらも1だ」
 スライムにとどめを刺したシェーラは、死んだことで周囲の細胞膜のようなものが崩壊し、液状化したスライムの残骸から魔石を取り出してくれていたようだ。
「おぉー! 一匹で二度おいしい!!」
 そんなことを言うミミに、一応釘を刺しておこう。
「あのな、今の、何回失敗したと思ってるんだ。4回だぞ、4回。5回目でやっと成功。使ったMPは25。俺のMPは36」
「はりゃー、最大値の時で連続7回が限界か~。MPが1回復するのに30秒だから、1回分回復するのに2分30秒……微妙ー!!」
「微妙で悪かったな。あと、ついでにもう一つ。今ので分かったことがある。このスティールは失敗したときにはスキル経験値が入らないみたいだな。失敗は完全無欠にMPの無駄って訳だ」
 これは、先ほど『スティール』を使う際ステータスパネルのスキル欄を見ていて分かったことだ。このスキルのレベル上げは大変そうだぞ。いやマジで。
「マジ~! んじゃ、空打ちしてもスキルレベル上がんないってことだ~ね」
 そういうことになるな。ミミのファイヤーボールなどは対象が無くとも、その辺りに打ち放しさえすれば、最低限のスキル経験値は手に入る。俺の『気配察知』や『隠密』も同様に空打ちすることでスキル経験値は稼げる。この二つのスキルに関しては、ミミのスキルやシェーラの『地裂斬』と違って、場所を選ばずに使用出来るという利点もある。
「よっしゃー!! ロウ! あんたは、レベルアップしたら、SP全部『運』に使う!! 決定!!」
 こらこら、勝手に決定すな。……と、言いたいところだが……。
「ちょっと、ミミちゃん。勝手に人のを決めちゃ駄目だよ」
 ティアが直ぐに注意するが、ミミは自分の顔の前に人差し指を一歩立て、チャッチャッと左右に振る。
「うんにゃ、これは、パーティーのための決定なのだ~! あにょね、ティア。さっきので分かったっしょ! スティールは金になる!って! たとえ、最安値のレベル1魔石でも、倍だよ! 倍!! 今後のパーティーの資金繰りは、ロウの運に掛かってるんだよ。多分、運とスキルレベルが上がれば、魔石以外のものもドロップするはず!!」
「でも……やっぱり……」
「ティア!あんた、ず~っとうまやに泊まりたい!?」
「……ごめんなさい」
 ティアが負けたようだ。俺の方を見て、申し訳なさそうにしている。
「どうする?」
 シェーラは一応、俺に確認を取ってくれた。
「いや、俺もそのつもりだよ。スティールのスキルレベルを上げるには、成功率を上げる以外に無いからな。運を上げることで、成功率と盗めるものの質が上がるなら、まあ、お得と言えなくもない。しばらくは運を中心に上げて、時々MPを上げる感じで行くよ」
「その意気や良し!!」
 ……ミミのやつが何か言ってるが、無視だ。
「良いの?」
 そう聞いてきたティアには、頷いておく。
「うんじゃ~次行くよ~! ロウ! あんた、MPの限りスティールね!!」
 ハイハイとばかりに、片手を上げて了解の意を示す。
 ミミには、いろいろ言いたいことはあるが、残念ながら今のところ大筋では正しい意見を言っている、と思える。本当に、残念ながら、ね。
 まあ良いさ、ミミのあのキャラクターは、現在のティアには有り難いことだ。あの無駄な元気さは、彼女が天川のことに意識を向けさせるのをある程度妨害してくれているはず。
 今のティアは、あの広場とは比べるべくもないが、それでもまだ本来の彼女にはほど遠い。口数も圧倒的に少ない。普段の彼女はもっと元気に、そして楽しげに喋る。周囲にいる者たちを笑顔に巻き込むように。
 ミミとはベクトルは全く違うが、同じぐらい元気に喋るんだよ。だからこそ、現在の彼女が痛々しくて、そして残念ながらミミの存在が有り難いって訳だ。
 さて、次だ。
 全員で周囲を見渡しながら進んでいく。そして5分後発見したのは、やはり今度もスライムだった。
「よっしゃ~! んじゃ、ティア、今度は魔女っ子ソングよろ!」
 ミミがそう言うと、前もって打ち合わせしてあったらしく、メルヘンホラーとも形容される独特な世界観で、『魔法少女ものを変えた』と呼ばれる作品のイントロが流れ出す。
「来た来た来た!! 精神に+3だ~! よっしゃぁ~! んじぁ、ここで意識を私だけに集中!! 私だけのために唄うの!! ……上がった!! +4!!」
 魔法少女ものの歌は『精神』を上げるようだ。……しかし、この曲の歌詞的には、やっぱり全然それらしい歌詞は無いんだが、やはり、曲にアニメ全体のイメージが載っているからなのだろうか?
 あと、ティアがミミに従って意識をミミに向けると、俺のステータスにあった『精神の』+3が+1へと減った。
 まだ、完全に集中することは出来ていないって事だろう。だが、逆に言えば、完全に集中出来るようになれば、更に付与値が上がることになるはず。
 しかし、さっきの今、と言う状況で、よくもまあ、いろいろとミミのやつは考えるものだ。この当たりは人生経験の差なのか? それとも、前世のオタクという特殊な経験から紡がれた知識故なのか? まあ、こう言ったことだけは賛頌しよう。
「うりゃー! ファイヤーボール!! お! 火の玉、でか!!」
 ミミが、ティアの魔女っ子ソングを得て放ったファイヤーボールは、先ほどのソフトボール大では無く、バスケットボールほどのサイズで、更にその飛ぶ速度も明らかに速い。
「なあ、ロウ。先ほどで瀕死だったが、あの威力ではスティールする間もなく死ぬのでは無いか?」
 そんなシェーラの意見は正しかった。
 ファイヤーボールの炎が消えた時には、スライムは完全に液状化しており、間違いなく死亡していた。
「ミミちゃ~ん」
「あれ? てへぺろ!」
 ……てへぺろ言うな。
「気を取り直して、次行こう!」
「それ、ミミちゃんが言う?」
 そんな、ティアとミミのやり取りを横目に、俺は延焼している周囲の火を踏み消し、シェーラは魔石を採取している。今回の魔石も1ポイントのようだ。
「今3ポイントだから、3ダリ!! 4人分の宿代が20x4で80ダリ! 食事代を入れれば100ダリ越え! 残り97ダリ分!! 皆の衆! 気合い入れていくよ!!」
「おまえは手加減しろよ」
「気合いだー!!」
 …………
 あの衛士が言っていたのは本当だったようで、その後は5分ほどの移動で次々とスライムが発見されていく。そんなスライムに対しては、基本的にミミの『ファイヤーボール』の後、俺が『スティール』という流れだが、一度二匹が並んでいた際には、シェーラの範囲攻撃スキルである『地裂斬』を使用した。ついでとばかりに、ドリルが印象的なロボットの主題歌をミミがティアに歌わせると、シェーラの『力』に+4の付与が付き、二匹とも一撃で死んだ。
 この『地裂斬』は、大剣を地面に叩き付けると、その斬撃が地面を割って走り、その直線上の対象物を切り裂く。そして、その地面を走る斬撃周囲の地面からは杭のように尖った岩状の物が突き出し、下から刺し貫くと言うスキルだ。
 多分、土属性に連なるスキルだと思う。現在このスキルの攻撃範囲は、射程30メートルで斬撃周囲1メートルに岩の杭が出る。多分スキルレベルが上がれば、射程とこの杭の出る範囲が広がると思われる。かなり使えるスキルだ。
 そして、8匹目のスライムを殺した時、俺たちの体に変化が現れた。レベルアップだ。それは、ゲームのように電子音が流れたり、アナウンスが有る訳でも無く、ただ単に体が一気に熱くなると言うものだ。ただそれだけなのだが、確実に分かる感覚だった。
「よっしゃ~! レベルアップじゃ~!!」
 相変わらず、感嘆符だらけのミミだ。
「これが、レベルアップか」
 シェーラは、冷静に自身の感覚を確認している。
「やっと上がったね!」
 ティアは、若干ミミ化しかかってる気がするが、まあ、今日は仕方が無いだろう。街の外に出て一時間。やっと念願の初レベルアップだ。俺も嬉しい。
 ゲームであれば、5分と掛からずレベルは上がるだろう。だが、現実の世界では4人パーティーで一時間かかった。しかも、これは、他の冒険者が間引きした上でレベルの低いスライムなどを残してくれていたから出来たことだ。レベル3~5のモンスターが一匹でもいたら、こんなに簡単にはいかなかったはず。
 こう言った風習を作ってくれた先人達、そして、それを受け継いで実行してくれている先輩冒険者達に感謝だな。そして、俺たちも一年後には後輩に対して、同じようにしてやらなくてはならない。絶対にだ。
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