ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ

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六章 金の神殿

114. りーんりーんぷるぷるすーん

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 新年二日目のスラ競も、無事アンソニーの二連覇で終わり、ショウネシー領は穏やかな冬の日常に戻った。

 マハラの孫娘のカレンは、その器量の良さだけでなく、素晴らしいコミュニケーション能力を発揮して、あっという間に領民達と親しくなっていた。

 しかも人見知りなデボラと仲良くなり、積極的に魔法を習って練習している。

 スラ競では見事に上位に食い込み、新製品の「コッコと仲良くなる魔法の巻物」をゲットして、早速コッコ(オス)を乗りこなして領内を移動している行動派だった。



◇◇◇



「おいしぃぃぃい! ニィありがとう。この桃ぉ、前に女神の森で食べたのより、とってもあまぁくて、美味しぃい」

「どう致しまして」

 うまうまと、ニレルが剥いて切った桃を食べているヒラの横で、お口を開けてモモが待機している。ニレルは次の一切れを、モモの口に放り込む。

ピュィィ ピィルゥ ピルゥゥ !!!

 モモも自分の名前になったその果実を初めて口にして、その美味しさに喜びの声を上げた。

 その横でゼラがお口を開けて待ってるので、ニレルはそこにも放り込んだ。

『美味いのぉ、美味いのぉ! 精素がたっぷり詰まってなんとも美味じゃ。ここに来てからすっかり食の楽しみに目覚めてしまったではないかー』

 他にもリンゴ、梨、マンゴーが並んでいる。

 これらはエステラが苺のように品種改良したり、ハイエルフ化した事でやれる事が増えて作った果実達だった。
 金の神殿の敷地の果樹園に試しに植えて、スラゴー達が世話していた。

 ニレルは金の神殿に通って、少しずつ自分自身の力の一部と向き合い始めたが、そこでスラゴー達に果実を持たされて帰ってきたのだ。

 とりあえず種の採取を兼ねて味見をする。

「美味すぎだぞ、これ。金の神殿は神域化してるようなもんだから、そこで育てるとこんな味も姿も美しく、透き通るような輝きの果実になるんだ。これで酒を作ろう! んははは」
「えー、そのまま食べてこんなに美味しいのに、わざわざお酒になんてしないよ、勿体無い……あ、でもお菓子作り用に少し……リンゴで蒸留酒とかなら……」

 ルシンは梨が気に入ったらしく、和梨に似て水分たっぷりのさっぱりした甘味の梨と、エステラが洋梨のルレクチェを食べたくて創った、芳醇な香りと糖度の高い梨を真剣に食べ比べている。

「ショウネシーでも、美味しく出来るといいの」
 ハラがマンゴーをもぐもぐしながら、言うと、ササミ(メス)ももぐもぐしながら頷く。

 一息つくと早速これらの果実を、ショウネシー邸に持って行くことにした。



◇◇◇



「え?! 何? この果物の山、今冬よね? でも嬉しい!! 梨にマンゴーもある! どの果物も大好きよ」

 マグダリーナは驚きと喜びで、エステラに抱きついた。寒いのでこのくらいのスキンシップは許される。

 早速サロンに運び、自然と集まって雑談していたいつものメンバーと試食する事にする。

「ヒラとハラとモモでぇ、切ったりしてあげるぅ。マーとメーとケーとフェリも、お座りしててぇ」

 ヒラ達は使用人達もソファに座らせ、ハラが果実の皮を剥いて切り分けると、モモが上手に器に盛り付け、テーブルに置いて行く。

「りーんりーんぷるぷるすーん りーんりーんぷるぷるすーん」

 ヒラが楽しそうに歌いながら、皮を使って紅茶を淹れていく。

「りーんりーんぷるぷるすーん」

 ハラも一緒に歌って、ティーカップを用意していた。

 そういえば、ヒラとハラはよくこの不思議な呪文みたいな歌を歌っているのを見かける。マグダリーナは気になって、エステラに聞いてみた。

「あの呪文は、どんな意味があるの?」
「うーん、今は美味しくなーれ、かしら」
「今は?」

「意味のある言葉じゃないのよ。ランランランみたいに、一つの言葉を繰り返すだけじゃ物足りないから、適当な言葉を合わせて歌ってるだけよ。ヒラが小さい時に、まだ言葉が上手く云えなくて、上手くお歌が歌えないって落ち込んでたから、意味のある言葉じゃなくても、自分の中心から気持ちよく声が出せればそれで良いって云ったの。その時歌ったのがあの歌で……あんまり可愛かったから、私や母さんも一緒に歌うようになったら、ハラも歌うようになって、定着しちゃったのよ。あとお師匠も歌ってた。凄いのよ、帰りが遅れて暗くなった時とか、少し怖い感じにあの歌うたって、迎えに来てくれたわ」

 想像すると、どれも可愛いくて、話しを聞いていた皆んなが微笑んでいた。


「これは……想像以上に美味だな!」

 ハンフリーの呟きに、皆同意しかなかった。

「この紅茶も! 果物の香りがして美味しい……」
 レベッカがうっとりと、紅茶から香るリンゴの香りに頬を緩める。

「これはぁ、生の皮を使って淹れたけど、皮を乾燥させてお茶っ葉と混ぜておいてもぉ美味しいよぉ!」

 ハンフリーはヒラの解説を、真剣にメモしている。


『しかし、これらのどれも、我らの口に合う。となると、他にも好む魔獣達もいるだろうな。我はともかく、空中戦になると、メス任せになってしまうからな』
「そうなのか?!」

 ハンフリーは心配そうに、コッコ(メス)達を見つめた。
 コッコ(メス)達は、任せてとばかりに胸の羽毛を膨らませた。

「スライムも飛べるから、何体かスラゴーを警備に回すわ」
「いや、普通は飛行しないよな、スライム。スラゴーになったらそういう風に造るから飛べるんだろうけど」

 冷静なヴェリタスの言葉に、エステラとアンソニーが、真剣に驚いた顔で、ヴェリタスを見た。

「え? なんで? 俺、間違ってないよな、ニレル」

 二人の視線が、今度はニレルに注がれた。

「……すまない、エステラ。自分で気づくまで黙ってろって云うのが叔母上の遺言だったんだ。それから、君は叔母上の事は何でも信じてしまうから、少しは疑えって伝えろと」

「えっ?! 今云う? 今この時に云っちゃう? その後半の遺言!」
「先に云うと、何を疑うのか悩みすぎて、君が困ると思ったんだ」

 ぷしゅ~と、エステラは机に突っ伏した。

「他は何もない……?」
「無いよ。安心して」

「はーずーかーしーぃー!!! 弟子に間違った知識を教えたぁぁぁぁ!!! トニーごめんねぇっ」

 顔を真っ赤にして、半べそ状態のエステラに、アンソニーは優しく言った。

「普通のスライムは飛べなくても、僕が目指す先は普通じゃないスライムを育てる事なので、大した事じゃありません!!」
「トニー!!!」

 二人を見たヴェリタスが、ポツリと言った。

「エステラでも、こんな常識みたいなことで勘違いしてるし、ブレアじいちゃんみたいなすごい人でも後継者選びに失敗する……何でも完璧にって、いかないもんなんだなぁ」
「そうよね、全部が全部上手くことばかりじゃないわよね……」

 マグダリーナが同感を示すと、意外な所から指摘が来た。

「そうだな。マグダリーナ、気をつけていても仕方ないから、星だけ見失わないようにしていろ」

「星? エステラのこと? それとも別のもの? 一体何のことなの? ルシン」
「星は星。八条の創生の女神の輝きだ」

 ルシンはそう言って、一瞬マグダリーナと視線を交わすと、それきり黙って紅茶を飲んでいる。

 訳がわからなくて、マグダリーナとヴェリタスは顔を見合わせた。

「考え過ぎるなって事か?」
「そうかも……」

 マグダリーナの名指しだったのが気になったが、内容が抽象的過ぎて、ヴェリタスの言う通り具体的な危機の警告ではないのかも知れない……

 春に向けての果樹園計画について、何を決めて何を用意するか話し合って、その日は終わった。


 その夜、なんとなくルシンの言葉が気になって、マグダリーナは窓から空を眺める。

 今日は雪が降っておらず、綺麗な星々が瞬いていた。

「りーんりーんぷるぷるすーん」

 星を眺めて、なんとなく歌って見る。

 自分の中心から声を出すと、エステラは言ってたっけ。

「りーんりーんぷるぷるすーん」

 囁くような、祈りのような歌声だったが、確かに自分の中のふるえと、世界のふるえが響き合うような気がした。その時。

 マグダリーナは、自分の周りに新年の女神の奇跡の花が舞うのを見た気がした。

 同じ日に一時触れ合い、離れた手のひらの感覚と共に――――


 エリック王子とは、確かに何かしらの縁があるのかも知れない……りーんりーんぷるぷるすーんと、自分の中心が、何故かあの王子のイメージを伝えて来るのだ。
 でも多分、甘い予感では決してないし、王太子相手にそれだけは困る。

 困るのだけど……
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