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二章 ショウネシー領で新年を

24. ショウネシー子爵家の客人

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 とうとうエステラは、マゴーが運転する魔導車……マゴー車を完成させた。

 住宅地から農耕地などの領の外向きを周回する緑のマゴー車、住宅地から役所や商店他主要施設など内向きを周回する黄色のマゴー車。
 この二つはそれぞれ領民カードで月初の利用に五百エル払えばその月は乗り放題だ。

 そして個人が貸馬車のように利用できる、青のマゴー車。

 今のところ青マゴー車の利用はないが、緑マゴー車は車内で弁当販売をしていることもあり、門番や畑に向かう人達には大変好評だった。

 またどの車にも映像表示画面を魔法で展開出来るアッシがいて、交通ルールや字や計算などの学習番組を流していた。

 これはディオンヌ商会アーケードにある大型表示画面や図書館の学習室でも流されている。マゴーの演技や図解などを使用したりして、子供でもわかりやすくなっていた。

 もっとも現時点での領内で、子供と云えるのは、マグダリーナ達と乳飲み子を抱えた母子家庭一世帯の赤ん坊だけだ。

 この母子は子連れで役所で仕事をしてもらうことにして、日中は役所内のマゴー託児所で赤ん坊の面倒をみつつ、ついでにエステラが作った魔導おむつや乳母車など育児用品のモニターをして貰っている。


 ウモウの牧場はエステラが土地を買って、そこに果樹園と共に作り、マゴー達に管理させていた。
 誰もテイムしていない野生魔獣のウモウ達だったが、テイムされないままディオンヌ商会の財産になってしまった。

 そして気づけばマゴーの数も増えている。


 その日の午後、シャロン・オーブリー侯爵夫人とその令息がショウネシー領にやって来た。

 数日泊まるとの事だったので、東門には二頭立ての馬車が五台も並んでいる。

 門番から説明を受け、馬車が通り抜けた。

「まあ、今の感じは魔法かしら?」

 馬車の中の貴婦人は、向かいに座る息子の顔を見た。

「何の魔法かわかって?」
「おそらく、人数の確認でしょうか? 浄化のような気配も感じましたが……」
「そうね。ショウネシー子爵に正解を確認するのが楽しみだわ」

 彼女の息子は窓から見える景色の方が気になるらしく、そわそわしている。
 いつも大人びた態度を見せる息子の、年相応の態度にくすりと笑う。

「母上もそんな澄ました顔してないで、窓の外を見てみて下さい。とても美しいところですよ!」
「あら! 本当ね……! 空色の町だわ! それに見たことのないものが、たくさんありますこと」

 道の状態も素晴らしく、馬車は滑らかに快適に進んだ。
 しかしその道が何でどう作られたのかは想像がつかない。

「ショウネシー子爵家の子達は、俺の従兄弟になるんですよね! 仲良くなれるといいなぁ」

 そう言って、窓の外を眺める息子を、侯爵夫人は微笑んで見つめた。


 侯爵夫人一行がショウネシー子爵の館に着くと、王都で暮らしていた時より血色の良い顔をしたダーモットが出迎える。

 母の異母姉であるシャロンは、母の生前に会った記憶のままに、艶やかな黒髪の美しい人だった。

 同じ顔をした若い美人が隣にいる。
 歳はマグダリーナとあまり変わらないだろうか。癖のない長く艶やかな、青い髪を束ねたクールビューティーだ。

(令息って言ってなかったっけ?)

 マグダリーナとアンソニーは視線を合わせて頷いた。

(どうみても美少女の顔だけど、ズボン履いてるから男の子なのよね、きっと。イラナと同じね)

「ショウネシー子爵、以前より健康そうで何よりですこと。こちら息子のヴェリタスです。しばらくご厄介になりますわね」
「ヴェリタスです。突然の訪問をお許し下さりありがとうございます。」

 ヴェリタスと名乗った美少女は、やはりご令息で間違いなかった。声も少年のそれだ。

「ようこそおいでくださいました、オーブリー侯爵夫人、ヴェリタス様。こちらはうちの子供達……長女のマグダリーナと長男のアンソニーです」

 マグダリーナはドレスを摘んで綺麗なお辞儀をした。

「マグダリーナです。オーブリー侯爵夫人、ヴェリタス様、お会いできて光栄です。」
「アンソニーです。オーブリー侯爵夫人、ヴェリタス様、はじめまして」

 アンソニーも姿勢正しくお辞儀をする。
 侯爵夫人は目元を緩めた。

「まあ二人とも、久しぶりだからってそんな他人行儀はやめて、シャロン伯母様と呼んでちょうだい。リーナ、トニー、大きくなったわね」
「俺も君たちの従兄弟になるんだ、気楽にルタって呼んでくれ」

 ヴェリタスの口調がぐっと砕けて、綺麗な笑顔を見せる。そうすると、やっぱり年相応の男の子なんだなと感じた。

 
 そんな貴族達のやりとりの背後で、侯爵家の使用人達は荷物運びにきたマゴーに呆然としていた。マゴーはすっといくつもある旅行鞄を転移魔法で客室に移動させた。

「どうぞ中に入って、まずは旅の疲れを癒して下さい」

 ダーモットは微笑んだ。
 侯爵夫人はチラリと使用人達の方を見て、ダーモットに微笑み返した。

「ええ、ありがとう。そうさせていただくわ。それからじっくりお話しを聞かせて下さいな」
 


「はぁー緊張したよ」

 サロンのソファーにダーモットがぐでっともたれながら座る。

 マグダリーナは、ヒラとハラに会った時のケーレブを思い出して言った。

「マゴーを見ても悲鳴も上げなかったんだから、侯爵家の使用人ってすごいのね」
「え? マゴーのどこに悲鳴を上げる要素があるんですか?」

 心の底からマゴーを可愛いと思っているアンソニーが首を傾げる。

「見た目が可愛くても一応魔獣の姿だし、ちょっとは驚くものじゃないかしら?」

 マグダリーナは一応一般論として言っておく。確か使用されているのは、マンドラゴラという魔獣だったはずだ。
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