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番外編
番外編 ユディール君の秘密 4
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数年後ーーー
僕には大切な友達が出来た。
その子はとても良い子で頑張り屋さんで、
まるで僕と同じだった。
突然、見知らぬ場所に来て
誰も知り合いが居ない世界で、
彼は本当によく頑張っていた。
だから、僕で役に立てるなら助けてあげたかった。
僕もあのラッパ男の件で助けられたから。
初めは大統領夫人に恐れ多いと思っても居たが、彼は素直で悪戯好きで可愛い人だから。
あっという間に僕のお気に入りになってしまった。
まさか、大統領夫人と禁断の台詞を交わす事になるなんて思いもしなかった。
「でも。あんたも俺も夫の居る身だ...そうだろユディール君。」
そう甘く小さく、目線を少しだけ下げて言うこの人はなんて小悪魔な人だろうと思わず抱きしめたい衝動になった。
大統領は秘密の魔法を持っているらしい。
それは目があった者だけに行使される。
突然力が抜け膝を着けると言う様な魔法らしい。
僕はこの時始めてその魔法を見た。
僕のお気に入りの人は、ちゃんと番に愛されてるらしい。
大統領のヤキモチは厄介そうだ。
その後は何故かダンスのレッスン相手に任命された。
理由は直ぐに分かった。
本当に懐かしい、こちらに来てからは滅多に感じない嫌な視線を感じた。
ベタリと全身に纏わりつく気持ちの悪さ。
彼は何も言わなかった。
ただ、ダンスの時間が苦手なんだと。
でも、気持ちは良く分かる。
僕も顔だけは整っている自身があるし、こういう視線は嫌と言う程浴びて来た。
大袈裟にしたくないんだろう。
だから大統領には言わなかった。
でも、夫には話した。
彼は警察のトップで只の公僕だ、と自分では言うが権利はいざと言う時には持っている方が良い。
夫は相変わらず僕の事を好き過ぎて、頓珍漢だけど。
この数年で僕も国政の秘書をする様になって分かった。
マルロイ・コールマンは"鉄の人"と呼ばれている。
常に冷たく、その冷笑で幾多もの罪人を罰して来たと。
実際にはもっと直接的な言葉で噂になっていた。
拷問に熱した鉄をよく使ったとか、逆に氷魔法で手足を凍り付かせた後、槍で粉々に砕けさせたとか。
物騒な噂話だ。
でも多分、僕の夫ならやりかねない。
それが仕事ならやる男だ。
僕のお気に入りの子が脅かされていると知ったら、尚更放ってはおかないだろう。
あくまで内密に大統領夫人の警護を少し“警戒させる”程度の事はしてくれた。
それなのに、結婚式であのクソ野郎に襲撃された。
僕のお気に入りの子がこんな目に遭うなんて、許せない。
僕は久し振りに乱暴な感情が蘇った。
しかも夫も被害を受けた。
鉄の男・マルロイは練った警備は実によく出来ていたのに、それを邪魔したのは彼の上司・国家公安委員長。
十五人もいる国務大臣のうちの一人で、現・エルムディン大統領の前から国務大臣を務めている。
前・大統領のお気に入りで、現行政権反対派だ。
自分も政府に属している癖に変な事をと、思うだろうが所詮は政治。
常に現・大統領に牙をチラつかせ吠えている。
牙はここぞと言う時のために仕舞まっておく方が、賢いと僕は思うんだけど、そうじゃない人もいるみたいだ。
「ごめんねトキ君。」
「良いよユディール君のせいじゃない。そもそも大統領の番なんだから…こんな事もあるんじゃないかとは思ってたよ。只、魔法が有ることを失念してたんだ。」
「え?魔法、って忘れる?」
僕は思わず聞き返した。
そう言えばトキ君は魔法が使えないんだった。
「でも、何にでも使うよ?大統領は使わないの?」
「うーん。あんま見たことないなぁ。」
先日、浮気ダンスごっこをする僕たちの前で使って見せていたと思うんだけど…。
もしかして、トキ君は知らされていないのかな。
「今度、僕が見せてあげるよトキ君!」
「楽しみにしとく。」
そう笑う顔は本当に楽しみなんだと感じられる一方で、ほんの少し陰が有るのに僕は気付いてしまった。
この後、マッフが来る事になってる。
彼は僕の元婚約者と仕事をしている優秀なデザイナーだ。
表向きはスーツの仕立て屋。
裏では趣味で薄い布地で透ける様な夜着を作っている。
それがなんと人気で、こっそり注文する殿方からご夫人まで人気を博している。
彼に大統領に依頼されて作った秘密の衣装のことを暴露してもらう事にしよう。
それでせっかくの新婚初夜を、こんな胸糞悪いベットから救い大いに愛し合ってもらわなくちゃ。
だって、今日は本当におめでたい日なんだ。
僕はトキ君に別れを告げて、すっかり暗くなった夜道を歩く。
こんな顔、トキ君には見せられないなぁ。
そしてやはり。
僕の夫は、夜が明けて朝日が昇っても帰ってこなかった。
ようやく顔を見たのは、1週間後。
真昼の公園のベンチだった。
「ーーーロイ?」
いつぞや彼に聞いた話の通りだ。
家がもうすぐそこだと言うのに、ここで息絶えたらしい。
それはもう死体のように眠りこんでいる。
「マルロイ、起きて。」
それが見知った軍服で、階級章がチラリと見えていなければ放って通り過ぎていた。
足の長い彼には小さ過ぎるベンチに足を投げ出して、顔に軍帽をかぶって眠りこんでいる。
この男、実は寝起きが悪い。
恥ずかしい事に何度か秘書の仕事の合間に、隣の警察庁に呼ばれた事がある。
連勤、徹夜、激務の後。
どうしても起きない時がある。
有事の際はそうでも無い。
むしろ仮眠の時は、きっかり3時間で起きてくるのだという。
コツが有るんだ。
僕は真昼間の公園で、人目も憚らず夫の体に乗り上げる。
両手は、良く鍛えられた腹筋の真上に置いて。
少しだけ腰を揺らす。
それで、こう言うんだ。
「ねぇ、ロイ…僕シたいな。」
「ーーーッ!?」
ガバッと起き上がった体に、あっという間に抱きしめられた。
「起きた?」
「うん、起きたよ。おはようユディール君。」
「寝坊助。」
「また起こしに来てくれたの?」
ふわふわ笑って言う声がまだ甘い。
寝ぼけてるんだ。
「公園で寝てるから置いて帰る所だった。」
「ここで寝てたらユディール君に会えるかと思ってね。やっと会えた。1週間ぶり。はぁ…癒される。」
「ちょっと待って、降ろしてよ。ここ公園だって。」
「無理…もう少しこうしてたい、」
「イヤだ、ここじゃ皆見てる。」
僕は身を捩ってみるけど、頓珍漢の筋肉には勝てない。
「あと5分だけ。」
「3分ー…。あとは家で好きなだけしたら良い。」
「良いの?」
首が擽ったい。
僕らにしか聞こえない声で。
僕は夫を甘やかす約束をした。
これはご褒美だ。
夫が帰ってきたという事は、事件は解決したという事だ。
犯人には空恐ろしい罰が下されたに違いない。
僕も、詳しくは聞かない。
聞いたこともあるけど、やっぱり聞くものじゃない。
だって僕の夫は“鉄の人”マルロイ・コールマンなんだから。
二人で久しぶりに手を繋いで、家路を歩く。
「ユディール君は何しに行ってたの?」
「今?」
「そうだよ、今日は何してたのか教えて欲しいな。」
「仕事に決まってるだろ。」
「うん。分かってる。」
僕は今日半日分の行動を話して聞かせた。
今日は半休で、朝はあのパン屋さんのアップルパイを食べて、新しい大臣が来るからトキ君と打ち合わせをしたりした。
「それは、国務大臣かな?」
「そうだよ、知ってるだろ。」
「んふふ、そうだね。前の大臣は“お花屋さん”に行くのが好きでね。溜め込んだ“切符”が沢山有ったんだよ。それを全部並べて来たからもう無理だよね。」
「ふーん。」
時々、夫の言うことは良く分からない時がある。
薄々感じるに隠語というやつが使われているんだろう。
秘書課でもやんわり伝えるときには、やんわりとした言葉を使う事がある。
そういう気遣いも時には必要だ。
「彼はどう?元気かな?」
「うん、元気だったよ。大統領に大事にされ過ぎてまだ手を出されてないんだって。」
すると夫が悪い顔をした。
「そういえば、アレまだ有ったんじゃないかな?」
「アレ?」
「マタタビだよユディール君。」
「それは。」
それは、確かに。
良い案かも知れないけど。
「大統領にマタタビ盛るの?」
「大統領じゃないよ。ひとりの夫だ。あの人は我慢をし過ぎるんだ。もっと僕みたいに開放的に情熱的に番を求めなくちゃ。」
後に僕は大統領に大目玉を食らうが、
マタタビは返って来なかったから多分。
何時かトキ君は泣かされる。
首にデッカい噛み跡が付くかも知れない。
あれ、加減してくれないと痛いんだよね。
でも、夫は半分だけが獣人だから。
春先から夏時期の満月の夜、尻尾と耳が生えてくる。
真っ黒の耳と尻尾は大人しくしてると可愛い。
発情してる時は言うまでもない。
雄としての本能に少しだけの理性を残して、殆ど自制が効かない状態らしい。
「半獣は厄介だ」
そんな晩は決まってそう言うけれど、それは僕が番だという何よりの証拠だと思う。
それに嫌じゃない。
だから僕たちは今日も番でいる。
僕は1週間も激務に勤しんだ夫を甘やかして、
彼はさみしがらせた妻を慰めなくちゃいけない。
そうやって生きていくんだと思う。
これが、僕の
ユディール・コールマンの人生だ。
獣の国の神に感謝するよ。
僕とこの頓珍漢を番にしてくれてありがとう。
「所で、僕達の子作り計画についてはどう思うユディール君?」
「そんなの決まってる。」
何時でも、産まれたい時に産まれて来て欲しい。
僕達の、こんな頓珍漢な父さんで良ければ何時でも。
僕は歓迎する。
「僕は5人は子供が欲しいなぁ。君に似た子と、僕と君に似た子がたくさん居てくれたら僕はーーー…」
ユディール君の秘密 完
ーーーーーーーー
これで一応番外編も完結になります。
また続きが思い浮かんだら、読んであげてください。
ありがとうございました。
mimimi456
僕には大切な友達が出来た。
その子はとても良い子で頑張り屋さんで、
まるで僕と同じだった。
突然、見知らぬ場所に来て
誰も知り合いが居ない世界で、
彼は本当によく頑張っていた。
だから、僕で役に立てるなら助けてあげたかった。
僕もあのラッパ男の件で助けられたから。
初めは大統領夫人に恐れ多いと思っても居たが、彼は素直で悪戯好きで可愛い人だから。
あっという間に僕のお気に入りになってしまった。
まさか、大統領夫人と禁断の台詞を交わす事になるなんて思いもしなかった。
「でも。あんたも俺も夫の居る身だ...そうだろユディール君。」
そう甘く小さく、目線を少しだけ下げて言うこの人はなんて小悪魔な人だろうと思わず抱きしめたい衝動になった。
大統領は秘密の魔法を持っているらしい。
それは目があった者だけに行使される。
突然力が抜け膝を着けると言う様な魔法らしい。
僕はこの時始めてその魔法を見た。
僕のお気に入りの人は、ちゃんと番に愛されてるらしい。
大統領のヤキモチは厄介そうだ。
その後は何故かダンスのレッスン相手に任命された。
理由は直ぐに分かった。
本当に懐かしい、こちらに来てからは滅多に感じない嫌な視線を感じた。
ベタリと全身に纏わりつく気持ちの悪さ。
彼は何も言わなかった。
ただ、ダンスの時間が苦手なんだと。
でも、気持ちは良く分かる。
僕も顔だけは整っている自身があるし、こういう視線は嫌と言う程浴びて来た。
大袈裟にしたくないんだろう。
だから大統領には言わなかった。
でも、夫には話した。
彼は警察のトップで只の公僕だ、と自分では言うが権利はいざと言う時には持っている方が良い。
夫は相変わらず僕の事を好き過ぎて、頓珍漢だけど。
この数年で僕も国政の秘書をする様になって分かった。
マルロイ・コールマンは"鉄の人"と呼ばれている。
常に冷たく、その冷笑で幾多もの罪人を罰して来たと。
実際にはもっと直接的な言葉で噂になっていた。
拷問に熱した鉄をよく使ったとか、逆に氷魔法で手足を凍り付かせた後、槍で粉々に砕けさせたとか。
物騒な噂話だ。
でも多分、僕の夫ならやりかねない。
それが仕事ならやる男だ。
僕のお気に入りの子が脅かされていると知ったら、尚更放ってはおかないだろう。
あくまで内密に大統領夫人の警護を少し“警戒させる”程度の事はしてくれた。
それなのに、結婚式であのクソ野郎に襲撃された。
僕のお気に入りの子がこんな目に遭うなんて、許せない。
僕は久し振りに乱暴な感情が蘇った。
しかも夫も被害を受けた。
鉄の男・マルロイは練った警備は実によく出来ていたのに、それを邪魔したのは彼の上司・国家公安委員長。
十五人もいる国務大臣のうちの一人で、現・エルムディン大統領の前から国務大臣を務めている。
前・大統領のお気に入りで、現行政権反対派だ。
自分も政府に属している癖に変な事をと、思うだろうが所詮は政治。
常に現・大統領に牙をチラつかせ吠えている。
牙はここぞと言う時のために仕舞まっておく方が、賢いと僕は思うんだけど、そうじゃない人もいるみたいだ。
「ごめんねトキ君。」
「良いよユディール君のせいじゃない。そもそも大統領の番なんだから…こんな事もあるんじゃないかとは思ってたよ。只、魔法が有ることを失念してたんだ。」
「え?魔法、って忘れる?」
僕は思わず聞き返した。
そう言えばトキ君は魔法が使えないんだった。
「でも、何にでも使うよ?大統領は使わないの?」
「うーん。あんま見たことないなぁ。」
先日、浮気ダンスごっこをする僕たちの前で使って見せていたと思うんだけど…。
もしかして、トキ君は知らされていないのかな。
「今度、僕が見せてあげるよトキ君!」
「楽しみにしとく。」
そう笑う顔は本当に楽しみなんだと感じられる一方で、ほんの少し陰が有るのに僕は気付いてしまった。
この後、マッフが来る事になってる。
彼は僕の元婚約者と仕事をしている優秀なデザイナーだ。
表向きはスーツの仕立て屋。
裏では趣味で薄い布地で透ける様な夜着を作っている。
それがなんと人気で、こっそり注文する殿方からご夫人まで人気を博している。
彼に大統領に依頼されて作った秘密の衣装のことを暴露してもらう事にしよう。
それでせっかくの新婚初夜を、こんな胸糞悪いベットから救い大いに愛し合ってもらわなくちゃ。
だって、今日は本当におめでたい日なんだ。
僕はトキ君に別れを告げて、すっかり暗くなった夜道を歩く。
こんな顔、トキ君には見せられないなぁ。
そしてやはり。
僕の夫は、夜が明けて朝日が昇っても帰ってこなかった。
ようやく顔を見たのは、1週間後。
真昼の公園のベンチだった。
「ーーーロイ?」
いつぞや彼に聞いた話の通りだ。
家がもうすぐそこだと言うのに、ここで息絶えたらしい。
それはもう死体のように眠りこんでいる。
「マルロイ、起きて。」
それが見知った軍服で、階級章がチラリと見えていなければ放って通り過ぎていた。
足の長い彼には小さ過ぎるベンチに足を投げ出して、顔に軍帽をかぶって眠りこんでいる。
この男、実は寝起きが悪い。
恥ずかしい事に何度か秘書の仕事の合間に、隣の警察庁に呼ばれた事がある。
連勤、徹夜、激務の後。
どうしても起きない時がある。
有事の際はそうでも無い。
むしろ仮眠の時は、きっかり3時間で起きてくるのだという。
コツが有るんだ。
僕は真昼間の公園で、人目も憚らず夫の体に乗り上げる。
両手は、良く鍛えられた腹筋の真上に置いて。
少しだけ腰を揺らす。
それで、こう言うんだ。
「ねぇ、ロイ…僕シたいな。」
「ーーーッ!?」
ガバッと起き上がった体に、あっという間に抱きしめられた。
「起きた?」
「うん、起きたよ。おはようユディール君。」
「寝坊助。」
「また起こしに来てくれたの?」
ふわふわ笑って言う声がまだ甘い。
寝ぼけてるんだ。
「公園で寝てるから置いて帰る所だった。」
「ここで寝てたらユディール君に会えるかと思ってね。やっと会えた。1週間ぶり。はぁ…癒される。」
「ちょっと待って、降ろしてよ。ここ公園だって。」
「無理…もう少しこうしてたい、」
「イヤだ、ここじゃ皆見てる。」
僕は身を捩ってみるけど、頓珍漢の筋肉には勝てない。
「あと5分だけ。」
「3分ー…。あとは家で好きなだけしたら良い。」
「良いの?」
首が擽ったい。
僕らにしか聞こえない声で。
僕は夫を甘やかす約束をした。
これはご褒美だ。
夫が帰ってきたという事は、事件は解決したという事だ。
犯人には空恐ろしい罰が下されたに違いない。
僕も、詳しくは聞かない。
聞いたこともあるけど、やっぱり聞くものじゃない。
だって僕の夫は“鉄の人”マルロイ・コールマンなんだから。
二人で久しぶりに手を繋いで、家路を歩く。
「ユディール君は何しに行ってたの?」
「今?」
「そうだよ、今日は何してたのか教えて欲しいな。」
「仕事に決まってるだろ。」
「うん。分かってる。」
僕は今日半日分の行動を話して聞かせた。
今日は半休で、朝はあのパン屋さんのアップルパイを食べて、新しい大臣が来るからトキ君と打ち合わせをしたりした。
「それは、国務大臣かな?」
「そうだよ、知ってるだろ。」
「んふふ、そうだね。前の大臣は“お花屋さん”に行くのが好きでね。溜め込んだ“切符”が沢山有ったんだよ。それを全部並べて来たからもう無理だよね。」
「ふーん。」
時々、夫の言うことは良く分からない時がある。
薄々感じるに隠語というやつが使われているんだろう。
秘書課でもやんわり伝えるときには、やんわりとした言葉を使う事がある。
そういう気遣いも時には必要だ。
「彼はどう?元気かな?」
「うん、元気だったよ。大統領に大事にされ過ぎてまだ手を出されてないんだって。」
すると夫が悪い顔をした。
「そういえば、アレまだ有ったんじゃないかな?」
「アレ?」
「マタタビだよユディール君。」
「それは。」
それは、確かに。
良い案かも知れないけど。
「大統領にマタタビ盛るの?」
「大統領じゃないよ。ひとりの夫だ。あの人は我慢をし過ぎるんだ。もっと僕みたいに開放的に情熱的に番を求めなくちゃ。」
後に僕は大統領に大目玉を食らうが、
マタタビは返って来なかったから多分。
何時かトキ君は泣かされる。
首にデッカい噛み跡が付くかも知れない。
あれ、加減してくれないと痛いんだよね。
でも、夫は半分だけが獣人だから。
春先から夏時期の満月の夜、尻尾と耳が生えてくる。
真っ黒の耳と尻尾は大人しくしてると可愛い。
発情してる時は言うまでもない。
雄としての本能に少しだけの理性を残して、殆ど自制が効かない状態らしい。
「半獣は厄介だ」
そんな晩は決まってそう言うけれど、それは僕が番だという何よりの証拠だと思う。
それに嫌じゃない。
だから僕たちは今日も番でいる。
僕は1週間も激務に勤しんだ夫を甘やかして、
彼はさみしがらせた妻を慰めなくちゃいけない。
そうやって生きていくんだと思う。
これが、僕の
ユディール・コールマンの人生だ。
獣の国の神に感謝するよ。
僕とこの頓珍漢を番にしてくれてありがとう。
「所で、僕達の子作り計画についてはどう思うユディール君?」
「そんなの決まってる。」
何時でも、産まれたい時に産まれて来て欲しい。
僕達の、こんな頓珍漢な父さんで良ければ何時でも。
僕は歓迎する。
「僕は5人は子供が欲しいなぁ。君に似た子と、僕と君に似た子がたくさん居てくれたら僕はーーー…」
ユディール君の秘密 完
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これで一応番外編も完結になります。
また続きが思い浮かんだら、読んであげてください。
ありがとうございました。
mimimi456
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