【1章完結済】【R18】池に落ちたら、大統領補佐官に就任しました。

mimimi456/都古

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番外編

番外編 鉤爪と尾羽1

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「デルモント・クイレ。あなたってほんと自分勝手なんだから!」

「これは。ベルが許可した。」

「交換条件が有った筈よ。」

「それは、今からやる所だ。」

「良いわ。」


過労だと、弟が言う。
執務室で倒れている所を、秘書に発見された。
こんな事は初めてで、最初数日こそ大人しく休んでいたが、6日目にはペンを握らずにはいられなかった。

仕事をする、と言い張る私に弟が出した交換条件は適度な運動。

「デスクワークに、筋力は、不必要だ」

「必要なのは体力よ仕事の虫さん。私が見張りに来なかったらあなたはまだデスクワークを続けてた。」

貰ったまま引き出しに放り込んだ弟からのメモは、今は彼女が握っている。やはりあのメモは貰った後に速やかに処分すべきだった。

「次は、」

まだ続けるのか。

「ナタリア」

「何?」

「少し休憩しないか」

弱音を吐いたと思われようが、脆弱だろうが構わない。
私はもうあと少しも、身体を動かしたくないんだ。

「次はマッサージだけど、」

弟には私を焚き付ける才能があり、彼女にはこの私を従わせると言う才能がある。
抗いようが無い程に、そうしたいと思わせる。

次はマッサージだけど、何処の部屋でする?

何でも無いことの様に聞くが、それはベッドの上でないと出来ないのか。自室のラグの上でもソファでも良いだろう。

「あたしはベッドが良い。」

彼女にベッドに誘われて、ソファかラグに座ろう等と言う筈もなく。
頃合いを見て、唇を求めた。 


ーーーーー

「やぁ、兄さん。ただいま。」

「おかえり。今日は早いんだな。」

「珍しく時間通りに帰れたよ。だから腕を出して。」

「帰って来ても医者をする必要は無い。」

「俺は兄さんの主治医だよ。ほら、腕を出して。」

「今出したらパスタを茹で過ぎる。もう3分待ってくれ。」

その3分で水に浸しておいた野菜を千切り、水気を軽く落とす。
時間になった所でパスタをお湯から上げ、一先ず油を掛けておくか。
主治医の診察が長引くとパスタに良く無い。

「3分経ったよ。」

「時間通りだな。」

リビングに座ると脈を測られ、目や喉なんかを見られて腕や肩を上げ下げされて痛みに顔を顰めたら笑われた。

「ちゃんと運動したんだね。」

「お前の差金だろ。」

「優秀なお目付け役が居てくれて助かるよ。」

「優秀過ぎる位だ。」

その結果、彼女は夕飯前だと言うのに寝室から出て来られないでいる。
肩まで毛布を掛けて、休む様に言ったのは私なのだがな。

「セックスは良い運動にもなるし、精神的にも良い。相手が番なら、尚更効果が高い事はデータで実証済みだからね。」

開けたシャツのボタンを留め、ここ数日密かに考えていた事を打ち明けたい気分になった。
何せ私達はお互いを相談相手に選ぶ事が多かった。
今なら彼女も眠っているのだから。
少し仕事の話をしても良いだろう。

「政府の敷地内に職員の家を建てようと思う。」

「公園でも潰すの?」

「あそこが公園として使われているのを見た事が有るか?」

弟は肩をすくめて見せた。
言わずもがな、実情はそんな物だ。
整備された区画で運動をする者も、植物を眺め楽しむ者も居ない。

「殆どの職員がランチの時間を割き、仕事をこなす。それでも家に着く頃には家族はとうに夕飯を終え、子供の寝顔だけを見に帰る様な者ばかりだ。」

弟は道具を一式、鞄に詰めるとコーヒーを淹れに台所へ向かう。
暫くは無言で、湯気の立つカップを二つ握った弟がまた椅子に座ると口を開いた。

「補佐官殿は働き過ぎだって、皆が言ってるよ。」

「若造が張り切ってる、の間違いだろ。」

「前の補佐官はさっさと辞めちゃったのにねぇ。」

「あの方は大統領とソリが合わなかったからな。」

「兄さんもあの人嫌いじゃないか。」

「好きな奴居るのか。」

どちらとも無く肩を振るわせ、堪えきれずに笑い出した。
嫌な世界だ。
協調性や進歩とは乏しく、自己利益の増減のみに意義を見出している者。
若しくは揺るぎない正義心でぶつかり合い、折り合いの付かない者。
或いは、只、他者を見下し満悦する者。

私はどれにあたるだろうか。
いいや。恐らくこのどれも、全てが私の中に存在し得る価値観だ。
そうしない様に自制しているつもりではあるが。

「お前はどう思う?」

弟は私と違って優しく、その思想はとてもかけがえの無いものに見える。
私が見落としがちな"人の幸せ"について、よく考えている。

「兄さんがそんな顔をする時は、大抵もう決まってるじゃないか。」

「我欲を張っている訳では無い、と納得したいんだよ。」

私は。
父も言っていたが。
私達は自分の幸せの為にすべきだと思った事をせずにはいられない。

父は貯めた金を存分に好きな物に注ぎ込むのが、好きな人だった。
剥製、宝石、絵画、どれも父が美しいと惚れ込んで、手に入れるべき手段を怠る事なく行い、手に入れた品々だ。

とりわけ母には、本人が嫌と言う程に金を注ぎ込んでいた。
誕生日の度に絵描きを呼ばれ、うんざりしていたのを思い出す。
それがいつしか絵描きの筆を取り絵を習うようになった。
するとこれが母の良い趣味になり、以来あちこちに旅行をしキャンバスを抱えて帰って来た。

「私はこの我欲でキャンバスを与えられるだろうか」

「それは彼女に聞いてみないと。夫が早く帰って来ても邪魔にならないかって。」

「ふっ、そうだな。」
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