11 / 44
第11話
しおりを挟む
「誰かぁーっ! 誰か助けてぇーっ!」
女の悲痛な叫び声に、朦朧とした意識が覚醒し始める。
「勝太郎ぉ、勝太郎ぉー! いやあぁぁーっ!」
すぐ傍で、女が僕の名を呼びながら助けを求めて泣き叫んでいる。
身体が動かない。瞼も開かない。自分の身に何が起こったのかよく思い出せない。
「嫌だあぁっ! 誰か来てえぇっ! 勝太郎が、勝太郎が、……う、うわああぁん」
胸の上に重みがのしかかる。誰かが縋り付いている気配がする。
「嫌だよぅ! お願い目を開けてぇっ! うわぁーん、うわぁーん」
胸の上が熱い、苦しい。
「い、息してない? してる⁉ あ……や、嫌だヤダヤだやだ、嫌だあぁーっ!」
痛くはない。けど、苦しい、吐き気がする。
薄目を開ける。ぼんやりと、顔中ぐしゃぐしゃにして泣きじゃくる娘の顔が見える。笑い顔以外を、初めて見る――
「あ、あああああああ……嘘」
娘が肩から手を離す。再び身体が横たえられる。
「勝太郎が死んじゃう……? 嘘だよ、嫌だよ。そんなのや――」
絶望的な少女の慄きが、不意に霧に霞むように、すぅーっ、と遠のいていく……。
ほんの一瞬だけ、全ての感覚が途切れた。
……再び娘が上にのしかかってくる。
「……ゥんっ⁉」
唇を塞がれた。
娘の口から、肺いっぱいに空気が送られてくる。
「……っはぁ!」
短い息継ぎの後、再び娘の唇が押し付けられる。二度、三度……と繰り返されるうち、びりびりとした感覚が朦朧とした身体中に走る。酸素濃度の上昇した血液の循環が呼吸器官を圧迫するほど強い鼓動をもたらし、
「……ぅえっ! げほっ、げほっ!」
たまらず噎せた。
「あ、……勝太郎っ!」
未だ自由のきかない身体を無理して起こすと、僕の上に馬乗りになった姉が、両手で口を抑え奇跡を目の当たりにしたような表情で目を見開いていた。小顔の割に大きな両目からはポロポロと涙が零れている。
「……お姉……さま?」
「……ああっ、勝太郎!」
再び顔をクシャっと歪め、胸に飛び込んでくる、首根っこを抱きしめられ、感覚の戻らない僕の身体は簡単に地面に押し倒される。
「かつたろう、かつたろう! うわーん、うわーん」
……泣いている姉の姿を初めて見た。
言葉がほとんど言葉にならずに泣きじゃくる姉を胸に抱いているうち、だんだんと思考がはっきりしてくる。崖から落ちた後、慌てて降りてきた姉が崖下で伸びている僕を介抱しようと、呼びかけたり、揺すったり、あとは――
「え」
今頃になって蘇る。姉の唇の感触、吐息。口の中に残る甘い匂い。そして、今腕の中にある、姉の体温。
(姉さまと……え?)
「――っ痛ぅ!」
姉の温もりを意識したとたん、鋭い頭痛と首の痛みが走った。徐々に痛覚が戻り始めているらしい。
ふと視線を上げると、今まで僕のシャツに顔を押しつけてわんわん泣いていた姉が、涙に濡れた目で僕を見下ろしている。
「……良かったぁ」
また、ポロポロと大粒の涙が大きな双眸から溢れる。
「本当に良かった……っ」
いきなり首に手を回され抱きしめられる。僕より背の高いはずの姉が、何故かとても小さくて、軽くて、脆く感じる。
(……それに、熱いくらい温かい)
散々泣きじゃくった余韻が、目元を真っ赤に上気させている。艶っぽく濡れた姉の目を見ているうちに、胸の中に抱いているものが、一際大切な、愛しいものに感じられる。幸いどこも骨折はしていないようだが、それより今は、抱きしめ返す腕に伝わる感触から、落下の痛みよりもずっと大きな幸福感を覚える。
不意に、姉が睫毛の濡れそぼった瞳を、僕の顔に近づけた。
「姉さま……? っっ⁉」
唇を奪われる。
「ね……姉さ」
再び唇を啄まれる。
顔を上げ、見下ろす姉の潤んだ顔は、今までとは明らかに別の理由で上気していた。
ごくり、と喉が鳴る。
「姉さま、駄目……ん」
「イヤ」
素っ気なく拒絶し、今度は二度、三度と続けて唇を押し付ける。
「駄目……やめてって」
「イヤよ」
姉は再び、拒絶する。
「やめてなんか、あげないの」
もう唇だけでなく、顔じゅうを舐められ、吸われ、啄まれる。
「ん、ちゅ、ちゅっ、ぺろ……ンん、ちゅ、……ぺろ、ちゅ……、がぶ」
「痛ででっ」
(だ、駄目。……これ以上は、もう)
先程まで、姉の後ろで淫らな妄想に没頭し、前傾姿勢になっていた有様だというのに、ましてや今のこの状況。
「お願い、本当にやめてって……」
姉の背中に回したままの手を肩に移し、姉を押しのけようとしたが、
「っうわ!」
その手を掴まれ引き剥がされる。力の入らない両腕は簡単に地面に押し付けられる。
僕はその手を振り払うこともできずに、見下ろす姉の顔に見入った。
「――え?」
姉の表情が一変していた。
まるで今まで泣きじゃくっていたのが嘘のように――倒れていた僕を見つけておろおろ泣きじゃくり、無事に目を覚ました僕に安堵して泣きじゃくり、散々泣きじゃくっていたはずの痕跡は微塵も見当たらず、んふふ、嘘泣きよ、びっくりした? と今にもケラケラ笑いながら口にしそうな。
……そんな無邪気な童女の笑顔が、捕まえた虫を手にして、さあ、どの足から毟っていこうかしら? という按配で、僕の両腕を地面に磔にし、舌舐めずりしながらのしかかっている。
「姉さま……?」
ほんの数瞬前との変貌に戸惑う僕に、姉は無邪気に笑いながら、
「駄目よ? やめてなんか、あげないんだから」
そう言って再び唇を奪われる。しかし、その接吻は今までのものとは趣が違った。
「っゥん⁉」
「ンんん、くちゅ……うゥン」
唐突な舌の侵入に、僕は目を剥いた。
唇を無理やり割るように押し入る姉のヌメヌメした舌が、歯列をなぞり、歯茎をなぞり、僕の舌を探り当てると、喜色をあらわにしたように猛烈な勢いでたぐり寄せる。侵入者から逃れようとする僕のそれが、口腔外へ排除しようとすればするほど、それは強く絡みあい、相手の逃れることを許さぬある種の生物の強制的な交尾のように僕を犯す。
「ウんんっ……くはぁ」
ようやく唇が離れた時には、口腔内に姉の味が、気管の奥底まで姉の匂いが充満している。その酩酊に正気を取り戻す暇もなく、すぐにまた姉の唇が覆いかぶさり、再び姉の熱い下が、僕の腔内粘膜を貫いた。
「はフゥんっ、チュ……ぅン……ちゅ」
口の中の交わりが熱い。その熱に浮かされたように頭がくらくらする。
「ンんっ……ン、……ちゅっ……はあ」
再度唇が離れると、今更思い出したように全身から粘着くような汗が滲み出した。
頭が痛い。心拍数が急上昇し、心臓が脈打つたびに重い鈍痛が響く。
姉は体を起こし、余韻を味わうかのように唇を舐める。
「姉……」
「ふふ、」
俯いた姉が、微かに含み笑いを漏らす。
「姉さま?」
「ふふ……ふふふふふ、」
それが段々と長く続き、やがて、ふわり、と姉が顔を上げる。
「勝太郎――」
「……っっ――!」
突然、全身がすべての痛覚を取り戻した。
「――ゥが……⁉ 痛っつぅああ……っ‼」
今まで忘れていた蝉時雨が、洪水のように周囲に戻った。
身を捩ろうとすると、小枝や落ち葉が背中の下でパリパリと乾いた音を立てる。
全身を万力で絶え間なく締め上げられ、責め苛まれるような激痛に身体中から軋みが聞こえる。
「あはははははははははっ!」
火にかけた鍋の上で生きたまま焼かれる海老のように七転八倒しようとする弟の足掻きを心行くまで楽しむようにその上に跨り、苦しみのたうつ様を見下ろす姉は、崖から落下し倒れている僕の傍でそうしていたように取り乱し、悲鳴を上げながら泣きじゃくり、あてもなく助けを求め身も世もあらず泣き叫んでいた様子など今は微塵も見せず、まるで情事の続きを眺めるように、
わらっていた。
「――これでもう、おまえは逃げられない」
艶色に頬を染めていながらも、凄いような笑顔で苦痛に顔を歪める弟に跨り楽しげに見下ろす様は、先刻までともににこやかに山道を登っていた時の姉とは似ても似つかない。
しかし僕自身のうちに突如芽生えたものは、倍増しに降りかかった激しい全身打撲痛に意識を明滅させながらも、まるで僕という虫けらに虫眼鏡を翳し、日光に焼かれギスギスとのたうち焼かれ悶え死ぬ様に目を輝かせながら見下ろしているかのような年上の少女の残酷で淫らな笑顔に、今まで感じたことのない――いや、この発奮はかつて一度だけ覚えがある。
あの夕暮れの川辺で、一瞬姉が垣間見せた、あの顔。
蛙を見つけた蛇同様の姉を前に、蛇に飲まれる蛙も同然にもかかわらず、僕は今もあの時と同様、激痛以上に身を貫く衝動に、射精を催す昂ぶりを禁じ得なかった。
(……ああっ)
全身を襲う激しい痛みとは別のものがもたらす痙攣に意識を遠くさせながら、
最期の一瞬に過ったのは、
(……ああ、姉さまは倒れていた僕の傍で)
姉さまは、泣いていたんじゃなくて、
――姉さまは、……最初からずっとわらっていた……?
女の悲痛な叫び声に、朦朧とした意識が覚醒し始める。
「勝太郎ぉ、勝太郎ぉー! いやあぁぁーっ!」
すぐ傍で、女が僕の名を呼びながら助けを求めて泣き叫んでいる。
身体が動かない。瞼も開かない。自分の身に何が起こったのかよく思い出せない。
「嫌だあぁっ! 誰か来てえぇっ! 勝太郎が、勝太郎が、……う、うわああぁん」
胸の上に重みがのしかかる。誰かが縋り付いている気配がする。
「嫌だよぅ! お願い目を開けてぇっ! うわぁーん、うわぁーん」
胸の上が熱い、苦しい。
「い、息してない? してる⁉ あ……や、嫌だヤダヤだやだ、嫌だあぁーっ!」
痛くはない。けど、苦しい、吐き気がする。
薄目を開ける。ぼんやりと、顔中ぐしゃぐしゃにして泣きじゃくる娘の顔が見える。笑い顔以外を、初めて見る――
「あ、あああああああ……嘘」
娘が肩から手を離す。再び身体が横たえられる。
「勝太郎が死んじゃう……? 嘘だよ、嫌だよ。そんなのや――」
絶望的な少女の慄きが、不意に霧に霞むように、すぅーっ、と遠のいていく……。
ほんの一瞬だけ、全ての感覚が途切れた。
……再び娘が上にのしかかってくる。
「……ゥんっ⁉」
唇を塞がれた。
娘の口から、肺いっぱいに空気が送られてくる。
「……っはぁ!」
短い息継ぎの後、再び娘の唇が押し付けられる。二度、三度……と繰り返されるうち、びりびりとした感覚が朦朧とした身体中に走る。酸素濃度の上昇した血液の循環が呼吸器官を圧迫するほど強い鼓動をもたらし、
「……ぅえっ! げほっ、げほっ!」
たまらず噎せた。
「あ、……勝太郎っ!」
未だ自由のきかない身体を無理して起こすと、僕の上に馬乗りになった姉が、両手で口を抑え奇跡を目の当たりにしたような表情で目を見開いていた。小顔の割に大きな両目からはポロポロと涙が零れている。
「……お姉……さま?」
「……ああっ、勝太郎!」
再び顔をクシャっと歪め、胸に飛び込んでくる、首根っこを抱きしめられ、感覚の戻らない僕の身体は簡単に地面に押し倒される。
「かつたろう、かつたろう! うわーん、うわーん」
……泣いている姉の姿を初めて見た。
言葉がほとんど言葉にならずに泣きじゃくる姉を胸に抱いているうち、だんだんと思考がはっきりしてくる。崖から落ちた後、慌てて降りてきた姉が崖下で伸びている僕を介抱しようと、呼びかけたり、揺すったり、あとは――
「え」
今頃になって蘇る。姉の唇の感触、吐息。口の中に残る甘い匂い。そして、今腕の中にある、姉の体温。
(姉さまと……え?)
「――っ痛ぅ!」
姉の温もりを意識したとたん、鋭い頭痛と首の痛みが走った。徐々に痛覚が戻り始めているらしい。
ふと視線を上げると、今まで僕のシャツに顔を押しつけてわんわん泣いていた姉が、涙に濡れた目で僕を見下ろしている。
「……良かったぁ」
また、ポロポロと大粒の涙が大きな双眸から溢れる。
「本当に良かった……っ」
いきなり首に手を回され抱きしめられる。僕より背の高いはずの姉が、何故かとても小さくて、軽くて、脆く感じる。
(……それに、熱いくらい温かい)
散々泣きじゃくった余韻が、目元を真っ赤に上気させている。艶っぽく濡れた姉の目を見ているうちに、胸の中に抱いているものが、一際大切な、愛しいものに感じられる。幸いどこも骨折はしていないようだが、それより今は、抱きしめ返す腕に伝わる感触から、落下の痛みよりもずっと大きな幸福感を覚える。
不意に、姉が睫毛の濡れそぼった瞳を、僕の顔に近づけた。
「姉さま……? っっ⁉」
唇を奪われる。
「ね……姉さ」
再び唇を啄まれる。
顔を上げ、見下ろす姉の潤んだ顔は、今までとは明らかに別の理由で上気していた。
ごくり、と喉が鳴る。
「姉さま、駄目……ん」
「イヤ」
素っ気なく拒絶し、今度は二度、三度と続けて唇を押し付ける。
「駄目……やめてって」
「イヤよ」
姉は再び、拒絶する。
「やめてなんか、あげないの」
もう唇だけでなく、顔じゅうを舐められ、吸われ、啄まれる。
「ん、ちゅ、ちゅっ、ぺろ……ンん、ちゅ、……ぺろ、ちゅ……、がぶ」
「痛ででっ」
(だ、駄目。……これ以上は、もう)
先程まで、姉の後ろで淫らな妄想に没頭し、前傾姿勢になっていた有様だというのに、ましてや今のこの状況。
「お願い、本当にやめてって……」
姉の背中に回したままの手を肩に移し、姉を押しのけようとしたが、
「っうわ!」
その手を掴まれ引き剥がされる。力の入らない両腕は簡単に地面に押し付けられる。
僕はその手を振り払うこともできずに、見下ろす姉の顔に見入った。
「――え?」
姉の表情が一変していた。
まるで今まで泣きじゃくっていたのが嘘のように――倒れていた僕を見つけておろおろ泣きじゃくり、無事に目を覚ました僕に安堵して泣きじゃくり、散々泣きじゃくっていたはずの痕跡は微塵も見当たらず、んふふ、嘘泣きよ、びっくりした? と今にもケラケラ笑いながら口にしそうな。
……そんな無邪気な童女の笑顔が、捕まえた虫を手にして、さあ、どの足から毟っていこうかしら? という按配で、僕の両腕を地面に磔にし、舌舐めずりしながらのしかかっている。
「姉さま……?」
ほんの数瞬前との変貌に戸惑う僕に、姉は無邪気に笑いながら、
「駄目よ? やめてなんか、あげないんだから」
そう言って再び唇を奪われる。しかし、その接吻は今までのものとは趣が違った。
「っゥん⁉」
「ンんん、くちゅ……うゥン」
唐突な舌の侵入に、僕は目を剥いた。
唇を無理やり割るように押し入る姉のヌメヌメした舌が、歯列をなぞり、歯茎をなぞり、僕の舌を探り当てると、喜色をあらわにしたように猛烈な勢いでたぐり寄せる。侵入者から逃れようとする僕のそれが、口腔外へ排除しようとすればするほど、それは強く絡みあい、相手の逃れることを許さぬある種の生物の強制的な交尾のように僕を犯す。
「ウんんっ……くはぁ」
ようやく唇が離れた時には、口腔内に姉の味が、気管の奥底まで姉の匂いが充満している。その酩酊に正気を取り戻す暇もなく、すぐにまた姉の唇が覆いかぶさり、再び姉の熱い下が、僕の腔内粘膜を貫いた。
「はフゥんっ、チュ……ぅン……ちゅ」
口の中の交わりが熱い。その熱に浮かされたように頭がくらくらする。
「ンんっ……ン、……ちゅっ……はあ」
再度唇が離れると、今更思い出したように全身から粘着くような汗が滲み出した。
頭が痛い。心拍数が急上昇し、心臓が脈打つたびに重い鈍痛が響く。
姉は体を起こし、余韻を味わうかのように唇を舐める。
「姉……」
「ふふ、」
俯いた姉が、微かに含み笑いを漏らす。
「姉さま?」
「ふふ……ふふふふふ、」
それが段々と長く続き、やがて、ふわり、と姉が顔を上げる。
「勝太郎――」
「……っっ――!」
突然、全身がすべての痛覚を取り戻した。
「――ゥが……⁉ 痛っつぅああ……っ‼」
今まで忘れていた蝉時雨が、洪水のように周囲に戻った。
身を捩ろうとすると、小枝や落ち葉が背中の下でパリパリと乾いた音を立てる。
全身を万力で絶え間なく締め上げられ、責め苛まれるような激痛に身体中から軋みが聞こえる。
「あはははははははははっ!」
火にかけた鍋の上で生きたまま焼かれる海老のように七転八倒しようとする弟の足掻きを心行くまで楽しむようにその上に跨り、苦しみのたうつ様を見下ろす姉は、崖から落下し倒れている僕の傍でそうしていたように取り乱し、悲鳴を上げながら泣きじゃくり、あてもなく助けを求め身も世もあらず泣き叫んでいた様子など今は微塵も見せず、まるで情事の続きを眺めるように、
わらっていた。
「――これでもう、おまえは逃げられない」
艶色に頬を染めていながらも、凄いような笑顔で苦痛に顔を歪める弟に跨り楽しげに見下ろす様は、先刻までともににこやかに山道を登っていた時の姉とは似ても似つかない。
しかし僕自身のうちに突如芽生えたものは、倍増しに降りかかった激しい全身打撲痛に意識を明滅させながらも、まるで僕という虫けらに虫眼鏡を翳し、日光に焼かれギスギスとのたうち焼かれ悶え死ぬ様に目を輝かせながら見下ろしているかのような年上の少女の残酷で淫らな笑顔に、今まで感じたことのない――いや、この発奮はかつて一度だけ覚えがある。
あの夕暮れの川辺で、一瞬姉が垣間見せた、あの顔。
蛙を見つけた蛇同様の姉を前に、蛇に飲まれる蛙も同然にもかかわらず、僕は今もあの時と同様、激痛以上に身を貫く衝動に、射精を催す昂ぶりを禁じ得なかった。
(……ああっ)
全身を襲う激しい痛みとは別のものがもたらす痙攣に意識を遠くさせながら、
最期の一瞬に過ったのは、
(……ああ、姉さまは倒れていた僕の傍で)
姉さまは、泣いていたんじゃなくて、
――姉さまは、……最初からずっとわらっていた……?
0
あなたにおすすめの小説
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
毎日19時に更新予定です。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。
すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。
だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。
イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。
変わり果てた現実を前に、
夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。
深い後悔と悲しみに苛まれながら、
失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。
しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。
贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。
そして、母の心を知っていく子供たち。
イネスが求める愛とは、
そして、幸せとは――。
俺様上司に今宵も激しく求められる。
美凪ましろ
恋愛
鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。
蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。
ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。
「おまえの顔、えっろい」
神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。
――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢
さら
恋愛
名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。
しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。
王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。
戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。
一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる