152 / 306
第三章 カーナ王国の混迷
幕間 魔術師カズンの充実ソロキャン2 ※キャンプでスモア回
しおりを挟む
かき卵入りのカレー雑炊で夕飯を終えたカズンは今、山中でソロキャンプ中だ。
現在地からなら、カーナ王国は行けない距離ではない。
「一度、アイシャたちの様子を見に行きたいが……ルシウス様がいるなら平気だろう」
美味しいごはん作りの偉大なお師匠様だ。
ついでにハイヒューマンの聖剣の魔法剣士で異次元的に強いお方なので、アイシャとトオンの保護者になることと、魔力使いの師匠になってもらうことを依頼してある。
「『アイシャもトオンも筋が良い』か。ふふ、ルシウス様も楽しそうで何より」
環を通して定期的にルシウスから手紙を受け取っている。
アイシャたちの状況や、いまだ混乱の残るカーナ王国の様子を伝えてもらっていた。
手紙を読み終え、簡単な返事を書いて送った後はソロキャンのお楽しみタイムである。
大きめのマシュマロを木の枝に刺して、焚き火で表面をこんがり焼いて全粒粉入りの無糖クラッカー二枚で挟む。
「おっと、板チョコを忘れていた」
慌ててチョコレートの欠片をクラッカーの間に突っ込んだ。
いわゆるスモアの完成だ。
カズンは異世界からの転生者で前世の記憶がある。
スモアは前世の世界ではアメリカという国の、キャンプなどアウトドアレジャーでお馴染みのお菓子である。
焚き火で炙ってとろけたマシュマロと、その熱でこれまた柔らかくなったチョコレートを、挟んだ全粒粉クラッカーごとぱくっと一口で。
マシュマロ本来の「ふにっ」とした感触は熱が加わって柔らかめに。
ミルクチョコレートのコクと、クラッカーのちょっと塩気のある味と軽い歯触り。
特にクラッカーは全粒粉入りがマストだ。無糖で甘くないものじゃないとダメだ。
主役のマシュマロとチョコレートがとても甘いので、表面に粗めの岩塩が振られているやつだとなお良い。
そこにブラックのコーヒーを一口。
「至福だな……」
全粒粉クラッカーは小分け包装で一袋に八枚入り。
スモアは一個につきクラッカー二枚必要だから、この至福があと三回味わえる。
「この世界でまさかインスタントコーヒーが飲めるとは」
しかも案外美味い。ドリップで入れたものには劣るが、野営でなら下手な店で飲むより味わい深いともいえた。
外で飲むことを想定し、手洗いが近くならないよう、カフェイン少なめの深煎りコーヒーに仕上がっているところも良い。チョコレートに合う。
カーナ王国で調達したインスタントコーヒーだ。
しかも瓶入りではなく一杯ずつ分包になっていて、その上、包装紙ごとカップに入れて上から熱湯を加えると溶けて、ただのコーヒーになる。
それでいて持ち運びする際の温度や湿気でべちゃっと湿気るようなこともない。
「こういうインスタント食品が最も発展してるのがカーナ王国だったな。意外なことだ」
一人で旅をしていると独り言が増える。
故郷を出奔してから、友人の剣士や後輩兄妹らに会えたが、家族や別の親友たちにはまだ一度も会えていなかった。
その後はせっせとマシュマロを炙ってはチョコレートと一緒にクラッカーで挟んで、を繰り返した。
夢中でスモアを作り、食べるを繰り返してやがてハッと我に返った。
明日はどこへ向かうか、まだ計画を立てていない。
敵はどの方向へ向かったのだったか。
「……怒りも恨みも、ずっと持ち続けるのは辛い」
カズンの仇は、アケロニア王国の前王家の末裔で、邪悪な錬金術師だった。
カズンは新王朝の王族なので、祖先が追い落とした旧王族の生き残りの子孫に狙われたのだ。
ロットハーナなる一族の青年はカズンが通う王都の学園に堂々と他国から転校してきて、当時は学級委員長だったカズンが世話役になっていた。
親友というほど親しかったわけではない。
それでも毎日顔を合わせていた同級生が、国内の数多の凶悪犯罪に関わっていたと知ったときには遅かった。
ロットハーナは黄金錬成という、人間を黄金に変える邪法の使い手だった。
対象者の魔力が大きいほど、得られる黄金の量が増える。
アケロニア王国は魔法魔術大国と呼ばれるほど、国民の魔力が高いことで知られていた。獲物として狙われたのだ。
特に、魔力を持つ者同士での結婚を繰り返している王侯貴族が狙われ、最終的にロットハーナはアケロニア王族にターゲットを絞った。
黒い瞳で、パチパチと音を立てて燃料の枝がはぜる焚き火を見つめる。
「……本当なら黄金にされていたのは僕だったんだ」
だが、その場にいた父親がカズンを庇った。
カズンの父はヴァシレウスという、大王の称号持ちの偉大な先々王陛下だ。
当時既に九十を超えた高齢者だったが、まだまだ元気で百歳を狙うと笑っていたのに。
二メートル近い巨躯で、カズンと同じ黒髪黒目、顔立ちもよく似た端正な男前だった。
父親が黄金に変えられ、消えてしまったときの絶望は、今でも生々しくカズンの胸の内を焼いていた。
けれど怒りや憎しみ、恨みは年々穏やかに鎮火しつつある。
(ロットハーナを捕まえて対峙したら、わからないけど)
現在地からなら、カーナ王国は行けない距離ではない。
「一度、アイシャたちの様子を見に行きたいが……ルシウス様がいるなら平気だろう」
美味しいごはん作りの偉大なお師匠様だ。
ついでにハイヒューマンの聖剣の魔法剣士で異次元的に強いお方なので、アイシャとトオンの保護者になることと、魔力使いの師匠になってもらうことを依頼してある。
「『アイシャもトオンも筋が良い』か。ふふ、ルシウス様も楽しそうで何より」
環を通して定期的にルシウスから手紙を受け取っている。
アイシャたちの状況や、いまだ混乱の残るカーナ王国の様子を伝えてもらっていた。
手紙を読み終え、簡単な返事を書いて送った後はソロキャンのお楽しみタイムである。
大きめのマシュマロを木の枝に刺して、焚き火で表面をこんがり焼いて全粒粉入りの無糖クラッカー二枚で挟む。
「おっと、板チョコを忘れていた」
慌ててチョコレートの欠片をクラッカーの間に突っ込んだ。
いわゆるスモアの完成だ。
カズンは異世界からの転生者で前世の記憶がある。
スモアは前世の世界ではアメリカという国の、キャンプなどアウトドアレジャーでお馴染みのお菓子である。
焚き火で炙ってとろけたマシュマロと、その熱でこれまた柔らかくなったチョコレートを、挟んだ全粒粉クラッカーごとぱくっと一口で。
マシュマロ本来の「ふにっ」とした感触は熱が加わって柔らかめに。
ミルクチョコレートのコクと、クラッカーのちょっと塩気のある味と軽い歯触り。
特にクラッカーは全粒粉入りがマストだ。無糖で甘くないものじゃないとダメだ。
主役のマシュマロとチョコレートがとても甘いので、表面に粗めの岩塩が振られているやつだとなお良い。
そこにブラックのコーヒーを一口。
「至福だな……」
全粒粉クラッカーは小分け包装で一袋に八枚入り。
スモアは一個につきクラッカー二枚必要だから、この至福があと三回味わえる。
「この世界でまさかインスタントコーヒーが飲めるとは」
しかも案外美味い。ドリップで入れたものには劣るが、野営でなら下手な店で飲むより味わい深いともいえた。
外で飲むことを想定し、手洗いが近くならないよう、カフェイン少なめの深煎りコーヒーに仕上がっているところも良い。チョコレートに合う。
カーナ王国で調達したインスタントコーヒーだ。
しかも瓶入りではなく一杯ずつ分包になっていて、その上、包装紙ごとカップに入れて上から熱湯を加えると溶けて、ただのコーヒーになる。
それでいて持ち運びする際の温度や湿気でべちゃっと湿気るようなこともない。
「こういうインスタント食品が最も発展してるのがカーナ王国だったな。意外なことだ」
一人で旅をしていると独り言が増える。
故郷を出奔してから、友人の剣士や後輩兄妹らに会えたが、家族や別の親友たちにはまだ一度も会えていなかった。
その後はせっせとマシュマロを炙ってはチョコレートと一緒にクラッカーで挟んで、を繰り返した。
夢中でスモアを作り、食べるを繰り返してやがてハッと我に返った。
明日はどこへ向かうか、まだ計画を立てていない。
敵はどの方向へ向かったのだったか。
「……怒りも恨みも、ずっと持ち続けるのは辛い」
カズンの仇は、アケロニア王国の前王家の末裔で、邪悪な錬金術師だった。
カズンは新王朝の王族なので、祖先が追い落とした旧王族の生き残りの子孫に狙われたのだ。
ロットハーナなる一族の青年はカズンが通う王都の学園に堂々と他国から転校してきて、当時は学級委員長だったカズンが世話役になっていた。
親友というほど親しかったわけではない。
それでも毎日顔を合わせていた同級生が、国内の数多の凶悪犯罪に関わっていたと知ったときには遅かった。
ロットハーナは黄金錬成という、人間を黄金に変える邪法の使い手だった。
対象者の魔力が大きいほど、得られる黄金の量が増える。
アケロニア王国は魔法魔術大国と呼ばれるほど、国民の魔力が高いことで知られていた。獲物として狙われたのだ。
特に、魔力を持つ者同士での結婚を繰り返している王侯貴族が狙われ、最終的にロットハーナはアケロニア王族にターゲットを絞った。
黒い瞳で、パチパチと音を立てて燃料の枝がはぜる焚き火を見つめる。
「……本当なら黄金にされていたのは僕だったんだ」
だが、その場にいた父親がカズンを庇った。
カズンの父はヴァシレウスという、大王の称号持ちの偉大な先々王陛下だ。
当時既に九十を超えた高齢者だったが、まだまだ元気で百歳を狙うと笑っていたのに。
二メートル近い巨躯で、カズンと同じ黒髪黒目、顔立ちもよく似た端正な男前だった。
父親が黄金に変えられ、消えてしまったときの絶望は、今でも生々しくカズンの胸の内を焼いていた。
けれど怒りや憎しみ、恨みは年々穏やかに鎮火しつつある。
(ロットハーナを捕まえて対峙したら、わからないけど)
19
あなたにおすすめの小説
初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。
だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。
しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。
王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。
そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。
地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。
⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。
今さら「間違いだった」? ごめんなさい、私、もう王子妃なんですけど
有賀冬馬
恋愛
「貴族にふさわしくない」そう言って、私を蔑み婚約を破棄した騎士様。
私はただの商人の娘だから、仕方ないと諦めていたのに。
偶然出会った隣国の王子は、私をありのまま愛してくれた。
そして私は、彼の妃に――。
やがて戦争で窮地に陥り、助けを求めてきた騎士様の国。
外交の場に現れた私の姿に、彼は絶句する。
護国の聖女、婚約破棄の上、国外追放される。〜もう護らなくていいんですね〜
ココちゃん
恋愛
平民出身と蔑まれつつも、聖女として10年間一人で護国の大結界を維持してきたジルヴァラは、学園の卒業式で、冤罪を理由に第一王子に婚約を破棄され、国外追放されてしまう。
護国の大結界は、聖女が結界の外に出た瞬間、消滅してしまうけれど、王子の新しい婚約者さんが次の聖女だっていうし大丈夫だよね。
がんばれ。
…テンプレ聖女モノです。
婚約破棄された人たらし悪役令嬢ですが、 最強で過保護な兄たちと義姉に溺愛されています
由香
ファンタジー
婚約破棄のその日、
悪役令嬢リリアーナは――弁明すら、しなかった。
王太子と“聖女”に断罪され、すべてを失った彼女。
だがその裏で、王国最強と名高い三人の兄と、
冷静沈着な義姉が、静かに動き始めていた。
再検証によって暴かれる“聖女の嘘”。
広場で語られる真実。
そして、無自覚に人を惹きつけてしまう
リリアーナの優しさが、次々と味方を増やしていく――。
これは、
悪役令嬢として断罪された少女が、
「誰かの物語の脇役」ではなく、
自分自身の人生を取り戻す物語。
過保護すぎる兄たちと義姉に溺愛されながら、
彼女は静かに、そして確実に幸せへ向かっていく。
五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~
放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」
大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。
生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。
しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。
「すまない。私は父としての責任を果たす」
かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。
だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。
これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。
私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。
小野 まい
恋愛
結婚記念日のディナーに夫のオスカーは現れない。
「マリアが熱を出したらしい」
駆けつけた先で、オスカーがマリアと息子カイルと楽しげに食事をする姿を妻のエリザが目撃する。
「また裏切られた……」
いつも幼馴染を優先するオスカーに、エリザの不満は限界に達していた。
「あなたは家族よりも幼馴染のほうが大事なのね」
離婚する気持ちが固まっていく。
公爵令嬢は結婚式当日に死んだ
白雲八鈴
恋愛
今日はとある公爵令嬢の結婚式だ。幸せいっぱいの公爵令嬢の前に婚約者のレイモンドが現れる。
「今日の結婚式は俺と番であるナタリーの結婚式に変更だ!そのドレスをナタリーに渡せ!」
突然のことに公爵令嬢は何を言われたのか理解できなかった。いや、したくなかった。
婚約者のレイモンドは番という運命に出逢ってしまったという。
そして、真っ白な花嫁衣装を脱がされ、そのドレスは番だという女性に着させられる。周りの者達はめでたいと大喜びだ。
その場所に居ることが出来ず公爵令嬢は外に飛び出し……
生まれ変わった令嬢は復讐を誓ったのだった。
婚約者とその番という女性に
『一発ぐらい思いっきり殴ってもいいですわね?』
そして、つがいという者に囚われた者の存在が現れる。
*タグ注意
*不快であれば閉じてください。
留学してたら、愚昧がやらかした件。
庭にハニワ
ファンタジー
バカだアホだ、と思っちゃいたが、本当に愚かしい妹。老害と化した祖父母に甘やかし放題されて、聖女気取りで日々暮らしてるらしい。どうしてくれよう……。
R−15は基本です。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。