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第三章 カーナ王国の混迷

幕間 魔術師カズンの充実ソロキャン1  ※キャンプ飯回

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※ソロキャン=ぼっちキャンプのこと。いま日本では空前のブーム中。



 カーナ王国の聖女投稿事件の後、魔術師カズンは父親の仇である、邪悪な錬金術師を追う旅に戻っていた。

 敵はほとんど人外。行く先々で被害をもたらしているため手がかりは多かったが、なかなか追いつき捕獲することができなかった。

 そんな状況がもう五年以上、続いている。



アケロニア王国うちのくにの学生は軍事訓練が必修だからな。野営キャンプスキルを持っていたのは幸いだった」

 人里離れた山中でテントを張るのもお手のものだった。

 カズンの魔力値は十段階のうち底辺に近い2しかない。
 リンクに目覚めた後で師匠のひとり、魔術師フリーダヤからアイテムボックス機能を授けられていたが、容量はたったの木箱二箱程度でしかなかった。(※なおアイシャは倉庫一棟、トオンは木箱一箱)
 一箱には食料を、もう一箱の半分は武器や防具など旅の冒険者活動に必要な装備類や道具類、衣服や雑貨などを詰めてある。

 残り半分は同じファミリーのリンク使いたちから送られてくる物資や手紙用に余裕を持たせて空きスペースを作っていた。
 容量オーバー分は術者の外に溢れてしまうので加減が難しい。

 ソロキャンが意外と楽しくて、充実させるための装備や道具類を集めると止まらなかった。
 テントや寝袋、魔導具の虫除けランプ、コンロなどの調理器具も使いやすいものを揃えてきた。
 アイテムボックスの容量を考えて、如何に必要最低限のものを過不足なく、それでいて洗練されたラインナップで揃えるかがまた楽しい。

 スキルでは真っ先に清浄魔法クリーンを覚えている。
 これは魔力持ちなら冒険者ギルドで教えてもらえる基本スキルだった。
 衣服や装備、食事後の食器などの汚れを清める魔法で、野営の跡地を整えることにも使える。
 中級までは使用し続けるだけで自然とランクアップできる。

 そして中級になると体内の老廃物、本来なら排泄する必要のある尿や便の処理が可能になる。
 頻繁に使うと身体に負担をかけてしまうが、人里離れた地域を旅している間は非常に便利な魔法のひとつだった。



 旅の間に、故郷では不得意だった剣も実践レベルまで覚えて、自分の身体の三倍程度までの大きさの野獣なら狩れるようになった。

 食用可能なものは冒険者ギルドで解体してもらって、一部を自分用の食料として引き取る、を繰り返している。

 大きな街の簡易キッチン付きの宿に泊まれたときは、米を買って大量に炊き、乾かした乾飯ほしいいにして保存してある。
 これは食べたいとき、熱湯でも水でも戻して簡単に米を食べられる非常食だ。

 リンクのアイテムボックスは時間経過が無いから、炊き立てのまま小分けにして保存しても良かったのだが、乾飯にして乾燥させたほうがかさが減って容量の節約になる。



 カズン単独の野営で料理までするのは非合理的だった。

 かといって保存食だけで食事を済ませるのも味気ない。

「僕は食べることが好きなんだ。できるところはこだわりたい」

 飯テロの徒らしい述懐である。
 なおカズンは食いしん坊が高じて飯ウマ属性を獲得した猛者だ。

 湯を沸かすぐらいなら焚き火でも、魔導具のコンロでも簡単にできる。今回は焚き火を選択した。
 残念なことに今のカズンの魔力量だけでは必要な火力を保てないので、火起こしには道具が必要だ。
 これが幼馴染みの魔法剣士や親戚の王子様なら一発で着火なのだが。(※鮭の人とお高いチョコレート送ってきた人)

 持ち手付きの小鍋で湯を沸かし、三分の一を別のカップへ。白湯のままでもいいし、茶やコーヒーにしてもいい。

 残りの湯に乾飯を一食分、投入。
 塩だけ足してシンプルな粥も美味いが、ここに顆粒スープや乾燥野菜、干し肉を細かく裂いたものを加えると贅沢な雑炊になる。

 カズンのお気に入りはポタージュ系のミルキーなスープだ。一食で主食と汁物を兼ねるので、サラッとしたタイプのスープを主に選んでいる。
 近くに食用のハーブが生えていればちぎって加え、なければ適当に手持ちのハーブやスパイスを加える。

 顆粒スープは故郷にはなかったものだが、この世界では何とあのカーナ王国の主要生産品で、他国にも輸出されていて入手できる。
 あの国は国土が小さいわりに常に魔物退治で軍が活動しているので、携帯食や保存食の開発が進んでいるのだ。

「自家製ブレンドのカレー粉を加えても美味いんだこれが」

 手持ちの調味料の小瓶からカレー粉を一振り、二振り。

 今回は人里で新鮮な卵が手に入ったので、仕上げに溶き卵を加えて一煮立ち。
 ふんわりした卵の入った雑炊がこれまた美味い。



 カズンはとっくに成人していたが、酒は飲まない。
 故郷で父親と約束していた、『大人になったら一緒に酒を飲もう』の言葉が思い出されて、何となく飲む気になれなかった。

 カズンが故郷のアケロニア王国を出て、すぐの頃。
 他国で食料品店の店に、友人の領地産の缶入りスープを見つけて、しばらく宿屋の簡易キッチンを借りて作って食べまくっていた時期がある。

 食べるたび、また空けた缶のラベルの「アケロニア王国」「ホーライル侯爵領産」などの文字を見るたび、ぽろぽろと黒い瞳から涙がこぼれ落ちてスープを塩辛くしたものだった。

 親友の家で生産しているこの缶入りスープは大々的に輸出しているようで、円環大陸中を旅するカズンは、主だった国の都市部では大抵見かけている。

 見かけるたび、カズンのホームシックは確実に癒された。







※新年の近況ボードで書いたのを有言実行、カズン君ソロキャン編。

適当に刻んだ野菜をコンソメやブイヨン、出汁で煮込んで塩や醤油、もしくはカレー粉などで味付け→溶き卵入れた雑炊、よくやります。
面倒なら市販の顆粒スープにオートミール加えて、熱湯注いでとか。キャンプならこっちのほうが簡単でしょうか。
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